27:運命の女
《16:29/10階共有スペース》
「書風君はどうしてここに来たの?」
「いや~、俺は迷える子猫ちゃんを探しにこう」
「その子猫ちゃんならさっきエレベーターに乗っていたよ?」
「彼女か……」
「あれ?」
書風君がすごい渋い顔をしているのがよくわかった。恐らく桐山さんの顔を浮かべた上での表情なのかなと思ってしまった。
「まぁ、ほら。子猫ちゃんは子猫ちゃんでもあれはアマゾン奥地にいるような………いや、檻にいるタイプの子猫ちゃんだからさ」
「桐山さんそんなにキツか――――」
「はい!」
「食い気味且つ即答かー。その様子だと軽く話したんだね」
「まぁね。俺はほら、顔がいいだろう?」
「う、うん」
「そこは素直に頷いてほしいなぁ。ま、それは置いといて。あの女王様気質の彼女を高速で攻略したらこの先残り20人攻略も楽勝になりそうな気がしたんだよね」
「あぁ~~~~うん、うん?」
僕がこの時思ったことは松本さん。あの人、恋愛とかそういうのに興味あるのかな…?
「どうしたんだい佐藤君、少し間があったように思ったが?」
「ちょっとね、まぁそんなことよりも続き聞かせてよ」
「おっとそうだった。でだな、彼女を落とそうとしたんが」
「玉砕したの?」
「玉砕とは大袈裟だな、彼女は俺にこう言った。『従者なら構わない。いや、私が上であれば構わないか』とね」
「彼女らしい、と言い切ればいいのかなこの場合」
「まぁ手ごわい相手だが、そのうち懐柔してやるさ。俺、顔も性格もいいからな」
どういう自信、いや過信なんだと思ってしまった。
「ところで書風君さ、君の両親ってどんなことしているの?」
「どうしたんだい急に」
「いや一応ね」
「ん?会話の流れが妙だな………意図を感じる。佐藤君、何かいいヒントでも持ってるんじゃないか、桐山ちゃんを落とす何かを!?」
察しのいい男書風君はグイグイと攻めてくる。
「わわわ、落ち着いて書風君。いや、そんなヒントなんてものじゃないよ。むしろ逆」
「逆?」
「いやね、僕は彼女の地雷を一個知っているだけだから」
「教えてください佐藤君!いや、佐藤様!!!」
「………そんな彼女に熱心にならなくても良くない?」
「本音を言うと、顔は良い、性格は良い、そんな俺でも女性の一人や二人をはべりにはべり倒した」
「はぁ…」
「だけどな、これだけは初めてなんだ。桐山ちゃんのことを難攻不落と感じた瞬間は」
「だったら他の女子から手を出していけばいいのでは…?」
「佐藤君の言う通りだ。でもな、俺のプライドがそうするなと囁いているんだ」
「プライドって語りかけるんだ………」
「君はプライドを持っていないのか?」
「あるにしても………僕に囁きかけるなんてことはしないなぁ」
「駄目だね佐藤君。プライドは飼いならすものさ、ほら犬とかと一緒だよ」
「ごめん、犬は飼ったことがなくて……」
「物の例えだよ。う~ん、俺の考えをわかってくれないなぁ…………いや待てよ」
「どうしたの?」
書風君は何かに気付いたようだ。
「佐藤君、君は彼女持ちか?」
「あぁうん」
「だからか~~~~~~~~~~~」
書風君は天を仰いで叫んだ。
「なんだろう、鏡で俺を見てる気分だったからもしやと思ったらそういうことだったかぁ~」
「それは何、僕と君が似ていると?」
「そのつもりだけど」
「僕は一途なんだけどなぁ………」
「俺だって恋すりゃ一途よ」
「はべりにはべり倒していて?」
「厳選しているんだよ、一途にしたい女をよ」
「蛮族かよ………」
「真なる運命の女と呼んでくれたまえ」
「君会話する気ある?」
「あるとも、まぁ君の彼女さんの事情等は置いといて。だいぶ本題に逸れたな。桐山ちゃんの地雷を教えてくれないか?」
「あぁ、そうだったね」
色々と話をしていてすっかり忘れていた。桐山さんの地雷、『政治家』。彼の家族がそうでないか or 彼がそれを志願していないか、探りを入れてみるか。
「とりあえずさっきの僕の質問に答えてくれる? それで君が地雷を踏むかどうか確認する」
「あぁ、俺の両親のことだっけ? なんだか回りくどい、直接地雷内容を言ってもいいんじゃないか?」
「探ってみるだけさ。じゃあクエスチョン1、改めてになるけど君の両親の職業について」
「父ヒデトは大学教授、明治時代の文学について研究している。母サユリはカウンセラーとして個人開業してカウンセリング活動をしている」
「うんうん」
別に名前までは聴いていないんだけどなぁとは敢えて言わず頷く。なるほど、書風君の名前はユリトだったが父親と母親の名前を足した感じかと今この場では不要である情報を得た。
「じゃあクエスチョン2。君の将来の夢について」
「え? そうだなぁ……公務員か書店の店員」
「えっ!?」
凄い意外な回答にびっくりしてしまった。堅実というかなんというか……これまでの発言からは想像もつかなかった。
「そんな意外か? 普通だと思うけど」
「だってここまでの君の話聞いたらホストになりたいのかと思うじゃん……」
