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42人の教室  作者: 夏空 新
第7章

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56:考察、【オモチャ】について②

《12:22/321号室》


鹿島(かしま)君も仮屋(かりや)君も共通項に『目』が関与しているね」

 松本さんは指摘したのは無論ボクもそうであると思っていた。

「うん、鹿島君はオーラ?が見えること、仮屋君は威圧というのかな、目で殺すようなことをする……これはオモチャじゃないと?」

「実は特異的な目を持っている人というのはもう1人いるのよ。この人のおかげで私は一概に彼らが持つ目は何かしらの共通点があるのではないか、各々が目に関するオモチャを持ち合わせているとは思えないと判断したのよ」

 確かにボク含め42人いる生徒の中で3人が目に関する特異性を持っているのであれば、その可能性を疑ってもしかるべきものだろうと思った。しかし―――

「その1人って誰なの?」

 シンプルだが松本さんがぼかす誰かさんについて気になった。

宗像(むなかた)君よ」

「宗像君……確か、彼は画家として有名だったね。それと関係しているの?」

「御明察。ちょっと待って」

 松本さんはゼミターミナルを手にし、何かしらの操作をする。


 待つこと数分後、松本さんは「これでいいわね」と一言置きながらボクにそれを渡す。それを受け取ると画面にはネットの記事だった。タイトルは【若き天才画家・宗像 理人(りひと)の視る世界】というものだった。

 確か彼はボクらと同年代でありながら上野の美術館で個展を開いたと話題になっていた。どうやら今見ている記事はその開催にあたってのインタビュー記事のようだ。


 内容を要約すると次の通りだ。

 自分は物心がついた時から視力に難があり、色をまともに認識することができなかった。少しばかり生活では支障をきたすことはありつつも生活が出来ていた。

 しかしある日を境に、()()()()()()()()()()()()()()()()。それどころか常人以上の色彩感を得てしまったという。それが自分にはあまりにも応える世界だった。その目まぐるしくも気分が悪くなる世界を少しでも愛そうとするために試みたのが絵画だった。色彩感を掴んでから、いの一番にやりたいことが芸術鑑賞だった。元々絵画には関心があった。いつか色彩を理解出来たら今目にしている絵はどのように映るのか、美しいのか醜いのか、それを知りたかった。そして世界に美しき絵画がキリなく溢れていることを知った宗像君は実際に描くことに手を付けた。

 その結果が今回の個展開催に至った。海外のバイヤーからも一目置かれ、個展終了後に自分の絵が欲しいという人がいる。ここでは話せない金額を提示されたが丁重に断った。無償で渡す方針で話を進めている。

 最後にこれから個展に来る人に向けて、自分の世界観を受け入れてくれるかはわからないが、自分が刺激を受けた方たちのように誰かの心に応えるものをお見せできればと思っている。


「これ去年だよね。高校2年生でこんな立派なことができるなんてね」

 ボクの去年がどうだったかと言えば……う~ん、私情で模試に本気出したことと例の事件か。何とも言えないね。

「人それぞれよ、こんなに立派なこともできる人もいればできない人もいる。千差万別」

「ボクのことディスった?」

 少し心に鋭いものが優しく刺さった気がした。

「他意はないわ。それよりも彼の目だけれど、元々モノクロの世界だった彼がどうして満員御礼の個展を開く絵をいくつも描けるようになったのだろうね?」

「確かに、なんだかこのあたりは妙にぼかしているというか……隠している? というか、やけに曖昧に話していたね」

「鹿島君と仮屋君がどういう経緯であの目になったのかは不明だけれど、同じことを言い出したらどうしようもないと思うわ」

 鹿島君は普段の話し方があまりにも奇々怪々で独特な世界観を持っているから、何かありそうと匂わせつつ、何もありませんでした、というような会話はお手の物だ。適当に茶を濁されておしまいかもしれない。だけど仮屋君は―――

