57:拮抗に近い開示
《4月25日/10:12/3年42組教室》
おはようございます、佐藤です。
さて、月曜の今日はというと、教室にいます。室内には42人が一堂に集まっている。こんな瞬間はいつ以来だろうか。そうと考えてしまうほどだ。
だけどその場に先生はいない。今回は一人の生徒による招集だった。
「おはよう!今日は来てくれてありがとう!」
このクラスの委員長である結城さんだ。それは昨晩のこと、42人専用のチャット(いつの間にこんなものが)があって、むしろ今回を機に知ったのは事実だが、そこで彼女は呼びかけをした。
『明日10時ころに教室に集まってほしい!強制はしないけどなるべく全員!』
そう言われ集まった。壇上には結城さんともう一人、湊君が立っていた。
「それで? 話とは何なのだろうか?」
松本さんは結城さんの第一声に対し、控えめな挙手をしながら尋ねる。
「えぇ~っとね。少しみんなのことを知りたいと思ったんだけど、ほら今私たちって【課題カード】と【おもちゃ】と呼ばれるものを持っているじゃん?」
結城さんは右手で指を2本立てながら話した。
課題カード、学期内に達成すれば100万円が貰えるというものだ。
おもちゃ、不思議な力を持つアイテム。僕の場合は【殺教者の黒】、殺意に応じて身が伸びるものだ。
「でも先生は言っていたじゃん。課題カードは人によっては触れてはいけない、言ってしまえばアキレス腱のようなものだと。だけど、おもちゃは違った。特にそんな文言はなかったよね。だからさ、ここでみんながどういうものが与えられたのかを発表でもしようよ!」
彼女の言葉で一気に空気がピリついたのをいやでも感じた。緊張感という言葉を使うのが相応しい。
「あれ? なんだか急に緊張感が増したような…。ああでも、話したくなかったら無理にとは言わないよ。でもさ、こう二つも隠し事をするのは私も少し気になっちゃってね。これで距離を縮めようなんて厚かましい考えは無いよ。ただ―――」
「なら、その結城君の想いを私が先陣を切って汲み取ろう」
松本さんは結城さんの言葉を遮り立ち上がった。
「私の与えられたおもちゃ……いや、正確に言えば既に持っていたというべきだね。名前は【内なる八岐大蛇】。指定の部位に蛇の入れ墨を移動させ、身体強化するもの。最大八匹の蛇が背中にいるわ。見せて証明するにしても、今この場で服を脱ぐのはさすがに気が引けるところではあるわ、だから代わりに―――」
そう言って右手を掲げると手の甲に蛇が一匹這い出でて蜷局を巻いた。その姿にざわつきが出る。
「こんな感じで自分の思った場所に指定した数の蛇を動かすことができるわ。今は一匹手の甲にいるけど、これでこの机をノックすれば、試してみないことには始まらないが、おそらく凹むのではないかしらね」
教室内がざわつく。特に彼女の手に這う蛇の姿には動揺を隠せていない生徒がちらほらといる。
「偶然にも、この力を目の当たりにした子もいると思うが……今は黙っておこう」
西門さんのことだと僕はわかったが松本さんは彼女のことを見ずにそれとなくの程度で話した。西門さんの表情を伺いたいところだったが、それで彼女が白日の下に晒されるのは忍びないと思い心のうちに留めた。
「ちなみに、皆はこのおもちゃが箱に入ったままで貰っているだろうが、もちろん私もそうだった。だけど私の場合は空箱だった。あとで来た先生からのメッセージでは『2つ持つことが不平等』ということで、そういう対応をしたらしいわ」
「なるほどねえ。ありがと、松本さん。じゃあせっかく勇気をもって出してくれたしこっちもい教えないとね……はい、シンくん!」
「は!? 俺!? そこはお前が話すだろ」
「それだとありきたりじゃん。それにシンくんのそれってそこまでひた隠しにしないといけないほど?」
「そうだけどよ…。俺については口で説明するよりかは実演した方が早そうだ」
壇上をキョロキョロとs見渡しながら歩いていると、ピタッと足が止まる。彼の視線の先には誰も使っていない椅子が一脚あった。
それから彼は「これでいいか」と言いながら、懐からタクトのような細い棒を一本取り出す。そのタクトをトンと椅子にあてるとあっという間にバラバラに解体された。
