隙間[15]―ダーティハリーの弾丸 -水樹 アンズ- (4)訣別編
《16:39/鳥籠[七尾]学園屋上》
ナっちゃんに用がある……? どういうこと? 私には理解が出来なかった。
私は頭の鈍い感じを耐えながら立ち上がると、名護は
「動くな。コイツの頭が弾けるぞ?」
と言い、私もその場から動けない。サクちゃんはまだ倒れたままだがとりあえず今は大丈夫そうだ。
「三浦 サクヤの依頼は………まぁ予防線みたいなもんさ。だけどそれとは別に、お前のことについて依頼が来ているでね、これは俺一人での案件だ」
「私を殺す気? 女子高生の私たちは殺さないって話じゃなかったかしら?」
「それとこれとは別でね。どういうわけかクライアント様はお前の腕を気に入ったらしい。今お前がやっているソレは最近できたシステムだから、多少の脆弱性がある。とはいえ破るのは相当の腕前の人間じゃないと無理らしいようでね」
「へぇ~。私ってそんなに褒められるようなレベルなのね」
「で、そのクライアント様はお前を直々にスカウトしたいみたいだ。是非とも今あるシステムの管理等に腕を貸してほしいってね。報酬は弾むらしいぜ。俺らが一仕事やるときよりもな。羨ましいよなぁ、俺らなんて手を汚して初めてウン千万て言うのにそれを凌ぐだなんてよ~」
嫌味ったらしく言う。
「………それを断れば?」
「殺せと言われた」
「ふぅ~ん………ということは依頼人は、神宮 コヤスかしら?」
「………何?」
「今私がやっていることって、よは三浦さんの目が重大情報の鍵であることを理解した上でそれを解除する作業だ。そんなことをして困るのって誰だろうね。この案件に関わった彼じゃないかしら? そしたらさぞ彼は組織内で冷ややかな目で見られるでしょうね。ご立派なシステムの運用者がたかが女子高生一人に破られ、解除され………ハハハ、形容しがたい屈辱よ」
「テメ―――」
名護が引鉄を引く。もう駄目だと思った次の瞬間。
「そこにいたか!!!!」
怒号が響く。私は振り返るとそこにはココたんがいた。
「ココたん!」
ココたんはすぐに駆ける。
「動くな!この女が―――」
静止しない、躊躇もない、ただ名護に向かって駆ける。いや、これは今なのかもしれない。名護は舌打ちをして銃の向きをココたんの方に向ける。そしてココたんを見る目は私を見ていない。
そうであるならばと私はブレザーのポケットに手をいれ、ピンを抜く。私が手にしているのは、スタングレネード。
《20XX-1年6月12日/鳥籠[七尾]学園屋上》
「アンズ~、これ渡すよ」
ナっちゃんが渡してきたのは筒状の何かだった。
「これは?」
「へぇ?スタングレネードだな?」
腕を組みながらノゾみんはそれをスタングレネードという。確かスタングレネードって、光と音で一時的に無力化できるまぁ人を傷つけない手榴弾みたいなものだよね。
「アキバにそういうのを専門に扱っているミリタリーショップがあってね。てんちょーとは昔のよしみでね、お手頃価格で買えたよ、一応練習用と合わせて2発ね」
「ありがとう」
「襲撃時、切り札に使えってことか」
「だけど下手したら私含め皆にも影響及ぼすんじゃないかな?」
「だったらここで今一発やってみる?」
私は軽い気持ちで一つのピンを抜き、少し遠くにコロンと投げた。
すぐさま炸裂しものすごい光と音を食らう。目を瞑り、耳を塞ぎ、口を開ける。だが衝撃は中々のものだった。その時は先生とか来るんじゃないか、それではまずいととんずらしたけど、効果はてき面であるとすぐに理解できた。
その後、これを使うときは私が何かしらの合図を出してから使おうと決めていた。
《16:42/同
「愛しているよ!みんな!」
私は叫ぶ。これがスタングレネードの合図だ。そして直後にポケットからピンを抜いたスタングレネードを天に向けて投げる。
駆けるココたんは駆けた目を閉じ、耳を塞ぎ、口を開ける。恐らくナっちゃんも同じことをするだろう。私はサクちゃんを覆い被さり、光の影響を減らすことに重点を置いた。
