26:女王の素質について
《16:23/10階共有スペース》
僕としたことが、あれから考えに耽っている内に意識を投げ出していた。椅子に座って数時間も眠りについていた。何か夢を見ていた気がした。だけど全然思い出せないなぁ。そうモヤモヤしながら僕は数日ぶりに共有スペースに足を運んだ。誰かいるものならその人と話すのもいいし、いないものなら外に出て凝り固まったこの体をほぐしに散歩に出るのもアリだなと思った。
エレベーターが開いて目の前に一人の少女のシルエットが見える。特徴的な王冠のカチューシャをしている長髪の彼女は堂々と真ん中に腕組しながら立っていた。あれは、桐山 ミクさんだ。確か自己紹介の時、将来女王になることを宣言していたインパクトの強い一人だ。そういや僕は彼女と直接話したことがなかったなぁ。せっかくだし声をかけてみるか。僕は彼女の元へ近づく。
「やぁ、えっと、桐山さんだよね」
「むっ……そういう君はミスター佐藤。えぇ覚えているわ。委員会決めの後にミスター湊と喧嘩して保健室に運ばれた男だな」
「それで覚えられているのは少し嫌だな……」
自分でもわかるほど、ばつの悪い顔をしていたのだと感じた。
「なぁに、血気盛んなのは男性の特権………と言いたいが女のワタクシも負けていられないわと思ったわ」
「は、はぁ……」
自己紹介の時にも思ったが彼女の話はどうも上手く掴めない。
「時にミスター佐藤。いい機会だから聞いておきたいことがある。時間は大丈夫か?」
「それはどれくらいかかる?」
「そうね………30分以内には終わらせるわ」
「だいぶ長話だな…僕で良ければ」
「感謝する。では問うが、『理想の女王』とは何だろうか?」
「…………うーん」
聞かれる内容についてはもしやと思っていたが、まさか予想が的中するとは思わなかった。
「とりあえず確認だけど、桐山さんってさ、女王に憧れているんだよね?」
「そうだとも」
「そもそもその女王ってのは何なの?」
「わからないわ」
「えぇー………」
キッパリと言い切られてしまった。
「わからないけど、憧れている………ってことなのかな?」
「そうだと言ってるのさ、ミスター佐藤」
「う、うーん。そうなんだね。例えばだけど、お嬢様とかそういうのでは―――――」
「違うわ」
「そっかー………えっ、まさかだけどSエ――――」
「断じて違うわ!!!」
「わぁっ!びっくりした!まぁ、それはそれで良かったけれども」
「全く……ミスター佐藤も下賤なことを考えになるのね」
彼女は今、「も」と言ったからこの例え話したの僕だけじゃないんだと思ってしまった。
「違う違う、誤解しないで。もしかしたらと思って言ってみただけだから」
「それならそれでいいんだけれど、それでワタクシの質問に答えてくださる? 貴方は今質問に質問で返している状況なのよ」
「おっと、それは申し訳ない。そうだねぇ。ごめん、もう1個聞いていい?」
「内容次第」
「そもそもなんで僕にそんなことを聞こうと?」
「それは答えてあげましょうミスター佐藤。それはシンプル、男性目線からどんな意見が出るのか気になったのさ」
「そんな重役を僕に。21人の中から選ばれた1人が僕と………」
「まぁそこに偶然貴方がいただけなんですけれどね」
「ですよねー」
なんとなくそんな気がしていた。
「でもそうだね、せっかく桐山陛下の御使命とあらば、お答えしなければなりませんね?」
「……何か嫌味を含んでいません?」
「ちょっとしたジョークだよ。そうだね、まずは『上に立つ』だろう?」
「うむ」
「そこから、『人々の声に耳を傾けて』、『世の為人の為に身を尽くして貢献し』」
「うんうん」
「で、豪華絢爛酒池肉林の限りを尽くして、民の反感を買って、革命を起こされ、国がバンジージャンプのごとく真っ逆さまに引っ繰り返って落ちて―――――」
「ウェイウェイウェイ!それではワタクシはギロチンにかけられてしまいますわ!」
「あぁ大丈夫、我が国の処刑方法は絞首刑だから」
