15:4月2日 (6)
《19:29》
それからの僕の行動はある程度の生徒に挨拶出来て非常に満足のまま自室に戻った。その後は夕ご飯の時間まで仮眠を取って、夕食の時に松本さんと一緒に食堂でご飯を食べた。その時に成果報告もした松本さんは大変ご満悦の様子だった。
その後、僕が向かった先は――――大浴場だった。
《同刻/大浴場》
「ふぅ~~~~~~~~」
温かい湯に浸かり思わず気の抜けた声が漏れてしまう。部屋の風呂でも全然良かったがなんとなく今日はこっちの大浴場で気長に過ごしてみるのもいいなと思い今に至る。
「貸し切り状態なんて最高だなぁ」
そんな独り言を言っても誰の耳にも入らない。好き勝手独り言が言える。と悠長なことを考えるとガラガラとドアが開く音がする。パっと音のなる方を向くと秋月君が入ってきた。
「おっ、佐藤君。お疲れ様っス」
「お疲れ様、秋月君」
そう言って秋月君はシャワーで体を洗い、湯船につかった。
「はぁ~~~。ひとっ走りしたあとの風呂は身にしみるっスね~」
と秋月君の声が漏れる。しかし全裸でもわかるがいい体しているなぁ、筋肉とかがっしりしているまさにスポーツをやっている人の体だ。
「秋月君って今日も運動していたの?」
「そうっスね。なんかじっとしているのが性に合わないというか、落ち着かない感じになるんスよ」
「そうなんだ」
「佐藤君は見たかな? 学校の体育館にトレーニングルームがあるんスよ」
「あぁうん、見た見た」
「ひとしきり触れてみたけど最高っスよ。いい刺激が貰える」
「へぇ~。僕はあんまり運動とかしないからなぁ。でもする人にとっては充実した場所なんだね」
「えぇ、そうっス」
鍛えられている体も努力の賜物かぁと思いながら彼の話を聞いていた。話していく中で初対面の時に疑問に思っていたことについて
「ねぇ秋月君」
「なんスか?」
「前に『中学の時はバスケやって、高校からはラグビーに変わった』って言ったけどさ、なんでバスケやめたの?」
「あぁ、やっぱ気になっていたスか?」
「あんまり話しにくいことだったらいいんだ」
「そうっスね……今日は湯船で汗を流しに来たんス。この話はあんまり乗り気になれないんで別の機会でいいスか?」
「そっか…変なこと聞いてごめんね」
「申し訳ないっス」
それから僕らは会話をしたが、別段気まずい雰囲気はそこにはなかった。
《19:59/321号室》
風呂に上がり、自室に戻る。ふと支給フォンを確認すると不在着信が1件あることに気付く。見るとマリアからだった。僕は折り返しの電話をかける。
「あ、もしもし、マリア」
『タケル、ごめんねタイミング悪かったかしら』
「ちょうど風呂に入っていたころだったんだ。全然気づかなかったよ」
『そうだったのね………どう? 向こうでの生活は?』
「まだ何も始まっていないけどこれからどうなるか楽しみだね」
『そっか~。まぁ今日は日曜日だったわけだしそんなすぐに動くもんじゃないか』
「そんなところ」
『友達はできた?』
「うん、それなりに」
『おぉ~! 鳥籠学園は津々浦々にあるからいろんな人に会えて楽しそうだね~』
「今のところ、そんな地方っぽさを感じる場面には直面していないけどね」
『まぁそんなもんでしょう』
「マリアの方はどうなの? 今の生活は」
『そうね~。正直タケルがいなくなって寂しいなぁ。せっかく2人で暮らすために取った部屋がかえって広く感じるわ』
「マリアが嫌じゃなければ友達とか連れてきていいんだよ」
『ありがと。そうね、そういうのもアリかもしれないわ』
それから僕らは何気ない会話を繰り返ししていた。やはりマリアと話している時は特別な落ち着きを得られるなぁ。話をしていると突然
ピンポーン
と呼び鈴の音が部屋内に響き渡る。
『ん?今なんか音がしなかった』
「あぁうん。呼び鈴だね…ちょっと待って」
僕は電話を一旦を置いて、扉の前の覗き穴から外の様子を伺った。外には黒服の男性が立っていた。恐らくここのホテルマンだろうか? 少なくとも知り合いではない、一体誰なのかと疑問を持ちながら一旦電話の方に戻る。
「う~ん誰だろう」
それは正直な感想で思わず発した声はマリアの耳にも届いていた。
『とりあえず出ちゃいなよ。時間もいい感じだし私もそろそろ勉強しないといけないから切るよ』
「そっか、マリアは受験があるもんね」
『羨ましいわ、テスト抜きですぐに大学に進学できるなんてさ』
「本当にそう思うよ」
『私もタケルと同じ皇族大学に入るために頑張るからさ、応援してよね』
「もちろんさ、それじゃお休みマリア」
『えぇ、お休み。時間があったらまた電話するね』
それを最後に電話を切った。そして長らく待たせた男性のもとへ向かうことにする。
ピンポーン
もう一度呼び鈴が鳴る。待たせてしまって申し訳ない感情が高まる。そしてガチャリとドアを開けると覗き穴に映っていた黒服の男性が立っていた。
「佐藤 タケル様でしょうか」
「は、はい」
名前を確認され動揺を隠せないトーンで返す。
「これを天堂様からお渡しするように言われましたので、お持ちしました」
それは一枚の黒い封筒だった。
「天堂先生から?」
僕はすぐにそれを受け取った。
「はい。それとご伝言を預かっております。『20時30分のメールを確認するまでその封筒は開けないように』と」
よくわからない伝言だなぁと首を傾げてしまった。
「はぁ……とりあえず、わかりました。ありがとうございます」
「それでは失礼します」
そう言って男は去っていった。部屋の時計を見ると20:23と表示されていた。そこそこマリアと話していてだいぶいい時間帯だなと思った。もう少ししたら件の時間になるししばらく封筒は机の上に置いて待つことにしよう。
《20:30/321号室》
支給フォンから通知音が一つ鳴る。手元で確認するとメールが1件届いた通知だった。もちろん天堂先生からのだった。黒い封筒についてほったらかしにするのも気持ちが悪いと思いメールを見ることにした。
『全ゼミ生へ
こんばんは! 天堂です!
