百七話 復活
ゆったりとした行軍の末に、ようやく王都に帰りついた。
三十人ほどの騎士に囲まれたまま、わたしたちは王城へと連れて行かれる。
こちらには武神のご加護を授かっている人が三人もいる。
だからか、騎士も強い人を集めているみたい。カッツャ君の話では、全員が武神のご加護だとか。
わたしたちが暴れても勝ち目はない。そもそも、武器は取り上げられている。
スウダ君、ナモジア君、シャルフさん、ブルブさん、ワレトスさんの男性五人は、ロイ君が入った棺を持っている。
木でできた棺に入れられているロイ君は、窮屈じゃないかな。
完全に密閉されてはいないから、息はできるはずだけど。
スウダ君が段差に躓き、棺が大きく揺れた。
「痛っ」
「ん? 今のは誰の声だ?」
「俺ですよ、俺」
カッツャ君に不審がられて、スウダ君は慌てて誤魔化した。
声を出しちゃダメだよ。カッツャ君にバレちゃう。
幸いにも、カッツャ君はそれ以上追及してこなかった。
いつバレるかとハラハラしながら、王城の中のある部屋へと向かう。
神様のご加護を授かる神殿があるけど、ここも神殿のようになっている。
普通の神殿と異なるのは、祀られている神様の数かな。
ここだけは、六柱の神様が祀られていて、神様の彫像も六体ある。
従来の五柱の神様と、スタニド王国で信じられている最上神タンレーの彫像。
タンレーは国王陛下のご芳名にもつけられていて、初等学校でも習うから、スタニド王国の人ならほとんどみんなが知っている。
最上神タンレーの彫像の前には、レッド君が立っていた。王冠にマントに儀礼用の剣という正装をして。
五柱の神様の彫像には、五人の奥さんたちが立つ。
わたしが儀式を受けた時は聖職者だったけど、今はレッド君と奥さんたちが代わりなんだね。
他にも、騎士とか貴族とかがたくさん。
六柱の神様の彫像と、その前に立つレッド君たちに跪いている。
部屋の中央に、ロイ君の棺を置く。
「国王陛下、ご希望の物を持ってきたぜ」
「ご苦労だったな、カッツャ」
カッツャ君が棺の蓋を開けると、目を閉じているロイ君の姿が。
「腐っていないのか?」
「皇女殿下とマルネが、傷まないようにしてたぜ。魔法とか薬とか言ってた。どうせなら、国王陛下の手でグッチャグチャにしてやれよ」
「ワタシに死体を斬り刻む趣味はないが、王として国賊を始末する必要はあるか。妻たちに凄惨な場面を見せたくないというのに、国賊は死んでも迷惑をかける」
レッド君は、騎士の人から剣を受け取って構える。
儀礼用の剣は汚したくないのかな。
「神々の前で国賊を裁くのは、絶対神の化身にして最上神の化身でもあるワタシ! レイドレッド・ドン・ソリュート・ドラグスドラグ・タンレー・シンフォスキルブレオ・スタニド!」
高々と名乗りを上げたレッド君は、随分と不敬なことを言っている。
いつから絶対神の化身や最上神の化身になったの?
