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42人の教室  作者: 夏空 新
第6章

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81/86

51:歌い探る、描き嗜む。

《11:26/街路》

 隠居(かげい)君と榎並(えなみ)君の行方がわからずに、どこに行ったものかと辺りを散策しているが結局見つからなかった。

 本当に消える達人だ。その場を離れるにしたってここまで見つからないことがあるのだろうのかと思うばかりだ。


 この際、一旦彼らのことは終結ということで僕は再び街を散策し始めた。

 寮からの道は本当にビルと街路ばかり、例えば東京駅近くのオフィス街のようなものだ。

 果たして各々のビルには誰かいるのだろうか? そもそも中には何の企業が入っているのかわからない。

「入るなんてことしたら…………さすがに怒られるよね」

 中に何の企業が入っているのかなんてわからないし、もしかしたらただのハリボテかもしれない。興味がないわけではないがさすがにちょっとリスキーか。

 そう思いながらチラチラとビルのエントランスをウィンドウショッピングしているが何の成果もない。

何の収穫も得れずにモヤモヤしていたが、なんとここにきて半月が経つのに初めての場所を見つける。

 公園だった。コンクリートの木と自然の木が行儀良く一列に並んでいる鬱蒼としている中で開けた場所にそれはあった。

 木々やベンチもあるが何よりも印象にあるのは池があることだ。この閉鎖的な島だからこそ、どこからその水を出しているのか気になるところだが澄んだ清らかなものであるのが見て取れる。

「こんなところに公園かぁ。って鯉がいる!?」

 公園の池に近づき、梅から水を覗くと、鈍色や白、金、赤、様々な衣装を着たような鱗を光らせている鯉が悠々自適に泳いでいた。

 割と本格的な公園であることがよくわかる。ベンチの方も材木が適度に手入れされているのか、ささくれだっていない。まるで新品のようだ。

 しばらく歩いていたため小休憩にそのベンチに腰を掛け、それから池を眺める。

「ふぅ……」

 30分は経ってないだろうがそれに近しいくらいはほとんど歩きっぱなしで、いざ腰かけると小さな疲労感を覚え、ふくらはぎの辺りがジリジリとしたものを感じる。それと同時に落ち着いた休息の一時も過ごせた。

 なんて閉鎖的な場所だ。しかし風は微小であって無いようなもの、結局のところ本土の公園に比べたら味気のないものだ。だけど居心地は悪くない。

 あれからすっかり壁は元通りにコンクリートに戻ったが、またガラスに切り替わるようになったらここの池は太陽の光でまばゆいものになるのだろうな。少し見てみたいな。

 色々なことを考えていた。本当に一つのスポットとして、ここも良いなとは思った。


「~~~♪」

 

 伴奏無き女性の歌声が聴こえる。

 お、良いね、BGM付きかぁ。気が利………え?

 どこからそんな歌声が?

 僕はその歌声に微睡んでいたがすぐに冷静になり、すぐに立ち上がる。

 周囲を見回しても誰もいない。

「誰かが歌っているのかな………いや、それよりも、この声は知っている」

 僕はその心当たりある声の方へ歩いて行った。

 そんなに遠くなかった。

 池を沿って西に弧を描くように歩みを進める。すると奥に人影が見えた。

 僕はそれに気づくと、歩幅も減らし、かつなるべく足音を出さないように意識してソーッと歩く。そしてちょうどいいところに一人隠せるほどの太い大木があったので、それを隠れ養に覗くことにした。

 人影の正体は細谷(ほそや)さんだった。彼女は右手を胸に当て、目を閉じながら快く歌っていた。

 そう言えば彼女は前の学校では合唱部にいたと発言があった。以前に松本さんと八密の件の調査で、その学校の間と繋がりがあることが示されている。

 あとはコンビニで日笠さんと2人でいるところに混ざって松本さんと 4人で色々な話をして以来だ。

 だけど見ていて気になることもある。というのも彼女の歌い方だ。とは言って僕も知識豊富と誇れるほどではないが、違和感を覚える。それは音痴だとかそういうネガティブ的ニュアンスではない。

 恐らくだが今は気分転換で歌を歌っているのだろう。もしかしたら発声練習の可能性もある。だけどその割にはファルセットやビブラートなどの技法がてんこ盛りだ。

 どちらかと言えばみんなで歌うよりかは 1()()()()()と思うと納得できる。肩慣らしで歌うにしてはどうも本格的なエッセンスを感じる歌い方だ。

 それにいま彼女の歌っている曲、聴いたことが無い。かと言って流行に超絶敏感というわけではないからもしかしたら既出の曲かもしれないが。

 アカペラで歌っているように感じるが………あれ? よく見ると彼女の左手にはゼミターミナルがある。それに今気づいたが右耳に何かをつけているようだ。もしかしてワイヤレスイヤホン?ということはターミナルから音楽が流れているということか?


