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42人の教室  作者: 夏空 新
第5章

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56/88

34:昨日何があった?(前)

《4月9日/13:26/321号室》

 こんにちは、佐藤です。

 さて今日はというと松本さんとの情報共有会だ。松本さんは前と同じく僕のベッドの上に座りながら、昨日参加した会議………第1回十重奏(デクテット)会議のメモ資料を読んでいる。

 どうやら十重奏と書いてデクテットと読むみたいだ。それに昨日はカタカナ表記したが各々の名前は漢字があってそこにルビが振られて呼ばれているらしい。それについての詳細は、まぁそのうちわかるでしょう。

「ふむ………しかし佐藤君はとんでもないものに巻き込まれたわね」

「おかげさまで本当に場違いだと思ったよ」

「まぁまぁ、これもまた私の協力と思ってさ。君はあくまで記録係みたいなもので発言権はないんだろ? ならそこまで力む必要はないんじゃないか?」

「それもそうだけどね………」

「とりあえず、この個性豊かな10人がいるわけだが………君はこの中で何人本名に目星をつけたんだい?」

「確定と言えるのは2人。暫定は3人かな」

「なるほど、確定と言える方の一人は………鍵屋先生のことかしら? ここにもわざわざメモをしているみたいだし」

「あぁうん。声がね、あの日保健室で聞いたのと全く同じだった。何か音声を加工しているならお手上げだけど、一度だけ②、【前奏曲(プレリュード)】のことを頭に女史と敬称をつけている。これはまぁ彼女の癖なのかわからないが僕や松本さんを少年佐藤や少女松本と言ったようにね」

「確かにあれは変わっていた呼び方だったわね。まるで彼女のアイコンみたいなものだ」

「これだけで決めつけるのもどうかと思うけど、僕は9割方鍵屋先生が【装飾曲(アラベスク)】と思っている」

「まぁ仮置きで彼女としておきましょう。残り1割の可能性も加味してね」

「そうだね」

「あともう1人は誰かしら?」

「あぁうん。これも似たり寄ったりな理由になんだけど①の【狂騒曲(カプリチオ)】だよ」

「このご老人か。確かに発言量も多い分考えやすいわね」

「そうなんだよね。決め手は笑い声なんだよね」

「笑い声………このカッカッカッってやつか」

「そうそう」

「『カッカッカッ』だけで確定まで判断したのかい?」

「いやそれだけじゃないさ。このゼミに多額の投資をするほどの財力の持ち主でかつ時間がある。そして特徴的な笑い声から1人の人物に繋がった…………この人だよ」

 そうやって僕はパソコンのある動画を見せた。そこにはいかにも貫禄のある、白髪に白髭の老人が着物を着てインタビューに答えている映像だ。 

『儂は若者の未来が明るくなるのであれば、この手に余る多額の金を正しく使うように投資するとも! カッカッカ! いやはや金があるのはいいことだが、持て余すとどうしようもなくて、贅沢な悩みじゃ!』

「彼の名前は、岱阿(だいあ) ゼンジロウ。日本四大財閥が1つ、岱阿財閥の()会長だよ」

「名前は知っているわ。だいぶ有名人だね。君のメモと同様、確かにこの映像でも一人称は『儂』だね」

「それとこれは裏付ける強めの証拠なんだけど、さっきも言った通り彼は前会長。会長の座を退いたんだ。今見ている映像も退いた後のインタビューだよ」

「ふぅん。それで?」

「岱阿 ゼンジロウが会長の座を退いたのは11年前の冬頃、しかも突然かつ理由もわからずにだったんだよね」

「11年前の冬………なるほど、佐藤君はこう考えのかしら。会長を辞めたきっかけはこのゼミの始動に関与するためだと」

「うん、そんなところ。実際あの会議で聞いた声もこの映像の人物と同じだったよ」

「そうか。じゃあ会議に参加している方々の声は加工されていないという体で進めた方が良さそうね」

「ボイスレコーダーとかで撮っておけば良かったね。適当に振り返る用に撮りたいって理由つけて先生に言えばさ、許してくれたんじゃないかな」

「そこまで行くとだいぶセキュリティの甘さを感じるけどね。う~ん、でも私としてはそこまで佐藤君の見てきた聞いてきた現場に疑念は1ミリも持っていないから、わざわざそこまでのことはしなくてもいいと思うわ」

「そっか、ありがとう」

「話を戻しましょう。えっと、今のところ君は確定として挙げたのが2人、鍵屋先生と岱阿 ゼンジロウであると。それで暫定が3人いると言っていたわね」と

「あぁうん。これは簡単に挙げてもらうよ。まずは⑨と⑩【即興曲(トッカータ)】【遁奏曲(フーガ)】だね」

「佐藤君が姉妹ではないかと考えている二人ね。君の耳にはこの2人の声質がほぼ似ていたと感じているみたいね。確かに【遁奏曲(フーガ)】は【即興曲(トッカータ)】を『お姉様』と呼んでいるところもあるね。それに改めて2人の名前を並べるとかつての名曲になるしね」

