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42人の教室  作者: 夏空 新
第6章

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84/85

54:ゼミを充実にするスパイス?

《4月22日/11:57/321号室》

 

 おはようござ……いやもうこんにちはの時間か。それはそうと佐藤です。

 さてと、あれから2日経ったが大きな進展も無く停滞状態の中一つの動きがありました。

 「全くもって忘れていた」と言うとなんでも覚える僕の性質上矛盾している言い方になるかもしれない、そのためこの場合は「気に留めておくことを忘れていた」というのが正解なのかもしれない。

 それはそうと、事の発端は僕の部屋にあるこの小包だ。それもご丁寧な、どこかで見たことのある百貨店の包装紙で包れていたものだ。

  

 朝起きてしばらくしたら呼び鈴が鳴った。押した主は以前に課題のカードを渡してきたスタッフのような人物と同じだったが両手に件の小包を持っていた。特に何も伝言なく「天堂様からです」の一言だけだった。

 さてこの小包の包装を丁寧に取ると無機質な白い直方体の箱だった。まるで新しい靴でも入っているのではないだろうか、そうとも思えるものだった。かと言って靴が入っていそうな重さではないからこそ、これはなんだと疑問が残る一方だ。

 その箱の蓋を開けると、灰色の紙にくしゃくしゃに包れている何かがあり、その上にメッセージカードが1枚あった。

 本当に靴が入っていそうな雰囲気だな…軽いけど。

 まずはメッセージカードを見よう。僕はそれを手にして、二つ折りになったカードを開くとこう綴られていた。


『この1年、あなたの学園生活の支えに詳しくは正午のメールを確認してくれ

                                天堂』


 先生からの何かが届いたはわかる。ここで僕はバチンと電流が走ったような感覚。

 それはあの時、十重奏(デクテット)会議の時の会話だ。4月下旬頃に何かを配るような話をしていた。もしかして、これのことか?アレコレと調査していたことや百人一首で対決したことなどですっかり意識から外れていた。むしろその一瞬で思い出せるからこそのこの記憶力なのかもしれないと感じる節もあるが。

 さてと、肝心の中身はを見よう。

 僕は包装紙をそのまま引っ張ると現れたのは、1本のナイフだった。見た感じこれはサバイバルナイフというものだろうか。ゲームとかで見る機会は多いが、実物を見るのは初めてだ。

 束のある短力、刃渡りもごく一般家庭にある包丁程度、いやそれより少しだけ長いようにも思える。黒いゴム製の持ち手でしっかり握って振れば、手から滑り落ちることはまずないだろう。だけど、どうしてナイフなんかが僕のもとに……?


 そんな振り返りは今から1時間ほど前から。僕は今メッセージカードにあった、メールで真相を知るべく待機していた。このパッと見た感じごく普通のナイフが学園生活の支えになるなんて本当だろうか、疑問しかない。

 もしかしてサバイバル生活なんてしちゃう? にしてはこの島はコンクリート壁に囲まれた筒状の世界。それに隔絶されたエリアのどこをとっても自然のしの字もないようなところだ。今のところ『支え』とは無縁に位置している。

 わからないなぁと、僕はさっきから子供のようにナイフを握って軽くブンブン振り回している。ただ切れ味は本物で、さっき部屋にある不要になった紙で試したら、カッターナイフに引けを取らないくらいにスパッと切れた。そうであるなら、人を切るなり刺すなり容易いだろうと気付き、その点では用心はしている。


 きてそろそろ正午に入ったか、と思った頃、ベストタイミングでメールを受信する通知音がゼミターミナルから聞こえる。

 ナイフを一旦机の上に置き、ターミナルを見る。予想通り天先生からのメールだった。

 開くと件名は「荷物について」とだけ、本文は一切の記述なし。動画ファイルが一つだけあった。課題の件と似たり寄ったりの展開だな。だけど心なしか緊張感をわずかに感じる。

 僕は唾をのみ、ファイルを再生する。映し出された映像は、まさに課題の時と同じような風景に立つ先生の姿だ。


『やぁ、佐藤 タケル。学園生活は充実しているかい?』

 

 第一声が僕の名前だった。このことに少しばかり驚いた。

『おっと言い忘れていた。この動画ファイルは佐藤、お前専用の内容になっている。もしこれを見ているそこの君が佐藤でないなら今すぐ動画を止めてすぐに連絡をしてほしい。入念にチェックはしているから問題ないはずだがな』

 ピンポイントで僕に向けた動画なのか。というとこの映像は僕を除いて41人分があるのかもしれない。

 真っ先にそのことを考えてしまうが、今は目の前の映像の続きを見よう。僕は佐藤 タケルであることは間違いないのだから止める理由なんてものはない。

『さて佐藤。君の手には今ナイフが1本あるよな?』

 先生が人差し指を一本立てながら言った。僕はすぐにこれのことだろうと、今は手放したナイフに目をやる。

『そのナイフはな、少し特殊なナイフなんだ。名前を【殺戮者の黒(キリング・ナイフ)】………心にある殺意に応じて刃先が伸びる代物だ。殺意が高ければ高い程グングン伸びるんだぜ』

