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42人の教室  作者: 夏空 新
第3章

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22:忍び寄る影

《17:31/322号室前》

 夕ご飯時の少し前の時間帯。水樹さんから解放されてからは部屋にこもりっきりだったがやはり安河内さんの一件が気になって仕方なかった僕であった。さすがにもう帰ってきただろう。もし帰ってこなかったら死んでしまったのではないだろうかと嫌なことも考えてしまう。

「はぁ~い」

 扉の向こうから安河内さんの声が聞こえた。つまるところ戻ってきたんだな。

「今開けますよ~って、えっと確か君は………佐藤君だったわね」

 ボブカットの髪を揺らしている目線が僕とほぼ同じくらいの位置の彼女が安河内さんだ。こうして彼女のを見るのは数時間ぶりだ。

「こうして挨拶するのは初めましてだね、安河内さん」

「えっと、そんな初めましてな私に何か用でもあった?」

「あー、実は、僕安河内さんが保健室に運ばれるところを目撃しちゃって、気絶していたから心配だったんだよね」

「あちゃ~、そこ目撃されていたのか~。それにしてもよくここが私の部屋だってわかったわね」

「君を運んでくれた人から教えてもらったのさ」

「そう……なのね」

 少しの間があったが松本さんのことだろうと理解していた。

「見た感じ大丈夫そうだね」

「大丈夫そうに見えるならよかったわ、ついさっき帰ってきたばかりだからね」

「ということは…」

「えぇ。3、4時間は眠っていたわ」

「それでよく無事だったね、記憶とか飛んでないの?」

「残念ながら明確に覚えるわ。松本さんあたりに事情は聞いたと思うけど滅茶苦茶痛かったわ」

「そう…」

「もうちょっと関心を持ちなさいよ」

「えぇ…実際に蹴られたわけじゃないんだから痛いと言われてもね」

「それもそっか」

「とりあえず大事に至らなくて良かった、じゃあ僕はこれで」

「心配かけて申し訳なかったね、これから一年間よろしくね、佐藤君」

「うん、こちらこそ」

 そうして安河内さんは扉を閉めた。無事で何よりだったが今後西門さんと安河内さんの人間関係は気を付けないといけないなと思ってしまった。とは言っても僕は湊君や仮屋君等々スタードダッシュが芳しくない同級生がいるからあまり偉そうなことを言える立場ではないことも自覚しなけれなならないと勝手に思った。

「あぁ~、夕飯まで暇だな。そうとなったら、散歩しかないな」

 僕は部屋に戻らずそのままの足でエレベーターに乗り、外へ出た。


《17:39/寮前》

 夕暮れ、筒状の島の空を仰ぐとまだ明るいが暗がりな様子だ。日も沈みかけているところだろう。さて勢いで外に出て散歩すると思い出てはみたもののやはり夕ご飯が近いのか誰もいる様子ではなかった。こういう時、誰かいてくれたら僕としても語ることが多くて救われるところなのになぁ…。

