百二話 逃亡
腹を割って本音を話し、結束も固まった。
で? 具体的にどう動く?
「レイドレッド様に戦争を中止していただければ一番でしたが、会談は失敗に終わりました。皇女であっても、これ以上はどうしようもありません」
「俺なんかは、カーダとかいう奴とケリを着けられればいいんですが。皇女殿下やグレンガーのように、難しく考えられない性質なので」
「モモがバカなのはみんな知ってるよ」
「セツカにだけは言われたくない」
「あたし、これでも上級学校の五年生だったんだよ。休校になってるせいで卒業できてないけど、本当ならとっくに卒業してたの。モモと違って頭いいんだから」
「てめえ……」
卒業か。僕も、本当は一年前に卒業してるはずなんだよね。
今頃はマルネと結婚して、初等学校の先生になってる予定だった。
「マルネとの甘々新婚生活を邪魔したレッド君は、許せないね」
「ロイ君、それはさすがに私怨だよ……わたしも、新婚生活したかったけど」
「そこ! イチャつかないでください!」
リリに怒られてしまった。
確かに、マルネとイチャイチャしてる場合じゃない。
「ごめん。それで、僕たちが何をするかだけど、味方を増やせばどうかな? 特に、貴族を中心に。貴族が戦争に協力しなければ、王様でも無力になる。一人で戦争できるわけじゃないんだから」
日本なら、世論を味方につければよかった。
政治家には支持率ってものがあって、下がれば政治家であり続けられなくなる。世論が戦争反対一色になれば、総理大臣でも戦争はできない。
逆も言えて、世論が戦争賛成一色になれば戦争になる。
まあ、僕も政治に詳しいわけじゃないし、実際はもっと複雑かもしれないけど。
こっちだと世論を味方につけるのは難しい。テレビも新聞もインターネットもないから情報を拡散できないし、民主主義でもなくて王侯貴族が統治する封建制だ。
だったら、平民よりも貴族を味方につける方がいいと思った。
「狙い目は、レッド君のせいで不利益を被っている人。お父さんやお兄さん、王子殿下とかですかね」
「それはそれで、内戦になりそうだが?」
スウダ君は内戦の心配をしてた。
「実は、僕も思ってた。やっぱり難しいかな?」
「どうだろうな。俺も所詮は十六のガキだ。勉強はしてても、知識も経験も圧倒的に不足してる。こういうのは、大人の方が詳しいんじゃないか?」
この場にいる大人なら、シャルフさん、ブルブさん、ワレトスさんか。
「聞かないでくれ。戦い以外はさっぱりだ。上級学校に通えるような秀才と一緒にされても困る」
「俺なんかブルブよりひでえぜ。頭脳じゃ初等学校の一年にも負ける自信がある」
「俺やセツカの同類ってわけか」
「だから、なんでモモはあたしを引き合いに出すの!?」
前々から思ってたんだけどさ、ナモジア君がユキにちょっかい出すのって……
要は、男の子が好きな女の子をいじめるのと同じなんじゃ?
いつの間にか、「モモ」って呼ばれても突っ込まなくなってるし。
ナモジア君は恋愛が面倒って言ってたから、違うかもしれないけどね。
とりあえず、ブルブさんとワレトスさんはダメと。
なら、残るはシャルフさんだ。
「グレンガー様のご意見も悪くありませんが、やはり危険はつきまといます。誰が信用でき、誰が信用できないかを見極める時間もありません」
「信用というか、利害関係の一致で結ばれててもよくありませんか? 僕たちの誰かが、レッド君を打ち倒して王様になろうってわけでもないですし、王子殿下に王の座を渡す条件で味方になってもらうとか」
「人間、不安や猜疑心を持っているものです。我々の言葉を信じてもらえるとも限りません。信じてもらえたとして、弱みになると感じる方もいらっしゃるでしょう。現国王陛下を玉座から引きずりおろし、強奪したとして、それに協力した我々を放置しておけるか。禍根を残しそうな芽を摘もうとしてもおかしくありません」
「ダメですか……」
「協力していただけそうな貴族に、心当たりはあります。そちらは既に、密かに接触もしております。だからといって、全ての貴族と協力関係を築けるわけではありません。王子殿下ともなると、まず不可能でしょう」
難しいなあ。色んな思惑が絡み合ってるせいでやりにくい。
「やっぱ暗殺しようぜ。王城に乗り込んで、敵をぶっ殺す」
「モモ、それは暗殺って言わないよ。ほんっと、バカだね」
「セツカを先にぶっ殺すぞ!」
「最悪でも道連れにしてやる!」
この二人、ケンカしてるのかじゃれ合ってるのか分かりにくい。
なんか獣みたいに「ガルルルル」ってうなってるし。
「青春だねえ。おっさんにゃあ目の毒だ」
「……ワレトスとか言ったな。外へ出ろ」
「お? やるってか?」
「ワレトス、やめとけ。仲間内で揉めてる場合か」
ブルブさんが間に入ってくれたおかげで、衝突は避けられた。
いい案が出ないとイライラもするか。
今はナモジア君とワレトスさんだったけど、他のメンバーがぶつかるかもしれない。ナモジア君とユキなんかは危険だ。
せっかく結束が固まったと思ったのに、瓦解したんじゃ元も子もない。
シロツメも同じことを思ったのか、パンと手を打ち鳴らした。
「少し休憩にしましょう。爺、食事の用意を。ブルブさんとワレトスさんも、本日からはこちらにお泊りください」
一旦休憩して落ち着くことになった。
でも、のんびりしてる時間は残されてなかった。
レッド君が僕を指名手配したんだ。国賊としてね。
ロイサリス・グレンガーを捕らえよ。生死は問わないが、顔だけは判別できるように残せ。かくまう者も犯罪者なので、好きにして構わない。
留学生用の屋敷が襲撃され、警護してた人たちがなんとか撃退してくれたものの、安全な場所じゃなくなった。
「急いでください! 馬車は準備してあります!」
シャルフさんが使用人たちに指示を飛ばしてる。
今、屋敷には火が放たれて、燃え盛ってるんだ。
直接的な襲撃で倒せないなら、焼き殺せばいい。生死は問わないって言われてるんだし、有効な手段だ。
焼け死んだら、顔が判別できるのかって問題はあるけど。
シロツメやシャルフさんは、こうなる可能性も考慮してて、ちゃんと逃げる算段を整えてあった。逃亡先も検討済み。
おかげで、みんなは馬車に乗り込んで順次逃げ出してる。
「どけ!」
ナモジア君が襲撃者を斬り殺してくれた。
そのまま、僕、マルネ、ユキ、ナモジア君は馬車に乗り込み、リリが御者をして走らせる。
「飛ばします! 注意してくださいね!」
夜の王都を馬車で駆け抜け、脱出に成功。
他のみんなも無事に逃げてくれてるはずだ。
シロツメにはシャルフさんがついてる。サクミさんにはスウダ君。
使用人の人たちは戦えなくても、警護をしてた人がいる。皇女様を警護するくらいだし、誰もが腕利き。心配いらない。
逃亡先で、みんな合流できる。