「これが俺のおもちゃ【螺子の旋回】。ネジのついたものを無理やり取る。そして―――」
もう一度、そのタクトでバラバラになった椅子を叩くと一人でに椅子は直った。
「ネジを再度締め直して直すこともできる。バラすか直すかは自分の意思に委ねられる。今やったのも頭の中で『バラせ』と思えば勝手にさっきのようになるし、『直せ』と思えば修正できる」
「それってさ、シンくん。今の状態で『直せ』って思いながら叩くとどうなるの?」
「少しやってみるか」
そう言いながらトンと椅子を叩くが特に反応が無かった。
「何もない感じかな?」
結城さんは湊君の後ろから尋ねる。
「そうみたい、だな。ただこれは推測の話だが、緩んだネジとかに『直せ』と思いながら叩いたら締め直せる可能性はあると思う。少なくともこいつ自体はネジを付けるか外すかという0か100のことしかできない。備品直しには便利そうだな」
「とのことでシンくんのおもちゃでした!ありがとうね!……じゃあ次は私かな。私はね、これ!」
結城さんは机の上に置いたのは小さな箱だった。何やら蓋のようなものもあるように見える。彼女はそれを開けると中にはが描かれていた。
「私もこれはよくわからないんだけどね、名前は【仕組まれた未来論】。どうやら予言のカードらしい。でも御覧の通り」
結城さんは箱から1枚カードを取り出す。トランプの裏面にあるような紋様があり、一方ではつまりは本来表面になる部分は何もない白紙だった。
「予言が発動すると、このカードに絵が出るらしい。それで実際にそれが起きると、このカードは無くなるとか。だけどこれ全部で20枚あるのに全部これと同じなんだよね」
カードを戻しながら続ける。
「みんなも先生からビデオレター?を貰っていると思うけど、そこで話していたわ。このカードが光った時、予言の絵が出るとか。嘘くさいよね~」
呑気に話しているまるでそうなることをわかっていたかのようにカードは光出した。それを見ながら結城さんは「そうそう、こんな風に光ってー」とまだ気づいていない様子だ。
「おい、アマネ! カードが!」
湊君が慌てて指摘する。
「え…? あーっ!? これがその予言ってもの!?」
慌てて慌ててカードを手にすると、発光が止んだ。
「これが…予言なのね」
「何か書いてあったのか?」
浅沼君は腕を組みながら話しかける。
「えっと、これなんだけど」
結城さんはカードを教卓に置く。それからみんなが能動的に前の方に集まった。僕も数歩出遅れて追いつく。
「内容は……【化けの皮は死す】ですか?」
鹿島君がマスク越しの曇った声で読み上げる名前はカードの上ににあった。そしてイラストには顔が一つあるが、半分が白い下地に黒線・黒い下地に白線と対照的なイラストの上に赤く荒々しいバツ印がついていた。
「下にも何か書いてあるわ、えっと……『剥がれた暁に、その刃は向かれてしまった』と」
水樹さんが読み上げた内容にずしんとした重い沈黙が広がる。
「なあ、アマネよ。これって本当に起こることなのか?」
「わからない。しかもこれがいつ起きるとかも書いていないようだから、『今後起きるかもしれない』としか言えないのよね」
「でもよ…ハッキリ言って、それって今のうちに起きてもいいことなんじゃないか?」
少し言葉を選びながらも発言するのは星君だった。あまり彼とは話したことが無いが、今の発言の真意とは何なのか気になっていたところで、結城さんが突っ込む。
「それはどういうこと?」
「だって、俺たちって不死なんだろ? 仕組みはどうであれ、この予言が実現したら仮に死んでも予言は成就しましたって扱いになって、死んだ当人は蘇るなんてならないものか?」
「おまっ! なんでそんなことを簡単に…!」
星君の言葉に突っかかったのは初瀬川君だった。そう言えば彼はどういうわけか死を忌み嫌っている人だ。そんな彼にとっての今の言葉はあまりにも強く刺さるものだったのだろう。声を荒げながら星君の胸倉を掴んで言った。
「仮定の話だ、もしかしたら現実に波及する可能性だってある。ただの戯言に過ぎないものだ。それともなんだ? 君には剥がれる皮があるとでもいうのか?」
