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42人の教室  作者: 夏空 新
第4章

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52/88

31:一縷の闇 真相編(前)

《4月5日/10:21/321号室》

 やらかした。それは目が覚めた時に零れてしまった僕の言葉だった。

 改めておはようございます、佐藤です。まずは昨晩の反省から始めよう。

 マリアとの電話の後、僕はパソコンに向かってやったこと、それは今まで調べたことの再調査だ。それは八密のことと、『一縷の闇』のことについてだ。だがそのどちらも僕にとっての大きな発見はなかった。特に『一縷の闇』は調べ方のノウハウを得て、軽く調べた程度だったから多少の新発見を期待したが、それは叶わなかった。特に西門さんの話した藤嶋さん自殺にまつわるアレコレ、強姦事件に始まり、彼女の死、そして西門さんの復讐美談も全部見つけることはできなかった。まるっと綺麗に消されているようにも見えた。本当に『一縷の闇』は暴露された前、そうだな仮称として『一縷の闇・繭』、以下『繭期』とでもして暴露された以降を『一縷の闇・羽』、以下『羽期』としよう。繭期には暴力事件やひったくり事件などがあったと聞いているが全くそんな情報は一つとしてなかった。では羽期はと言えば、一縷の上層部が軒並み退陣することや過去の事件の裁判についての責任問題についてピックされている、また定期的に何者かによる一縷生の闇討ち事件が報道されている。上層部の責任は、いわゆるスパルタ教育を強いたことによる中退率や自殺率の問題についてで、繭期の生徒たちの非行について一切のことは取り上げられていなかった。確か西門さんは藤嶋さんに被害を与えた生徒たちを売るように切り捨てたと言っていたが、その事件を蒸し返す大々的に報道はしていない。羽期に週刊誌が繭期のことを綴った記事があったが、確証のないことばかりだと執筆者も語っている。じゃあなんでこれを刊行したんだよとツッコみたくもなったが一旦スルー。

 それにしてもやはり自分の情報収集能力は高いと驕っていたのかもしれない。そう思っていたが、もう一つの可能性にも気づいた。このノウハウを教えてくれたのは犯罪研究部の先輩、今はどこかの大学に行っているのであろう椿 ルカだ。どこからこのノウハウを得たのか訊いても教えてくれなかった。ただ同時に知っていること全てであると一言も聞いたことはない。何ならあの当時………「タケル君はこの程度で十分だ」そう言った。もしかして教えてないノウハウもあったのでは? そうも思った。一応彼女の連絡先は知っているし、聞いてみるのもアリかも………しれない? どこかで時間を作って電話を掛けてみるか。

 とまぁ、こんなに長ったらしく話したけど昨晩はずっとこの調べものと思案に没入していた。その結果、一瞬寝落ちして、目が覚めてちゃんとベッドに臥したのは確か3時を過ぎた頃だろうか。いつ寝落ちしたかは覚えていないが、少なからず日が変わっていたのは確かだ。いやはやちょっとやり過ぎたね。

 と内省はそこまで。それよりも今日のやることとしてはまず安河内さんに『一縷の闇』について聞くところからだ。とはいえ彼女の部屋、お隣さんだけど直接押し入るよりはどこか場所を借りて、話す方が妥当だろう。だけどもうこんな時間だしなぁ……。理想としては朝食の時に、会場で彼女に直接声を掛けるのが理想だったが、こんな時間だ。朝食なんてとうに終わっている。部屋にいるのだろうか?

 とりあえず身支度を整えて、一旦彼女の部屋に行ってみるか。いなかったらその時はその時だ。そう思い僕は起き上がり、洗顔歯磨き寝癖直しをして、一応制服を着て、部屋にでた。


《10:31/322号室前》

 安河内さんの部屋の前に立つ。とは言え躊躇はする必要がないから、僕はすぐに呼び鈴を押した。

 反応がなかった。

「やっぱ外出しているのかなぁ………」

 じゃあどこにいるんだって話になってしまう。当たり前だが、僕は安河内さんの一日を知っているわけがない。だがヒントを得る方法はいくつもあるはずだ、例えば………僕は振り返り、目線を逸らし302号室に目をやる。松本さんの推測に頼るという選択肢だ。あれは4月2日、まだ会っていない生徒を探す旅に出た時のヒントに彼女の推測に頼った。完全的中でなくとも新しく出会うゼミ生たちに会えたのは事実だ。

 だがこれでいいのだろうか、と躊躇する。それは昨日言った、僕自身で解決したいと啖呵を切って言ったことへの重みだ。松本さんは僕の想いを聞いて、応援してくれた。ならここで彼女に頼るのは格好がつかないと思った。ダサいとも思っている。

 だったら僕なりのネットワークを構築してみるか。人と言う。ここは42人の学生と2人の教師がいる島。繋がりを作るのは一つでも多くあって悪いことではない。そうしよう!


