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42人の教室  作者: 夏空 新
第4章

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隙間[9]―膿んで倦んで産み落とされた -西門 ミキ- (前編)

《20XX-1年5月/12:26/2-B教室》 

 私がサオリの訃報を聞いたのは昼休みのことだった。

 何気なくお昼ご飯を教室で食べていた時、担任教師の(あずま)先生から急に呼び出されたのがきっかけだった。朝のホームルームでも別にそんな呼ばれるような話は1ミリも聞いていなかったし突然のことで私は戸惑った。食べかけだった弁当に一旦蓋を閉め私は先生についていった。 

「先生……話ってのは?」

「あぁ…職員室で話そう。ここでは話せない」

「ん………ん?」

 理解できなかった。ただ一つ、嫌な予感がした。ただこれが何に対してなのかわからない。そうして私は職員室に入り、奥のパーテーション越しの席に座らされた。

「ちょっと待っててくれ、俺は他の人を呼びに行くから」

「は、はぁ……」

 他の()? 言葉に引っかかっている数分後に来たのは、東先生と学園長と………知らない男性だ。

「あぁ西門君。突然のことですまないね」

 学園長は私にそんな言葉を掛けた。2年になって彼と話したのは初めてだった。

「は、はい……えっと」

 私は見知らぬ男性に目をやる。茶色のスーツにネクタイをキュッと締めている。少し初老気味で所々に白髪が目立つ。少しタレ目だが、隈も目立ち目が死んでいるようにも感じた。

「あぁ、私か。私はこういう者です」

 そう見せたのは警察手帳。名前は………桂木(かつらぎ) マナブさん。警察の人ってこと?

「西門さんだったね。初めまして」

「えっと………警察が私に何の用ですか………?」

 私の一言に大人3人は目配せをした。何か余計なことを言ったのだろうかと思ってしまった。そして学園長が頷いて口を開く。

「今から話すことはしばらく他言無用、ここだけの話にしてほしい」

「えっ? は、はい……わかりました」

「ありがとう………単刀直入に、昨晩、藤嶋 サオリ君が自宅で首を吊って亡くなっているのが発見された」

「………………え?」

 理解するのに数秒かかった。まず言葉そのものから、いや、それだけでも飲み込めなかったかもしれない。その事実を聞いて私の中に映るサオリの笑顔にノイズがかかっているのがわかった。

「さ、サオリが………どういうことで――――」

「すまない。今はここで言えるのはそれだけなんだ」

「でも私、サオ………藤嶋さんとは家が隣同士なんです。普段は2人で登校していますが、今朝、母は私に『今日は体調不良で休むから1人で行ってくれ』と伝言を預かっているんです………どういうことなんですか!?」

「西門さんと藤嶋さんは親同士でも仲が良かったと聞いています。どうやら今回両者の間で密かに結託したらしいです、遅かれ早かれこの事実を知ることになるが、あなたには一旦朝は知らないようにしたみたいです。通報したのは君が登校した直後でした」

 横から桂木は口を挟む。そんなことが………あるというの? でも彼の言っていることは本当だ。私の両親とサオリの両親はそれはもう超が付くほどの仲の良さだった。だからこそ………できたのかというのか、私を騙すことを。

