隙間[16]
《???》
「あのタクシー、きっと伊佐美駅の方へ向かうと思うわ」
少女が指さす黄色タクシーはどこかへ颯爽と去っていった。少なくとも彼女の言う目的地はその場所からかなり離れていて何ら確証のない話でもある。
「へぇ~、それはまた随分と根拠もないことを。何か理由でも?」
「うぅん、なんとなくだよ?」
「ハハッ。そりゃあ面白いね、推測少女~。噂には聞いていたが、本当に当たっていたら……本当の本当に面白いね」
メガネをかけた女性は、少女の突飛な発言に苦笑いを浮かべ、目の前の彼女の才能に驚きを隠せずにいた。
「信じない?」
「う~ん。今から私が全力でタクシーを追いかけることができればねぇ。なかなか難しい話よ。それで本当にその駅に停まったっていうなら信じてもいいさ」
「むぅ~、信じてないでしょ最初から~」
少女は頬を膨らませ、自身の納得できない現状に不満たらたらな感情を示す。
「だけど君はそれで大きな事故を過去に未然に防いだというのだろう? 大したものだわ」
「私にかかれば、このくらい………あっ、今、子どものくせにとか思ったでしょ?」
「あら、そう見えたかしら?」
「うん、そう見えた! 私ももう中学2年生なんだよ?十分大人だと思うんだけどなぁ〜」
あどけなさの残る少女は強気に言う。
「フフッ、私からしてみればまだまだ子供だよ、君は」
「む~、そうやってまた子ども扱いする~」
「子供扱いされるのは嫌かい?」
「せっかく、私にはこのサイノウがあるんだよ? あんなことがあったのに、もっと私を認めてくれるとか、そういうことをしてくれないんだろう。他の子にはできないよ、私みたいなことは」
「承認欲求の塊、だね。アハハツ、その青さが私には本当に眩しく見えるよ」
「よくわからないことを言う。難しい言葉でマウント取らないでよ~」
「そして随分と強気な子だ。うんうん、若いっていいことだ。いやはや、なおのこと、君が欲しくなってきたなぁ」
「ん?」
「そうだねえ。君を大人にさせる方法をお姉さんから一つ提案しようと思うんだ。私は君のその推測を遺憾なく発揮できる場所を1個知っている」
「い、いかんな?………そんなことより、どこなの!? 」
「【加賀美一族】って知ってるかい? いや、ハハッ、知る由もないか〜~」
《2:16/302号室》
アスカはハッと目が覚め、起き上がる。
「今のは夢………? 今は何時?」
そばにあるデジタル時計は2時を過ぎた頃を示していた。
「まだ十分に眠れる時間ね….....しかしまぁ随分と鮮明にあの日のことが………」
「あぁ………そうか、佐藤君とあんな話をしたからかしらね。フフッ、それであの人との出会いが夢に出てくるなんて、ね………」
そうして再びベッドに横になり、目を閉じる。
(いまあの人はどこで何をしてるあだろう………)
そんなことを口に発せず、アスカは再び微睡む。
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《14:32/712号室》
タケルの前から逃げるように去ったアキラは部屋に戻っていた。
「どうして、俺の目が………」
アキラはベッドに横になって、手で右目を覆う。
彼の頭の中に過る映像は、目を使った後のタケルの反応。まるでちっとも何も感じる様子のないそれだった。
なぜ平然としているのか。理屈も理由もこれというものが見当たらない。
明確に、意識して、久しぶりに使ったデブス 5。あの時は確かにそれを食らった人間は心肺停止状態になって病院に搬送された。一命は取り留めたうえ、アキラ自身への関与が全く感じられないからお咎めなしということでことなきを得たものの、自分の持つ力に本当の恐ろしさを感じていたのが、件のデプス 5だった。
その事件以来、あまりの強大さと危険さを思い使うことはなかった。
「クッ……! 久しぶりだから加減を忘れちまッたか」
ギュっと疼く右目を強く抑えるように右手で顔を握る。
彼の目は、デプスが高ければ高いほど負荷がかなりあり、強大さと危険さを踏まえた上で、わざわざ自己犠牲するにあたってそれに足る状況になるときにしか使わないようにしていた。
基本的にいつもは2程度でも十分怯える連中を飽きるほど見てきた。だが何も感じていないタケルに対して怒りと自分の力の弱さに対する悔しさで思わず階段飛びに5を使ってしまった。自分でも信じられないほど、腹が立った。そんな魔が差したような思いでデブス5を使ったが通用する気配はなかった。
「佐藤 タケル………初めての男だ。俺の目が利かない奴は、まして5ですら、最大値の5ですら平気なのは………何故だ?」
アキラの思案は深くなればなるほどかえって謎が生まれる。
「……チッ。考えても埒が明かねェな……はァ~あ」
そう言って起き上がって、机上にある錠剤の入った瓶を取り出し、そこから一錠手に乗せる。そのまま、洗面所に向かい薬を口に入れ、水を含む。
「とりあえずこれを飲んで……」
アキラが飲んだのは市販の鎮痛剤だ。彼の右目を使い過ぎたり、ヘビーなデプス5を使った後に起きる鈍痛を抑えるのに対してマストアイテムだ。そもそも薬を飲まずとも痛みは自然と引いてくるが、服薬すれば多少は治癒も早くなるためできるだけ飲むようにはしている。
薬を飲み、アキラは再び机の方に戻る。薬瓶横には山のように積みあがった文庫本があり、そこから一冊手に取った。
「ま、見えてる左目だけでも使えりゃマシか」
ボソッと溢れた言葉を最後に、アキラは右目を瞑ったまま左目だけで読書を始めた。その本のタイトルは【失格探偵 班目】、作者はアオヰムクロ。
隙間が15!? と思ったらそっかダーティハリーで4つ使ったんだったね……
ということで、松本さんと仮屋君の一幕が今回の隙間です。本当はもう一つくらいあってもいいのかなぁと思ったけど、今のところ余計に掘り過ぎるのもあれなので、比較的短めの内容です。
松本さんの夢の中に出てきた女性は誰なんでしょうね…? そう言えば松本さんのメガネは貰いものだったような……おっと?
それにしても中学生時代の松本さんの話し方、なんだか今とは違いますね……。
仮屋君の目、少しだけ語りましたがそういうことです。見られただけで心臓が止まるほどの威力はとてつもないですね…。某マンガにそういうのがありますけど、アレがモチーフになっているかもしれません。