 ここまでツラツラと述べているが、そもそも僕はこの声を知っている気がする。気がする? そんな曖昧な表現で良いのだろうか?

 そもそも細谷さんの歌声をちゃんと聞いたのが初めてだが、どうして気づかなかったんだ。いや、気づきようが無いか。普段話している時と歌う時で声が違う例もあるからね。

この歌声は………Mione、顔を隠したアーティストのものだ。僕がこの島に来る前に徹夜してみていたアニメの主題歌も歌っていた。ついこの間まで観ていたから心当たりのある存在だ。

 とは言っても偶然の一致かもしれない………けど似すぎているところはあるが。これがタダのモノマネだとしたらどうしたものかと思ってしまいそうだ。

 もうしばらく様子見をしよう。


 歌い終わった様子で「ふぅ」と一息ついた後に、耳に付けていた何かを取り外す。やはりイヤホンのようだ。

 途中からだったがバラード調でしっとりとする雰囲気な謎の一曲だった。

 

 パチパチパチ。

 

 ここで拍手をしたらコソコンしているのが見つかってしまうなと思いつつも、彼女の独唱に染み入っている中で別の誰かによる拍手の音が聞こえる。

 え、他にも誰かいたの?

「いや~、やっぱりほそやんの歌は良いねぇ」

 僕が立っている木からは全然見えなかったが奥から日笠さんが現れ、細谷さんに近づく。

 もしかしたらずっと近くにいたのかもしれない。全く気付かなかった。

「ありがとう、日笠さん。ちゃんと撮れたかな?」

「多少手振れとかはあるかもしれないけどね~。どうだろ?」

「手振れくらいなら大丈夫だよ」

 日笠さんからゼミターミナルを受取、スピーカー部分に耳を当てる。

「うん……………本当に機能はスマホに引けを取らないレベルね。基本的な録画録音でもここまでクリアに撮れているから上出来だわ」

「ねぇねぇほそやん。結局収録とかってどうするの? まさか今撮ったのを送るなんて考えては………」

「さすがにそんなことはしないわ。一応この島に行くにあたってね、()()()と相談して、元々家にあった機材を持ち込んで、どこかで撮ってデータを送るなんてことを考えていたところよ」

 オイオイオイ、事務所って言ったね。少なくとも歌手の雰囲気を醸している。やっぱり Mioneのことで間違いないのかな。

 今になって思ったが、細谷さんの下の名前がミオであることに気づく。安直すぎるが「ミオの音」で「Mione」とかそういうものだったらどうしよう。

 そんなことに気づいてしまったところだ。

「へぇ~、そりゃあまた大胆に。でも私たちゼミの関係で事実上スマホ役収されているじゃん。できるの?」

「正直、事務所もそれで良いとは言っていたけど、さすがに不安に思って先生に事情を説明したわ。だけど……本当にどういうわけか先生と向こうで既に話し合いをしていたみたいでね…………」

「へ?」

 日笠さんの呆けた声は僕も出そうになった。先生は細谷さんの素性を知っている?

