49:歪ンダ認知
《4月19日/10:21/食事会場》
おはようございます。佐藤です。
安河内さん&西門さんやら仮屋君やらで色々と激動だったここ数日。なんて大袈装なことではあるが、進展の多い僕からしてみれば明るい話題ばかりで良かったという頃だ。
さてと、今後についてどうしたものかと思ったが、第何弾になるのだろうか、まだ会ったことのない生徒に会ってみようということで動き始めた。
ただ強いて言うならこの間の仮屋君との一戦で僕の素性がバレてしまったみたいだから穿った見方をしなければいいがとは思っている。
ちょっとばかりの不安が僕にはあった。
「さてと、まだ会ってないのは………半数もいるなぁ」
頭の中で思い返すと会っていない人の名前はすぐには出てくる。じゃあ会うとして話題の切り出しは何がベターなのか話題が思いつかないなあ。
どうしたものかと椅子に腰かけ思案に思案。マンガだと雲が2、3個はフワフワ浮いていることだろうよ。
「ねぇ佐藤君」
そうそう、こういう風に僕に気軽に声をかけてくれ―――――ん?
僕のことを呼んでいる女声が聞こえて、その方へ向く。そこには彼女が立っていた。
白い肌にさらっとした栗色の髪を靡かせている、そして自己紹介したときと同じように右手で左手首をきゅっと握っている彼女は綾部 ミカさんだ。
「えっと、綾部さん。僕に用があるのかな?」
「あなた以外、ここに佐藤君はいるのかしら? 違うよね?」
僕は「そうだね」と言うと、綾部さんは「それなら」と僕の座っている席の前に立ち、「ここいい?」と尋ねる。
断る理由もないしむしろ僕の目的である『初めて話す』という好都合な出来事が起きているため何も問題なかった。僕は「いいよ」というと、すぐに座る。
「それで用と言うのは?」
「そうね。最初にあなたに感謝したかったのよ」
「感謝? 僕が君に感謝されるようなことをした覚えはないよ、少なくともこうして話すこと事態初めてだからね」
「えぇ確かにそうね。ごめんなさい、言葉が足りていなかったわ。安河内さんと西門さんの件、最終的に和解という形で締めくくらせたことよ。それについて感謝しているのよ」「あ、あぁ~、そういうことね」
なんとまぁ察しの悪い僕か、それにすら気づけなかった。
「この間、2人は楽しそうに喫茶店でパフェを食べていたわ。きっとあなたとも話した後に実現したんじゃないかしら?」
「ふぅ~ん、そうなんだ………ところで、なんで知っているの?それ初耳なんだけど」
若干嘘をついた。
確かに2人からの詰問と釈明のあと、西門さんからメッセージで「安河内の喜ぶものを教えて」という内容のものが来た。それに対して「彼女は甘いものが好きだよ」と返したがしっかりと行動に移していたんだな。
「たまたま見かけただけよ。街をブラブラ歩いていたらた・ま・た・ま、ね」
綾部さんは偶然性を強調するが、かえってそれは胡散臭いような。そんな野暮ったい言葉は避けた。
「そう………」
少し彼女の論点、話したいことを探っているが全く検討がつかない。
確かに綾部さんは安河内さん・西門さんとの件はもう済んでいることだ。なのにどうしてそこまで深く関わってもいない、いやもしかしたら 2人のわだかまりの原因すら知らないかもしれない彼女がこの件で感謝するのかが見えない。
「佐藤君は色々と気づいていないようだから話すけど、結論から私は思ったのよ」
「何をだろう?」
「この2人をどうにかするのは私しかいない、だけどそれは言葉での和解じゃなく、力でね。私にはそれしか解決する術を知らないから」
「う~ん………今のを聞いたら僕は考え無しに『それは良くない』と一両断全力否定せさるを得ないけど、綾部さんにもきっと事情があるからそういう考えを持っているんだね」
「へぇ~、意外と理解してくれるんだね」
「理解したつもりはないよ。ただあくまで厚かましかったものが薄っぺらになっただけだよ」
「フフッ、良い表現だね」