「おや、佐藤君ね」

 振り返るとそこにいたのは情報通でお馴染みの篠原さんだった。彼女と会うのはいつだっただろうか。確か4/1以来だろうか。そう思うとついこの間のようにも思える。

「篠原さん、共有スペースで会った時以来だね」

「えぇそうね」

 風が彼女のツインテールを靡かせる。

「君も僕みたいに暇していたのかい」

「えぇそうね………私は佐藤君あなたに用があったのよ」

「ん? さては出待ちしていた?」

「いいえ、私はあなたがここに来ることをすでに把握していたわ」

 そう言って篠原さんはどこかを指さすしぐさをする。彼女の指先を見ると防犯カメラが目に入る。

「……………ハッキングしたってマジで言っているの?」

「意外とザルだったわ」

「ん~………まぁいいか、そこまでして僕に会いたいってことは何か意味があるのだろう」

「話が早くて助かるわ。単刀直入に、ゼミ生の中に殺人鬼がいる」

「………は?」

「あなたも前の学校では犯罪研究部に所属していた身、キラー・チルドレンの名前くらいはご存じでしょう?」

「それはまぁ………でもそれって噂の域に過ぎないものじゃ」

「その割にはいい調査報告をあげているじゃない」

 そう言って彼女の持っていたタブレットに映ったのは僕が文化祭の時に出したキラー・チルドレンに関する調査報告資料の一部だ。

「よく出来ているわ。資料としての完成度が高い、内容も十分濃密、非の打ち所がないわ」

「その言い草だと君はそのキラー・チルドレン当人……なの?」

「いいえ、ただの情報通なだけよ」

「そうなんだ…」

「君は十分にキラー・チルドレンのことを頭に入れているし、それなりに関心を持っていると思った。だから私はあなたにその話をしてみたのよ」

「確かな証拠はあるのか? そもそも誰がキラー・チルドレンなんだ?」

「それについては秘密よ」

「情報通の割には出し渋りしてるね」

「そうね情報には相当の価値があるのよ。だから出し渋りではないわ」

「なるほど」

「私があなたにこれを話した意図にはもう一つ、これを聞いて佐藤君がどう思うか、どう動くかも興味があったのよ」

「どう思うか……どう動くか……」

「えぇ」

「そうだね、もし本当にいるなら僕の作った資料との整合性をチェックしてみたいな」

「そう」

「というか殺人鬼がノコノコといるのも怖い話だよ。僕の調査が正しければ大多数の人数を殺しているから罪の意識とかないのかなって考えちゃうね」

「ふぅ~ん、あなたはキラー・チルドレンをそう思っているのね」

「なんとなく、漠然としたものだよ」

「ありがとう佐藤君、君の気持がよくわかったよ。ちなみに信じる信じないは任せるわ。でも私との会話を振り返ると嘘とも思えないよね」

 そう言って颯爽と篠原さんは去っていった。

「キラー・チルドレン、本当にいるのかな…」

 僕はポツリとつぶやく。もし本当にキラー・チルドレンがいるなら、と僕は今までの知識とのすり合わせを始める。そうするとあれやこれやと可能性がよぎる。想像しただけで鳥肌は立つし背筋は凍る。

 彼女の言い方から1人だけとは言い切れない。何人かが平然とした顔で澄ました顔で僕らのゼミに紛れているんだな。兎にも角にも真実を突き止めてみたいものだと思い馳せてい――――

「私はこのゼミにキラー・チルドレンがいると推測しているわ」

「わぁ!? 松本さん!?」

「いつの間にと聞きたいところだろうが、私もついさっき来たところよ」

「そ、そうなんだ」

 思い馳せていた矢先に後ろから松本さんが現れる。

「しかし犯罪研究部だったことだけでキラー・チルドレンの名前を出すなんて、篠原君はどういう意図で君に接触したんだろうね」

「わからないよそんなこと」

「いずれわかること………そういうところかしらね」

「恐らくね。で、松本さんは何をしていたの?」

「君を探していたのよ、ほらちょうど夕飯時でもあるからディナーでもどうよと誘うつもりでね」

「そうだったんだ」

「ぜひディナーのお供に君の話を聞きたいのよ、そう君の犯罪研究部時代についてね」

「その話するの? なかなか濃いと思うよ」

「それは推測済みだ。だが問題ない、それ相応の話をするためにも私についても一つ公開情報を与えようと思ってな」

「公開情報?」

「なに、情報は通貨だ。それ相応の情報を受け取るならそれ相応の情報を与えるのが礼儀というものだ。ギブアンドテイクの精神よ」

「なるほどね。で、君の公開情報とやらは何なんだ?」

「聞いて驚け佐藤 タケル。私は探偵だ」

キラー・チルドレンは本当にいるのだろうか?

篠原さんから与えられた謎の情報をもとに発生した疑問。これについてわかる日は来るのだろうか。


そしてついに明かされた衝撃の事実、松本 アスカは探偵だった。

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