自転車
「あ、ギョクジ。いいところにいた。大変なのよ。オウメちゃんがいなくなったの。」
母親は僕を見つけると、息を切らして、話しかけてきた。おい、おい、僕が生き返ったことのほうが大変だろ。死に装束のまま、外にでるわけにも行かない。すぐに着替えると、手持ちの全財産を持って外へ出た。急いで自転車の用意をする。警察に見つかるとロスになるので、面倒だがヘルメットもしておこう。
自転車にまたがると駅に向かう。中学生の鉄道オタクにとって、電車に持ち込める自転車は必需品だ。折りたたみは使わない。パワーがない。慣れてしまえば前と後ろ両輪を外して、カバーにしまうのに5分とかからない。
まだ、朝の8時だ。通勤ラッシュで車は込んでいる。自転車で正解だ。カタツムリのような車をわきに見ながら、トンボのように自転車は進む。すっかり、昆虫目線になってしまった。今までは、口の中や顔にぶつかる虫にイラついていたが、虫と一緒に過ごした思い出がよみがえってくる。何だかか懐かしい。
車の多い通りを避け、シャッターの閉まった商店街を行く。普通の歩道と違い、段差がないので快適だ。今では、自転車レーンも増えてはいるが、右側通行や信号無視などで注意されやすくなった。ここで、説教を食らっている時間はない。ももが痛いが、できるだけのスピードでペダルをこぐ。まっすぐで信号のない道を選ぶ。
時々、駅からこちらに向かってくる学生達の自転車集団にでくわす。
「避けろ!一列で走れ!」
と、叫びたいが相手は高校生だ。しかたなく、こちらが避ける。それでも、かれらはまるでお前が邪魔だといいたげに、睨んでくる。動物に憑依し続けたからだろうか。何となく相手の感情を読むのがうまくなった気がする。




