美少女として評判の幼馴染達を信じて勇者のもとに送り出したモブ顔の僕だけど、幼馴染達と結婚の約束とかした記憶は微塵もなかったので今日も冒険生活を満喫している。
モブ顔の僕には幼馴染の女の子がいた。
アマンダは剣王の加護を。
イメルダは賢者の加護を。
ウノは獣王の加護を。
エリスンは聖女の加護を。
オリヴィアは精霊王の加護を。
カタリナは武王の加護を。
キャロラインは明王の加護を。
クリスは舞姫の加護を。
ケティは楽王の加護を。
コリンは薬王の加護を。
サロメは謀王の加護を。
シオンは弓王の加護を。
スーザンは槍王の加護を。
セシリアは商王の加護を。
ソニアは画王の加護を。
ターニャは詩聖の加護を。
チロルは鳥王の加護を。
ツェペリィは夜魔王の加護を。
テーニアは海王の加護を。
トトリアは妖精王の加護を。
ナスタシアは鍛冶王の加護を。
ニケは星詠の加護を。
ヌークリアは理王の加護を。
ネイは騎馬王の加護を。
ノーラは竜巫女の加護を。
ハーベラは医聖の加護を。
ヒュリパーは建築王の加護を。
フェリシアは劇王の加護を。
ヘラは盾王の加護を。
ホリィは鎧王の加護を。
マリアは刀神の加護を。
ミリシャは葉隠の加護を。
ムスタファは菩薩の加護を。
メロディは旋律王の加護を。
モーリーは森羅の加護を。
ヤヌスは太極の加護を。
ユリィは城塞の加護を。
ヨダは盗賊王の加護を。
ララは錬金王の加護を。
リンは絡繰王の加護を。
ルーシーは調律王の加護を。
レッキィは闇技王の加護を。
ローラは神衣裁縫の加護を。
ワトスンは叡智閲覧の加護を。
ウォスパーは造物主の加護を。
そこそこ裕福で規模の大きかった故郷の村。僕らは幾度目かのベビーブーム世代と言うこともあって、同世代だけでも四十五超の幼馴染がいた。
近隣の村や街でも評判の美少女達だ。
……
……
半分くらい美少年でも良かったんじゃないか?
同世代で男は僕だけだ。
丸と棒線だけで似顔絵が完成することで有名なモブ顔の僕が。
授かった加護は「ヒヨコの雄雌識別能力向上」という僕が。
農家の次男坊で、養鶏場と牧場を手伝いながら商家への丁稚奉公が決まっている僕が。
果たして何か悪いことをしたのだろうか?
幼馴染達はとにかく美少女なので、上の世代にも下の世代にも大層モテる。告白どころか求婚だって珍しくもない。だが伝説級の加護を授かった彼女達なので、釣り合おうとするなら貴族様とか王族様級の青い血が必要だ。おまけに男達のアプローチは露骨すぎて、幼馴染達でなくとも相手にしないだろう──と村の女達がダメ出しするレベル。当然告白どころか遊びへの誘いすら成功しない。
そして鬱憤晴らしに僕が殴られる。
というのも幼馴染達は望まぬ交際や求婚を断る口実のため、僕と付き合っていると答えているようだ。
たとえ早朝に牛舎で乳搾りをし、鶏舎を掃除して卵を回収し、商家に届けた後に使い走りとして村中を駆け回って配達や御用聞きに専念していたとしても、僕は四十五名の美少女達をメロンメロンのプリンプリンにしているらしい。
とんだ風評被害である。
そんな四十五名の幼馴染達を王都に連れて行くことを僕は前々より考えていた。
伝説級の加護持ちを田舎に留めておくメリットなど無いに等しい。
加護を授かる前から天才美少女達の噂は王都にも届いていたようで、王宮や騎士団を始め神殿や魔術ギルドなども以前から使者を派遣して王都への移住を打診していた。打診先が幼馴染達の両親や村長ではなくモブ顔の僕というのが色々と腑に落ちなかったが、話し合いは順調に進んだ。