「よくよく考えれば変だなと思う節もあったのよ。撮影機材の件、最初の方は向こうが提案してくれたの、でもお借りして万が一のことがあったら怖いし、使い慣れている自前の方が良いと主張したら、それで快諾してくれたのよ。今思うとスムーズだよね………。これから中身の見えない島に行こうとしている、私に学業を理由にした活動休止の提案をせずに、引き続き曲を出すことに前向きだったのよ」

「えぇ~、そんな怪しいのをほそやんは鶏呑みにしたの?」

 それは僕自身もそう感じてしまう節がある。

「まぁ…………色々とあって今のところにはお世話になっているから、向こうの意向を踏みにじるのも私としては申し訳なくてね。それに学業と Mione の両立は今までしっかりとできていたからね」

「そっか、意外と強気なほそやんを垣間見たよ。それで収録はどうやるの?」

「青竜区に楽器店兼貸しスタジオの場所があってね。これも先生に相談した時に教えてもらったんだけど、ここで収録して録音データを送っていいという許可が出たよ」

「なんだか盤石の体制で備えられているわね。そこまでされると一周回って怖いまであるよ」

「本当にね。でも実際そのスタジオを少しだけ使ったけど、確かにいい環境だったわ。レコーディングスタジオに比べたら劣るところはあるにせよ、ここで歌うよりはクオリティ高めのものができるわ」

「ほそやんってすぐに行動に移すんだねえ。羨ましいわ」

「そういう日笠さんはすぐに行動に移さないの? 私と初めて知り合った時とか、あとは………そうそう佐藤さんたちと初めて会った時もだいぶ積極的な一面もあったけど」

「私にとってのマストに思うことには『積極的に動く』さ。でも不安なことがあると、一歩二歩出遅れるところがあってね………私がさ、ほそやんみたいな状況だったすぐにスタジオに行こうとか思わないし、事務所に『どうして向こうの先生に事情説明したんですか!?』って事実確認しようとか考えちゃうんなぁって思ったのよ」

「ふぅ〜ん」

 そう言いながら、細谷さんが奥の方、僕の立っている場所からは見えない方へ向かった。

「どうしたの?ほそやん?」

 日笠さんは細谷さんの向かった方を見つめる。

「私は歌うこととかくらいしか取り柄がないかもしれないけど、話を聴くことは人並みだと思うわ。だから…………今度はあなたからも話を聴かせて、日笠さん? 少しあなたのことを知りたくなってきた」

「ハハッ。はぁ~、ほそやんってもしかしてこういうやり手だね………」


 おっと、これは長丁場になりそうだ。

 今この場を去ると、よくあるのがうっかり木の枝を踏んづけた音で気づかれるなんてこともありえる話だ。

気乗りしないが、しょうがない、立ち聞きするしかないか……………。

 日笠さんのことを知るきっかけになるかもしれない。

「私が海外出身だということは自己紹介でも話したよね」

「えぇ、アメリカだったわね」

「でもご覧の通り、私の顔って THE 日本人顔じゃん?名前だってそうだけど」

「顔についてはまぁ………一旦ノーコメントで。でも名前は日本人ネームだね。ミドルネームとかが無ければ」

「そういえばクラスにミドルネームがある子いたわね。でもその子とは違って日笠 カナデがフルネームよ。両親はどちらも日本人だからね」

「なるほどね」

「でも生まれはカリフォルニアよ。お父さんが向こうでお仕事をしていた関係でね。それで日本に来たのは私が小学校3年生くらいの時だったかな?」

「お父さんのお仕事?」

「うん。ほそやんは音楽詳しいからさすがに名前は聞いた事あるかな?ジョージ・シラカバって名前」

「えぇ、もちろん。日本でもかなり有名な方だよね」

 かくいう僕も知っている、と言ってもそこまで深く理解しているわけではないが、日本を代表する作曲家だ。

 マリアが特にその話をよくしていたから記憶に定着しているが、映画やドラマの劇中曲を中心に手掛けていることや海外アーティストに楽曲提供もすると聞いている。

 そう言えば最近は日本を活動拠点にしているという話も聞いた事がある。

「そのジョージ・シラカバ改め日笠 ジョウジは私のお父さんなの」

「え………えぇ!? 知らなかった………え、というかシラカバって言ったけど本名なの?」

「旧姓よ。日笠はお母さんの方」

「婿入りだったのね」

「まぁねぇ。お父さんは結婚する以前からそれなりに名の知れた人だったわ、結婚後もシラカバで活動していたからある意味ペンネームと言ってもいいのかもしれないね」

「今どき婿入りを珍しいとは思わないけど、どうしてまたそんなことを?」

「前にそれとなく聞いた事があるんだよね。それでわかったんだけど私たちのためだったのよ」

「日笠さんたち?」

「そもそもね、私って三人きょうだいでお互い2歳離れているけど、上にお姉ちゃん、下に弟がいるの。お父さんが結婚する直前ってまさに最高潮の時期だったみたいなの。ほら、国際映画祭の音楽部門で最優秀賞獲ったって話聞いた事あるでしょ?その時期だったのよ」