「そういう問題じゃないのよ!」
「とまぁ、最後の部分は冗談として、前半に言ったことが僕の一番に言いたいことかなぁ」
「ふむ。つまりは人の上に立ち、人々の声に耳を傾けて、世の為人の為に身を尽くして貢献する。そう言いたいのだね」
「そういうこと。そうだ! いっそのこと総理大臣になれば? 女性の総理なんて稀有な例をものにするのはカッコイイと思うけどなぁ」
「それは嫌ね」
「そのこころは?」
「あぁいう政治家って、上に立って世の為人の為の仮面を被って、ただただ私腹を肥やしている豚と同然だわ」
「だいぶ厳しい意見だね…」
「ワタクシ、政治家って大っ嫌いなので。それにその道は確かに理想を目指すなら近道になるわね。でも豚になってまで女王になるのはワタクシの理想に反しているわ」
「そんなに言っていると豚さんが可哀そうだよ。豚肉嫌い?」
「豚肉は大好物ですわ! あくまで例えよ、た・と・え!!!」
「しかしそっかぁ………」
少しでも真面目に彼女の質問に答えないとなと、僕は思案に思案を重ねる。でも現代国家でそんな女王になるだなんて、欧州のロイヤルファミリー入りする限りは難しいし、入れてもなれないだって目に見えているし。
「……ん、待てよ」
ここで僕、一つの閃きが雷のように落ちる。
「ねぇ、桐山さん」
「ん?」
「君の質問、第二の答えがあるんだけど聞く?」
「過剰に冗談がなければいいですわ」
「大丈夫、真面目に答えるよ」
「じゃあ聞かせてもらおうか」
「『〇〇の女王』になるってのはどうかな?」
「『〇〇の女王』?」
桐山さんは首を傾げる。
「例えばそうだね……女優の女王とか将棋の女王とか、その分野において卓越した存在になるってことだよ」
少し会話への食いつきがいいな。僕はそう思った。
「………ふむ、アリかナシかで言えば、アリね」
「そっか、何か引っかかる点でも?」
「それだと場合によっては"女傑"にならないかしら?」
「女傑……辞書的な意味としてはしっかりした気性とすぐれた知恵をもち、実行力に富んだ女性。でもこれについては最終的には君次第なところはあると思う」
「ワタクシ次第? そのこころは?」
「君が『〇〇の女王を目指している!』と豪語する。そこから実力を伸ばしていって頭角を表せば、願い通り世間から女王として認められる」
「なるほどね………フッ、なんだねミスター佐藤。君は冗談も言うが中々に聡い考えをも持ち合わせているようではないか」
「僕の意見、そんなに良かった?」
「えぇ、私の今までの狭かった視野が広がった気がしたよ。ただそうね………何で頭角を出すか、そこを用検討しないとね」
「まぁ、今まで君の考えは漠然としたものだった。漠然って裏を返せば、無限の可能性があるってことでもあるからね」
「無限の可能性ね………少しスッキリしたわ。改めて礼を言うわ、ミスター佐藤。なんならこの恩をどこかで返そう」
「期待するよ、未来の女王様」
「フフッ」
そういうと桐山さんは満足そうに、颯爽と去って行った。しかし彼女はどういう未来を進んでいくのだろうか、少し面白そうだな。
桐山さんの方を見ると、彼女はエレベーターに乗った。そのエレベーターは静かに閉じた。
「あっ…」
ここで僕は気付く。もうここは用済みだから去ればいいものをなぜか残ってしまった。
「あちゃー、1人になっちゃったよ」
仕方なく僕はエレベーターの下降ボタンを押す。しばらくしてようやくエレベーターがこのフロアに着く。ドアが開くとそこには少年が1人、書風 ユリト君が立っていた。
「おや? キミは確か……あぁ、佐藤君だったね」
「えっと初めましてだね、書風君」
桐山さんと佐藤君のやり取りは事前にメモ書きしていたため、そこにブラッシュアップをかけながら書いた一幕でした。だからこそってのもあって楽しかったし、こういう作り方もありなのだと実感しました。
桐山さんの憧れる女王像とはなんなのか? それは謎のままではありますが、どこかで語られたらなと。