勿論王都とて彼女達の美貌を目当てにした者も少なくはないだろう。
だが劣情を抱いているのは田舎の男達も同じ。むしろ土着信仰を逆手にとって『村民皆穴兄弟』『夜這いは伝統文化』などと決起集会を開催していたので、振る舞われた樽酒の中に一夜茸の絞り汁を仕込んでおいた。
元よりカツアゲに等しい形で提供させられた樽酒なので、勿体ないという思いは微塵もない。
生きていることを心底後悔するような悪酔いにのたうち回る男共を縛り上げ、村の女衆に一通りの弁解と説明。一夜茸を口にすれば、前後三日に服用した酒が毒となって身体を蝕む。しかし四日も過ぎれば臓腑は正常に働いて酒毒も消えて後遺症もない。その間に幼馴染達を安全な場所に送り届けてしまえば僕の勝ちだ。
◇◇◇
王都に到着した僕は、城や神殿の人間たちの紹介を受けて「勇者」という青年に幼馴染達を託すことにした。
腕っ節は決して強くはないがクソ度胸ある人というのが関係者の評価。亡命して神殿に身を寄せていたエルフの姫様を庇い、刺客の剣で背中を切り裂かれても眉一つ動かさなかった。自由を求める女剣闘士との戦いで、薬物を嗅がされ乱入した魔物の命を不用意に奪おうとしなかった。戦時以外は決して船を襲わない女海賊の頭目と一緒に、海図に載っていない無人島を次々と発見した。
笑ってしまうくらいの英雄なんだけど、腰が低い。
仲間を募集していると聞いたのでダメ元で幼馴染達を連れて行ったら、ほぼ無試験で合格してしまった。というか、僕が勇者と面接して事情を説明したら、怒ったり泣いたり笑ったりして面白い。糸目で平坦顔の僕と違って感情豊かなのも人間的な魅力に直結しているのだろう。
たぶんイケメンという奴だ。
だが、この勇者。きっと童貞。
奴隷なのかメイドなのか分からない衣装のエルフさんが勇者のコーヒーカップに媚薬を入れようとして、同じくメイドなのか軍人なのか分からない女剣闘士さんと衝突している。人一倍性欲はありそうだけど、鈍感。
異性として意識はしても、自己評価が低すぎて彼女達には釣り合わないと最初から諦めている可能性もある。おそらく告白さえしていない。
これだからイケメンは。
しかし、この種のイケメンは基本的にクソ真面目なので一度そういう覚悟を決めたら責任逃れすることはないだろう。世界を救うことに比べたら、自分を慕ってくれる女性を平等に愛し守り続けることなど容易いはずだ。
ガンバレ勇者。
超ガンバレ。
僕の見立てではエルフのメイドさんと女剣闘士さんがいがみ合ってる隙に、女海賊さんがスリングショットみたいな紐水着で勇者を夜中に襲うだろう。
そして表立っていないだけで、神殿や王宮にも勇者を意識している女性は沢山いる。身も心もイケメンだし。幼馴染達にとってライバル多数という環境は大変かもしれないが、彼女達の素質と加護を発揮しつつ未来を掴み取ってもらうには勇者と共に行動してもらうのが最良解だと僕は確信している。
そういや故郷の村で色々教えてくれたエルフ師匠も勇者と旅に出ると言っていた。森羅万象の理を究めてしまったばかりに結婚相手に求められるハードルがハンパなく高くなってしまった──というのが口癖だったし。このイケメン勇者ならエルフ師匠も問題なく嫁に出来るだろうし、僕の幼馴染達も余裕だろう。
◇◇◇
村の男達に一服盛った以上、僕は故郷に戻るつもりはなかった。
幼馴染達が人生かけて戦うのに、僕だけが安全な暮らしを享受できるほど薄情者のつもりもない。冒険者ギルドの門を叩いた僕は、ギルド新人教育部門のスカウト課に籍を置いている。