《10:41/322号室前》

 とはいえどうしよう。妙案が思いつかずにここに立ったままだ。ちなみに安河内さんは出てこない。留守は確定だろう。じゃあどこからアプローチをかければ………待てよ?

 僕はあることに気付き移動する。


《同刻/320号室前》

 ここはどうだ? この部屋には水樹さんがいる。委員会としては寮長だし、女の子好き。何かヒントになることでも掴んでいるんじゃないか?

 ええいままよと僕は呼び鈴を押した。

「は~い」

 部屋の中から水樹さんの声が聞こえる。僥倖、これは一歩前進だ。ドアを開けるとラフな格好………にしては着崩しているなぁ、下着も露わにだらしないような部屋着を着てメガネをかけ、髪をヘアバンドでまとめている水樹さんがいた。

「さ、佐藤君!?」

「いやっ!………えっと、とりあえず、う~ん………とりあえず、本題話そうか!」

「………男の子ってこういう時、動揺して『ご、ごめん! 着替え中とは知らずに!』とか言うんじゃないの?」

「いや、開ける前にドアの覗き穴あったよね……?」

「私の部屋に来る客人、大体女の子だもん!」

「あぁ……そうなのね、そうかもね」

「納得したならよし、ほらとりあえず謝罪」

「えぇ……」

「『こんなラフな水樹さんを見てごめんなさい』、セイッ」

「………こんなラフな水樹さんを見てごめんなさい」

「それで良し。全く、男の子ならこの姿に陰茎の1本でも勃つほど興奮して………それだけ魅力無いの私?」

「いやいやいや! そんなことは滅相もございません!!!」

 ごめん水樹さん、案外見慣れているんだ……とマリアの休日の姿を思い馳せながらも口をつむぐ。

「そ、ならいいわ。話を逸らさせたわね。私に何か用かしら?」

「あぁそうだった。えっと、実は安河内さんと話がしたくてね」

「安河内ちゃん? 確かすぐそこの部屋だって前に君は言ったよね? 留守だったのかしら」

「そうなんだよ。で、探すにあたって何か知らないかなぁって聞き込みしていたんだ」

「なるほどねぇ………女を手懐けることならこの水樹にお任せ、その魂胆で私を尋ねたのね」

 そこまで誇張強調はしていないんだけど強ち間違えではないしなぁ………。

「そんなところ」

 取り繕って誤魔化した。

「なるほどなるほど。事情はわかった。だけど申し訳ないわ、佐藤君。彼女と一言も話したことがないんだよねぇ………」

「そっかー……難しいなぁ。うん、わかった。他を当たってみるよ、ありがとう水樹さん」

「待って、佐藤君。もしかしてアレ知らないかな………?」

「アレ? と言いますと?」

「佐藤君、今ゼミターミナル持ってるよね? まぁ持ってなきゃ部屋に入れないか」

「まぁ、うん」

 と言いながら僕はポケットに入れていたゼミターミナルを取り出した。

「それのアプリとかっていじったことある?」

「いや特には、委員会のアプリが入ってそれを見たのと、あとはそのまま紐づけられたSNS、主にRINEやwhisperをいじるくらいとか、あとは電話に使ったとか」

「なるほどね、じゃあまだあのアプリを触っていないんだね」

「何かあったの?」

「とりあえず起動してみ、そして『students』って表示された黄色い四角に大文字のSが書かれたアプリがあると思うんだけど」

「ん~っと………あぁ、これか!」

 僕はそれをタップする。

 画面上には僕を除いたゼミ生41人と天堂先生の名前があった。

「これは…?」

「そこから安河内ちゃんのところをタップして、そしたら大体わかると思う」

「安河内さん……安河内さん……あった」

 僕は彼女の名前をタップすると、地図に丸い点が1つ、あとは電話とメッセージのアイコンがあった。

「え、これって…」

「そう、位置情報。恐らくこのターミナル内にあるGPSから現在地が特定できるのよ」

「へぇ~」

 僕はそう言いながら一旦戻るボタンを押し、試しに水樹さんを表示させた。地図上に丸い点がある。試しにそれをタップすると、ここの寮というかホテルの名前、更には部屋番号までも表示された。どうやらマジっぽいな。

