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百話 危機的状況でも

「ロイサリスって、言う時は言うんだな。昔もそうだったが……言い間違えは気にするな」

「見直したぞ。あのクソ国王には、俺も腹が立ってた……言い間違えはずるいぞ。笑わせるな」

「お願いだから、あれは忘れて……」


 僕の「顔を洗う」発言は、黒歴史として封印する。


 黒歴史はともかく、会談が終わって僕たちは留学生用の屋敷に戻った。

 レッド君に啖呵を切っちゃったから、あの場で拘束でもされるかと危惧したけど、なんとか無事に帰ってこれた。

 勢いで言ったものの、まずかったよね。みんなを危険にさらしただけだ。


「ごめん。レッド君にケンカを売るような真似をして」

「どうせこうなってただろ。俺たちを国賊にしたようだしな」

「敵は殺す。俺がするのはそれだけだな」


 スウダ君とナモジア君は、僕を責めない。逆に認めてくれる。

 ありがたい友人だ。


「だよね。こうなった以上、徹底抗戦するんだ」

「おう」

「腕が鳴るな。やはり、グレンガーについてきて正解だった」


 男三人で盛り上がってる一方、女性陣は現実的な目で状況を見てる。


「ロイ君は格好よかったけど、状況は悪くなったよね」

「マルネ、前半はいらない。こんな時にのろけなくていいから」

「スウダ様だって格好いいのですよ。サクミはスウダ様が一番ですわ」

「私も坊ちゃまに怒られたいです。あんな風に、ビシッと。バシッと」

「リリは相変わらず変態ですわね」


 現実的?

 ま、まあ、冗談抜きでこれからのことを考えなきゃいけない。


(じい)、この屋敷の警護はどうなっていますか?」

「ヴェノム皇国から連れてきた者で、今も残っている者たちに任せております」


「足りていますか?」

「そこらの暴漢に対処するのであれば。正規の軍隊が攻め込んでくれば、さすがにどうしようもないかと」


「そこまでは、元々想定していませんからね。新しく雇うにしても、スタニド王国の人間は信用できませんし、そもそも協力してくれないでしょうし」


「いい人がいますよ。信用できて、協力もしてくれそうな人が」


 マルネが言い出したいい人って誰だろ?

 マルネは、今はこの屋敷に住むようになった。これまで住ませてもらってた酒場だと、何かあった時に困るから。


 ユキたちも同様に屋敷に住んでる。

 少し前までは酒場で働いてたから、お客さんとかかな。


「誰なの?」

「ロイ君も知ってる人だと思うよ。というか、ロイ君の知り合いだったから、わたしも親しくなったんだし。ブルブさんと、ワレトスさん」

「うわっ、懐かしい!」


 父さんの知り合いの人たちだ。

 昔、リリが捕まった時に、町長の横暴に抗議するためのデモに参加してくれた。僕と一緒にスラムへ行って、ゴロツキと戦ったり。


「ロイサリス様とマルネさんの共通のお知り合いでしたら、平気そうですわね」

「実力もありますし、顔は怖いけどいい人です」


 父さんみたいに筋骨隆々で、おっかない顔なんだ。二人を従えてると、父さんが盗賊団の親分みたいに見えた。


「でも、ちょっとエッチだよ」

「待って。エッチってどういうこと? マルネ、何かされたの?」

「え、えっと……お尻触られた」

「僕だって触ってないのに! シロツメ、やっぱりやめましょう! 信用できません! マルネの危険が危なくて険しいので絶対にダメです!」


 お尻を触った? プリっとしたマルネの美尻を?

