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過保護な魔王ver別管理用

過保護な魔王「我は別に勇者が好きだから手加減するのではないぞ! ほんとに!」

作者: 稲荷竜

ver2『改稿案:宰相のキャラを立てていったらどういう物語に変化する?』を投稿しました。 『過保護な魔王の過保護なじぃじ(https://ncode.syosetu.com/n3534eq/)』というタイトルで投稿していますのでよろしければそちらもどうぞ

 その存在はあまりに強大で、人族はおろか魔族からさえ恐れられている。


 魔王。


 美貌を誇る、残虐で冷酷で無慈悲で――なにより最強の、女王。


 美しい彼女は、けれど、笑ったことがない。


 それが――

 ある日、笑う。



「フッフッフッフ……」



 遠見水晶をながめ突然笑い出す魔王。


 彼女の玉座のそばに侍る魔人宰相は戦々恐々とした。


 魔王が笑う――この異常事態!

 長年そば仕えを任されている魔人宰相さえ、彼女のあんな、ゆるみきった笑顔を見たことがない!


 どのような残虐な作戦を思いついたのか?

 はたまた、使えない部下に対する拷問でもひらめいたのか?


 その時処されるのは――自分ではないという保証はどこにもない。

 魔人宰相は震えながら、玉座の美しき魔王にたずねる。



「いかがなさいました、魔王様?」

「……宰相……我は長らく飽いていた……世界のすべてに倦んでいたのだ……しかし、ようやく見つけたぞ。我の退屈を紛らわせる方法を……」

「そ、それは……?」

「我は決めたのだ。……勇者を育てる」

「は?」

「勇者を育てる。――そう、敵がいないなら、敵を作ればいいのだ」



 かくして魔王の思いつきによる、勇者育成が始まった。



「魔王様、勇者に差し向けるモンスターですが……」

「宰相よ、なるべく弱いのを見繕うのだ」

「は。ではゴブリンなどを……」

「ゴブリン!? ゴブリンと言ったか、貴様!」

「は、は!」

「勇者が死んだらどうする!?」

「い、いえしかし魔王様、今の勇者のレベルですと、ゴブリン程度ならば、多少苦戦はいたしますが、適性かと……」

「宰相!」

「は、はい!」

「いいか、ヒトは、弱い」

「……」

「『たぶん大丈夫』『多少苦戦するけどいける』などと、甘いことを考えるのは、よせ。……スライムだ。とにかくスライムを出すのだ。どれほど弱いモンスターであろうとも、たくさん倒せば強くなれる。大事なのは、勇者の安全だ」

「しかしそれでは時間がかかるかと……」

「経験値を多く所持した連中がいただろう。向かわせろ」

「……経験値を多く所有した彼らは体が硬く、今の勇者たちではとても傷をつけられません」

「ならば適当なスライムに強力な武器を持たせて向かわせろ!」

「ええええ? そ、そこまでなさいますか!?」

「異論でも?」

「は、ははあ! すぐにとりかかります!」



「んっん~♪ んふふふ~♪」

「……魔王様?」

「おお、宰相か! 見ろ! この遠見水晶の中にな、勇者たちがいるのだ……! くふふ……見ろ! ダンジョンに配置した数々の宝を手に入れ、喜ぶ姿……。わざわざダンジョン内部に宝箱など置いて、彼ら用の装備を入れてやったかいがある」

「……」

「勇者が嬉しそうだと我も嬉しい」

「……は、はあ……」

「強くなれ……健康で強くなるのだぞ、勇者よ……」



「うわあああああ! 宰相! さいしょおおおおおおお!」

「ど、どうなさいました、魔王様!?」

「見ろ! 遠見水晶! 第二ダンジョン勇者、ボス、やばい!」

「魔王様、お気をたしかに」

「は、はあ……はあ……はあ……うむ。……いや、落ち着いている場合ではないのだ! 宰相、第二ダンジョンのボスのトロールが勇者を殺しそうになっているぞ! どういうことだ!?」

「……これは、おそらく、いい装備を序盤に渡しすぎたせいで、勇者たちのレベルが足りていないのですな……魔法を使えたならば楽勝の相手なのですが、勇者ども、まともな攻撃魔法を習得しておりません」