あと、どうでもいいんだけど、よくあの長い名前を噛まずに言えるよね。わたしなら噛んでる。
「ワタシに逆らうことは、すなわち神に逆らうことと同義! 神に逆らった巨悪の末路をとくと見よ!」
レッド君の演説に突っ込む人はいない。
最後までちゃんと聞いてから発言するのは、レッド君の妻である王妃陛下。元王女殿下だったお方だ。
「レイドレッド様、進言させていただいてもよろしいでしょうか?」
「許す」
「ありがとうございます。ロイサリス・グレンガーは国賊でしたが、他の仲間は騙された被害者です。レイドレッド様はお優しいので、この者たちをお許しになるでしょう。ですが、何も罰を与えないわけにもいきません。一人ずつ、ロイサリス・グレンガーの亡骸を斬らせてはいかがでしょうか?」
わたしたちに、ロイ君を斬れって? 悪趣味だよ。
「騙されていただけであれば、ためらわずに斬れるはずです。少しでもためらう素振りがあれば、騙されていたのではなく共犯者であったという証拠。いくらレイドレッド様がお優しいとはいえ、王妃として共犯者を野放しにはできません。見せしめとして拷問を行ったのち、極刑にすべきです。国の平和のためにも」
なるほど、そっちが目的なのかな。
つまり、わたしたちが何をやっても、「ためらったから共犯者だ」として処分したいのだろう。回りくどいけど、レッド君は悪くないって言うために必要なんだ。
許してあげようとしたのに、わたしたちが悪いからやむを得ず殺す。
優しいレッド君は拷問なんてしなくないけど、わたしたちが悪いから。王妃陛下が言っているから。国の平和のためだから。
ロイ君が言っていた、いつものレッド君の手口だね。
「ふむ……確かに、ワタシは他の者を許すつもりだったが」
「お優しいとつけ上がらせてしまいます。ここは、毅然とした対応が必要かと愚考いたします」
「そこまで言われては断れんな。お前の意見を採用しよう」
「さすがレイドレッド様です」
断りたいなら断ればいいのに。
そこまでして、優しくて寛大な国王陛下でありたいの? 自分が悪者になりたくないの?
王妃陛下のご意見が採用されたから、わたしたちはロイ君を斬らないといけなくなった。首は最後にレッド君が斬り落とすから、わたしたちは手足や胴体を。
最初はわたしからだ。
騎士の一人から剣を渡された。これで、ロイ君を……
逆に好都合かな。あっと驚かせてやる。
わたしは剣を持ったまま、ロイ君の棺に近付く。
そして剣を――
「受け取って、ロイ君」
ロイ君の手に握らせた。
次の瞬間、ロイ君の目がカッと開かれる。
棺の中で飛び起きて、自分の足で床に立った。
「あーっ、やっと動ける! じっとしてるのはしんどかったよ!」
大きな声を発したのは、まぎれもなくロイ君だった。
そう、ロイ君は死んでいない。ちゃんと生きている。
死んだはずの人間が起き上がったものだから、周囲の人たちは慌てふためいている。
「カ、カッツャ! どういうことだ! なぜこいつが生きている!」
「知らねえよ! 俺はちゃんと確認したぞ! 毎日だ! グレンガーは、間違いなく死んでた!」
「役立たずが! 公爵にしてやった恩を忘れたのか!」
「間違いなく死んでたって言ってるだろうが! いくら俺だって、生きてる人間と死体を間違えたりしねえ! 医者のお墨付きもあるぞ!」
レッド君とカッツャ君が揉めている間に、わたしの仲間たちは周囲の騎士を殴り倒して武器を奪っていた。
まともに戦えば無理だけど、動揺している状態なら隙を突ける。
わたしも剣をもらった。これでも、少しは戦えるんだから。
「やっと暴れられるぜ。そろそろ我慢の限界だった」
「モモの脳筋」
「セツカだって、顔がにやけてるぞ」
「あたしも、今だけはモモに賛成してあげる」
ナモジア君とユキは、暴れる気満々。
「サクミ、俺から離れるな。お前は俺が守る。この命に代えても」
「スウダ様……素敵ですわ」
スウダ君とサクミさんは、いつも通りイチャイチャしている。
他の面々も武器を構え、部屋の中央で固まる。
周囲には騎士たちがいるから追い込まれたように見えるけど、大丈夫。ちゃんと準備はしてあるから。
「シロツメさん!」
「分かっています!」
シロツメさんは、自分の胸元に手を突っ込んだ。
そこから取り出したのは、一つの小瓶。
女性だけが使える隠し場所に隠し持っていたの。
……わたしは使えないけど。師匠も無理で、ユキならいける。
シロツメさんは、地面に小瓶を叩きつけて割った。
すると、騎士や貴族に変化が訪れる。
頭を抱えて、発狂したみたいに叫び出した。
わたしたちの仲間は全員無事だけど、相手は無事じゃない。半数が発狂して倒れてしまった。
これなら、なんとかなる。




