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百三話 倒されるべき巨悪へと

 ついにこの時がきたかってのが、僕の感想だ。

 レッド君に指名手配されたけど、本格的に潰しにきたんだ。


 国のために戦おうとする正義の王(レイドレッド)

 それに逆らう巨悪(ロイサリス)


 僕は、正義の味方に倒されるべき巨悪になった。

 シロツメが用意周到に準備してくれてたおかげで、なんとか逃げ出せた。

 リリが馬車を飛ばし、たどり着いた先は一つの町だ。


「ギュオス様、ネーシュ様。わたくしたちを受け入れていただき、ありがとうございます」

「気にしなくていいわ。可愛い妹分の頼みだもの」


 僕たちを受け入れてくれたのは、この町の領主様だった。

 ギュオス・シンウタ・リンド伯爵。

 そしてその妻、ネーシュ・ウタ・リンド伯爵夫人。


 ギュオス伯爵は、最近になってリンド伯爵家の当主になったばかりでまだ若い。

 妻であるネーシュ様はヴェノム皇国出身の人で、結婚前のお名前はネーシュ・フガロム。皇族の分家であるフガロム家のご令嬢だ。


 シロツメのお姉さんの友人で、昔はスタニド王国の上級学校に交換留学してた。

 在学中にギュオス様と知り合い、恋仲に。ご結婚され、今は伯爵夫人となった。

 シロツメのことも幼い頃から知っていて、妹のように可愛がってたらしい。

 だからこそ、今の状況でも頼ることができた。


「ロイサリスだったな。我が町にも報せは届いている。随分と大それた真似をしたものだ」

「す、すみません、ギュオス様」

「責めてはいない。むしろ、骨があると思っている」


 褒めてくれてるのかな。無表情だから分かり辛い。


「ギュオスはぶっきらぼうなのよ。でも、悪気はないの。許してあげて」

「オレは、そんなにぶっきらぼうか?」

「ぶっきらぼうで無愛想。ねえ、聞いてくれる? 私に結婚を申し込む時の言葉、なんだったと思う? 『結婚』の一言よ。信じられる? 在学中もね……」


 ネーシュ様はおしゃべり好きな人のようで、ギュオス様との馴れ初めから何からを詳細に語っていた。

 それどころじゃないはずなんだけど、まあいいか。

 みんな無事に合流できたし、一息つける。


「私は、上級学校の生徒たちに失望しててね。最初はギュオスも同類だと思っていたの。無愛想で覇気がないし、きっと貴族だから上級学校に通ってるだけなんだろなって。でも……」


 そこからは、怒涛ののろけが始まった。

 聞いてるこっちが恥ずかしくなるくらいに、のろけ話の連続だ。


 多分、マルネと付き合い出した頃の僕よりも酷い。

 僕とマルネは今もラブラブでも、意外と落ち着いてるんだ。誰にも認めてもらえなくて、「落ち着いてる? どこが?」みたいに言われるけどね。


「聞いてられん。俺は先に休ませてもらうぞ」


 ナモジア君がいなくなっても、ネーシュ様の話は終わらない。

 表情豊かで身振り手振りを交え、何時間も話しっぱなし。


「なんか、全然違う夫婦だよね」

「僕もそう思う。無愛想で言葉少ないギュオス様に、表情豊かでおしゃべり好きのネーシュ様」


 僕とマルネがコソコソ話してたら、目ざといネーシュ様に気付かれた。


「二人は恋人同士? 恋って素敵よね。私もギュオスと……」

「あ、あはは……」


 愛想笑いしかできない。口を挟むなんて無理だ。

 ブルブさんやワレトスさんが去り、スウダ君やサクミさんが去り、人がどんどんいなくなっても続く。


「シロツメは以前、お姉様のご友人から上級学校の評判を聞いたと言っていましたよね? もしかして、その人は……」

「ネーシュ様です。お察しの通り、この性格ですので、それはもう楽しげに語ってくださいました。九割以上ののろけと、ほんのわずかな上級学校の評判を。情報の取捨選択にどれほど苦労したか」


 シロツメが疲れた表情で呟いた。

 そして、今度もネーシュ様に気付かれる。


「まさか、マルネちゃんだけじゃなくて、シロちゃんも恋人にしてるの? 私は一夫多妻に反対の立場だけど、当人たちが幸せならいいと思うわよ」

「いえ、僕とシロツメは……」


「ギュオスも、他の奥さんを娶ってもいいわよ」

「オレは……」


「でも、私を一番に愛すること。だって、私はギュオスを一番愛してるから」


 僕やギュオス様に話を振ってるようで、その実自分がしゃべり続ける。

 凄い人だ。色んな意味で。

 この人と一緒なら、毎日が楽しいだろう。ちょっと疲れるかもしれないけどね。

 命からがら逃げ出してきた僕たちは、ネーシュ様の明るさに元気をもらってる。


 ギュオス様とネーシュ様が僕たちを受け入れてくれたのは、シロツメの知り合いだからってだけじゃない。

 お二人にとっても、今回の戦争は他人事じゃないんだ。スタニド王国とヴェノム皇国の人間が夫婦になってるんだし。


 ギュオス様なんか、ヴェノム皇国の女性を妻にした罪で、いずれ降爵される。

 犯罪者になるかもしれない。領主が犯罪者になったら、この町もどうなるか。

 自分たちや領地のこと。状況を鑑みて、僕たちの味方になるって判断した。


「最初に言っておくが、いざとなれば切り捨てる。お前たちを国王陛下に差し出し、許しを請うつもりだ」

「ギュオスはこう言ってるけど、大丈夫よ。この人、案外優しいから。口数が少ないせいで誤解されがちでも、私は全部知ってるの。だってね……」


 ところで、ネーシュ様の話はいつまで続くの?


「我慢してください。こうなったネーシュ様を止める手法は一つだけです。ギュオス様が物理的に口を塞ぐという」

「要するに、口づけ?」


 僕たちの視線がギュオス様に集中する。

 奥さんを止めてくださいお願いします! って。


「やらんぞ」


 ですよねえ。大勢が見てる中で、キスなんかできませんよね。


「ダメよ! そういうのは、夜にベッドの中で……ああっ、恥ずかしいわ! 今晩からはお客様も多いし、声を出さないようにしなきゃ!」


 何気に危ない発言をしてる。

 声を出すとか出さないとかの問題じゃないと思うのは、僕だけじゃないはずだ。


「……ごめん、あたし限界。あとは任せた」

「私もこれで。老骨にはこたえます」

「坊ちゃま……最後まで付き合えない私を許してください……」


 ユキ、シャルフさん、リリが離脱した。

 仲間がどんどんやられていく絶望的な状況だ。

 残ったのは、たったの三人。僕とマルネ、シロツメだ。


「ロイ君……ずっと一緒だよね?」

「マルネは休んでいいんだ。もう休もう」

「ロイ君……」


 マルネがダウンして、ついに二人。

 仲間が一人、また一人と減っていく状況は、マンガの最終回直前みたいだ。


 僕もそろそろ限界が近く、ネーシュ様の話も頭に入らない。

 シロツメもピンチなのに、ただ一人平然としてる驚異的な人物が。

 ギュオス様だ。


 うん、納得。凄く納得。お似合いの夫婦というか、ギュオス様じゃなきゃネーシュ様とは付き合えないよ。

 ネーシュ様と一緒なら毎日が楽しく、ちょっと疲れるって思った。

 訂正する。毎日が楽しいけど、代わりにめちゃくちゃ疲れるんだ。

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