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42人の教室  作者: 夏空 新
第2章
29/81

14:4月2日 (5)

《14:07/寮の裏道》

 僕は松本さんに言われた通り、寮の裏道の方へ向かった。裏道と言ってはいるが、寮とその隣の建物の間にある細道のことだ。そもそもこの奥に人なんているのだろうと疑問に思うが、松本さんの推測は若干突飛しているからそこは目を瞑るしかないなと割り切っている。

 しかしここまで日の光が限られたこんなじめっとしたところに人なんているわけが―――

「ひゃっ!?」

 僕以外の声がした。人は確かにいた。僕と同じくらいの小柄な少女がツインテールを揺らしてしゃがんでいた。少しおどおどとしていて僕を見ながら怖がっている。

「さすが松本さんだ…」

 目の前の彼女より、松本さんの推測が的確だったことに驚きを隠せず声を出してしまった。

「え、えっと…」

 小動物のようにぴくぴくと震えた彼女は戸惑った声を出していたことがよくわかる。

「あっ、ごめんごめん驚かせて」

「えっと……君も狗神(いぬがみ)さんの手先ですか?」

 少しハスキーっぽい声で彼女は僕に問いかける。

「え? いや、僕は一人でここに来ただけだけど」

「そ、そうなのです…?」

「うん」

「よかった~。てっきり彼女の手先でボクを捕まえると思ったですよ~」

 いわゆるボクっ子のようで女性では珍しい一人称が「ボク」だった。

「少なくとも僕はまだ狗神さんには会っていないから大丈夫だよ」

「それなら安心です。あ、えっとボクは来栖(くるす) ハルです」

「来栖さんね、僕は佐藤 タケル。よろしく」

「タケルさん、よろしくです」

 と僕らは握手を交わす。

「ところでなんで来栖さんはこんなところにいたの?」

「それが………狗神さんから逃げていたのです……」

「そんな危険な人なのか…?」

「危険というか…怖いというか…」

 危険も怖いもニアイコールに思えるが。

「狗神さんはどうやら可愛いものにしか目がなくてボクは特にそれのポイントが高いらしいです」

「よくわからないなぁ……」

「ボクもそう思っているのです………一体ボクなんかのどこにそんな可愛さが…?」

 確かに来栖さんは可愛い方に該当するとは思う。それにしたってそこまで執着する狗神さんが気になって仕方なくなる。

「てかこうやって話していると彼女に見つかりそうだよね」

「申し訳ないけどかもしれないです…」

「それじゃ、僕はこの辺で去らせて貰うよ。万が一、狗神さんに君の所在聞かれたら『知らない』って伝えた方がいいかな」

「出来ればお願いしたいです」

「OK、わかった」

 そう言って僕はその場から離れることにした。

「ちなみに狗神さんの特徴は?」

「タケルさんよりも背の高い女性です」

「僕はそこまで背が高くないからなぁ…」

「えと、170は余裕で超えています」

「結構背が高いね……それだけで十二分にわかりそうな気がする」

 170㎝超えということはわかりやすいところだと松本さんよりも背が高いってことだよな。

「本当にデカいです」

「わかった、一応警戒しておくよ」

「ありがとうです」

 そう言って僕はその場を去ることにした。


《14:11/寮の前》

 僕は来栖さんと別れて次の目的地である公園を目指すことにした。公園の存在については昨日の夜にこの辺りを歩いた時にあることは確認できている。恐らく松本さんの言っている場所は僕の思っている場所だろうと勝手に確信しながら向かうことにした。ちなみにここまで狗神さんと思われる人には出会っていない。

「しかし今日は天気がいいなぁ」

 空を見上げれば筒状の島の穴から雲一つない清澄な青空が拝めた。

「さて、向かうか」

 僕が一歩目を踏み込もうとす―――

「あ、あの!」

 ると誰かから声がかかった。驚いてすごい勢いで振り返ってしまった。

 目線の先には胸部が目に入る。

「え、デカい」

 それは背丈の方だ、決してやましい意味ではない。

 そのまま目線を上げるとおどおどした少女が少しびくつきながら………ってこれ来栖さんの特徴と似ているなぁ。そんなことを考えながら彼女を見た。ふわふわしたような長髪を揺らした彼女は170㎝を余裕で超えた長身だった。恐らく彼女のいた学校の制服をそのまま着ているのだろう、セーラー服姿だった。

「えっと、僕に用かな…」

「あっ、はい……えっと、えっと、えっと………何から言えばいいんだろう」

「とりあえず落ち着いて。深呼吸深呼吸」

「すー、はー、すー、はー」

「少なくとも君と会うのは初めてだよね? 僕は佐藤 タケル。君は?」

「あ、えっと………狗神 マクスです」

「はぇ?」

 この僕の声の意味は驚きだ。来栖さんを必死に追いかけるほど(?)の執着心を持っているからだいぶアグレッシブな人を勝手にイメージしていた。でも真逆で、むしろ来栖さんみたいにおどおどとしたタイプの子だった。この子が必死になって来栖さんを追いかけていたのか…?