「………ごめんなさい。私、今は理解することに精一杯みたいです………」

「気持ちはわかります。ですが私も一警察官として今回あなたにお話を聞きたく伺いました。その理由についてですが………電話の履歴なんです」

「履歴?」

「はい。実は藤嶋さんの死亡推定時刻から、ほぼ自ら命を絶つ直前に君に連絡を掛けていたことがわかりました」

「……ッ!?」

 私の脳裏には昨晩の電話のことを思い出す。いやでもあれは……

「私と藤嶋さんで電話をすることはそれなりの頻度です………。昨晩も確かに電話はしました。だけどそんな……自殺する直前とは思えない程普通でした」

「普通? 具体的な内容についてはお話しできますか?」

「本当に他愛のないものです。最近流行りの歌手が新曲を出してそれで盛り上がったとか、今度の古文の小テストのこととか………はい、それくらいのことです」

「なるほど……」

 ふと桂木さんを見ると、メモを取っている様子だった。

「確かに西門さんのおっしゃる通りです。頻度については程ほどにしていた様子でしたね。そうですか、内容についてはいつも通りだったんですね」

「………はい。サオリは電話を切った直後に………死んだんですか?」

「現場の状況などから暫定ではありますが、ほぼ確定かと思っています」

「西門、大丈夫か? 顔色が悪いぞ」

 東先生は私のことを気に掛ける。私、今そんな顔色しているんだ。鏡がないからわかんないやと思った。

「大丈夫……です。うん、大丈夫です」

「じゃあ……話を続けますね。最期に電話に電話をされた時、何か違和感とかありませんでしたか? 些細なことでも構いません」

「違和感ですか…」

 そんなことを思い出す余裕なんて全く無いわけじゃ…………。

「待って、そう言えば……」

「何か気付いたことでも?」

「最後の言葉……いつもは『また明日ね』って言って切っていたんです。だけど昨日の時は……『バイバイ』でした」

「『バイバイ』……ですか」

 今思えば、私とサオリで電話するときは決まって時間になるとサオリの方から就寝を理由に話題を打ち切って終わらせる。そして「また明日ね」、これを常套句にしていた。

 だけど昨日は「バイバイ」だった。当時の私はこれに違和感なんてなかった。だから私も無意識に「バイバイ」と返した。

 そんなことが……まさか。ダメ、考えれば考えるほどフラフラしてきた。

「刑事さん、これ以上西門に話すのはやめた方が……」

 東先生が横から入る。

「………そうですね。また何かあったら訊くことがありますがご了承を。今日はありがとうございました……」

 私はいつの間にか下しか見ていなかった。この時の3人の顔がどんな顔していたか思い出せない。

「西門、今日は早退しても構わない。親御さんにはもう連絡している」

「………わかりました」

 そして私はサオリの訃報を聞いて、しかも彼女の最期のSOSにも気づけずにのうのうと半日過ごしていた事実を飲み込めずに帰ることにした。

 その帰路は錘でもあるのではないかと思うほど重かった。歩きなれた平らな道も急勾配な坂に思えた。

 帰宅すると、普段仕事に行っているはずの両親が神妙な顔つきで家にいた。私はその時、どんな気持ちでどんな言葉を2人にぶつけたのか覚えていない。もしかしたら泣き喚いていたかもしれない。もしかしたら隠していたことに怒鳴り散らしていたかもしれない。本当に思い出せずにいた


 だけど事態が動いたのは夕方のことだった。それは宅配便が来た。母が対応したが持ってきた荷物を持て動揺していた。

「ミキ……これ」

 小さな小包が1つ。宛先を見るとサオリだった。

「サオリから!?」

「サオリちゃんが……これミキ宛ての荷物みたい。一旦あなたに渡すわ」

「ありがとう……」

 サオリがわざわざこれを宅配便通して送ったってことは何かしらの意図が、それこそ彼女の死を知る鍵になるのではないかと。

「なぁミキ」

 お父さんは私に声をかける。

「なに?」

「その荷物の中身………見た後でいい、もし話せたら俺たちにも話してくれないか」

「………うん、わかった」

 私はお父さんの気持ちを察した。きっと私と同じで、2人もサオリの死の原因を知りたいのかもしれない。私の両親も私に引けを取らないくらいサオリと仲が良かったのは確かだったから。

 そして私は自室に籠って、箱の中身を開けた。内容は大量の緩衝材に包まれていて、掘り起こすと1本のUSBメモリが入っていた。私の部屋にはパソコンがあったからそれを起動し、差して中身を見ることにした。

 そこにはメモが1つ、『画像』と書かれたフォルダが1つ、そして音声データが1つあった。全部見た。

 それはとても胸糞悪い話だった。彼女は去年の冬頃から鳥籠[一縷]学園の男子生徒から暴力や強姦を受けているという内容だった。メモにはその事実と加害者の生徒の名前などが書き連ねてあった。画像には目立たない箇所に受けた暴力の痕跡があった。腕とか腹とか……普段見ない部位ところに青く腫れた痣があった。そして音声データは………強姦現場の音声だった。全てを知った私は吐きそうになるほどの思いになった。