 海外映画の劇中曲を作ったということで話題を呼んだと聞いたことがあるが、それは僕らが生まれる前の話だ。だけど何十年経っても色褪せない逸話であるのは確かで僕もその件については存じている次第だ。

「えぇ、もちろん知っているわ。一時期は連日ワイドショーで取り上げられたって耳にしたことはあるわ」

「それで色々と先の事を見据えて、あえて日笠の方にしたらしいわ」

「もしかして………シラカバ姓のままだと『ジョージ・シラカバの子供』という先入観を持ってしまうから」

「なんてお父さんは言っていたわ」

 だとしたらだいぶ先行投資というか………子供一人でも生まれる状況じゃないとそこまで冷静に判断できないというか、ある意味過剰な自己評価にもとれてしまうな。

「随分と計画的だなって思ったけど、深く聞いたら入籍前にお母さんの妊娠が発覚してね。いわゆるできちゃった婚ってやつ? まぁつまるところそれがお姉ちゃんなんだけど、その出来事があっての決心みたい」

 あ、しっかりとした背景があった。良かった~世界的権威のある作曲先生が大層傲慢で自己肯定感が高いと思ったらそうでもなかったみたいだ。密かに胸をなでおろす。

と思ったけど、絶頂期手前に子供作るのはだいぶ遊んでいる方だよなぁ………それとも本当に惚れ込んだ方なのかな? 少なくとも2人とも日本人で出会いはin アメリカとなると何だか色々ありそうな予感もあるな。

「そういえば日笠さんの名前って奏でるでカナデだったわね。やっぱりそれは音楽に由来?」

「大正解。お姉ちゃんは旋律・調律のリツ、弟はピアノを弾くでダン。3人仲良く音楽由来だね」

「そうだったんだね。う~ん………これって込み入った話かな? その、日笠さんが小学校3年生の時に日本に来たって言ったけど……それ以来向こうに行くことは?」

「旅行で行くことはあっても、住むまではしなかったかな~」

「やっぱり………もしかして、あの件が絡んでいるの?」

「ん?あぁ~、そっか。まぁ有名な話だもんね」

 有名な話? そう言えばジョージ・シラカバは活動拠点をアメリカから日本に移したと日笠さんも言っていたし、それは聴く以前から知っていた。もちろん情報ソースはマリア。

 確か相棒と呼べる男性歌手がいたらしい。その人はジョージ・シラカバの名前を広める立役者でもあった。だけどその人は喉頭がんで声帯切除をすることになり二度と歌えなくなったとか。

 これで事実上の訣別をしてしまい、それで日本に戻って、アメリカでの経験と現代の日本音楽を融合させた作品を数多世に送り出す作曲家としてリスタートして、以降安定した地位を確立しているとも言っていた。

「ジョナサン・ウィスパード。アメリカの有名な歌手で、彼が病気で声帯を切除した日には新聞の大見出しにLost Diamond、失われたダイアモンドとまで言われていたわ。………まさか彼とも交流が?」

「うん、度々アメリカの方の家に遊びに来ていたからね。誕生日の日なんて私のためにハッピーバースデーを歌ってくれたのよ。もちろんお姉ちゃんもダンもね」

「待って………それって、昔にテレビで見たことがあるわ。ジョナサンが家庭内でハッピーバースデーを歌った動画。アーティストの意外な一面みたいなので特集されていたような」

これもマリアによる話だが、ジョナサンは若い頃からヤンチャで歌手として活動している間も横柄な態度をしていたとか。いくつもバンドのボーカルを渡り歩いていたが、そのほとんどが彼とバンドメンバーの喧嘩によるもので脱退などを繰り返すほど。

