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42人の教室  作者: 夏空 新
第4章

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47/88

28:1と2の(前)

《16:59/寮付近の街路樹前》

「君は確か、佐藤くんだったね」

「こうして会うのは初めてだね、西門さん」

「ん? 私何かやったかしら?」

 こいつマジか、え、件のことお忘れ? と思ってしまった。

「あぁいや……そうだな、えっと……安河内さんの件でね」

「それって委員会決めの時………じゃない、さては、あぁ、そういう」

 ここで西門さんの顔が一気に曇りだした。

「そういうこと」

「そっか、なら―――――」

 その瞬間は一瞬、僕と彼女の間の距離は5歩程度のわずか、そうであったはずなのにまばたきすればもう僕の間合いに入っている。そして彼女の構えは”殴”。右の拳は引鉄を引く様子だった。

「嘘っ!?」

 僕は咄嗟の反応で右に体ごとスライドする。西門さんの右ストレートは空を切る。だが彼女は僕が避けたことに一切の動揺を見せず、すぐに次の攻撃にシフトチェンジしていた。すぐさま空振った拳を引いて、左足に体重をかけ、右足で蹴ろうとした。回転して鋭い脚は僕の体を目掛け切り込もうとしていた。

 スライドして避けたことが精一杯で次の防御は無理だった。このまま受けるか、いや、どうすれば、このままだと僕は―――


 タケルはミキの蹴りに対し、左手で弾き返す。弾かれた勢いで彼女の回転は逆になる。だか大袈裟に態勢を崩すことはなく、右足を改め地に着ける。ミキの動揺は隠しきれなかった。

 最初の右ストレートはブラフのつもりだった。タケルがどう避けるかは多少のパターンを想定して次の一手を考えていた。体ごと避けるも彼女の頭には入っていた。ここから前後に無理やり倒れるとしても、さらに右に避けようとも第三の攻撃に繋げることは可能だった。だがタケルは避けないでほぼ無理矢理にスライドして崩れかけた態勢から左手一本でその蹴りを返した。これはアスカに対してやった蹴りとニアイコールの威力をイメージしての一蹴。アスカにはなぜか止められ、タケルにはなぜか弾かれる。ミキにとっての決定打は意味を為さないのかとも思った。

 そんなことに思考を巡らしていると、いつの間にかタケルの体勢は安定して、立っている。そしてミキを見る。タケルの目を見てミキの背筋に鋭い冷気が駆る。思わず目を見開く。そしてこれは恐らく人間としての本能、「このまま逃げないと私は死ぬ」と気づく。だが時すでに遅し、タケルは地を蹴り、腕でミキの首を抑え込むように前面に前面にと押す。

 ミキに逃げる隙は一切なかった。油断していたとかそういう言い訳が通用しない勢いだ。

「グッ……ウッ」

 抵抗しようにも微動だにできない。目の前にいるのは背丈が同じくらいの同級生。恐らくずぶの素人のはず、なのに彼女の持つ経験をどれだけ駆使しても勝てない。タケルのパワーはなぜかどういうわけか格上になっていた。

(息、が…………)

 ミキは窒息寸前。

だが、タケルのギラついた瞳は少しずつまどろみのなかに沈んでいく。


「………………ハッ!? アレ、ぼ、僕、は?」

 途中記憶が抜けている。確か僕は西門さんに蹴られかけて、それで………あれ、どこも痛くない? いや待って、目線の先には

「に、西門さん!?」

 僕はどうして西門さんを()()()()()()()んだ?

