Pre07:船上での邂逅 ReLove
《11:19/ニューシティ号のテラス》
結城さん・湊君ペアと別れてまた引き続き松本さんと行動を取ることになった。
「佐藤君よ。気にはならないか?」
松本さんが当然話題を切り出した。恐らく彼女の言う気になることは僕と同じものであると思う。
「湊君の言った『独特なペア』のこと?」
「えぇ。佐藤君も気になっていたか」
「でも松本さんは、さっき挙げられた6人のうち2人には会っているのだろう? だったらおおよその見当はついているんじゃないか?」
「ほう、そこまで把握していたとはね。私も少し君を侮っていたかもしれないわね」
いや、あれは気づいてくれと思って言っているようなものじゃん……。そう思っていたがあえて口にはしなかった。
「確かに私はさっき湊君の挙げた人たちの中で比々乃君と秋月君には会ったわ。そしてそれぞれのペアの相手とどういう関係かもわかっているわ。推測が含まれているけど、まず比々乃君と不二君だがあの2人は結城君と湊君みたいな昔馴染みだ」
今の一言で少し大事なことに気づいた。松本さんは男女問わず『君付け』をすることに。
「そういえば佐藤君の前で一度も結城君の名前を呼ばなかったわね。私は男女問わず君付けで呼ぶのよ、昔からの癖でね」
僕の気持ちを読んだかどうかはわからないが松本さんは丁重に解説した。
「もしかしたら佐藤君は勘違いしているかもしれないわね…………。ここまで挙げた人たちの中だと、不二君は女性よ」
事前にもらった名簿の名前は確かに覚えてはいたが、その人の性別が明記されていなく、推測でどっちの性別なのか考えざるをえなかった。だがこの推測は間違える可能性も高い。最近では女性に付ける名前を男性につけたり、逆に男性に付ける名前れていないを女性につけたりということも珍しくはない。だから敢えて考えずにここに臨んでいた。
ちょうど松本さんの君付けで呼ぶことが分かったあたりで今の発言の中に出てきた人物の性別を聞こうとしていたが、聞くまでもなく教えてくれた。
「なるほどね」
「続けるわ。次は秋月君と宮野君ね……ちなみに2人は男子だけど、彼らは昔馴染みではなくおそらく野球におけるライバル関係というところであると思っている。曖昧だが少なくともスポーツでつながりを持つ人たちであるとは思っているよ」
比々乃君と不二さんの時は断言したが、今の発言に『というところ』や『思っている』といったワードから推測であると思える。
しかし何故野球と決めつけているのだろうか?
なんだろう、松本さんとの会話は国語の読解問題の雰囲気を感じる。あまり語らないが些細なワードがヒントになっている。油断せずに聞いていた方がいいように思える。
「まぁ、私の推測は根拠なしでやるから信じなくてもいいわ。だけどこれがまた当たるんだよね。怖いことだわ」
松本さんは僕の思っていることを推測したかどうかはわからないが話し続けていた。
「佐藤君はこの2組が独特って言えるかな?」
今度は質問になった。
「いや……秋月君と宮野君の関係が正しいとしてもその2組に独特と思えるものは見当たらないかな? それに結城さんも言ってたけど『そういう人は珍しくない』ってワードがその2組の特徴に当てはまる気がしないんだ…」
「ほう………君の考えは実に順序を追ってしっかりとまとめられているな。私も同じ理由で考えていた。ちなみについで聞くが『独特な』と言われて具体的に何であると思った?」
「情報が少なくて判断がつかないなぁ……」
まだ話題に上がっていない二人の性別が一番の重要な判断材料になりそうだ。
記憶の中にある名簿を引っ張り出して振り返った。ここまでで上がってない2人の名字と名前は水樹 アンズと三浦 サクヤ…………恐らく2人とも女性であるとは思うが念には念でわざと呼び捨てにしている。少なくとも2人が同性であると思える。もしそうであるなら考えられることは―――――。
「表情から察するに答えを掴んでいるように見えているが、どうだ?」
松本さんは推測を言う際『~と見るが、どうだ?』と締めているなぁ。いま推測していますよという合図でもあるのだろう。さて彼女の展望の眼差しに答えるとしよう。僕の考えた答えは――――
「パッと思いついたのはね、同性愛者…?」
結城さんの言う『そういう人』という言葉はその人の性質を表している。確かに例えばサイコパスといった異常な性質のことを指している可能性もあるが、この場合2人組という前提があるためさすがにここでそれを使うという考え方に至らないと思った。むしろ2人だからこその考えともいえる。
「私も同じ考えよ。いろいろと考えたけどこれが正しい気がする。
さて、佐藤君。ここから私の推測に付き合ってくれないだろうか」
松本さんは謎の一言を告げる。
「推測に付き合う?」
僕は質問する。
「今、私はその2人の居場所を推測しそこへ向かおうとしている。それに付き合ってくれないかということだ」
説明を聞いて彼女の意図がようやく読めた。
「そういうことね、うん、いいよ。僕も自分の考えが正しいか気になるところだし」
あわよくばそこで挨拶を交わせば都合もよい。
「ありがとう。ただ一つ、私の推測だが、これから向かう先で……なんといえばいいのだろうか、そうね、奇想天外なものを見る可能性がある。」
少し言葉に詰まった松本さん。一体向かう先で何が起きているんだ…?