 それは生々しく凄惨なサオリの過去に対する絶望感とそれに全く気付けなかった私に対しての嫌悪感。

 それから私はお父さんとお母さんにパソコン片手中身を教えた。お母さんは口を押え、お父さんは天を仰いだ。あの2人がこんな顔をするところを見るのは初めてだった。

 

 そして私たちはその日のうちにサオリの家に行った。サオリの両親は焦燥しきっていた。まるで糸の切れた操り人形のように、生気を感じなかった。本当なら私の持っていたサオリの想いを2人にも渡したいところだったがその時は彼女の死を悼むことしかできなかった。


 後日、何日後だっただろう。少しは気持ちも整理がついた頃を見計らって、件のデータを見せた。どうやらちょうど同タイミングでサオリの両親もそのデータがあることに気付いたみたいだ。内容も完全に一致していた。そもそも彼女は遺書なしに自殺した、だからサオリの両親はなぜ娘が死んだのか理解できなかったみたいだ。部屋を整理した時に偶然見つけたらしい。

 私の両親と彼女の両親、そして私は結託してこれを学園に出した。だけど現実は酷だった。いや、私が知らな過ぎたこともあった。そう、加害者が一縷の人間だったことだ。

 信用していた東先生も、学園長も、ましてや桂木さんも途中から聞かなかったことにし始めた。サオリの両親は諦めず、色々な弁護士にあたってみたがどこも門前払いで聞く耳を持ってくれなかった。

 恐らく全てを託したのだろうサオリの想いは儚くも散ってしまった。


《5月26日/14:21/セレモニーホール屋上》

 サオリの葬式は早々に行われたが、参列したのは彼女の親戚と私と私の両親、あとは担任だった東と学園長。でも東や学園長は体裁として来ているだけなんだと思った。すごく気まずそうな顔をしていた。これは後日談だが、東は「体調不良」を理由にその姿を見ることはなかった。

 私は葬式が一通り落ち着いた頃、セレモニーホールの屋上に1人いた。この日は雨だった。

「ああああああああああああッ!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 叫ぶ。泣く。それらは全部雨が流してくれる。

 それはサオリを失った辛さではなく、自身の無力さに対してだ。

 私が強かったら、サオリはこんな目に遭わなかった。こんな結末にならなかったはずだ。

「んっ!!!」

 鉄製の柵を強く叩く。まるでその柵が私のように思えたからだ。だけど手は痺れる。痛い。

 こんな柵にさえ私は負けるんだ。次第に遣る瀬無くなった。

 次第に絶望の沼に沈んでいくのがわかってきた。

「私は本当に無力だね………ごめんね、サオリ。私が弱くて、私がもっと強かったら……あぁ、そんなこと言っても救いなんて――――」

「お嬢さん、お困りかい?」

 私はバッと声の方を振り返るとそこには灰色のスーツ、灰色のワイシャツ、灰色のネクタイ、灰色のハットを被り、サングラスをした長身で40代ほどの男が灰色の傘を差して立っていた。こんな人、葬式にいなかった。もしかしてセレモニーホールの関係者? それにしては見た目が少し厳ついような気がする。