「……はぁ?」

 ここで一旦動画を停止。

 理解不能だった。そんなどこかのマンガにあるような秘密道具でもあるまい、見た目はごく普通のナイフだ。そのナイフにそんなことができることなんて。

 もうそんな胡散臭い話題ならこの動画を見なかったことにもしたいところだが………でも、ここ数日、言葉で説明できないアレコレが過る。

 もしかしてそれにも関係しているのかもしれない。そう思い僕は再生ボタンを再び押す。

『ま、信じられないよなぁ。わかるよ~わかるわかる。だけどそれが本当だ。きっとどこかでよくわかる日が来るさ。そう、時が来たら~、なんて言うじゃないか。そう思ってくれればいい』

 時が来たらわかると言われてもなぁ……。そんな思いが口から零れそうだった。

『で、ここからが本題だ。今君の持っているナイフのような奇想天外なアイテム……このゼミ上では【オモチャ】と仮称しょう。これを生徒一人一人に配っている。理由は……この学園生活に刺液を与えるための、いわばスパイスだな」

 スパイス。こんな嘘か真かもわからないようなこれが果たしてそんな作用をできるのか眉唾だ。

『だからここからはみんな共通で言えることだが、自分の所持している【オモチャ】を開示してもいいし、秘置してもいいのさ』

 秘置してもいいし開示してもいい。それはまるで、事によってはそれが致命的になる可能性のものを配っていることもない話ではないことを想起させる。課題と似たり寄ったりに感じてしまう。

『とまぁ、そんな感じだ。是非ともそれを活用する場面が来るといいな!』

 その言葉を最後に映像は終わる。


 そして残ったのはしんとした静寂だった。

「………本当なのかな?」

絞り切った第一声はそれだった。僕は【殺戮者の黒(キリング・ナイフ)】と呼ばれるナイフを手にした。

「えっと……殺意を込めると刃先が伸びる、だったね」

 にわかに信じがたいが、心の中にある殺意を想起させてそれをナイフに届くように念じた。少し力を込めていて無意識に目を閉じていた。

 ()()()()()()()()()。目を閉じる前と後で先のサイズがとても変わったようには思えない。ミリ単位なら話は別だが。

「え、何も起こらなくない?」

 今僕が念じたのは、あの日あの事件の時の京極 ココアに対しての想いだがこれは怒りに近いのか。怒り=殺意と思ったがそういうわけでもないのか。

 いやいや、そもそもの話だけど、()()()()()()()() 人を殺したいとかそういう感情ってことだよね。

 確かにあの日の京極 ココアに対してはそんな気持ちがあったのかもしれないが思い返してもそんな深い感情にはなれない。だから刀身が伸びることはなかったのかな。

「そう思うとじゃあ殺意って何だろう………」

 そんな言葉が、誰にも聞かせる予定もない言葉が漏れる。

 僕の中にある疑問、だけど一方で、これは「これが全くの嘘っぱちじゃないと思う」ことも考えてしまう。さっきの動画で先生の言っていること一つ一つ、どこを切り取っても彼は嘘をついていないように感じる。

 やはりあの会議で意味深に言っていた会話、議事録も書いている身だからこそ際立って鮮明に思えるある意味伏線がましい話題が僕の今を言じ込ませているのかもしれない。


ピンポーン

 

 部屋の呼び鈴が再び鳴る。

 このタイミングでということはきっと。僕はそう思いドアの前に。ドアスコープを見るとそこにいたのはやはり松本さんだ。

 先ほどの【オモチャ】の件で話をしにきたのだろう。

 そんな時にふと、さっきの先生の言葉が過る。「開示してもいいし秘匿してもいい」ということだ。

 僕は松本さんにこのナイフのことを話していいのか少し躊躇いを感じる。だからここは相手の出所を伺って話していった方が良さそうだ。疑うのかというとそういう訳でもないが、何も彼女相手にオープンになりすぎないで出方を伺うのも一つの考えだ。「松本さんは僕を裏切る真似をしない」なんてことはわかりきっているが、でもそう路躇うということは、きっとまだどこかで彼女を信用しきっていないからなのかもしれない。正直、僕のことを用信頼している相手にこんな無礼を働くことに罪悪感を抱えてしまう。

だけど、もし彼女ならきっと―――かすかに松本さんのこれからの行動に期待のものもある。だからあまりネガティブに思わずいつも通りにしよう。

 僕がドアを開ける。

「やぁ、佐藤君。私がここに来た理由はお分かりかね?」

 絶妙な間合いはまるで僕が警戒しているのではないかというのを構えているようにも見えた。なるほど、そこまで見え透いたものか。

「……【オモチャ】かな」

「ご明察。中に入ってもいいだろうか」

「うん、どうぞ」

 僕の横に立ち、松本さんは言う。

「なに、普戒することはない。少なくとも助手に危害を加える探偵がどこにいるって話だ」

 不敵な笑みを浮かべながらそんな言葉を告げ、松本さんは颯爽と部屋に入る。

この物語の中核となる部分がやっとでます。書きたい要素の一つです。

【オモチャ】が今後どのように作用するかお楽しみください。

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