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九十九話 国賊

 国王陛下は、五人の奥さんを引き連れて会議室にやってきた。

 すぐに一番の上座に腰かけ、王女様が隣に。

 国王陛下の妻なんだし、王女様じゃなくて王妃陛下になるのか。

 残りの奥さんたちは国王陛下を囲うように立つ。


「遅れてしまったか。これでも忙しい身なのでね。王として、やるべき仕事は山積みだ。ワタシを頼ってくれるのはいいが、こうも激務だと身がもたない」


 遅れたことを謝罪するでもなく、懸命に忙しいアピールだ。

 忙しいのは、戦争をするなんて言い出すからだよ。


「国王陛下、本日はお忙しい中会談に応じていただき、ありがとうございます」

「うむ。シロツユメンナ殿もご苦労」


 王様になったからか、シロツメへの話し方も変わってる。

 以前までは皇女殿下と侯爵家の息子だったから、シロツメの方が立場は上。

 今は皇女殿下と国王陛下だから、立場は逆転した。


 へりくだる必要もなくなったってことだ。王様の腰が低いと舐められるし、対応としては普通だろう。


「単刀直入に申し上げます。我がヴェノム皇国との戦争を中止していただけませんでしょうか」

「やれやれ、せっかちだな」

「国王陛下はご多忙とのお話でしたので、長引かせないようにしたつもりです」

「そうか。配慮には感謝するが、戦争の中止……ウッドケッドはどう思う?」


 これも、父と息子ではなく、国王陛下と一貴族の関係だ。

 話を振られたキルブレオ様は口を開く。


「先にしかけたのはヴェノム皇国です。だのに中止とは、面の皮が厚い」

「ヴェノム皇国が魔物をけしかけたというお話でしたら、そのような事実は一切ございません。何を根拠に魔物をけしかけたとおっしゃっているのでしょうか?」

「やっていないという証拠は?」

「逆でしょう。魔物をけしかけた証拠を、スタニド王国側が提出すべきです」


 シロツメとキルブレオ様が言い合ってれば、国王陛下が今度はお兄さんに。


「証拠ならばある。ユッケキッド」

「……はい、国王陛下」


 淡々と話してたキルブレオ様に比べて、お兄さんのユッケキッド様は苦虫を噛み潰したような顔だ。


「ふむ、ユッケキッドは機嫌でも悪いのか? 仮にも客人の前で、その態度は感心しないな」

「……失礼しました」


 なんとなく分かった。

 二人は家督争いをしてた。弟でライバルだった相手が偉くなって、自分が下につかなきゃいけないのを快く思ってないんだろう。


 お父さんのキルブレオ様が内心でどう思ってるかは分からない。貴族なだけあって、本心を隠すのがうまいし。

 ユッケキッド様は、まだ割り切れてないんだ。


「ワタシは折衝に携わっているわけではありませんので、全容は把握しておりません。ですが、スタニド王国側が証拠を提出したにも関わらず、ヴェノム皇国側は突き返してきました」

「では、担当者を呼んでください」

「ヴェノム皇国との折衝に忙しく、とても呼べませんね。代わりにワタシが」


 キルブレオ様もだし、ユッケキッド様との会話も平行線だ。

 シロツメが食い下がっても、のれんに腕押し。全然話を聞いてくれない。


「理解してもらえたかな? ヴェノム皇国の主張には正当性がない。こちらは、ワタシがヴェノム皇国の陰謀を見抜いたため、正当性がある。これ以上、話し合う余地があるとは思えないが」


「なあ、国王陛下。グダグダ話し合ってなんかいないで、とっとと戦争すればどうだ? 俺が大将になって皆殺しにしてやるぜ」


「軍を動かすには、食糧が不足している」

「ヴェノム皇国に攻め込んで、そこから奪えばいいだろ」


「カッツャ。シロツユメンナ殿もおられるのだ。少しは控えろ」

「へえへえ」


 カッツャをたしなめてから、国王陛下はシロツメに向き直る。


「やれやれ、ワタシの周囲には血の気の多い者ばかりで困る。先日も、食糧が不足しているのは農民が仕事を怠けたからだと言い、罰を与えるように主張した者がいたのだ。王として、ワタシがやめさせたが」


「……仕事をさせなかったのは、国王陛下のご意向ではなかったのですか? 祝祭のために、他の仕事を禁じましたよね?」


 聞いていられなくなって、僕は口を挟んだ。


「勘違いしないでもらいたい。ワタシは禁止になどしていないが、どうも話が歪んで伝わったのだ。それに、少々農作業をしなかっただけで収穫高が減るのは怠慢だろう。罰せられて当然のところを許してやった。やれやれ、ワタシも甘い」