「それともう一つ。自己紹介の時、2人は『強き姉』『猛き妹』と名乗っていた」

「佐藤君はこれに心当たりがあるのかしら?」

「噂には、だけどね」

「聞かせて」

「KC……キラー・チルドレンだよ」

「ほう、そこで再びその名前を聞くとはね」

「前にKCを調べた時にこの名前を見たことがあってね」

「そうなのかい? 探偵である私としてもこの名前は耳馴染みのない肩書に思えたわ」

「そっか、じゃあ言うとこの2人は寝醒月(ねざめづき) イクルと寝醒月 シセルじゃないかなと思っているよ」

「寝醒月……それってKCの中でも最強格に位置する存在だったわね」

「まぁ一応噂によるとってところもあるけどね。イクルとシセルは双子の姉妹でさっき言った肩書を名乗っていたと言われている。まだこれについては深堀りはしていないけど、この肩書は僕の知る限りその2人なんだ。もしかしたら他でさっきの肩書を名乗っている人がいるかもしれないけどね。だから仮として2人がそうじゃないかなって思ったわけ」

「なるほどね。まぁ一旦そのステータスで収めておきましょう。あと1人は誰かしら?」

「実はそれはさっき同様肩書がヒントになっている人なんだけどね」

「他に肩書名乗っていた人はいたかしら……………あぁ、この人かしら?」

 松本さんはメモを見返すと一人の人物を特定したようだ。

「この『英雄』を名乗ったオラトリオさんかしら?」

「そう、【聖譚曲(オラトリオ)】。実はさっきの姉妹に続く話なんだけどね」

「続く話?」

「実はその姉妹って捕まったんだよね。KC史上初かな? まぁ非公式のところから得た非公表の情報だからソースとしての真贋は定かではないけどね」

「ほう。KCも捕まることがあるんだな」

「探偵としての松本さんは、その、KCを追ったこととかあるの?」

「あるわ」

「でも今僕の話したことは」

「初耳よ」

「そっか……」

 職業探偵とは言え万能ではないのか。僕と同じ年だから無理もない話でもあるのか。

「依頼はそれはあったっけどね。どうやっても足がつかないのよね。ちなみに前に君に見せたバッジがあっただろう。アレを持っている人は私含め7人いるわ。皆共通でこの依頼はあったけど誰も捕らえることはできなかったわ。それどころか、悔しいことに今君が話している噂程度の情報しか私たちも手札になかった。探偵としての私だからこそ知っている情報がないんだよね。不思議だわ、こうも上手く隠れる理由が不明なのわね」

「そうなんだ……」

「話が逸れたわね、で、さっき言った寝覚月姉妹の逮捕……というべきなのかしらね? 少なくとも殺戮の舞台から引き摺り下ろしたのだろう。その張本人がそのオラトリオなのかしら?」

「ご察しの通りだよ。『英雄』……呉伊(くれい) フォリア」

「あぁうん。それは聞いたことある名前だ」

「よかった、共通話題だね。じゃあそこまで具体的に説明する必要はないかな?」

「えぇまぁ。強靭な肉体と多彩な武術でいくつもの事件解決に貢献した謎多き男。十二ノ惡(トゥエビル)全滅や獅子心(しししん)家壊滅などの事件が代表的だけど………」

「彼のエピソードは7つあるんだ。もちろん松本さんの挙げたその2つもそれに含まれているよ」

「へぇ、だいぶ我が国への貢献度が高い英雄ね。さぞ愛国心のある方なのでしょうね」

 腕を組みながら松本さんは不服そうな顔で言う。

「何か気になることでも?」

「いえ………まぁそうね、今私の挙げたことって全部暴力での解決じゃない。私はまぁ、言葉で解決できないことは暴力で解決すべきなんて思いもするけど、口より先に手を出して解決する志向が好きじゃないのよ」

「なるほどね。そうなると彼の解決した7つは全て暴力解決だから君にはあまりお気に召さない話だろうね」

「それにその男は私たち探偵ですら届かなかったKC確保に成功しているのだろう? 負けた気分になるじゃない」

「まぁ確かに……そうだね。噂だけど彼が件の姉妹を捕らえたのは偶然みたいな話もあるけどね」

「偶然?」

「呉伊がKCの標的になったんだよ。だけど彼は返り討ちにしてその姉妹を捕まえたみたいだよ」

「なるほどね。探した末ではなく向こうから勝手に尻尾を出したってわけか。ふぅ~ん。私ももっと目立つようなことをすれば彼みたいに捕まえられたのかな」

「う~ん……わからないなぁ。でも少なくとも。十二ノ惡(トゥエビル)がKCの隠れ蓑に貢献していたっていうからそこから狙われたんじゃないかな」

「ほう、そうなんだね。では私ごときでは早々に顔すら見せないのね」

「それだけ彼らも警戒心の塊であるってことだよ」

「お手上げね」

「でも松本さんは………僕らの中にKCがいると疑っているんだよね」

「えぇそうね」

「誰がそれなのかって目星はつけているの?」

「なんとなくは何人かいるわ。だけど確証が無いのよ。だからそうね、助手を頼んどいて申し訳ないけど君には私の中での候補については伏せさせてもらうわ。それで君が候補だった人たちを色眼鏡で見てしまいかねないからね」

