19:決まりごとが終わって
《9:48/3年42組教室》
「よし、委員会決めも終わったな。結城さん、お疲れ様。実は各委員会ごとに専用のアプリをこれからインストールしないといけなくなるんだ。遅くとも部屋に戻ったらゼミターミナルをプラグに挿してから寝てくれよ」
先生が掲げたゼミターミナルとは僕が支給フォンと仮称していたスマートフォンだ。あれってそういう名前だったのか。
「さてと、ここまでやったら今日はやることが終了したんだよね、みんなには早くに来てもらって申し訳ないけど。ということで今日はもう解散です! まだ親交を深めていない人と触れ合うもよし、一人で何かするも良しここからは君たちの自由ってことさ! さぁ、エンジョイしたまえ諸君、また明日会おう」
そう言って先生は颯爽と去ったのだった。今日やったことは自己紹介と委員会決め、盛大に何も始まらなかった雰囲気が教室内に広まっている気がした。親交を深めようって言っておいてさっきの委員会決めのギスギスした空気を見てよく言えたものだなと思ってしまった。寝てたのかな、先生は? とりあえず帰ろうかなと思い席を立―――
「おい佐藤」
った瞬間、湊君から声がかかる。面倒事の予感しかしない。
「さっきはよくも言ってくれたな?」
「あーはいはい。その節は大変失礼しましたね」
「あ? さっきはアマネの奴が止めたから一旦は手を引いたけど次はそうはいかないからな」
「はっ、結城さんがいれば言うことは聞くんだね。従順なワンコだこと、ワンワーンってね」
「んだとてめぇ」
湊君に胸倉を掴まれる。あぁこれは危機的状況だ、でも煽りたく仕方ない感情が抑えられない、なぜか。
「ちょ、シンくん!? やめなって!」
結城さんが近づいて止めにかかる。
「テメェ俺になんか恨みでもあんのか? 俺には心当たりがないがな?」
「それがよくわからないんだよね、なんか湊君を見ると煽りたくなる気持ちに駆られるんだ」
「なんでそうなるんだよ、俺ら会って間もねぇよな? それで喧嘩売っといてその返しは適当過ぎないか?」
「知るか、自分で考えろそのスカスカの頭でさ」
「んだと? 冗談も大概にしろイキリチビが」
「女に尻尾振っているお前なんかに言われたくはないね、成金コバンザメ」
「殺す」
その刹那、左頬に鈍い痛みが走る。僕は湊君に殴られた。そして殴られた拍子に後ろに吹き飛んでしまい、運悪く近くの机の角に頭がぶつかってしまう。これが原因で少しずつ意識が遠のいていく。僕の視界の最後に見えたのは怒りに満ちた湊君の表情だった。
《?:??/???》
目を開けると知らない天井が目に入る。なんだろう不思議な夢を見ていた気がした。目が覚めて心にポッカリと大きな穴が開いた気がしてモヤモヤしている。
「あっ、起きた」
目線をズラすと結城さんが座っていた。
「はーっ、起きなかったらどうしようかと焦っていたんだよ、大体なんであんな喧嘩簡単に買っちゃうかなー」
「はい」
「喧嘩を売ったシンくんも悪いけど、君だって悪いんだからね、自覚ある?」
「すいませんでした」
「しかし佐藤も口悪いときは悪いね、育ち良くないの? スラム育ちだったりしたの? その辺の自覚ある?」
「…………スラム育ちじゃないです」
「スラム育ちについては冗談よ………とはいえ『女に尻尾振っているお前』『成金コバンザメ』なんてさすがに言い過ぎよ? 自覚ある?」
「はい、さすがに言い過ぎました」
起きて早々の説教だったが、売られた喧嘩を買った僕にも落ち度があるため事務的な相槌しか打てなかった。
「はーっ、話していたらだんだん佐藤君のこと一発殴りたくなってきたよ………さすがにしないけどさ。そういえばシンくんから『さすがにやりすぎた、すまん』って伝言を預かっているけど、いる?」
「………貰っておきます? ところで、今は何時?」
「今? えーっと……11:57だね」
腕時計を見ながら結城さんは時刻を教えてくれた。なるほど約2時間ほど気絶していたことになるのか。待てよ、ということは
「結城さんずっとここにいたの?」
「いいえ、私たちがここに来たのは10分くらい前よ。それまでは松本さんがいてくれたわ」
「たち?」
「あぁ、さっきまでシンくんと一緒にいたのよ。時間が時間だったから昼食を食べに行かせたのよ。それにほら万が一私抜きで君たち二人きりの時になったら目覚めたとき気まずいでしょ?」
「まぁ………うん。そういえばこの部屋は………保健室?」
「あぁ、ここは保健室だ。それはそうとやっと目覚めたか、血気盛んで仕方ない少年佐藤よ」
奥の方から聞きなじみのない女声が耳に入る。そして結城さんの背後から白衣を着た銀髪の長身女性が現れる。
「本当は明日か明後日に自己紹介で来る予定だったんだけどなぁ。いやはや、君は幸運だったよ、何せ私がここにいるのだから。私がいなかったら今頃この部屋は施錠されていたぞ」
「えっと………あなたは?」
「どうせ明日か明後日にわかることだ、一つ二つくらい謎があってもい―――」
「彼女は鍵屋 ランコ先生。ここの養護教諭」
「こら少女結城、せっかく彼に焦らさせたかった私の思いを踏みにじったね」
「いや…焦らす必要ないでしょ…」
「それもそうか」
「えっと、鍵屋先生。僕はもう大丈夫そうですか」
「ん? そうだね」
鍵屋先生は僕の頭を触ったりライトで目を当てたりした。
「うむ、問題はなさそうだ。打ち所が悪くてたまたま気絶しただけだ」
「そうですか………」
「何か気になることでも?」
「いえ、ないです。大丈夫なら僕もう行きますね、結城さんも居てくれてありがとう」
「これも委員長の仕事だからね、とは言ってもどっちかって言うとシンくんのおいたに負い目を感じただけな所でもあるけどね」
「結城さんが負い目に感じることはないよ………そういえば結城さん」
「何かしら?」
「さっき、ここにいる前松本さんが居てくれたみたいなこと言っていたけど、彼女は?」
「少女松本は『嫌な予感がする、ここを頼めるか?』と言って出て行ったわ。そのあとに入れ違いで少女結城と少年湊が来室した」
「私も松本さんと廊下ですれ違いざまに『保健室にいる佐藤君を頼む』って言われてそのままよ」
「松本さんどこへ行ったか分かる? こういう時の松本さんの勘は多分何か起こったに違いないから」
「それが走って階段を上っていったのよね………聞くタイミングもなかったわ」
「そっか…」
するとガラガラガラと引き戸の開く音がする。
「失礼します、1人倒れたので連れてきました」
松本さんの声だった。僕と結城さんと鍵屋先生が見た先にいたのは安河内さんを背負った松本さんの姿だった。
「私としたことが失態したわ」
ため息をつきながら松本さんは安河内さんを僕が寝ていた方とは別のベッドに寝かせた。よく見ると鼻血が出ていて、それに気づいた鍵屋先生はガーゼで拭き取る。
「一体何があったって言うの?」
「それがね――――」
僕は安河内さんに何があったか尋ねると松本さんは事の顛末を話した。
佐藤君、そんなに口悪い設定だった?
→これはキャラブレでもなく『特定条件下』で起きた状況なので致し方ないです。
そんなことよりバチバチの火花は早速火種になりましたね。