 そう思い改めて僕は件のアプリを操作して安河内さんのページに戻る。さっきと同じ場所にいるようだ。丸い点をタップするとそこは、新都島・青龍区のモールにいることがわかった。

「青龍区………確か商業施設があったとは聞いていたけど」

「ふぅ~ん、安河内ちゃんは青龍区に行ったのね」

「水樹さんって青龍区行ったことある?」

「あぁ~、前にサクちゃんと一緒に探検がてらブラブラしたことはあるわ。商業区って地図には書いてあったからどんなところなのかなぁって気になっちゃってさ」

 なるほど、水樹さんの元には地図があったんだな。じゃあなんで松本さんのところには地図がなかったのだろうか? かえって疑問が膨らむが一旦保留にしよう。

「どんな感じだった?」

「どんなってそうだなぁ………都心のモール程広くはなかったけど充実していたよ」

 確か水樹さんは鳥籠[七尾]学園。東京にある高校だ。その彼女の表現からそれなりの広さはあるのかもしれないと思った。

 とは言えstudents上では青龍区のモール『BDモール』、2階にある『Books&Cafe OCOK(オコック)』にいることがわかった。今から移動してもどれくらいだろう、4月1日に松本さんと一緒に朱雀区に行ったときは15分以内でついたような。少なくとも白虎を経由して行くから多少は時間かかるなぁ。今から行っても入れ違いになりそうだけど大丈夫だろうか

「とりあえず、まぁそこに行ってもいいんじゃないかな? まだ午前中だし、移動したらその地図リアルタイムで更新されて移動状況も可視化されているからどうにかなるし、入れ違いになりそうだったらそこのアプリから連絡入れればいいよ」

「この電話のアイコンって本当に電話できるの?」

「モチのロンよ」

「わかった。ありがとう! 水樹さん、助かったよ!」

「いえいえ、お役に立ててよかったわ」

 そう言って僕はその場を去り、玄武駅を目指すことにした。


《10:51/玄武駅前》

「ふぃ~、着いた着いた」

 速足で向かったため、少し息が上がっていた。前に駅を目指した時はここの土地勘を得るために遠回りに遠回りを繰り返して40分くらいかけて目指したけど今回は直進して到着。そんなに遠くないことは前からわかっていた。11時前に着けて安堵している。

 そうこうしているうちに次のモノレールが、しかも運よく乗ろうとしていた内回りの便がまもなく来ようとしている様子だった。


《11:25/青龍駅》

 全く見たことのない世界。商業区と言うだけのことはあって商店街とモールを足して2でかけたような有りようだった。というかここで商売は成立するのか? ここに住んでいる人は存在しない人、ホログラムで形成されているはずだ。そんな人たちには手に余るんじゃないか? このエリアは。そう思いながら散策をしていた。

 散策とは言っても目指す道は一本。運よく安河内さんはその場から一歩も移動していないようだ。僕はBDモールを目指した。ところでBDって何の略なんだろう? もしかしてブルー・ドラゴンとかなのかな? 青龍だし。もしそうだったら………ダサいなぁ。そう思いながら少し遠くに見える大きなモールに向かって進んだ。


《11:39/BDモール前》

 案外駅から遠くなかったなぁ。ここがBDモールか。よく見ると下に『Blue Dragon』って書いてあった………当たっていたのかぁ。自分の勘の良さがこんなところで活かされるのが少し歯がゆくもモヤモヤするものだと思って島しまった。そんな気持ちになりながらモールに入った。


《11:43/BDモール2階 『Books&Cafe OCOK』前》

 students通り2階に、そして店内地図に沿って僕は例の店の前に来た。そういやOCOIって何の略何だろうと看板下の文字を眺めたら『One Cup,One Knowledge』と。なるほど、「本1冊を知識1つとして考え、それと一緒に1杯のコーヒーをどうぞ」って意図があるのかな? そう思って入り口前でありながら店内を見渡す。本屋と喫茶店が1つの店になっていて、隣同士で並んでいて、相当の広さである。しかも喫茶店単独としても利用はできるようだ。

 というかそもそもこんな大きなモールなのに人が全然いないこともあって、喫茶店側に安河内さんが1人座りながら何かをしているのが目立っていた。

「ホントにいたなぁ」

 僕はそう思いながら、とりあえず喫茶店に入ってカフェモカを1杯頼んだ。

「さぁって、ちょうどいい席はないかなぁ。あっ、あそこにちょうどいい席が、しかもそこにいるのは安河内さんじゃないか~」

「…………………」

 僕のわざとらしい、いや完全にわざとな演技に対して無反応だった。

 ずっと集中して何を読んでいるのかと思ったら、赤本だ。しかも僕らがこのゼミ終了後に行く神皇大学ではなく、一帝(いちてい)大学のだった。確かにこの大学は旧六大学の1つだ。ルーズリーフとペンを手に解いているが、なぜこの大学を………? それはそうとさっきから周りが見えなくなっているくらいの集中力だ。こんなに近くに僕がいるのに全く気付く素振りもしない。