「グッ……カハッ」

 よく見たら西門さんは窒息寸前だった。ヤバいと思った僕は咄嗟に押さえ込んでいた腕を引く。西門さんは木に寄り掛かったままズルズルと座り込んでしまう。

「ハァ……ハァ……なんでどいつもこいつも……私の経験が……()()しないの?」

「西門さん……」

「そんな憐れんだ目で見ないで! 貴方もあの人たちみたいに私を見下しているんでしょ!?」

「とりあえずさ…」

 僕はしゃがみこんで彼女の目線に合うようにした。

「今何が起こったのか途中僕も覚えていないんだ。でもこうして危険な目に遭わせたのはどう見ても僕のせいみたいだ。それについては謝らせて、ごめんなさい」

「はぁ?」

「それに、僕は君を見下すようなことはしない」

「貴方に何がわかるの!? 私が言っているのは―――」

「一縷と二敷の因縁でしょ?」

「ッ!?」

 西門さんはパッと目を開く。

「そりゃ僕だってわかってるさ。このゼミに来る前からね」

 記憶を巡らせる。それはゼミの案内の生徒リストだ。他の生徒がどの鳥籠学園から来ているかについては明記されていた。

 それに一縷と二敷の因縁については犯罪研究部にいた時に収集していた話題でもあった。それはもう気分悪いという言葉がピッタリだろう。

「君は鳥籠[二敷]学園の生徒だ。そして『一縷の闇』の被害者で…………それの復讐者じゃないかな?」

「そ、それは………」

 西門さんはここで初めて目を逸らす。動揺だ。僕にはそう見えた。ここは僕の知識を彼女にぶつける番だろう。そう思い、僕は彼女の前で知っている事実だけを話すことにした。

 僕の持つ知恵は鳥籠[一縷]学園はどうしようもない程のスパルタ教育で進学実績に名を挙げていた。だが同時に中退者や自殺者、挙句の果てには犯罪者もいたとか。その犯罪の対象になったのが近場だった鳥籠[二敷]学園。国立大学進学率No.1が一縷なのに対し、二敷は私立大学進学率No.1だった。この事実に対し一縷の生徒たちが二敷の生徒を見下し、ストレスの捌け口にしていた。僕として気分悪いと思ったのは一縷側がそれを容認・許容・揉み消し何もかもをして外面を守ることを徹底していた。

「一縷がやったことは、うん、とても気分の悪い話だ」

「気分の悪い、ね………貴方みたいな人はその程度の言葉で片付けられるのよ」

「じゃあ君はそれよりも強い言葉を使うの?」

「…………」

 しばらく黙りこくってしまった。これは僕の話す独壇場でいいのだろうか、そう思いながら僕は話すことを選んだ。

「僕らが2年だった去年、全てが動き全てが変わった」

 それはある日の全国模試での出来事だった。その全国模試は常に一縷の誰かが1位を取ることが常識となっていた。取らないことが非常識だった。だけどある夏に、一縷ではない別の学校のある男子生徒が全国模試で1位を取り、2位が一縷だったことがあった。

 これが一縷にとって衝撃のことで、緊急学年集会が開かれた。だがこの集会は事実を言うとかそういうやわなものじゃなかった。ただの教師陣から生徒に向けた罵詈雑言の嵐だった。恐らく安河内さんもその場に居合わせたんじゃないかな? それに耐えかねていたある生徒が意を決してこの現場を録音し、知り合いで某大手新聞記者の人に渡した。その記者は一縷の現状に驚きながらそれを報道した。

 報道した結果、『一縷の闇』は世間に晒された。無論一縷には驟雨のように非難轟々、バッシングの嵐だった。当時の教師陣はほとんどが教職を追われる身となった。また校長などの上層部も一斉に懲戒。ただでさえ優秀と名高い一縷も新たな体制を敷くことを強いられ、生徒も教師も戸惑う数か月を過ごすことになった。