「チッ! 余計なことを!」
名護の言葉と同時に炸裂する。
「クッ!」
………しまった。あの時よりも音も光も強すぎる。しかも私は彼女のことを庇っていたため、特に音に関しては守れなかった。耳の奥からキーンと音が鳴る。何も聞こえない。でも目はちょっとチカチカするけどさほどのことじゃない。
私は立ち上がり、名護の方に目をやる。奴は光に目をやられている。目を庇っている手には銃を持っているままだがこれは隙がある。すぐに奴に向かって駆け出し、掌で銃を弾く。あまり強く握ってなかったから容易く奴の手から銃が零れ落ちる。私は落ちるそれをキャッチし、4発地面に発砲。そして遠くへ滑らせるように投げた。
「■■、■■■■■■!」
名護が何か言っているようだったが口の動きしかわからない。奴はしゃがみ込み、靴から小さい仕込み刃を2本取り出す。二本指で収まる穴に鋭い刃、奴は何を――――
すると1本目をどこかへ投擲する。それはナっちゃんの方。だが害を受けたのは彼女ではなく、彼女のパソコンだった。画面の真ん中を見事に貫き、さっきまでついていた映像がすっかり消え、ひび割れたモニターだった。そして視線を変え――――
「■■■■■■■!■■ ■■■■■■■■■■■■!!!」
何かを言って、名護は私を押しのけ、サクちゃんの方へ。しまった、油断した。私は倒れそうになる。そしてわずかながらに見えるその光景はサクちゃんの目を目掛けて鋭い凶刃が入ろうとしている様子。
「サクちゃ――」
手を伸ばそうにも届かない。どうすれば。その瞬間、一つの膝が名護の顔をえぐる。ココたんだ!
名護はすっかりサクちゃんの方にしか目が言っていなかったからこそ、向こうも油断していた。いや、もしかして……焦っていたか?
そのまま名護は後ろに倒れる。私も遅れて起き上がり、サクちゃんの方へ。
左目の横に切り傷があり、血が溢れている。幸い未遂に終わった………でもこの傷は深すぎる。一生消えないレベルのものだと嫌でもわかるほど痛々しい。
「………ごめん、サクちゃん。守れなかった」
少しずつ聴力も戻ってきたか、自分の声も徐々に聴こえてきた。
「危なかったな、アンズ」
「ありがとうココたん。そっちは大丈夫」
「あぁ、あんまり噂程大した奴らじゃなかったよ」
「そっか……タフだね~……」
「アンズ~」
「ナっちゃん! そっちは…?」
「かたじけない………PCがお釈迦になってしまった。あともう少しだったのに」
「そっか………大丈夫、そこのお兄さんから搾取していいパソコン買いなおしましょ」
「そう、だね~」
言葉がどもるナっちゃんに動揺する。
「…………クソッ!」
名護の声が聞こえる。
「名護。女子高生と舐めてかかったからこうなるんだよ」
「………今日は手を抜いたつもりだったんだがなぁ」
「何?」
「だけど、程度が知れて良かった」
「負け惜しみですか~?」
「次はこっちが勝てると見込んだだけだ!」
そう言うと奴の服の全本位から白い煙が噴き出し、そのまま上へ上へと舞う。煙幕だ。
「しまった!」
すぐに視界は悪くなり、名護の姿は見えなくなった。
「名護……名護!!!」
私は叫ぶ。そして勢いよい足跡が聞こえ、すぐに消える。
しばらくして煙は消えていった。そこに名護の姿はなかった。私たちは彼を取り逃がしてしまったのだ。
虚しくもサイレンの音はもうすぐそこまで響いていた。
この件については何者かの襲撃で片付けられ、空蝉組の名前は一切出なかった。負傷した私、ノゾみん、サクちゃんは直ぐに病院に運ばれ施術を受けた。傷の治りは良かったが心の傷は癒えなかった。
そこからはというと………サクちゃんは転校した。鳥籠学園間を転校する【渡り鳥】だったのか、それとも別の高校に行ったかはわからない。それを知ったら危険だと思ったからだろう。私で色々な人に聞いたが教えてくれなかった。
そしてナっちゃんはというと、別のパソコンで改めて紐づけの解除を試みた。成功したかどうか定かでない。どうしてそんな濁した表現だったのかって?
