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百五話 ロイサリスの死

都合により、しばらくの間はマルネの一人称視点で物語が進みます。

 眠りについているだけのような、綺麗なままの遺体。

 わたしが愛した男性、ロイサリス・グレンガーの亡骸がここにある。

 わたしの恋人の、変わり果てた姿。


 ギュオス伯爵は、ロイ君の亡骸をカッツャ君に引き渡している。

 妻のネーシュ伯爵夫人と、わたしや他の仲間たちも見守る中で、カッツャ君は連れてきたお医者様に死体を検分させる。


「どうだ?」

「死んでいます。呼吸、脈拍、心臓の鼓動、瞳孔反応、いずれも死者のそれです。気になる点があるとすれば、死体が綺麗過ぎるところですが」

「外見上は、傷一つないな。毒殺すればこうなるのか?」

「毒の種類によりけりのため、なんとも言えません。あり得なくはないかと」


 カッツャ君は、案外しっかりしていると思った。

 わたしたちに騙されているかもしれないと考えているのだろう。自分一人で確認するだけではなく、専門家にも確認させた。


 お医者様の話をじっくりと聞いた上で、判断を下す。


「確かに死んでるようだな。そして、ロイサリス・グレンガー本人だ」

「偽物でも渡すと思われましたか? カッツャ・シンバジュメ・ドラグ・カーダ公爵閣下」


「ギュオスはともかく、他の奴らが素直に聞き入れるとは思わなかった。まあ、賢明な判断だな。国王陛下には、俺から言っといてやるぜ」

「ありがとうございます」


 疑いは晴れたみたい。死体を切り刻んで確認するとか言われなくて助かった。

 その場合は、なんとかして止める必要があるし、疑われてしまい作戦が台無しになる。


「しかし、よくグレンガーを殺す気になったもんだ。なあ皇女様。結局、自分の命が大事ってか?」

「わたくしの命も大切ですけれど、それよりもギュオス伯爵や領民の命です」


「綺麗事をぬかすなよ。グレンガーの死体には傷がない。おおかた、毒でも盛ったんだろ? 食事か飲み物か、いずれにしろ仲間を裏切って自分が助かったんだ。他の連中もそうだが、薄情な人間だぜ」


「汚名は甘んじて受け入れます。ですが、ご命令通り国賊ロイサリス・グレンガーを殺したことには変わりありません。国賊を庇わなかったのですし、お優しい国王陛下であれば寛大な処置を下していただけると信じております」


「多分、大丈夫だろ。もっとも、皇女様はどうか分からないがな。ヴェノム皇国を滅ぼせば、皇族は処刑だ。助かりたければ、俺の靴でも舐めるか? 国王陛下に助命嘆願でもしてやるぜ」


 こちらの気も知らないで、カッツャ君は好き勝手言っている。

 わたしは、一番大切な恋人を、このような目にあわせるしかなかった。自分の無力さが嫌になる。


 ユキたちも同じ。

 もしも、力があれば。大軍を殲滅できるだけの力があれば。

 武神のご加護を授かっている三人は、口々に言っていた。


 いくら武神のご加護でも、人より少し強い程度だから、五千人の軍隊を殲滅なんてできない。

 わたしも、師匠に鍛えてもらって強くなったけど、もっと強い人はいくらでもいる。


 それに、最近は訓練をサボり気味だったし。

 剣ばかり振って、ボロボロになった手をロイ君に見せたくなかったから。筋肉ばかりがついて、硬い体になりたくなかったから。


 ユキなんか、あれだけ訓練訓練なのに、女らしい体型を維持できているのがずるい。柔らかいし胸も大きいし、世の中は理不尽だよ。


 わたしの嫉妬はともかく、これがわたしたちにできる最善の行動。


「カッツャ……様。ロイ君をどうするんですか?」

「絶対なる国王陛下に逆らった国賊として、首をさらす。本当なら、恋人のお前も処刑されるんだぞ。国王陛下や俺が優しくてよかったな」


「わたしも……わたしたちも連れて行ってください。できるだけ長く、ロイ君と一緒にいたいです」

「言われなくても、お前らは連れて行く。取り調べが必要だ。しかし物好きだな。王都に帰るまでに、死体は朽ちるぞ? 恋人が腐り果ててく様子を見たいのか?」


「わたしとシロツユメンナ様は、医学や薬学にも通じています。特にシロツユメンナ様は、治癒魔法の使い手として、死体を保存しておく方法もご存知です。最後まで、ロイ君を綺麗なままでいさせてあげたいんです」