「話した回数はそこまで及ばないけど、これはあくまでボクの勘ね、仮屋君はそのあたりを濁しつつも何か話してくれそうだと思うんだ」

 ボクの言葉に松本さんはクスッと笑い声を漏らす。

「キミからそんな言葉を聞くなんて思いもしなかったわ。愚直に信じ込めとは言わないわ。可能性として一つ残しても良いのかもしれないわね……きっと彼には彼なりの事情があるのだから」

「事情か。確かにそうだね。西門(にしかど)さんや安河内(やすこうち)さんみたいなヘビーな背景があるのかもしれないからね。慎重にいこう」

「それでこその助手だよ。まぁとにもかく、このゼミに一つの動きが出たのは確かね」

 松本さんは腕を組みながら立ち上がる。そして部屋を去ろうとする。

「今日の議論はここまで?」

 ボクは尋ねる。

「えぇ……キミの目ではいくつか気付きを得たこともあるでしょうが追々話しましょう」

 松本さんは「それに――」と少し俯きながら続ける。

「今ここで過度に情報を溢れさせればその人をバイアス的に見てしまいかねないわ」

 そう言って部屋を去る。

 バイアス的に見る。彼女は僕の目で気付いたことをいくつか話しているが、何のことだろうか、ボクなりに整理する必要もあるのだろうと思った。

「それにしても……このゼミはどこへ向かうんだ?」

 そのポツリとした独り言は静かに落ちる。


*****


《12:38/321号室前》

「……まずいことになったわね」

アスカはタケルの部屋を後にし、ドアにもたれかかりながら言葉を一つ漏らす。非常に動揺しきった顔をしていた。

「もし私の推測が正しければ、彼は貰ってはいけないものを貰ったことになる。いや、それもそうだが、向こうはどういうわけか私たちの内情を知っている風だ」

ドアノブに手をかけ、自室に戻る。

「それにしても天堂先生はどうして私たちの内情を知っているのだろうか?いや、どこでその情報を知ることが出来たのだろうか?」

少し間を開けて「とは言っても」と一言付してから続ける。

「そういえば十重奏(デクテット)のメンバーに、鳥籠学園を脅すに足る何かを持っているみたいだったわ。それについて引っかかるわね。もしそれが答えであれば説明はつく。ただ少なくとも消耗品であることや、鳥籠学園という全国42校という学校に限られていること。仮にそのメンバーの持つ学園を脅すそれが私たちの持つおもちゃと同義のものであると、限りあるものとしてできるのか疑問だ」

アスカは寝床に臥す。まだ昼間であるが、考え事の濁流に溺れそうになりつつ、意識を保って考え事にふけっていた。

「……親愛の一友人としては目を逸らしたいが、無情な一探偵としては逸らしてはならないものだわ」

 己を探偵として名乗るにはあまりにも不安定な心に揺り動かされていた。


*****


―――このオモチャに関する箱は全員に配られていた。


《10:34/808号室》

「……」

 少年の手には紙が一枚「もう既に持っているだろう、その優勝賞品を」と。

「困ったッスねぇ……なんで俺氏の事情を知っているのやら……」


《上記同刻/514号室》

「ッ!」

 西門 ミキの手から箱と紙が零れ落ちる。そこには「あなたは既に与えられている。そう彼女の葬式の日に」と書かれていた。

「ど、どうしてそのことを……」


《上記同刻/712号室》


「ふぅん……」

 仮屋 アキラの手には黒い箱。その中には何かが備わっていた。

「くだらないなァ。だがまァ……万が一この目がって時の備えに良いのか」


《12:11/907号室》


「そっか~」

 少女は箱にあるモノと紙を見て、それから天堂の説明も踏まえ、納得の顔をしていた。

「少なくとも、秘匿にすべきものじゃないのはわかった。てことは……()()()()があってもいいのかもね」

企て一つ立てて嬉々としていた。


《10:34/221号室》


「面白いね」

 少年は箱の中をただ不気味ににやけてソレを見つめた。その傍らには丁寧にカットされたリンゴがあった。


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