主な仕事は、女連れでギルドに来た有望そうな新人に絡むこと。
ダメージを喰らわないように上手に吹っ飛んだり、因縁ふっかけるつもりで装備の質や適正職業を判断したり、ギルド長や医務室長に連絡を届けて怪我人を最小限に抑えること。極稀に正真正銘の屑野郎が相棒と娼婦を履き違えているので、そういう場合はギルド総出で面汚しの清掃活動に勤しむことになる。
「おいおい若いの。あんたが喧嘩をふっかけた相手はな、凡人顔じゃなけりゃ今頃Bランクに昇格してもおかしくないモブ夫さんなんだぞ。大丈夫なのか?」
「ブフォッ!?」
模擬戦に持ち込む前に有望新人君の腹筋が崩壊するのが難点だ。
何気にギルド受付嬢の被弾率も高い。
同僚にも連鎖しやすい。
先日などはギルドマスターにまで飛び火した。
「……すまんモブ夫、その嘘くさい眼帯とトゲ付きショルダーパッドとブーメランは勘弁してくれ」
「ゑー」
ダメらしい。
ギルド長の要請に従ってモヒカンにしようとしたら、今度は受付嬢一同から反対を喰らった。
「モブ夫さん素材納品とか魔物討伐の仕事とか真面目にやってるのに、モヒカンで受付に並ぶ気ですか!」「街中依頼で孤児院の手伝いとかモブ夫さんへの指名率高いんですよ、小さい子が真似してモヒカンにしたらどうするんですか!」「モブ夫さんのSTR値は筋肉依存じゃないからレベルをどれだけ上げてもあばら骨がちょっと浮くガリ系細マッチョにしかならないのに、どうして素肌レザーとかモヒカンとかに走るんですか!」
とことんダメらしい。
確かに王都とはいえ有望な新人がギルドに現れるのは多くても月に二度程度。それ以外の時は一般冒険者として活動しないと食っていけない。
勇者チームに無事合流したエルフ師匠から魔法薬の原料採集が指名依頼で入ってくるので、幼馴染達の分も頼むと一筆添えて多めに納入する。王都と故郷では同じ料理でも微妙に味付けが違うから、ギルド食堂の料理人に頼んで故郷風に味を調えた食事を幼馴染達の住んでいる宿舎に届けて「こういう味付けが好まれてます」と食堂の料理人に頭を下げたりもする。
勇者達の活躍は定期的にギルドにも届いている。
今期の魔王軍はなかなか精強らしい。
荒れ地に出現した巨大地蟲討伐競争では、討伐数でこそ勇者軍が勝ったが討伐重量では魔王軍の方が優れており、引き分けに終わったようだ。
なおセクシー対決に関しては幼馴染達が善戦しており、魔王軍四天王「婚活のミレディ」こと夢魔女王ではカバーできない健康的な色気や清純ビッチ部門で高得点を稼いだようだ。マイクロビキニ鎧に食傷気味だった勇者軍ならびに魔王軍は着衣エロという新たな地平に到達したとギルド掲示板に貼り出されている。
◇◇◇
人類と魔族の戦いには長い歴史がある。
豊穣と繁栄を約束する太陽の神獣バァルへの挑戦権を賭けた、十年に一度の競技会。神獣に挑みこれに打ち勝てば、相当な範囲の土地が肥え、清らかな水が湧き、海に魚が戻ってくるのだ。
人類も魔族も農耕や科学技術の研鑽を惜しまないが、それでも神獣の祝福は得難いものである。枯渇したはずの金山が甦るなど序の口で、太古に絶滅した霊薬草が大量に発生したり、海底が隆起して国土が三倍に増えたことさえあった。
互いに殺し合い奪い合うよりは神獣の加護を賜るべく努力を重ねた方が有意義であると、人類と魔族の間での戦争は終結している。
なお神獣への挑戦権については国家のみならず民間組織や個人レベルでも参加できるため、冒険者ギルドの上位ランカーや無名の市民も多数参加している。