…………ナっちゃんが死んだから。
調べたら、やはり空蝉組が1枚噛んでいたみたい。頭に銃弾一発撃たれ即死だった。
それに怒ったのがココたんだった。犯人がわかるとすぐに復讐に駆けた。だけどそのココたんも……………すぐに死んだ。恐らく返り討ちにあったのだろう。
こうしてダーティハリーの弾丸は二度と発砲されることはなかった。
《20XX-1年10月2日/16:15/鳥籠[七尾]学園屋上》
あの襲撃事件の暑い日からそれだけ経った頃だ。2人の死を悼む時期もとうに過ぎていたが心は喪服を着た心地のままだ。
「…………」
私は屋上をただ見下ろしていた。それからのことを振り返るともう私の心には深い傷とポッカリと大きな穴が開いている。サクちゃんを守れなかったこと、ナっちゃんとココたんの死。その責任感にすっかり心が折れていた。
そもそも、ダーティハリーの弾丸は誰がやったのかもわからない、悪戯程度のこと。
これを始めると言い出したのが誰だと言われたら誰でもない。各々の想いが集結してできただけのもの、だから私も、ココたんも、ナっちゃんも、ノゾみんも悪くない。寧ろ各々が悪いとも言えるかもしれないけど………それは違うだろうと思っている。
「アンズ」
声を掛けたのはノゾみんだった。あの襲撃事件からすぐに復帰はした。それこそナっちゃんを殺した人間が空蝉組の人間であると結論付けたのは彼女の調査からだった。
そう言えば、サクちゃんが襲撃された時に尾行して見つけた事務所はすぐにもぬけの殻になっていた。すっかり奴らがどこに行ってしまったのだ。
「どうしたの、ノゾみん」
「生気がないね………まぁ、無理もないか」
「貴女は随分と冷静だね……羨ましいよ」
「探偵だから、かな………本当はナツキとココアのお返しをしてやりたいけど」
「やめて」
「そうだよね。君を一人にするのは忍びないからね」
「………ありがとう。それで用があったんじゃないの?」
「あぁそうだったわね………これだ」
ノゾみんは紙切れを一枚を見せる。
「それは?」
「三浦さんの今いる高校の場所」
「サクちゃんの!?」
「あぁ…………千葉にある鳥籠学園だった。【渡り鳥】を使ったのね」
「そっか…………ノゾみんは行ってきたの?」
「えぇ」
「…………どうだった?」
「自分の目で確かめたらどうかしら? ここからそう遠くない場所だし」
「……………私は彼女に合わせる顔が無いよ」
「そうかい」
そう言ってノゾみんは紙切れを私のブレザーのポケットに入れた。
「気が変わったらそこへ行けば会える。これは君の問題だから私からどうこう言うのはやめておくよ」
「………ありがとう、ノゾみん」
「良いってことよ」
そう言って彼女はその場を去る。私一人の屋上は秋風が吹く。あの時は賑やかだったはずなのに、いつの間にこんな静かになったのか。
「…………寂しいな」
ノゾみんのメモが入ったポケットをぎゅっと握りしめていたら、気持ちがぐちゃぐちゃになる。
静寂の切なさに目から涙が溢れ、止まなかった。
私はその後、一度たりともサクちゃんの学校へ行くことはなかった。
ナっちゃんとココたんは殺す予定はありませんでしたが殺しました。にしては雑過ぎないかって?
ちゃ~~~~~~んと意味あるからご安心を。
ということでこれで水樹さんの過去はおしまいです。これを踏まえ、彼女は「これから」どうしていくんでしょうね?
楽しみだね。
ちなみに三浦さんの物語はちゃんとご用意しています。今までの隙間が各々の0話であるとしたら、ここにおける三浦さんの物語は-1話になるのかな?
ということでいずれ語られるのでそれはそれでお楽しみに待っていてください。