「そんなわけないだろ!?あったとしても今この場で話して己が死に至るってなら言わない!」
「ちょ、二人とも落ち着いて」
結城さんが宥めると、徐々にその掴んでいた手の力が緩くなっているのが見てわかる。
「……悪い」
重かった空気には「気まずい」という名前がついたような気がする。僕の中ではそう感じた。
「とりあえず、このカードが本当に起こるなら、一応共有したということにしよう!仮に……仮の話だよ!本当に予言の通りになったら今後はみんなに他のカードに絵柄が出たら共有する。これは委員長として私から約束するわ!」
席に戻るように促しながら今後の方針について説明する。20枚程度の予言、果たしてこれが現実化するのか、いやそれ以前、今彼女の手元にあるカードの解釈についてもなかなか一筋縄ではいかない内容に思えてしまう。
「それじゃあ、ここからは自由に発表タイムをしよう!」
そこからは希望者のみが自身の持つおもちゃに関しての発表を始めた。僕なりに整理してまとめると次の通りだった。
秋月君:【大加護の聖域】指輪型。あらゆる攻撃を防ぐことができるらしい。
天海君:【燻る牽制】円形ピアス型。あらゆるところから無害な煙を発動させる。飛ばしたりその場に発したりする。それ以外に目に見える煙を操作できるようだ。数日しか経っていないのに使いこなしている印象がある。
狗神さん:【百点満点の公式】ボールペン型。自分にとって都合がいいように計算が成立する。本人も言っていたがよくわからないものだ。出来事への干渉なのだろうかと考えてしまう。
霧雨さん:【至高魔導士の夢日記】ハンドサイズの分厚い辞書型。自身の唱えた唱が魔法になる。彼女らしいものであるが、程度については未知数
桐山さん:【瞬き厳禁】ハンディーファン型。おもちゃの仕様形跡を可視化することができる。実演したが、湊君が扱った椅子にスノードームの粒子みたいなものがふわふわと浮いていた。対象すべからくのため、複数人が使うといたるところに形跡が現れる。
書風君:【自己肯定増々】形は不明。自身が指定したものが高まると強くなるらしい。曰く「俺に惚れ込めば強くなれる!」とのことだ。
前田さん:【主導鍵】鍵型。あらゆるものが解錠できる。しかしできないものがほとんどのようだ。
安河内さん:【刻漢ノ刀刃】鞘に納まる刀。持ち手に漢字一文字を指で書き、抜刀すると具現化する。実践で「花」という字をなぞって抜したら、どこからともなく一輪の花がポトンと落ちた。
若槻さん(前田さんによると):【紫電一閃】形は不明。触れたものに微弱な電気を送る。とは言ってもそれで直接的に害を与えることは無いが、気絶や覚醒を促す程度。寝ている為確認できなかった。
皆個性的なものを持っているなと思った。しかし本当にそうなのかと思う節もある。もしかしたら中にはブラフを使っている人いる可能性だってあるはずだ。過度に疑心は良くないが、少しそんな気持ちも沸く。
さて僕はと言えば、どうすればいいのものかと少しばかり思案してしまう。
実際問題、僕に与えられたものは何の意味を為さないものだ。松本さんというワンクッションもあって案外話してもいいものだとは思った。特別彼女から口止めをされているわけではないということもあって。
「僕は―――」
自分の持っているおもちゃについて話をした。
殺意によって刀身の伸びるナイフ、そして僕には殺意という感情が無く、何度も試みてもその刃が伸びたためしがないことを話した。
「へぇ~、佐藤君のそれが…でも今まで何人か実演したところを見ると、おそらく本当に伸びるのだろうけど?」
結城さんは理解しながらもそのナイフを見ていた。
「例えばの話、お前が仮に殺意がなくても、他の奴が持てばどうなるんだ?その辺って聞いていないよな」
湊君が僕のナイフを指さしながら言った。そんな言葉を待っていたかのように、
『そんな君たちに答えを教えよう』
突然聞こえたのは校内放送によるもので、声の主は天堂先生だ。
【オモチャ】、登場しました。少年少女らはこれらをどう使って学生生活を送るのでしょうね?