神獣への挑戦権については様々な審査基準がある。
というのも神獣が与える試練というのが毎年変わるのだ。確率的に体力や武力魔力による力業で押し切ることが可能な試練が多いけれど、時々そういうものが通用しない課題が神獣より提示される。
そうなってしまうと阿鼻叫喚。
御近所の主婦がうっかり神獣への挑戦権を獲得してしまう事も過去にはあった。
「──と言う訳で、今回の神獣様より示された試練『ヒヨコの雄雌識別・千羽でPON☆』の勝者は匿名希望フリーランスの眼帯肩パッドDeモヒカン男さんとなりました」
「俺っち様こそが(自称)勇者のイチの子分、モヒカン眼帯のブーメラン使い! 略してモブ夫さまDa☆」
試練会場の空気が重い。
魔法を使った識別を試みた者は魔王軍でも三百羽くらいで魔力枯渇に陥り、意識を失って軒並み失格となった。チーム戦なら対処できただろうが、個人競技指定のため全滅したようだ。
勇者は鑑定スキル持ちのため魔力消費なしにヒヨコの識別が出来たが、スキル発動が遅かったため制限時間までに識別できたのは五百羽に留まった。
ちなみに僕が持つヒヨコ識別技能は、秒間五羽。
これは精度優先で、速度を上げれば秒間二十羽は可能だが五パーセント程度の不確定要素が発生してしまう。
冒険者家業の傍ら王都近くの養鶏場でヒヨコ鑑定している身として、手抜きはできない。
「親分、俺に出来るのはここまでだ」
MPが切れて医務室行きとなった魔王を見送りつつ、僕は神獣への挑戦権を勇者達に託した。後ろの方で冒険者ギルド長が悲鳴を上げているが、敢えて無視する。
「モブ夫さん、これは貴方が……」
「ひとりはみんなのため、みんなはひとりのため」
俺っちは子分でやんす。
勇者の言葉を遮るように、僕は神獣への挑戦権を彼に押しつけた。それが世界にとって最も良い選択だと思うし、自分がそれを託すことの出来る相手は勇者以外に思いつかなかったからだ。
幼馴染を託す時、勇者が取り組んでいる幾つかの深刻な問題を教えてもらった。それは魔族にとっては些細な問題で、人間でも健康かつ裕福なら簡単に対処できるものだった。
でも、今のままだと助かる人間はほんの一握り。
強大な加護を得た幼馴染達は無事かもしれないが、故郷の村は全滅するだろう。勇者の見立てでは、豪農程度の財力では助からない。逆に金はなくとも高ランクの冒険者ならば生き残る確率は決して低くはない。
勇者はそれを回避するための方法を模索している。神獣の加護を取引材料に、国王や魔王と交渉できれば対処できる可能性はある。
イケメンは一見地味な仕事でも華麗に成し遂げるだろう。
そして苦労を共にした男女はキノコ雲を背後にキスをして結ばれるのだ。嫁さんが五十名を超えそうだが勇者なら大丈夫だろう。分け隔てなく愛情を惜しみなく注いでくれるはずだ。
愛情以外のものも平等に注がないとエルフ師匠あたりは実力行使に出るだろう。
◇◇◇
勇者が神獣の試練に挑んでから半年が経過した。
冒険者ギルドと神殿と、ついでに魔王軍を巻き込んだ勇者と愉快な仲間達は、当初の予定よりも早く問題解決に乗り出す事ができた。
詳しい事はいずれ公にされる日も来るかもしれないが、兼業冒険者の僕が知る必要は全くない。
王宮と神殿が出した共同声明を信じるなら、勇者たちの活躍で世界は救われた。少なくとも人類が滅亡するような危機は去った。一時期終末論者が謎の新興宗教を立ち上げて民衆を扇動するなど王都でも政情不安となっていたが、お蔭様で冒険者ギルドは潤った。
