トンボで初体験?
遅々として進まなかった今までのいらいらが、うそのようだ。トンボは快適だ。グライダーのように滑らかに飛ぶ。川下に向かうにつれ青いマーカーの中心が大きくなる。これって近づいている証拠だよな。でも、生まれ変わってもトンボはいやだ。空を飛べるのは面白そうだが、一生の大半を水の中で暮らすんだから。人間はこの姿を成虫と呼ぶが、こいつらにしたら死出の旅立ちって感じかもしれないなあ。
順調に進んでると思った矢先、いきなり後ろ上から衝撃が襲ってきた。別のトンボが僕のトンボをつかもうとしている。
「やばい、こいつメスだと思ってる。」
トンボのオスは、メスの首の後ろをつかんで、飛びながら交尾をするらしい。動物は苦手だが、雑学には詳しい。運動で王女に勝てない僕は、知識で勝とうとしていた時期があった。
「こんな、初体験はいやだ!」
うまくつかめなくて、あきらめてくれた。こんなところでロスしている場合じゃない。川幅が徐々に広くなる。急がないと、滝とかあったら、体がばらばらになるかもしれない。と、トンボは細い棒の上に止まって動かなくなった。
「何かを見ている。」
くるくるくるくる。目が回る。
「子供だ。女の子だ。指をぐるぐる回して、僕の目を回そうというのか。」
トンボは頭と目を色々な方向に動かしているらしく、まるでジェットコースタの映像でも見ているかのようだ。
「やめろ。急いでるだから。」