「はぁ!? そんなわけないじゃ~ん。だってあぁいうのってがっぽり稼げるかわかんないじゃん。だったら公務員とか堅実じゃない?」
「あ、あぁ……そうなのね。ちなみに書店の店員になりたい理由は?」
「え? 楽しそうじゃん。好きな本に囲まれる仕事なんて」
「図書館の司書とは違うの?」
「前に母さんが言っていたけど、就職厳しいって言っていたからちょっとねぇ。それに………」
「それに?」
「俺の初めての運命の女は書店の店員だったんだよ」
「さっきからその横文字なんなの? 初恋でいいじゃん」
「運命の女は俺にとっての生涯のテーマなんだよ」
「そうなのね……」
これ以上、彼の言葉にツッコんでいたらキリがないと思い、僕は諦めた。
「まぁとりあえず、書風君は将来公務員か、書店の店員になりたいんだね」
「あぁそうさ。で、どうなんだい? これで彼女の地雷になるかどうかは判断できたのかい?」
「できたよ。桐山さん、政治家が死ぬほど嫌いらしい」
「そうか~、うんうんなるほどね…………さっきの質問必要だった?」
「僕が個人的に書風君がどういう人なのか知りたかっただけ」
「あぁそういう。まんまと誘導されたか」
誘導した覚えはないんだけどなぁという言葉を押し殺し、ただ頷く僕。
「まぁ俺自身政治に興味はないしなぁ………あ、これはあれだよ、ニュースとかでの情報は最低限見ているけど直接関与したいとは思わないってことね」
「そっか、じゃあとりあえず地雷は回避できたしいいんじゃない。頑張ればどうにかなるよ」
「すごい雑にまとめてないか佐藤君。もっとこう攻略する術はないのか、桐山ちゃんをさ」
「まぁそうだね………僕なりに彼女と話した時思ったのは、そうだね、程ほどのジョークを言うとか? 桐山さんそれなりに返してくれるよ」
「意外とユーモアが通じるのか」
「とはいえ、僕と桐山さんが会話したのはさっきのだけで、ものの数分だよ。宛てになるかね?」
「物は試しようだ、それでアプローチをかけてみるよ」
「そっか、まぁ、頑張って」
「おうよ。ところで佐藤君はさ」
「ん?」
「さくらんぼの木の下、まだ未踏の小道が広がっているか?」
「は?」
「少し婉曲的だったか。じゃあちょっと直接的に、その竿はさくらんぼのままかい?」
「…………………………………あぁそういう?」
意図が理解できたが非常に下世話な婉曲的表現だなと思ってしまった。
「既にその小道は歩んだよ」
「へぇ、なるほど」
そう言って、書風君としばらく談笑していた。それはおよそ15分ほどだった。
《16:58/玄関》
僕はあれから書風君と話しをして共有スペースを去った。
桐山さんはとにもかくにも"女王"という肩書に憧れている。そういやどうして彼女はそんな気持ちを持つようになったのだろう。いつか彼女の過去やバックグラウンドを知ってみたいものだと思った。
一方、書風君は恋に飢え、飢えている。彼はなんだっけ、運命の女だったかを探しているんだったな。それが見つかればいいが、どうなんだろうなぁ。一応、松本さんも難儀だろうと伝えた天を仰いで「難儀だな、だが真なる運命の女がそう簡単に見つかっては非常につまらないからな」と逆にやる気を見せて、余計な感情の火に薪をくべってしまっただろうかと思った。
「やはりこのゼミの生徒は個性豊かだな………」
僕はボソッとそうつぶやく。
さて夕ご飯までまだ時間は多少余っている。今はとりあえず、恒例の散歩かな、とエントランスの自動ドアが開閉し、外の音を耳にする。
ドゴォ!
「は?」
絶対聞いちゃいけないような重く鈍い音が聞こえた。音のなる方へ向くとそこには小柄な1人の少女が、十分立派に育っている木に蹴りを入れた直後の図が目に入る。
「本当に個性豊かというか………」
少なからず僕は彼女と直接話したことがない。だが、自己紹介の時には姿は見たから名前は知っている。それにあの時の、松本さんが保健室に来た時の回想が過る。
「え、待って今の音があの華奢な足から………出たの?」
僕は恐る恐るだが、彼女のもとに近づいた。
「あ、や、やぁ………」
「ん?」
彼女は足をおろし、こちらを見る。間違いない。西門 ミキさんだ。
書風君はかつて別に書いていた小説の主人公でしたがその物語を描くのが難しくて、ここに登場させることにしました。元々の彼はナルシストな書店定員という設定でした。それを学生版にアウトプットしたのが今の彼です。私の中で彼はまぁいわば過去に書いていた小説の主人公の若かりし頃という気持ちもありますが、その半端作で描きたかったことをここに出力していこうかなと思っています。そのため、ポリシーなどは変わらずとも、横文字を使うカッコつけたがりは完全オリジナルだったりもします。
ちなみに「さくらんぼの木の下、まだ未踏の小道が広がっているか?」のくだりはよはまぁ、そういう経験があるかないかの確認を少し文脈的に表現したもので、某AIさんの意見をベースにそれっぽく私が作ったフレーズです。
意味が分かると超下世話なセリフですよね。でも多少遠まわしな言葉が出来て技術の進歩に感銘を受けたなんてこともありました。