よく分からないけど世界は救われた。
死なずに済んだ。
勇者と仲間達がやってくれた。成し遂げてくれた。
そこだけおさえておけば、多少の尾ひれなど許容範囲だ。
「モブ夫さん、魔王国の使者が冒険者ギルドにやって来て『深海から浮上した名状しがたい冒涜的な大陸の主である頭足類がぐにょろめきめきをブーメランひとつで海の藻屑に変えた眼帯モヒカン男』を探しているってギルマスが絶叫してるんですが」
「どどどどど童貞ちゃうわ」
「誰もモブ夫さんの貞操について言及してないから安心してください」
時どきこうして冒険者ギルドから事情聴取を受けるのが厄介だが、世間は概ね平和になりつつある。
「モブ夫さん、魔法学園から特使が冒険者ギルドにやって来て『直撃コースに入っていた衛星軌道上の超巨大小惑星が、地表から打ち上げられたブーメランで木端微塵になったので調査協力を願いたい』と興奮気味にギルドマスターに詰め寄っているんですけど」
「ほほほほほほほほ包茎ちゃうど!」
「はいはい、ズル剥けズル剥け」
僕は今日も冒険者ギルドで有望そうな新人に因縁を吹っ掛ける仕事に勤しんでいる。
「だからモブ夫さん、その眼帯とモヒカンと肩パッドとブーメランはやめましょうよ。神獣挑戦権の時、勇者さんがシリアスな場面なのに腹筋大変なことになっていたんですよ? 私たち超笑いましたけど」
「ゑ~」
冒険者ギルドの受付嬢は僕の卓越した変装スキルを一瞬で見破ってしまう凄腕なので油断できない相手だ。
ただの町娘に百戦錬磨の冒険者たちの対応など務まらないわけで、僕が知らないだけで彼女たちは天空を舞うドラゴンを割り箸一本で撃墜したり、てへぺろ一つで砂漠の石巨人を粉砕できるのだろう。
「できませんよ! それよりモブ夫さん、突然どうしたんですか素材納入に討伐依頼をこんなに達成して。アレですか、そろそろ将来を見据えて私たちギルド嬢相手に婚活アピールのため収入増やす活動期に突入ですか? それともギルド長の説得に折れて適正ランクへの昇進決意したとか?」
「いや、勇者のところに送った幼馴染たちが今度めでたく結婚するって連絡が届いたから。故郷の男連中は来れないし、女連中も合わせる顔が無いって言ってたし。花嫁側の親族友人席が空なのは寂しい、なにより御祝儀を五十名分くらい用意しないと俺っち様の懐が大変なことになる」
「……はあ」
「いやね、一応先方からは『席順も招待状も衣装も全部決まってるからモブ夫君は身一つで来てくれればいいからね』『法律もクリアしたし面倒な根回しもみんなで頑張った』『エルフ師匠様もすっごい乗り気』なんて連絡来たのよ。でもほら、仮にも幼馴染の兄弟分としては見栄を張りたいというか、新郎に『幼馴染たちをよろしく』的なイベントをね。
本当は『貴様のような馬の骨に幼馴染をくれてやるものか、欲しければ俺っちを倒せ』とか言いたかったけど、勇者はすっげえ好青年だし俺っちよりハイパー強いしね」
エルフ師匠も貰い手がついた。
素晴らしい。
さすが勇者、僕には到底できない高みに彼は立っている。
とりあえずギルド長に連絡して昇進審査を申し込んでみよう。世間的にはBランク冒険者って国家公務員並みの扱いを受けている訳だし、披露宴の席で後ろ指さされても何とか耐えられる筈だから。
◇◇◇
その日。
勇者と共に世界を救った四十六名の美少女達が、一人の最高位冒険者に嫁いだ──と史書に記されている。