「あまり深くは聞かないよ、でもかと言ってデリケートに扱っていいものか悩ましい話でもあるからね、特に綾部さんに関しては」
「ん?それはどういう?」
「ここに来る前の君のいた高校……鳥籠[獅童]学園では【クラス全滅】があったじゃないか」
「あぁ~………まぁあれは全国ニュースにもなっているから嫌でも耳にするよね。それにあなたは記憶力もいい。私とその辺りの結びつきとかも容易かったのね」
「まぁね。あぁでも安心しての知っている範囲はニュースで報道されたくらいのこと………あの日、鳥籠学園のあるクラスの生徒全員が死亡したという出来事。教室内でガス爆発が起きたんだったよね。事故とはいえ生徒全員が亡くなったことでその学園をきっかけに鳥籠学園の信用信頼を失墜する一大ニュースだった。このくらいだよ」
「そっか、世間ではそういう形で報せていたんだね…」
少し意味深げな声色と問合いを使っているようだった。だけどあえてツッコまないで僕はニュートラルに見る。
「ん?綾部さん?」
だけど彼女はその学校に通っていた一人だ。他人事ではないはずだ。
「いや、何でもない。ええそうね。幸い私のいたクラスとは違ったところで起きた事件だったわ。だけどそうねぇ、そもそも事件のあったクラスではいじめ問題があったのよ。先生たちもその話は耳にしていたけど、確固たる証拠や証言が見つけられずにいたんだよね。そんな雁字搦めの最中で起きた結末がアレ。当時クラスメイトの間でも『当然の報いだ』と言われていたわね」
「そうだったんだね。随分と詳しいけど、それはそっちの方だと当時はお馴染みの話題だったのかな?」
「えぇもちろん。他クラスを跨いでも有名な話だったわ。加害生徒はそうね………結城さんや日笠さんの明るさと、西門さんの陰湿さを足して2でかけたような人だったよ」
「うわぁ…大層なゲテモノだ………」
西門さんの陰湿さについてはノーコメントだが、陰でコソコソ悪いことをしていたってだけじゃないの?なんて無粋なコメントを今にも投げそうだったがこらえた。
「だけどいい話ではないよね。それが最適解だったとしても、和解なく暴力で解決するしか術を知らない人は、味を占めてそれにしか頼らなくなるものよ」
ここで一旦志向が止まる。
ん? なんで急にその話題に? いや違う。僕はこの件について知っていたけど、敢えて触れていないことがある。
さっきから言っているがこれは事故ということで事が進んでいる。なのにこの件、実際のところは何人かが、いやむしろ大多数だったらしいが、鋭い何かで切られた・刺されたことによる失血死が多いと聞く。
僕はそれを伏せてこの件を敢えて事故と話していたが、どうして彼女の日からそんな力だなんて言葉が出るのだろうか。
あぁもしかしたら、綾部さんも実際のところは知っているのかな、被害生徒の何人かはその他殺ともとれる形で死んでいるということを。
「私もその影響で、今こうなっているのよ。言葉での解決なんて、私からしてみれば絵空事だと思っているわ」
「うん……まぁ、例えば安河内さんと西門さんの件に関しても結果的に解決できたというもので、偶発的に起きたものだからね。ここから学んだことは何もないし、今後はこうしていきたいな、なんて新ビジョンを見つけることはできなかったよ。ちなみに綾部さん、もし今回の件が無くて2人がいがみ合っていたらどうしていたの?」
「殺すわ、何度でも」
「わぁ、即答……」
食い気味に言うものだから呆れに近しい素っ気ない言葉が漏れる。
「本当にそれしか知らないからね………」
だけどどこか諦めの想いも感じ取れる。どこか切ない経験をした哀しい表情をする。もしかしたら知り合いがこの件で亡くなったとかそう言うことなのかな? でもそうすると、さっきの疑問、暴力による解決が正攻法であるという発想にどうして至るのかについての合点がつかないとも感じる。