「ありがとう。うん、そうだね。疑わしきは罰せず、とまではいかないけど、『かもしれない』で疑いの目を向けるのは僕の仕事じゃないからね」

「理解が早くて助かるわ。……っとまた話が逸れたわね。えっと何の話をしていたのだったかしら」

「昨日の会議に参加した伏せられている10人の正体についてだね」

「そうだったわね。佐藤君の中では10人中2人は確定でこの人だろうと目星をつけ、3人については暫定的にこの人だろうと目星をつけている。一方で残り5人については見当がついていないって感じね」

「そうだね。とはいえその5人が全く情報がないってわけではないよ。【前奏曲(プレリュード)】は新聞記者であるようで、なおかつ鳥籠学園の情報を掌握しているような言い草でもあった」

「君が鍵屋先生と仮定している【装飾曲(アラベスク)】の『手札』という言葉からそう思ったのかしら?」

 指を鳴らして僕の方に指をさす。

「うん、なんとなくだけどね。あとはそうだね、【交響曲(シンフォニア)】の言ったウトウって名前も気になるかな」

「そういえば、この会議は参加者10人の本名が自動的に伏せられるシステムだったわね。だけど佐藤君と天堂先生を除いてこの名前は伏せられなかった。無関係そうに見えはするけどね」

「少なくとも【交響曲(シンフォニア)】はこのウトウって人と【狂騒曲(カプリチオ)】を繋ぐ人物であるし、しかも【狂騒曲(カプリチオ)】が会いたそうに思う人って相当の大物なんじゃないかな?って思うんだよね」

「なるほど『投資』ね」

 再び指を鳴らして僕の方に指をさす。

「うん。このゼミの、プロジェクトの企画者である【鎮魂歌(レクイエム)】にではなく『彼』に投資のことを話そうとしている様子だった。こんな仰々しいゼミ、バックに大物がいてもおかしくはないんじゃないかなって思ったんだよね」

「佐藤君は具体的にはどんなのをイメージしているの、そのバックの大物ってのを」

「例えば………政治家とかかな」

「まぁそうなるか、それ以上のものを考えるのは難しいもんね」

「うん、そうだね」

「まぁこれは想像の範囲のお話。深堀しても間違った方向に進みかねないから保留ね」

「そうだね。一旦そうしよう」

「他はどうなの?」

「う~ん。あとは【夢想曲(トロイメライ)】が前回のゼミ生であるということだ。少なくとも彼は鳥籠学園の卒業生で今は神皇大学に通っているってことくらいかな」

「それだとだいぶ絞れそうな気はするね」

「だけどオフィシャルに鳥籠[終焉]学園卒業って出るのかなって話でもあるんだよね」

「確かにそうね。どうなの? ネットとかでその言葉を調べて何か出たのかしら?」

「調査の片手間で一度見てみたけど、全くそんな名前は出てこなかった」

「そう……じゃあ一旦今年の神皇大学の入学者から鳥籠学園42校すべての卒業生を洗い出してみたら何か見えてくるかもしれないわね」

「あまり期待できる情報は得られないかもしれないけど、試してみるよ」

「人物については以上かな」

「うん。あとは昨日のだけでわかることは何一つなかったね」

「そうか。ならこの話は一旦終いということになるかしらね」

「最後に強いて言うとしたら。今月末に何かが起きるってことくらいかな」

「それはえっと……あぁここのレクイエムが言っている『アレ』だね」

「うん。天堂先生はこれについて4月最終週、具体的には25日に来ると言っている。これが何かはわからないけど身構えないとね」

「えぇそうね」

「ということで、僕の話は以上だね。じゃあ次は松本さんの番か」

「そうね。あまり期待はできないけど多少は話せる話題はあるかな」

 僕の議事録メモを横に置いて、松本さんは僕に何枚かの紙を渡して話し始めた。

十重奏のメンバーに関してこうじゃないかと予想を立てる人物が何人かいますが実際はどうなんでしょうね?


ちなみに佐藤君が挙げた岱阿会長は柔道で黒帯を持っています。爺さんだけどフィジカル強めです。

英雄の呉伊はイタリア人と日本人のハーフなので、苗字に伊がついています。呉は特に意味はないけど………お父さんを広島の呉出身にしてもいいかもしれませんね。

元々オカマ口調の設定は用意していませんでしたが、例えばトロイメライとかと特徴に差異を感じなかったので取ってつけたかのように加えました。彼には彼なりの舞台があるので多少テコ入れしても良いと思ったし、「強者感を出しているカマ口調の男」って私の中でちょっとしたロマンもあるんですよ。

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