「トロールに手加減するよう言わなかったのか!?」

「連中は頭が悪いので、言いはしましたが、いざ戦いとなって忘れたのでしょう」

「……ええい! 我の勇者が死んじゃうだろ!? こ、こうなれば……」

「魔王様、なにをするおつもりで……?」

「魔族の王たる者の名において命ずる――トロールのステータスを半減させよ!」

「そこまでしますかぁ!?」



 ~遠見水晶の映像より~



「な、なんだ、トロールの攻撃が急に痛くなくなったぞ!?」

「とにかくチャンスよ! 勇者、今のうちに回復を!」

「ああ、わかったよ魔法使い! 僧侶、頼む!」

「はい。では回復をします」



 ~魔王城~



「……よし」

「いやいやいやいや! 魔王様! 『よし』ではなくてね!? あ、あの、そこまでします!?」

「宰相よ、いいか……勇者は世界に、一人しかいない」

「まあ『世界が暗黒に包まれる時運命により選ばれる伝説の人物』ですからな」

「しかしトロールは、まだまだたくさんいる。第二ダンジョンのボスを任せてはいるが、もっとこちらの城に近くなれば、普通にわらわら出てくるような存在だ」

「まあ……」

「どちらが貴重か、明白だろう?」

「……う、うーん……」

「……ああ、我の勇者。無事でよかった」



「……むー」

「魔王様、どうされました? 近頃ずっとご機嫌がよろしかったようですのに、今日は、そのように頬をふくらませて……」

「宰相よ……我はわけのわからぬ気分なのだ」

「お加減でも悪いのですか?」

「いや、体調に問題はない。しかし……アレだ。遠見水晶を見てくれ」

「はい。……勇者が普通に街で買い物をしているようですが」

「それはいい。それは、いい景色だ。問題なのは、勇者の周囲だ」

「……人族の街ですから、人がたくさんおりますな」

「そうではなく! 勇者の周囲で、いるだろう! 女魔法使いと、女僧侶が!」

「……まあ、勇者の仲間ですので、おりますな」

「つまらんのだ」

「……」

「なにかこう、つまらん。勇者の仲間なのはわかっているが、連中が勇者のそばにいるのは非常につまらん。……あ、ほら見ろ! 女魔法使いが勇者にしがみついたぞ!」

「通行人にぶつかってふらついて、その結果勇者に支えられただけでしょう。人通りが多い様子ですからな」

「故意かどうかは問うておらん。ともかく、つまらんのだ」

「……では、女魔法使いに強いモンスターを差し向けて消しますかな?」

「いや! いや、それは……それをやったら我の勇者が悲しむ……」

「……別にそこまで気を回されることはないかと存じますが……あくまで、魔王様の目的は『強い勇者を育て上げること』なはず」

「ああ、ううん、うん。悲しむかどうかはどうでもよい、どうでもよいのだが……戦力がな。そう、戦力がな。勇者はまだまだ弱い。仲間は必要だ。気心知れた仲間が……気心知れた……ぐぎぎぎぎ」

「魔王様?」

「…………今日はもう眠る。起こすな」

「はっ」



「……勇者はまだか! そろそろ我の城付近に着いていてもいい頃合いではないか!?」

「魔王様……それは少々……」

「宰相! なぜ勇者はまだ人族の都市のあたりをウロウロしておるのだ!?」

「それは……その……魔王様が『まだ早い。まだ勇者に強いモンスターを差し向けるのは早い。勇者にこのダンジョンを攻略させるのは早い』と勇者の進路を妨害し続けているからかと……」

「…………うむ」

「時間がかかってもいいのでは?」

「そうだったが……そうだったが……なにか、女魔法使いと勇者がいい雰囲気なのだ」

「……はあ、それが……?」

「気に食わん」

「…………あの、魔王様、恐れながら申し上げますが……」

「なんだ!」

「……ひょっとして、魔王様は、勇者のことを好いておられるのでは?」

「それはもちろん好いておる。強く育ってほしい……」

「そうではなく、男性として見ているのでは?」

「……………………んなぁ!? な、なにを馬鹿な! 貴様! 宰相! あんまりそういうこと言うのよくないと思います!」

「し、失礼いたしました。しかし、他に思い当たる節もなく……」

「そんなわけなかろう!」

「は、はあ! その通りでございます!」

「……好いている……好いているか……」

「魔王様?」

「……いや。なんでもない」



「宰相……我は城を出て、勇者のもとへ行く」

「は。……は!?」

「考えたのだ。我は魔王。ヤツは勇者。……気まぐれで生かしておいてやったが、それも今日までにしよう、と」

「な、なぜです!? あれだけ大事に育成されていらっしゃったではありませんか!?」

「そうだ。それは、我の強者を求める闘争心ゆえの育成であったはずだ……しかし、最近、我が勇者に恋をしているのではないかという疑念が持ち上がっている……これはゆゆしき事態だ」

「はあ……」

「我は最強。我は無敵。我は無慈悲にして冷酷。そして冷徹にして傍若無人。強敵を好み闘争を好む。……その我が、恋などと! 初心な人族のような感情を抱いているなどと、あってはならん。魔王の沽券にかかわる……」