 僕よりも先に触るなんて許せない。


「僕に権力があれば、二人を……くくくく」


「とりあえず、ロイサリス様に権力を持たせてはいけないことが判明しましたわね。ロイサリス様だって、リリのお尻を触っていたではありませんか」


「それはそれ、これはこれです!」


「ちなみに、坊ちゃまは私の胸も触りましたよ。そういえば、マルネさんがまだでしたら、坊ちゃまに触ってもらったのは私だけ? 私だけ?」


 二回も繰り返したリリは、勝ち誇った顔をしてる。


「ロイ君? お尻の話は聞いたけど、胸の話は聞いてないよ? ラナさんを助けるための演技で、お尻だけ触るって話じゃなかったの?」

「昔の話! 四歳とか五歳とか、そのくらいの年齢の時!」


「ロイ君、そんなに小さな頃から、師匠の胸が好きだったの?」

「違くて! 興味本位だったんだよ! 母様の胸は大きくてリリは小さいから、同じ女性なのになんで違うのか気になったの!」


「あの頃に比べれば、私も成長しましたよ。比べてみますか?」

「比べない!」


 リリは成長したって言ってるけど、そうは見えない。

 顔も体型も、僕が物心ついた時から全然変わってないし。


「坊ちゃまが成長するまではと思い、根性で老化を止めていましたが、今では私も成長が始まっています。シロツメやユキノさんを追い抜く日も遠くないでしょう」

「リリは何者なんだよ……」


 根性で老化を止めたり成長したりできれば、誰も苦労はない。

 冗談で言ってるならともかく、リリだと冗談に聞こえないんだ。


「ロイも悪気はなかったみたいだし、許してあげなよ」

「だ、だって……わたし、十七歳になったのにこれだし……」

「女性の価値は、胸ではありませんわ。スウダ様も、わたくしの胸を愛してくださいます」


「バゼラは小さいのが好みなのか? 俺とは趣味が合わんな」

「脂肪の塊の何がいいか分からん。サクミの胸こそ至高!」


「でかい方がいいに決まってる。セツカ、触らせろ」

「ふざけんな! あたしの胸はそんなに安くない! モモは娼館に行ってて!」

「娼館通いをやめれば、触らせてくれるのか?」

「嫌!」


 なんか、話が変な方向に突き進んでる。

 誰のせいだ? 危機的な状況なのに、エッチな話題を持ち出したバカは誰だ?


「原因の大半はロイサリス様にあるかと。あとはリリです」

「そうでした……って、そんなことはどうでもいいんです!」


 なんの話をしてたんだっけ? ブルブさんとワレトスさん?

 ちょっと取り乱しちゃったけど、冷静になれば二人に協力を仰ぐのは悪くない。

 力も人格も信用が置ける人たちだ。


「ブルブさんとワレトスさんは、今も王都にいるかな? マルネが働いてた酒場に行けば会える?」

「多分。毎日のようにお酒を飲みにきてたし」


「シロツメ」

「はい。二人増えたとして、どの程度効果があるかは不明ですけれど、今は少しでも戦力が欲しいところです。お願いしに行きましょう。シロツユメンナ・ヴェノムの名で雇ってみようと思います」


 ブルブさんとワレトスさんを雇うことで話がまとまった。

 そしていざ会いに行ってみると、引き受けてはもらえたんだけど。


「嫁を! 金はいりませんので、俺に嫁を紹介してください!」

「誰でもいい! 年齢も容姿も気にしねえんで、皇女殿下のお力で嫁を!」


 二人とも、結婚したくて王都にやってきてたらしい。

 田舎だと見つからず、王都ならと思ったのに、王都でも奥さんが見つからなかった。チャンスを逃さないとばかりにシロツメに頼んでた。


「ヴェノム皇国の者でもよろしいでしょうか?」

「もちろんです!」

「俺の嫁になってくれるなら、国なんて気にしねえ!」


 鬼気迫る剣幕に、シロツメが押されてる。


「わ、分かりました……二人くらいでしたら、なんとかできると思います」

「ありがたい!」

「ようやく俺たちも結婚できらあ!」

「ゴウザにだけ嫁さんがいて、何度涙したか……」

「だが、ようやく対等になれる!」

「あ、父さんでしたら、二人目の奥さんを娶りましたよ。母様の妹で、母様によく似た綺麗な人です」


 僕がアミさんの話をすれば、二人は落ち込んでしまった。

 言ったらまずかった?


「ロイ君って、一言余計なことが多いよね」


 マルネにも注意された。反省しよう。

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