松本さんの言葉に乗った僕は、早速彼女が推測した場所へ向かったのだ。
《11:20/船内2階客室廊下》
船内の細い道、至る所に部屋へとつながる扉が並んでいる。
「佐藤君。ここからは声を抑えた方がいいわ」
とボリュームを下げた声で松本さんは僕に忠告した。僕は黙ってうなずいた。
この辺りは少しの声も反響して向こうまで聞こえるような造りだからそう言ったのだろう……ん? これじゃまるで潜入捜査みたいな感じのような?
「この辺りかな……」
曲がり角に差し迫ったあたり、松本さんは『とまって』のハンドサインを僕に向け、それから1人で角から右方向を覗いた。
「ビンゴ…!」
小声で喜びの声を上げたのと同時に僕に『こっちに来て』のハンドサインを送る。僕も彼女同様ひっそりと角へ向かい、同じ方を見るとそこに映っていたのは―――
女子が女子を壁ドンをしている様子だった。
間違いなく同世代、つまり彼女たちが―――
「恐らく水樹君と三浦君だろうね、私はそうであると見るわ」
松本さんは僕の思っていることを小さな声で言った。
「いろいろと思うところがあるかもしれないが、もう少々眺めているとしよう。
私とて、このような場面に遭遇する機会は一度もなかったのでね…!」
眼鏡の奥の彼女の瞳は興味の文字で埋め尽くさんばかりのものだった。僕はそんな彼女に少しばかり呆れながらもやはり今目の前で起きていることに対する興味で見ることにした。
というかこういう風に壁ドンする人っているんだな……。今のところ2人の本名がわからないのでわかるところまで仮称を使うことにした。簡潔に壁ドンをしている低身長で肩にかかる髪と鋭い目を持った彼女をA、壁ドンされている僕や松本さんよりも長身で、ポニーテールの揺れる、温厚そうな瞳を持った彼女をBとする。ここからは彼女たちが繰り広げる会話に注目してみることにしよう……。先に言いだしたのはAからだった。
「久しぶりの再会であるにも関わらず逃げようとしているのかい?」
少し男性を思わせるような口調で笑みを浮かべながら言う。
「に、逃げてなんか…。ただ――」
「ただ?」
怯えた口調で話すBのセリフにかぶさるように質問をするAであった。
「ここ船内だよ? その気になればあそこの角から誰か見ている可能性だって…」
とBは言ったがもちろん彼女の言う『角』は僕らが今覗いている場のことを指している。さすがに彼女の一言で一瞬身を引いた。だがすぐに元の覗く状態に戻した。
「今更何を? さっきの結城さんたちの前での堂々さでいいのよ?」
今のAの発言から、結城さんたちに会っているということは2人が水樹さんと三浦さんであるという可能性が高くなってきた。
それに『堂々さ』からやはり後ろめたいと思えるものという点からやはり『同性愛者』である可能性が高くなってきた。
「彼女は大丈夫であったかもしれないけど、他がこれをどう思うか……」
今の時代、海外では同性婚も珍しくはない話だが、日本では一部の地域で許容されているところもあるが完全に受け入れられたものではない。
ここからは僕の意見だが、愛なんてさまざまで、男と女が愛し合おうとしてもできない人だっているのだから男同士・女同士の愛を許容してもいいと思う。むしろ人を愛せないよりかはマシだと思う――――――話を戻そうか。
「ははっ、サクちゃんは相変わらずの臆病さんだね、でもそこが可愛いわ」
AはBに向かって『サクちゃん』と言った。これはもう三浦 サクヤさんとみていいだろう。
ずいぶんと回りくどく時間が掛かったが見当がついたBがサクヤ、三浦 サクヤさんであるならばAは水樹 アンズさんになるというわけだ。だが本当にAが水樹さんかハッキリとしていないから早めに証明終了を出すわけには―――
「アンズちゃん……」
照れくさそうに三浦さんはAのことを『アンズ』と呼んだ。証明終了。