歌の才能は高かったものの、人柄でどうしても彼を危険視する業界だったと言われている。

今日笠さんの言った映像はそんな彼の意外な一面として取り上げられているものだと高く評価されていた。でも結局それは声帯切除後の話だったから惜しむ声も多かったとか。

ここまで述べておきながら僕はその映像を見たことがないんだけど………後で見てみるか。

「間違いなく、当時の家での一幕だと思うわ」

「凄いわね……一流スターからの祝福なんて……」

「ま、今となってしまえば貴重な資料映像の一端になってしまったわね」

「……それでそのジョナサンの件とも絡んでいるの、日本移住は?」

「まぁ概ねそうだね、あとは私が学校に馴染めなかったところもあるけど」

「学校に?」

「うん。私ね、いじめられていたの。さっきも言ったけど私って THE 日本人顔じゃん?それで目立ってしまってねぇ~。幸いお姉ちゃんとダンは何にも起きなかったけど運悪く私だけがターゲットにされちゃってね。もう毎日 Monkeyと揶揄されていたわ」

「ひどい……」

「本当にね、逆にジョージ・シラカバの娘という肩書がバレなかったから軽症だったのかもしれないわ」

「そっか、やっぱりその時のお父さんの判断は正しかったのね」

「それに限った話じゃないわ。ミスター・ジョナサンの件でお父さんが気に病んでしまってね……。日本に移住することを視野に入れ始めた頃に思い切って学校での状況を相談したんだ」

「もしかしてそれが決定打になったの?」

「どうだろう。正直なところ、未だに怖くて聞けていないわ。もしこれが決定打になったらお父さんだけじゃなくて皆にも迷惑をかけたと思ってしまうから……いや、きっと誰一人そう思っていないにしても、責任の一端は私にあると思うわ」

「………日笠さんは優しいんだね」

「さて、どうだろうね」

「それと、人との関係を大事にしている。出会ってすぐにあだ名をつけるのもそれに由来しているのかな?」

「それはそうだね。日本に来てからはそれが当たり前というか、自然とそういう風に立ち回っていく癖がついたのかな」

「そうだったんだね………ねぇ日笠さん。だいたいの事情はわかったけど、最後にいい?」

「うん?」

「音楽ってやっているの? あなたは帰国子女ってのが特徴にあって実際英語も堪能。発音がほぼネイティブだった。あとは前の学校で美術部に所属しているなんて言っていたわね。でもここまで話してあなたの音楽に関しての話が全く出てこないけど」

「本気でやってはいないと言うべきかな。嗜むくらいのことならあるよ。アコギやピアノを程々ね………うん、程々に」

「そうなんだね。今度聴かせてよ。嗜むくらいでも弾けるなら聴きたいな、日笠さんの音を」

「本当にほそやんは………お耳汚しになるかもしれないけど、それでもいいのならね」

「じゃあ、どっかで聴かせてもらおうかな………それと」

 細谷さんは立ち上がったような力のこもった声を発した。視界の内に彼女が立つ姿が見

える。

「あなたの絵も見てみたいなぁ、なんてね」

「しょうがないなぁ、ほそやんは。それももちろんOKだよ」

「フフッ。良かった」

 細谷さんは池の方ではなくどこかを見ているが恐らく日笠さんの方だろう。優しい笑みを浮かべながら見つめていた。


 はぁ、しかし立ち聞きで色々と知ってしまったなぁ………。

 なんだか日笠さんには大変申し訳ないことをしてしまった気分だ。

 さてと、場の雰囲気はまさに大団円状態だ。僕はお暇しようかと抜き足差し足忍び足の要領でコソコソとその場を去った。

 余談だがちなみにバレずに済んだ(今のところ)。

日笠さんが実は音楽関係だったという設定は、実を言うと初登場した頃に「こういうのもありだな?」と思って組み込みました。


最初は英語が喋れるという設定だけが一人歩きしていました。それと同時に細谷さんとの関係もある程度できているところもありました。

それは初登場時にも活かしていましたが、色々と考えて思ったんです。


「カナデなのに音楽無縁????」


もう1人の私からツッコまれました。

細谷さんとの繋がりも変わらずあるならなんか活かしたいなぁと思って、いわゆる器用貧乏キャラにシフトチェンジしました。

これの狙いは細谷さんとの対比として描きたいところがあったので、今では英語喋れて、絵も描けて、音楽も嗜む形に落ち着きました。


盛りすぎかなと思っていたけど、私としては過去に作った日笠 カナデの輪郭が10年越しに見えてきたと思ったのでこの子を大切に表現したいと決心した次第です。

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