文にすると長いから動画を1本送りますので、それを見てください
これは僕から君たちへのメッセージです!』
メール本文の下には動画ファイルが1つ入っていた。僕はすぐにそれをタップして開ける。
映像は教室だった。僕と松本さんで回った学校の教室の1室を使ったのだろう。
『やぁ、ゼミ生諸君! 船の時以来になるね! 天堂です!』
天堂先生が手を挙げて挨拶をする
『いきなり不死になった君たちはまだゼミで何をするのか不安もしくは期待さまざまだと思います。そんな君たちのために僕からエールを送るね。頑張れ!』
それからしばらく間が空く。
『さて、僕の情熱を注いだところで本題に入るね。さっき君たちの手元に黒い封筒が届いたよね?』
と天堂先生は僕が受け取ったものと同じ色・形状の封筒を見せる。
『ここには1枚のミッションカードが入っています。ミッションはざっくり言えばこのゼミ1年の中で果たすべき目標だね。そのミッションを君たち42人それぞれに与えます。明日からのゼミでこのミッションを達成することを頑張ってほしい。あぁ、もう封筒は開示していいよ』
僕は封筒に目をやる。ここに僕のやるべきことが書かれているのか。
『それと一つ注意。自分がどういうミッションを与えられたかについて誰かに教えるかは君たちに委ねることにする。教えてもいいし、教えなくてもいい、教えるように強要するのも…………アリだ。まぁそのミッションが人によってはアキレス腱になるからね』
ミッションがアキレス腱になる? 疑問に思いながら聞き続ける。
『このミッションをクリアしたら卒業後現金100万円の祝い金をプレゼントします!』
「100万円!?」
僕は思わず声を出した。
『まぁミッション失敗しても大きなペナルティはないから安心して臨んでね。それじゃ良きゼミライフを!』
そこで動画が終わる。
「さて………」
少し緊張感をその身に感じながら封筒を手にする。素直にお金が欲しいのは事実だ。それに向けて頑張ってみようじゃないかと意欲的になりながら開封する。そして1枚のカードを手にする。そこには僕のミッションの内容が書いてあった。
【自分を知る】
ただそれだけが無機質に書いてあった。
「これが………僕のミッション?」
首を傾げてしまう。これはもしかして単純な問題じゃないのか?と考えてしまう。
「僕は佐藤 タケル。3月21日生まれ、鳥籠[陸奥]学園からここへ来て、それ以外の何者でもない」
そうと言うのは簡単なことだった。だが考える間もなくすぐに一つの可能性を思いつく。
「まさか、まさかと思うけど………失った記憶のことを言っているのか?」
失った記憶、高校入学以前の過去を知る。そんなことできたらいいけど意外と骨折りな内容かもしれない。
「記憶を取り戻せなんてそんな無茶な……」
医者が匙を投げるレベルで回復不可能、正直過去のことを気にしない僕からしたら1年で自力で記憶を取り戻すのは無理じゃないかと思えてきた。しかしここまではあくまで仮定の話に過ぎないということもある。
そんなモヤモヤを抱えたまま僕はベットで横になりながら考え事をし、そのまま眠った。
秋月君はどうしてバスケをやめたのでしょう? きっと何かあるのかもしれない。
そして序章以来、本編だと初登場のマリア。彼女は佐藤君にとっても欠かせない存在。ということでこの先も出ていただく機会はさぞあると思いますよ。
最後は課題なんて新要素が出て、ようやく4月2日が終わりましたね。え? まだ4月2日なの?
私が生きている内に彼らの物語に決着はつくかな………。




