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42人の教室  作者: 夏空 新
序章
3/82

Pre02:発端にあたる3/16(中)

《7:32/鳥籠[陸奥]学園前》

 学校までの道のりはそこまで長くはないが、高確率で止まらざるを得ない踏切や少しきつめの坂を上るといった難所がある。そこまで運動神経が悪くもないし、体力はそこそこあるが寝不足だと少しきつい。見えない何か重い物が足に絡みついているかのようだ、一歩一歩が重い。だけど登校完了の8:30まではまだ余裕があるからそう不安に思う点はない。

 坂道を上り頂上に達し、少し下れば高校に着く。

 鳥籠[陸奥]学園は、山の中腹にあり、木々に囲まれているところに位置している。囲まれているには囲まれているが、校舎は高層で上の階に行けば、木々の壁を越え都市を見渡すことが可能である。


 校門に入り、玄関へ。靴を下駄箱へ入れ、代わりに中にあった内履きを取り出しそれを履く。そして自教室へと歩く。

 朝の校舎はいろいろな音が響いている。グラウンドから金属バッドがボールに当たる快音、生徒たちの威勢のいい掛け声。体育館から重みのあるバスケットボールのリズミカルにバウンドする音。上の階にある音楽室からは吹奏楽部の練習している音。様々ですべてが混じると人によってはうるさいと感じるが、僕は好きだ。僕にとってこの音は朝のテーマみたいなものだ、これを聞いて初めて朝だと言える。過大評価かもしれないがそれくらい僕にはこれに愛着を持っている。


《7:51/タケルの教室》

 僕のクラスは2-2で理系クラスだ。この時間帯は教室内の生徒延べ36人のうち3分の1程度の生徒がいる。しばらくして残り生徒が登校してくる。申し訳程度の補足だが、このクラスは遅刻常習者はいない。

「よぉ、タケル」

 僕が教室に入ると、僕を呼ぶ声が聞こえた。

「あ、リョウスケ君。おはよう」

 僕は呼んだ声の主の名前を言い、あいさつを交わす。

 彼の名前は檜村(ヒムラ) リョウスケ。1年生の時からずっと同じクラスの生徒だ。彼とはいつも好きなアニメの話で花を咲かせる。

「随分と眠そうだな~、さてはIKAZHOTをリアタイ視聴したかな?」

「あはは…わかっちゃった?」

「なんとなくなぁ。タケル、あのアニメそれなりに気に入っているもんな」

「そうだねぇ、あそこまで本気でハマったアニメは久々だ」

「そうかぁ…。じゃあ質問だけど、最後に本気でハマったアニメってなによ?」

「う~ん、ちょっと時間頂戴」

 僕は記憶を辿った。今まで見てきたアニメは数知れず、その中から過去一位を探すのはずいぶんを面倒な話だ。

「MUKUROE STORYって言うアニメ知ってる?」

 僕はリョウタ君に尋ねた。

「名前くらいは聞いたことあるなぁ。てかそのアニメってそこまで新しいものではないよなぁ」

 僕が先にあげたアニメは5年くらい前のアニメだ。僕はこのアニメを放送当時見ていたわけではない。配信サービスでたまたま目にして見始めたが、一時期は狂ったように何度も見返していた。

「あぁでも確か兄貴はあのアニメが好きで、DVDも買い揃えてたなぁ」

 リョウスケ君には3歳年上の兄がいる。名前は確かコウスケだったような。

「今度兄貴の部屋から借りて見てみようかなぁ」

「おすすめだよ。典型的なファンタジーものだけどしっかりとストーリーまとめられていて、わくわくしながら見れるよ」

「そうか、そいつは期待だな!」

 リョウスケ君はニコニコと笑みを浮かべていた。それは心からそのアニメを見ることに対する楽しみをこちらにも伝えているようだ。

「そういやタケルよぉ、彼女はどうしたんだ? いつも一緒に登校してたよな」

 彼の言う『彼女』は言わずもがなマリアのことだ。

「なんかマリアの方は生徒会の仕事があるみたいでね、今日はバラバラで家を出たんだ」

「3月だっていうのにか?」

 リョウスケ君は僕が彼女に対して言った言葉と似た表現を言った。やはりそう思ってしまうのは当然なのだろう。

「これは僕の推測だけど、卒業した先輩に対するサプライズの会議とかかなって思ってるんだ」

「サプライズ?」

「うん、例えば花束、もしくは寄せ書きの色紙みたいなものだよ」

「あぁ~、運動部の連中がやっているようなアレか」

 彼は僕の何気ない憶測に納得したようだ。

 しかし言っておいてだがこの時期に今さらそういうサプライズをするのかと思うなぁ……。あとで軽く彼女に尋ねてみよう。もしかしたら全くの見当違いかもしれないし。


《8:30/同場所》

 しばらくリョウスケ君と会話していると、すっかり朝礼の時間になっていた。すでに僕のいるクラスの生徒は全員登校していた。当たり前だがマリアもその内に含まれている。

 そして廊下から一人の男性がこの教室に入る。僕らのクラスの担任で古典担当の綿鍋(わたなべ) シュウ先生だ。40代前半の既婚者。本人曰く、この高校に赴任してかれこれ10年以上は経つようだ。また、別の場所だが鳥籠学園の卒業生であるようだ。この鳥籠学園は卒業した場所が違ってもみな共通した同窓生という扱いになるようだ。つまりこの教師は鳥籠[陸奥]学園の先輩ではないが鳥籠学園としては先輩となる。少し意味のわかりづらい表現だがそういうことだ。

「えぇ、今日の連絡事項は…1、例の不審者の件で部活停止していたけどそれが今日から解禁になります。2、これは伝言か、化学の今宮(いまみや)先生からの伝言で授業は5階の502実験室で行われるので遅れないように――」

 ここまではいつものように連絡事項を淡々と話す。だけどここから突然変わった。

「そして最後に、佐藤君。これが終わったらちょっとこっちに来て。話がある」

 この教室内に佐藤という姓は僕だけだったから間違いなく僕を指名している。そもそも先生にこうして呼ばれること自体珍しい。そのため少しばかり動揺したのだ。

 そして先生の連絡が終わり、僕はすぐに彼のもとへ行った。

「おう、来たか。実はな校長がお前を直々にお呼びでな、今すぐに行ってくれないか?」

 先生はあまり周りに聞こえないひっそりとした声で言った。僕の頭の上には『?』の文字が大量に浮いた。僕は「どういうことですか?」と訊きたかったが先生が「早く行け」と唆したため軽く抱いた疑問を抱えたまま教室を出ざるをえなかった。

佐藤君が校舎に入って耳にする音は、自分の高校時代の片手ほどしかない好きだったもの一つです。

まだ心閉ざす前、学校に着くと吹奏楽部が練習していたのでしょうが、有名なアニメのOPを演奏していてワクワクしていたのは懐かしいものですね。

だけどいつからだろう。自分のこの周りから聞こえる音に不快という感情を持つようになったのは。


佐藤君は2年経った今でも愛着があると思えています。自分にはとても程遠い感情に憧れます。

きっとこれは自分が恋焦がれた理想の青春時代だったのかもしれませんね。


またこれも小ネタですがMUKUROE STORYもまた自分が過去に書いた小説、いや、これが人生で最初に考えたオリジナルストーリーです。着想は小学生の頃ですね。

祖父のワープロを借りて適当にカタカタとかな入力で文章を綴った思い出があります。

当時は英語に疎く、STORYのスペルもSTO^RI^なんて表記していたなぁなんて思い出も断片的にあります。

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