「まあ、いいか。国王陛下ご自身の手で、国賊の首を斬り取りたいだろうからな」


 わたしたち十人の仲間は、ロイ君の亡骸と一緒に王都へ帰ることになった。

 この先、わたしたちがどうなるかは分からない。

 見逃してもらえるという希望は捨てるべきだろう。


 男性五人は処刑、女性五人は慰み者に。

 これが妥当なところだと思う。


 わたしは、恋人のロイ君と口づけすらしていない。手を握ったり、ぎゅーって抱きついたり、それだけ。

 ロイ君の前に、他の男の慰み者になるなんて嫌。

 そうなったら……


「カーダ様、念のために言っておきます。カーダ様がなさるとは思えませんけれど、念のため。王都への帰路の途中、わたくしたちに危害を加えようとされた場合は、ロイサリス・グレンガーの亡骸を破壊します。本人と分からなくなるように」


 わたしが不安になっていると、シロツメさんが釘を刺してくれた。


「国王陛下のご命令は、『生死は問わないが、顔だけは判別できるように残せ』でしたわよね? 達成できなければ、カーダ様の御身(おんみ)もどうなるか」

「俺を脅そうってのか? 自分の立場が分かってるか?」


「脅そうなどと、とんでもございません。わたくしは、カーダ様の御身を案じているのです。それとも、国王陛下のご命令に逆らいますか?」

「まあ……今は許してやるか。今はな」


 シロツメさんのおかげで、道中の安全は確保されたみたい。

 カッツャ君は、しきりに「今は」と言っているので、国王陛下にロイ君を渡した後は好きにするつもりかな。


 シロツメさんもユキも師匠もサクミさんも、容姿の優れた女性ばかり。

 自慢のようになるけど、わたしもまあまあ自信がある。

 カッツャ君は、わたしたちを好きに抱きたいのだと思う。


 どうして男性は、こんなにもエッチなのかな。

 ロイ君も、あれでかなりエッチだよ。本人は隠しているつもりでも、一緒にいれば分かっちゃう。


 時々、シロツメさんの胸に視線が向いているし。

 わたしを見て。わたしならいくらでも見ていいのに、なんでシロツメさんなの?

 シロツメさんは大きいから? わたしは小さいから?

 お母さんは大きいのに、なんで娘のわたしはこんなに……


 って、そんなことはどうでもいいよ。

 話がついたので、わたしたちは出発する。

 ギュオス伯爵とネーシュ伯爵夫人に挨拶をしてから、一同は王都へ。


 五千人もの物々しい兵士たちが行軍する中で、わたしたちは逃げられないよう真ん中に配置された。

 基本は徒歩で、わたしとシロツメさんだけは、ロイ君の亡骸と一緒に馬車に乗っている。


 眠るように目を閉じているロイ君を見ていると、涙がこぼれそうになる。

 みんなで決めたこととはいえ、本当に大丈夫なのかどうか。


「ロイ君……」


 頬を撫でれば、体温の消えた冷たい感触が返ってきた。

 見た目は綺麗で、生きているように見えても、死んでいると分かってしまう。

 また泣きそうになって、でも上を仰いで涙をこらえた。

 わたし以外は誰も泣いていない。

 わたしだって、泣くよりもこれからのことを考えなきゃ。


「シロツメさん、この先はどうしますか?」

「打ち合わせの通りに」


 誰に聞かれるかも分からないので、お互いに詳しくは言わない。

 打ち合わせは町で済ませてある。あとは、その通りに動けばいい。

 成功させられるように、わたしも頑張る。

 ロイ君と幸せな日々を送れることを願って。甘い新婚生活のために。

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