「いくらここでは不死であって尚且つ法の一部が機能しないとしても、それで解決するかな?」
「無理だと思うわ。支配と隷属、それが行く末になるとも思っている」
「それでもそれにこだわる理由は」
「それしか知らないから」
「そっか………」
とんでもない倫理観というか、歪んだ認知を持っているのだと思った。
だけど今この場で彼女にとって深く刺さる、考えを改めるような鋭い言葉を使おうものなら容赦なく使いたいが、思いつくはずもないし、今の彼女にはきっと響かないのだろう。
かといって今適当にこの話を済ませて後で事件の全容を知るとしてもあまり効果的ではないのかもしれない。
いやはや、言葉を選ぶのが難しい。実は綾部さんは一枚岩では済まないと思ってしまった。
「それ以外の方法を知れたら変わるのかな」
「そうかもしれないし…………そうじゃないかもしれないね。でも、佐藤君の一件がたとえあなたから見て結果論であったとしても私ではできようのなかった解決手段だったわ。あれを見なかったら、私の固定概念は崩れなかったでしょうね」
「なるほど………君の中では少しずつ変化を感じているんだね」
「変化、そうね。私は、力以外の解決手段にとことん裏切られていたから、久しぶりにそういうのを見ると、気が変わるというか、微かでも希望を感じると思うよ」
「そっか、なら結果論でどうこうした僕は偉かった。サンキュー過去の、だね」
「ただのサンキューじゃないわ、フフッ、ベリーサンキューだよ、過去の佐藤君」
そう言って綾部さんは立ち上がった。
「改めてありがとう佐藤君。色々と話して色々と考える機会が出来たわ………まぁこれが私にとっての進展になるかはわからないけどね」
そう言いながら彼女は満足そうに去って行った。
濃い内容の会話というか、言葉選びを慎重にした気がする。少し頭の方から疲労感を感じた。まだ午前中なのに。
しかし【クラス全滅】、あの件は一応も犯罪研究部時代に少しばかり調べたことはある。だがあの時わかったことは、結局のところ綾部さんの前で話せた範囲のこと、表沙汰に公開されている話程度だった。
だけど今こうして調べる幅が広がったことを考えると、もしかしたら僕にとっての新情報が多く得られるのかもしれない。
………だけど、それでいいのだろうか?
僕はここに来て、ついこの間会った人間たちの私情、それは時にセンシティブな話題、に土足で踏み入っている。デリカシーが無いと言われたらそれまで、安河内さんや仮屋君に言われた「マスゴミ」という言葉は少しばかりグサリと来ている。
思えばこれらは松本さんの助手として足る行動と言い訳していたが少し我が強すぎたというか、僕が自由放にあり続けたのかもしれない。決して彼女は制止するなんてことはしなかったが………彼女は僕の立ち回りを実際どう思っていたのだろう。
そうなったら、よし、まずは一旦松本さんに意見を聞いてみよう。
そしたら綾部さんの一件についてどうするかを決めよう。
と言いつつもこれで今日の目標を終わりにするのも勿体ない。
僕は椅子から立ち上がり外を散策することにした。
今回はゼミターミナル頼りなく、松本さんの推測にも頼らず、自力の旅。誰にも出会えなかったらただ外の空気を吸っておしまいの旅。
それだけでも事足りるだろう。
小さな志を胸に僕は寮に出る。
こんなにも新しい展開が始まりそうな予感がしますnoがあと2~3話くらいで6章終えます。
少しおざなりになった佐藤君と誰かが交流してそのキャラを掘り下げるのお時間です。
42人もいるとやはり空気になるキャラもいるなんてあり得るのでできるだけそんなことにならない塩梅で頑張ります。
綾部さんのいた高校で起きた【クラス全滅】については実は序章の方で軽く触れています。これが満を持して登場したという感じですね。持してないか。
安河内さんと西門さんの間を取り持つはずだった彼女はどうして今の感情に至ったのか、関わってきそうですね。どうなんだろうね?