 まぁいっか、とりあえず対面に座って彼女が僕に気付くのを待つとしよう。

「相席失礼しまーす……」

 僕はまあ聞こえる声で言いながら席について、カフェモカを飲み始めた。


《12:11/同場所》

 僕はとっくのとうにカフェモカを飲み干していた。だけど安河内さんはずっと問題を解いていることに集中していた。現在は採点中みたいだ。さっきまで黒のシャープペンシルだったが、今は赤いボールペンに切り替わっている。だけど仕草でわかる。ほとんど丸、正解しているということだ。

 本当に彼女は優秀なんだなぁと思った。

「………ふぅ~。あら、もうこんな時間か…………って、佐藤君!?!?!?」

 腕時計に目をやり現在時刻を確認した直後、僕と目が合った。そして椅子がガガガッと引く音と同時に引いて驚いていた。

「ようやく気付いたか………」

「えっ、えっ、いいいいいつから!?」

「落ち着いて安河内さん。えっと、約30分前かな? ほら」

 僕はそうやって空のコップを指さした。

「それは君が飲んだもの……? 声掛けてよ~」

「いや声かけたんだけど、すごい集中力でスルーされたからここはもう意地でも待つしかないなと思ったんで」

「そっか~。私、どうしても集中すると周りが見えなくなっちゃうんだよねぇ~。本当にこれだけは治らないなぁ」

「まぁほらそれを短所みたいに言っているけど、それだけの集中力で臨むことができるって長所でもあるから前向きにとらえな」

「フォローありがと………ってかなんで佐藤君がここに? 偶然にしては人が少ないし、ほらいつも一緒にいる松本さんがいないようだけど」

「そりゃここに来たのは僕一人よ」

「ということは………私に用があったの?」

「そういうこと」

「よく場所がわかったね、誰にもここに行くなんて言ってなかったけど」

「実は……」

 僕はstudentsを使って場所が分かったと言った。安河内さんは「へぇ~、そんな機能があったんだ~」と納得しながら聞いていた。よかった、なんかストーカーしている気分にもちょっとなっていて申し訳なさを感じていたけど安河内さんはそんなことに気を留めている感じではなさそうだった。

「それを使ってまで私のもとに来たってことは何か話でもあるってことなんだね」

「そんなところ」

「あっ、告白するなら先に言っておくけど『ごめんなさい』。私、向こうに彼氏いるから」

「そう……僕も向こうに彼女いるし……」

「あら、そうだったの。それはまた余計なことを言っちゃったわね」

「いいよいいよ、そこまで気にしているわけじゃないし。それは君だって同じじゃないのかな?」

「佐藤君の言う通り、そうだね。で、どんな話なの」

「話ってのは―――――――」

「待った、佐藤君」

「ん?」

「ごめん、凄い集中していたから気付かなかった………ちょっとお手洗いに行ってもいい?」

「それはどうぞどうぞ、行ってください」

「ホントにごめん! すぐ戻るから!」

 そう言って安河内さんは慌てて立ち上がり、颯爽とお手洗いに向かったのだった。


《12:15/同場所》

「ふぅ~、失礼しました……」

 小走りで元の場所に戻ってきた安河内さん。

「おかえりなさい」

「ごめんね、で何の話?」

「う~ん、まぁ、ここで話してもいいか。君のことと、一縷と二敷について、聞きたいんだよね」

「………私のことと、一縷と二敷?」

「うん」

 そして僕は口を開け、今まで知っていることだけ、それは西門さんから得た情報は敢えて伏せて、話した。

前回、佐藤君は自身の調査能力の低さを感じていましたがそこから前へ進むために椿さんにコンタクトを取ることにしました。さぁ、彼はこのあとどう成長するんでしょうか。


そして何気なく登場した水樹さん。ラフな格好に動揺しない理由は……概ね察せたらいいなと思います。ちゃんとわけがあります。


安河内さんの集中力はとてつもないものであります。これは初期段階で頭の隅にあった設定だったので思い出せて、それを表現できたのが良かったです。これが今後命取りにならないといいですね。

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