さて二人の名前がはっきりとわかったところで2人の会話の様子を眺めていることにしよう。
「でもこうして再び会えたことは本当に嬉しいわ。もう二度と……二度と会えるわけがないって思っていた…」
先に言ったのは三浦さんからだった。
「私も……あの時から誰にも恋をしなくなったのよ……色々とあったからね………。それに、どうしてもサクちゃんのことが忘れられなかったの。今まで会ってきた人たちの中で一番愛したと思ったのはサクちゃん、アナタなのだから」
まだ壁ドン態勢のまま、水樹さんは言った。そして続けた。
「あの日の傷はまだ残っているね…」
水樹さんは三浦さんの頬を壁ドンをしてなくて空いている右手で撫でる。
傷? 少し遠くてよくはわからなかった。
「うん、一生ものだからね…。二度と、消えないわ」
「こんな顔に傷をつけて、あの男は………。久しぶりにその傷を見たら、少しだけあの日の場面を思い出したわ。忘れたわけじゃなくて、きっと、ただずっと目を逸らしていたのだろうね…」
水樹さんの一言で少しばかり沈黙が起き、そして彼女は三浦さんから離れた。
そして再び会話が始まったが切り出したのは水樹さんからだった。
「改めて言わせて、私はあなたの『彼女』にもう一度なりたい。あの日の別離からもう一度恋人同士になりたいの」
続けた内容はまさかの告白だった。まぁ、初対面ではないから会ってすぐになんとやらみたいなフレーズとは似て非なるものである。
でもあの様子、特に水樹さんの複雑そうでどこか『哀』の文字が見える表情を見ると過去にとてもじゃない何かしらの事件に………ん? 待って、何かおかしい。文脈から察するに、元々恋人同士?だったけど訳あって離れ離れになった。それってまるで2人が同じ鳥籠学園にいたということになるのでは? そして何かしらのきっかけでどちらかが別の鳥籠学園に転入したということになる。しかしこれを知ったところで何の得もない。脅し文句になれるわけがないし、むしろ人を脅すようなマネはできない。でもどこかで機会あれば聞いてみたいところだ。向こうが嫌でなければの話だが。
「うん…! また、こうしてアンズちゃんと一緒に入れるんだから私はうれしいわ」
三浦さんの笑みは実に嬉しいものを感じさせるものであった。
「よかった~」
水樹さんの安堵は自然と笑みを生んだ。
「私はサクちゃんがまだ私のことを恨んでいるのかと…」
それは本音と思えるものだった。一体2人に何があったんだ…?
「そんな!? 私はあの日でアンズちゃんを一度も恨むなんてことしてないわ! むしろあの時はアンズちゃんがいなかったら私は………」
水樹さんは人差し指で三浦さんの唇を優しく抑える。何か言い続ける雰囲気があったがそれを断ち切られた。
「ありがとう、サクちゃん」
そこからまた少しばかりの沈黙が生まれた。だけどなんだろう三浦さんが少しばかり照れくさそうな表情に見える。
どうして彼女の表情があんなものなのか、それは次の三浦さんの一言で嫌でもわかってしまうのだった。
「せっかく恋人に戻ったんだしさ……その………あの頃みたいに、キス、しない?」
一瞬、吹き出しそうになったのは角から覗いていた僕だった。しかも今『あの頃みたいに』ってそれは何度もキ、キスをしたと……? 最近の女子高生は恐ろしいと感じた。
「う~ん、サクちゃんの気持ちは嬉しいんだけどね……」
「だめ?」
「いや今すぐにでもしたいんだけどね、さすがにこの件に関してはそこの角にいる人たちに見せるのは早くないかな」
と水樹さんは僕らのいる角に目線を向けた。バレたのだった。
百合が大好きな私の描く百合。難しいことこの上ないです。たぶん一生自分には最高クラスのものを描くことはできないでしょうなぁ。悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい。
と思いながら書きました。
仕方ないね。