「当然の報いよ………でも、それだと物足りなかったの」

「物足りなかった…………それはもしかして、バッシングを受けたのが()()だけだったことってことかな?」

「………えぇ」

 ようやく会話する気になったか。僕はそう思い、一度事実陳列をやめてみた。

「さっきも僕は言ったけど、一縷の生徒はストレスの捌け口に二敷の生徒に当たっていた。ただ………僕なりに調査しても具体的に何をしたのかわからなかった」

「そう……本当に揉み消しを徹底していたんだね。さっきから貴方の口から出る話は確かにある程度調べていることは伝わったわ。でも肝心のところが拾い切れていないけどね」

「何があったかって……話せる?」

 もしかしたら彼女にとって地雷かもしれない。でも踏み込むなら今かもしれないと思わず聞いてしまった。

「私はそれまで運良く避けて過ごせた。だけど聞くに、暴力、カツアゲ、ひったくり……………強姦」

「えぇ!?」

 それはもう生々しい話だ。僕らと同じ年だった生徒たちはたかが勉強や教師のストレスでそんな非行に走っていたのか。いや、全く知らない話だ。

 西門さんは徐に、自分のブレザーのポケットに手を入れ何かを探している様子だった。そして手から取り出したものをパッと僕に向けて投げた。僕はおどおどしながらもそれを上手に受け取った。

 僕の手の中には丸い金色のブローチがあった。

「これは?」

「右の方にボタンがあるでしょ、それを押してみて」

 手触りでブローチを触ると確かにそれがあり、僕は押した。するとブローチは貝のように開いた。

 中には小さな写真が1枚、これはいわゆるロケットブローチというものだろう。それで写真の内容は西門さんともう1人、恐らく同級生だろう彼女と同じブレザーを着た少女の写真が写っていた。

 その少女は西門さんより若干背が高く、それはもう西門さんよりも美人だった。

「彼女は藤嶋(ふじしま) サオリ…………私の、唯一無二の親友よ」

「この藤嶋さんとの馴れ初めは?」

「幼稚園の時からずっと、近所同士で仲良かったのよ」

「だいぶ長い付き合いだね……………まさか彼女は」

 ブローチの蓋を閉じて、西門さんに返した時、僕は気付いてしまった。わざわざこのタイミングでこの話をするってことは、彼女はもしかして、と。

「彼女も『一縷の闇』の被害者だったってこと?」

「えぇ………自殺したわ」

「自さっ…!?」

 言葉が詰まる。僕が今までに知ってきた『一縷の闇』はどうやら氷山の一角、むしろ優しいところしか知らなかったみたいだ。

「1年前の春に、自室で首を吊って………」

「そうだったんだ……」

 時系列を整理すると、『一縷の闇』が世間に暴かれたのは1年前の夏。ということはそれより前に亡くなったってことか……。しかもわずかの隙間だったんだな。全く知らなかった。一縷の闇で二敷の生徒が被害を受けたことはあったがそこから自殺者が出ていたなんて。もしかしたら件の藤嶋 サオリさんのように自ら命を絶った人がいたかもしれない、そうも感じとれてしまった。

「んっ!!」

 突然、西門さんは右手で強く地面を殴った。その拳は突き刺すように上がることはなかった。表情を見れば、唇を強く嚙み締め、悔しい顔をしている。

「私が………私がっ! 最後に会話をした相手なのよ、サオリと」

「えっ…」

「今でも忘れられない。火曜日の夜、サオリは私に電話をしてきたの。これについては珍しい話でもなかったから、いつものように電話に出た。それはもう他愛もない何気ない世間話ばかり、そうだった……だけどあの日は違った」