「……」

「なに、最初からこうするべきだったのだ。我は勇者を殺し、城に戻る。さすれば世界から光は消え、我の支配は盤石なるものとなろう」

「…………魔王様がそこまでおっしゃられるのであれば、この宰相、お止めすることはできませぬ」

「うむ。では、行ってくる」

「は。ご武運を」



 ~数日後~



「……無理ぃ。やっぱ無理ぃ。勇者殺すの無理ぃ」

「魔王様……遠見水晶で拝見しておりましたが、魔王様のお力は勇者を圧倒しておりました!」

「そうではない! そうではなく……勇者と向き合うとな、顔がカーッて熱くなって、首筋とか真っ赤になって、ふわふわして、なんも考えられなくて、お腹の底がぎゅーってなって、それでな……」

「し、しかし、魔王様の放たれた闇の炎が、勇者のすぐ横で破裂し、勇者は死にかけたではありませんか!」

「言うな!」

「は、ははあ! 申し訳ございません!」

「……違うのだ。あれは、もっと遠くに着弾させるつもりで……女魔法使いがな、『今までモンスターに勝ってきた私たちなら、魔王だって倒せるはずよ』とか言うのが癪に障って、ちょっと脅かしてやろうと……」

「……ええと」

「今までやつらがモンスターに勝てたのは、絆の力でもなく、ましてや愛の力なんかじゃない! 我の配慮で勝ってきたはずだろう!?」

「その通りでございますな」

「なのに、我なんかいないみたいに、仲間内で盛り上がって……我が今までどれだけ勇者のことを想い、はぐくんできたか……」

「……魔王様……」

「……治療薬を持って謝りに行こう」

「ま、魔王様! さすがにそれは!」

「……わかってる。わかってるのだ。我は魔王……そういうのはダメ……わかってはいるのだが……」

「……魔王様」

「……宰相、すまぬな。情けない姿を見せた」

「いえ。恐れながら申し上げます」

「……どうした」

「やはりあなた様は、勇者に恋をされている」

「……」

「そして、恋をしているあなた様は、お美しく、いきいきとしていらっしゃった。……宰相めは、そんなあなた様を拝見するのが、楽しかったのでございます」

「……」

「魔王様、勇者の仲間になりなされ」

「……しかし、我は魔王だ。一度勇者たちの前に顔を出し、勇者を殺しかけて……」

「この宰相めに考えがございます」

「……考え?」

「はい。お耳を――」




 黄昏色に染まる平原の中央に、巨大な黒い影が立ち上っている。

 戦火ではない。

 それは一体の化け物の姿だ。



「フハハハハハハハ! 勇者どもを殺すのに失敗した、無能な『偽魔王』などいらんわ! 覚えておけ勇者ども! この俺こそが、真の魔王である!」



 ボロボロになった美しい女性を片手に持った、巨大なる影は――魔人宰相は告げる。



「勇者どもよ! その女は貴様らにくれてやる……! 今は無力すぎて殺す気にもならぬ勇者どもよ! 俺は魔王城で待つ。俺の強大なる力を前にして、それでもなお心くじけぬならば、世界を救うために我がもとへ来るがよい!」



 そう言って、黒い影はその場から消え去った。



 ――これらはすべて自作自演。

 魔王を勇者パーティーに入れさせるための、宰相の策略であった。



 かくして宰相の作戦通り、あとには勇者たちパーティーと――


 傷つき、うち捨てられた『元魔王』が残る。



「魔王……いや、偽魔王、大丈夫か!?」



 勇者が駆け寄ってくる。

 偽魔王と呼ばれた彼女は、勇者の腕で抱き起こされながら、うめくように述べる。



「……大丈夫だ。でも、魔王は強い。今の貴様らでは倒せないだろう……だから、我が育ててやるからな。我が、ここで、貴様らを強くしてやるからな」



 勇者たちはうなずく。

 一度対峙した時に、偽魔王の強さは骨身に染みてわかったのだろう。


 その偽魔王より、強い、真魔王――

 そいつと対峙するのに、自分たちがまだ力不足であることも、理解しているのだ。


 彼女は、笑う。



「うん。いい子だ。……我の勇者。ここからはずっと一緒だ。貴様らが、魔王を倒す力を身につけるまで。ずっと……」

「ああ、ありがとう。頼むよ」

「…………べ、別に、貴様らのためではないがな!」



 彼女は顔を赤くしてそっぽを向いた。

 そして――こっそりとつぶやく。



「……宰相、ありがとう。必ず勇者を育てて戻るからな」



 彼女の――魔王の誓いは変わらない。


 勇者を強敵として育て上げる。


 そうして勇者が育ったあかつきに、彼女がどうしたいと望むのか?


 当初の目的通り殺し合いをするのか?

 あるいは情のままに行動し、戦いをやめるのか?


 それはまだ、彼女自身でさえ、わからないけれど――


 きっとずっと、勇者が魔王に並ぶまでには長い時間が必要だ。


 だって魔王は勇者に厳しくできない。

 彼女は勇者に恋をしているから。

47AgDragon様より魔王のイラストいただいております!

‏ありがとうございます!


↓コチラから47AgDragon様のイラストツイート

https://twitter.com/47AgD/status/973537613427568640

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