「だ、誰?」

「おっと、警戒しないでくれ。おっちゃんはお前さんを助けるヒトさ?」

 そう言って、私に傘を差しだす。

「雨にあたってばっかりだと風邪を引いてしまうぜ」

「私の質問に答えて! 貴方は誰なの!?」

「さっきも言ったじゃないか、お前さんを助けるためのヒトだってさ。そうだな、この場合、名乗っておいた方が礼儀正しいのか。おっちゃんは竹田(たけだ) クラウド」

「ここの会場のスタッフとかではなさそうね……」

「ご明察」

「私に何の用なの?」

「そうだなぁ。困っている人を見かけたから御助力でもと思ってだね」

「助力? 無理よ」

「ほう? 無理かい」

「私は全てを知った。勝てない相手は必ず存在する、しかもそれは身近に………」

「勝てないねぇ、それはどういう意味かい?」

「物理的にも権力的にも、どっちにおいてもね」

「そりゃあ残念な話だ、同情するぜ…………だがおっちゃんがそれを解決できると言ったら」

「何? 貴方は弁護士か何かなの?」

「弁護士? そりゃあ知らないが、少なくとも違ぇよ」

「は?」

「俺は『願いを叶える存在』さ」

「………はぁ? 何言ってんの?」

 理解できなかった。私は急に創作の世界にでも連れていかれたかと思った。

「ま、信じないよなぁ。いつもこうやってるのに誰も信じてくれねぇんだよなぁ、どいつもこいつも疑ってかかる」

それは当然でしょと言いたくなった。

「願い事を叶えるって、貴方はランプの魔人か何かなの?」

「あぁそれよく言われるなぁ。何なんだよそれ」

「はぁ………そんなことどうでもいいわ、もう!適当なこと言って邪魔しないでくれる!?」

 私は目の前の男の傘を手で強く払う。傘はそのまま地面に落ちた。

「あ~ぁ。こりゃあ随分歓迎されないなぁ。おっちゃんはお前さんに力の1つや2つあげれるのになぁ」

「力…?」

「おうよ。お前さんは今こう考えている、言葉や物で解決できないなら力で解決するしか術がないと、その力ってのは………」

 男は指で下を示しながら続けた。

「下で箱ン中に眠っている嬢ちゃんが受けてきた"暴力"」

「それは………」

 的を射ていた。いや待って、なんでこの人はそれを? 私はこの人に会うのは無論初めてだしその気持ちを持ったとしても誰にも言ったことのない話。どうして彼がそれを?

「当たりみたいだなぁ。おっちゃんはそれをお前さんに与えることができる。この指1本でね」

「それは本当なの……?」

「おうよ。こういう時なんて言うんだっけ、『男に二言はない』だったか? それさ」

「………代償とかあるんじゃない?」

 そんな美味しい話があるわけない。何か怪しい商売かもしれない、そんなことにふと気づき改めて疑ってしまう私だった。

「代償? あぁそういう。おっちゃんは金に興味がない。強いて言うなら、お前さんの願いや想いだ」

「は?」

 目に見えないものを代償に指先1つで私の願いを叶える………そんな美味しいことが?

「お前さんには凄い強い想いがある。おっちゃんはそれを感じ取って現れたのさ。だがその想いはいずれ消えるかもしれねぇからな。だったら消さないためにおっちゃんが助けるのさ、お前さんをな。でここまで話して力が欲しいと思わないか?」

 それは……確かに彼の言う通りかもしれない。胡散臭い怪しい見た目の男だ、だが的を射ている。それに私のサオリに対する想いは確かにどうしようもない行く宛のないものになりそうになっている。諦めかけているが故、消えてしまってもおかしくない。

 最早私の今は藁をも縋る思いなのかもしれない。

だったらーーー

「力……欲しい。欲しいよ! 誰にも負けない、誰をも潰す力を! 」

「フッ………その願い、叶えてやろう! 西門 ミキ!」

 そう言って男は私の額に指を当てる。その瞬間私の脳に流れたのは――――――

西門さん視点の物語。彼女の一縷への悔恨の深さが滲み出る内容でした。

そしてこれは彼女の復讐劇の序章に過ぎないことをお忘れなく。

ちなみに彼女が途中から担任教師や警察の人のことを呼び捨てにしたのはわざとです。これは裏切られたことに対しての怒り・侮蔑などの感情から自然とそう呼ぶようになってしまったことを表しています。


突然現れた竹田 クラウド。彼は何者か。

ちなみに名前のモチーフは「雲」をベースにしています。竹田は雲海で有名な竹田城跡から取っています。


実を言うと42人西門さん全員にこれレベルの内容の過去話があります。

彼彼女は何かしらを背負ってこの島に集結しています。じゃあ何があったのか、それは随時随時紐解かれていくのではないでしょうか。

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