「違った?」

「最後にサオリはこう言った。『バイバイ』って」

「……………『また明日』じゃなかったんだね」

「察しがいいね。そうだったのよ。私はその当時気づけなかった、全部『今思えば』の話よ。翌日サオリは学校に来なかった。訃報はその日の昼休みに知らされた」

「それはその………例えば携帯の通話履歴見て西門さんが最後に電話を掛けた人だったから告げられたとか?」

「ドンピシャ。それを理由にどういう話をしたのかとか聴取された。それで初めて知ったのよ、サオリは電話を切った数分後に自ら命を絶ったってことをね」

「そうだったんだね………それは、うん、ごめん上手く言葉で表せない。こればかりは当事者である西門さんしか持てない気持ちだね」

「意外と気が利くのね、委員会決めの時はあんな暴言吐きまくったのに」

「それは掘り下げて欲しくないなぁ………ところでなんだけど、西門さんは藤嶋さんの自殺が『一縷の闇』と関係しているってどこで知ったの」

「あの子、変な仕掛けをしたのよ」

「変な仕掛け?」

「そうだね……彼女の訃報を聞いたその日の夕方、私宛の荷物があったの。もちろん心当たりはなかった。だけど宛先を見て震えた………サオリだったの」

「えっと……それはつまり、死人から荷物が来たって、西門さんはそう思ったんだね」

「えぇ。いつどうやってやったのかはわからないけど少なくともサオリが直接投函した訳ではなかった。印があったからね」

「それでその中身は?」

「USBメモリが1本、内容はメモと写真数枚と音声ファイルが1件。メモはさっきから貴方の言う『一縷の闇』、サオリはその被害者であるという告発文、加害者の名前もあったわ。写真は暴行された痣とか加害者の顔。音声ファイルは…………」

「待って、その話をこれ以上することで君自身の気分は悪くならない? 僕はそれを知る権利はある?」

「貴方の知識は所詮ネットの海に流れていたもの。それだけを知って『気分悪い』の一言で片づけられる貴方には腹が立つ。何も知らないよりもかえってね。だから話すよ」

「わかった………それで君が済むのであれば」

「話を戻すわね、音声ファイルだけどそれは………サオリが犯されている当時の音声データだった」

「それはつまり……性暴力」

「録音をするってことはこれが最初じゃないんだとすぐにわかったわ。何度も被害を受けたから意を決して録音するために自ら………」

「体を張って、体当たりな対応をしたんだね。でもそれを君に託した意図は………」

「こればかりは死んだ彼女に聞きたいわ。そうだね、憶測を好き勝手話していいのなら、怖かったんじゃないのかな?」

「怖かった………それは自分がこの証拠を告発したら加害者から今度はどんなことをされるのか、更に酷い仕打ちを受けるのではないかってこと?」

「えぇ。それと純粋にサオリの中で限界だったのかもしれないね………。音声が録られた日付は自殺する1週間前だったからね」

「藤嶋さんの両親にそれらの証拠を託さなかったんだ」

「いや、家族のもとにも同じものを用意していたみたい。多分、この痛みとかを代弁する信用できる人を増やしたくて私にもこれを託したんじゃないかな」

「そっか………それで西門さんや藤嶋さんの家族はどうしたの?」

「私と私の両親とサオリの両親で結託して学校にこれを出したわ」

「なるほど…………でもダメだったんだね」

「そう、一縷の生徒が加害者だとそのデータには明記されていた。それを見て教師陣はみんな顔色を変えて、これを証拠にするには不十分だと聞く耳を持たなかった」

「それが一縷の闇………加害者が一縷の生徒の場合、黙認しなければならない。これを破れば教職を追われる」

「そう。サオリの両親は弁護士に頼ろうとしたけど、どの弁護士も門前払いしたの」

「取り付く島もない状況になったんだね………西門さんは『一縷の闇』を知っていたの?」

「えぇ、一縷の生徒が二敷の生徒を攻撃していたことは知っていたわ。ただ、まさかこれが伝統だと知る由もなかった。だから私はただ運良くそれから逃げ切れていたから大したものではないと思っていた」

「それで西門さんはどう動いたの?」

「目には目を歯には歯を…………相応の対価として私は暴力で解決する道を選んだ。そしたら色々とあって私は強くなった。力を得た私は片っ端から手を出すことにした」

 その色々を知りたいんだけどなぁ……そう思いながら僕は続きを聞くことにした。

ここから少しだけ西門さんにフォーカスを当てた物語が始まります。

ほんの少しですけどね


一縷はとにかくクソなところであるということは過去の隙間で語られていましたがそれを明確化した内容ですね。じゃあ安河内さんはどうなんでしょうね? クズなんだろうか?


ところでこの物語は佐藤君の一人称視点で描かれていますが、一部三人称視点で描かれている場面がありました。

このシーン、佐藤君の行為は全て無意識下でのことです。さぁ、どうして彼はあんなことができたのだろうか………疑問ですね。

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