 歪んで伝わったなら、指示を出した側にも責任がある。歪んでるって知った時、すぐに対処することもできた。

 僕は農民じゃないから、農作業の大変さもよく分からないけど、世話をしなければ収穫高が減るのは仕方ないと思う。日本と違って便利な農業機械もないんだし。


 国王陛下の発言は、トップとして無責任。ただの責任転嫁だ。

 めちゃくちゃな意見でも、奥さんたちは大絶賛。「さすが」とか「素敵」とか。


「レイドレッド様は『甘い』とおっしゃいますが、それは優しさです。王となっても変わらぬ優しさ。さすがレイドレッド様です」


 王妃陛下が国王陛下を褒め称えた。

 甘さじゃなくて優しさね。たまに聞くセリフだ。


「王が甘いと愚者がつけ上がるのは目に見えている。よくないと理解しているが、甘さを捨て切れないワタシが未熟なのだ」


「ですが、レイドレッド様の優しさは多くの者を救っております。並の人間でしたら、ウッドケッドやユッケキッドも処分しているでしょう。仕事を怠け食糧難の危機を招いた者。戦争に反対する国賊。敵国の人間。いずれも処分せず、寛容にお許しをお与えになる。妻として誇りに思います」


「どれも普通のことなのだがな」

「普通ではございません。レイドレッド様だからこそです」


 この茶番、いつまで続くの?

 王妃陛下は過剰なほどに国王陛下を持ち上げるし、国王陛下は普通だって嫌味に謙遜するし。


 ……まさかと思うけど、僕とマルネも傍から見ればこんな感じだったりする?

 ちょっと自分を見つめ直してみよう。こうはなりたくない。


「話が逸れたが、戦争を中止にはできない。国をよりよくするために」


 あ、やっと戻った。


「ワタシは甘いが、ワタシの国に仇なす相手に情けをかけるほどではない。シロツユメンナ殿も、国に帰る方がよいだろう。ワタシはともかく、他の者が皇女を捕らえようとするかもしれない」


 シロツメに忠告してから、国王陛下は立ち上がった。

 会議室を出て行こうとして、そこで僕に振り向く。


「そうそう、敵国の者はまだしも、スタニド王国の者であるのに敵国の味方をする不届き者がいるようだな。敵国出身だが受け入れてやった恩を忘れる者も」


 僕、リリ、マルネ、ユキ、スウダ君、サクミさん。

 この六人を順に見渡してから告げる。死刑宣告に等しい言葉を。


「国賊として扱われなければよいが。他の者が、ワタシのように甘いと思わぬことだ。中には過激な行動に出る者もいるだろう」


 つまり、僕たちを国賊に認定したってことね。はいはい。


「国王陛下はどうお考えですか? 他の者とおっしゃらず、国王陛下ご自身のお考えを聞かせてください」


 シロツメを捕らえるのも、僕たちを国賊認定するのも、全部「他の者」って責任を押し付けてる。

 じゃあ、国王陛下の考えは?


「昔から変わりませんね。初等学校時代に、僕は言ったと思います。『やりたいから、やる。貴公子の皮をかぶってないでさ、素直になりなよ』と。他人ではありません。国王陛下はシロツユメンナ様をどうしたいのですか? 僕たちをどうしたいのですか? 他人が、他人のため、ではなく国王陛下ご自身のお気持ちをはっきりさせてください」


 誰かのせいにしないと、自分の行動すら自分で決められない。

 自分は悪くないんだって予防線を張っておかないと、何もできない。

 レッド君がこんな人間だから、僕は同類にならないように注意してきた。


「何をしたいか、何をしたくないか。レッド君が自分で責任を持って決めれば?」


 どうせ国賊になるなら、思い切って言ってやった。呼び方も、初等学校の頃のように「レッド君」にして。

 無責任な人間は格好悪いと思う。自分の行動くらい、自分で責任を持て。


「……お前も昔から変わらない。絶対であるワタシを否定する。何をしたいか? ならば答えよう。お前を絶望に叩き落してから殺す。ワタシは、ワタシを否定する者を許さない。ワタシは絶対に正しい。ワタシを否定するお前は間違っている」


「なんだ、言えるじゃん。まあ、大人しく殺されはしないけどね」

「ワタシは絶対に正しく、絶対に負けない。覚悟しておけ」

「顔でも洗って待ってるよ」


 レッド君は今度こそ立ち去った。

 でも、僕は重大なミスを犯してたことに気付かない。

 気付いたのはマルネに言われてからだ。


「ロイ君……それを言うなら『首を洗う』だよ」


 ……素で間違えた! せっかく格好つけたのに恥ずかしい!

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