勇者の舎弟にして朋友、空から降る星を砕き、深海より浮かび上がろうとした大陸を蹴り沈めたという伝説の冒険者は「は、話が違う!」「勇者ァ! ラッキースケベ体質で見境なくフラグ建てまくって冒険する度に婚約者を増やしまくって同行してた百名近い女の子を全員受け入れたのに、うちの幼馴染達には指一本触れなかったとか手前ェ特殊性癖かぁ!」「ひいぃ師匠! その年齢でブルマーを着用するな! 物理法則を歪めてまでウェディングドレスの下に紺ブルマーを着用しようとするなぁぁあ!」などの名言を残しつつ、幼き日に交わしたという約束通りに四十六名の妻を迎えて幸せな生涯を送ったと言われている。
【登場人物紹介】
・主人公(モブ夫)
平坦顔、糸目、五秒で似顔絵を描けてしまうシンプルな落書き顔。生まれた時と十歳の洗礼時に最高級の加護を引き当てるも面倒だからと周囲に押し付けまくり、本人は最低限ランクの素質と加護を選択した。その時点で「世界の摂理」から逸脱したというか、生まれながらにして解脱したような存在。レベルアップ必要経験値が最低限かつレベル上限が事実上撤廃されている。レベルアップ時の能力上げ幅が最小限なので自覚は乏しいが、山になってしまうほど塵を積もらせた模様。
なおヒヨコの雄雌判定試練では千羽を四分弱で判別、正答率百%かつ追加試験三千羽を制限時間内に正答率百%で判別した。
・幼馴染s
生まれる際にモブ夫から最高級のレアリティを押し付けられ、洗礼時にも最高級の加護を押し付けられた。美貌は自前。小さいころからモブ夫に何度も助けられてるため適齢期になったら嫁の座を巡ってバトルファイトを繰り広げるか田舎村の特異性を逆手に取りモブ夫以外の男性を【検閲】して全員で竿姉妹になるかという選択肢しか残されていなかった。勇者と共に世界を救った功績で国王に特例を認めさせ、準備万端でモブ夫と結婚した。
・エルフ師匠
万年処女だが実際は800歳なので800年処女が正しい。
ロリ枠のように見えるが育つ部分はしっかり育っているのでブルマー着用は世界への冒涜である。ショタい頃から主人公を憎からず思っていたが、気位の高さと「ワシを妻に出来るとすれば勇者くらいのものよ」という戯言をモブ夫が真に受けてなおかつ行動に移したため本気で後悔しつつ幼馴染達と頑張った。
とりあえず報われたようだが本文中ではまともに登場していない。
・勇者と愉快な仲間達
ラッキー助平体質かつ無自覚ハーレム製造機だが、釣った魚はきちんと美味しく頂きます系男子。
実は異世界転移者で、転移時にモブ夫が捨てた稀少加護を沢山受け継いでいる。最終的に嫁さんはモブ夫と同じくらい迎えた模様。世界をきちんと救った後は権力から距離を置いて穏やかに暮らした。
・魔王さん御一行
魔王軍四天王の紅一点「婚活のミレディ」は勇者に嫁ぐことに成功したらしく、魔王さまの胃薬消費量はここの所減少傾向にあるようです。
・冒険者ギルド
何度注意してもモブ夫が自作のモヒカンかつらと胡散臭い眼帯を止めようとしないので、新人冒険者の実力審査の新しい方法を模索している。小惑星を破壊したブーメランをモブ夫から買い取ったが廃材のベニヤ板を貼り合わせて加工した物と判明したため「これ王家に献上したらギルド潰されるぞ」と慌て、最高級の素材で新たにブーメランを製作してモブ夫にしばらく使ってもらった。
モブ夫に気のあった受付嬢たちは少なからず存在したが、結婚式における幼馴染達の姿に「ヤベェ、ガチだ」と身の危険を感じて引き下がったらしく披露宴会場で良好物件を捕まえることにした模様。