 しかしマクスという名前も少し変わっているなぁ。どういう漢字を使っているのだろう。

「あ、ごめんごめん狗神さん。えっと僕に用があったんだよね。なんだろう?」

 大方内容は予想はついているが知ったかぶりせざるを得ない。どうせ来栖さんのことだ。

「え、えっと……つかぬ事をお聞きしたいのですが……えっと」

「うん」

「く、来栖 ハルという女の子を見ていませんか?」

「うん………見てないよ」

「な、なんで間があるんですか」

「いや、僕もクラスメイトの名前は一通り頭に入れてきたんだけど、確かに来栖さんの名前はあったなぁと思ったんだよね。実際にまだ会えていないけど。今の間は思い出していたんだ」

 まさかの指摘に驚きながら、事実を含めた適当な言い訳を言う。

「な、なるほど…。ごめんなさい! 変なことを聞いて!」

 狗神さんはバッと腰を90度曲げて謝罪の礼をする。

「ちょ、狗神さん!? 僕は大丈夫だから頭を上げて」

「あっ、はい………ごめんなさい」

「ところでなんで来栖さんを探しているの?」

 ここで引けばいいものを好奇心が勝って必要ない質問をしてしまったと思う。

「え、えっと………ハルちゃんが可愛いから………」

「はぁ」

 期待した答えではなかった。じゃあ期待通りに答えってなんだろうとも思った。

「あんな可愛い子、私から見たら羨ましいんです…私はほら…色々と()()()から」

 確かに大きいなぁ、何もかも。なんて口が裂けても言えない。今回ばかりは松本さんがいなくて救われた。

「そ、そうなんだね…」

 これが僕の中でのベスト相槌。これ以上何を言えと…?

「だけどハルちゃんは私のこと怖がって逃げちゃうんだよね………何が悪いんだろう」

「う~ん…」

「佐藤さん。初対面の貴方に訊くのもどうかと思うけどなんか方法とかない?」

「えっ!? それ僕に聞く!?」

「なんだろう、佐藤さん凄いいい人で安心するから聞いてもいいのかなって思ってしまったの」

「方法って言ってもね………僕は来栖さんに会ったことがないからどんな人かも知らないし…いい助言ができないよ。でも逃げるなら道の裏とか人目につかないところとかに隠れるなんてするんじゃないかな…」

「っ! なるほど! その手があったか」

 絶対余計なことを言ったと思った。ごめん来栖さん、万が一のことがあったら本気で謝罪します。

「佐藤さん、ありがとう! わ、私、自信ついた! いける気がする!」

 そう言った狗神さんは猛ダッシュでどこかへ走っていった。来栖さん、今のうち自室に逃げることをオススメするよ………ってあの時言えばよかった。

 僕は頭を掻きながら公園に向かうことにした。


《14:16/公園》

 公園に辿り着いた。あたりを見渡すとちょうど男女一組がベンチに座っていた。僕は彼らに声をかけに近づいた。

「あ、どうも」

「ん?」

 女性の方が僕を見て、つられて男性の方もこっちを向いた。

 女性の方はボブカットに三つ編みを一つおろしている、桃色のカーディガンを着て、スカートの下には黒タイツを履いた防寒対策ばっちりの服装だ。もう一人の男性はハンチング帽にこの時期には暑そうな厚手のコートを着ていた。まるで肌を隠しているように。

「ソラ君に用があるのかな?」

 女性の方がそう尋ねる。男性の方はソラのようだ。

「あ、いや、違うの。僕はいろんな人に挨拶しておきたくて今こうしてぶらぶらしていたんだよね」

「なるほどっ! なら私にも用があるってことだね。私は不二(ふじ) アカリ。ほらソラも」

「うん。ソラくんの名前は比々乃(ひびの) ソラ!よろしくね!」

 呑み込みの早いなぁと不二さんと変わった一人称の比々乃君だ。

「僕は佐藤 タケル。一年間よろしくね」

 この二人の名前は思えば松本さんから聞いたな。確か幼馴染だったよね。

「お近づきの印に………ソラくんからプレゼント!」

 と比々乃君は携えていたバックからリンゴを取り出した。

「え、あ、ありがとう」

「ソラのおじいさんが青森でリンゴ農家やっているんだよ。それでよくリンゴ送られているみたいなんだけどねそうやって周りによく配るんだよね」

「ソラくんのおじいちゃん、凄い美味しいリンゴを作るんだ。だからこうやって布教しているんだ」

「へぇ~そうなんだ」

「タケルくんだっけ。ほら、思いっきり行ってみな、ガブリって」

「え?」

「そのリンゴは皮まで美味しいんだ、だから剥くなんて勿体ない!」

「僕、リンゴをそのまま齧ったことなんてないよ」

「そうだよソラ。佐藤さんが歯槽膿漏になったらどうするのよ?」

「そっかー、残念。まぁでも食べてよ、とっても美味しいからさ」

「うん、ありがとう。貰っていくよ。ところで二人は幼馴染なんだよね?」

 それからしばらく僕らは談話で盛り上がった。

 その中でも話題にあったのは松本さんの印象だった。今頃、彼女はくしゃみの一つでもしているのだろう。


《同刻/302号室》

「っくしゅん!」

 松本 アスカは室内で一人くしゃみを一つしていた。

「………ふむ。佐藤君が私の噂をしていると見たが、どうだろう?」

 そんな問いを答えてくれる人はここに誰一人としていない。

「ま、どうせ正解だろうな」

 そう言ってそのままベットに横になった。

新キャラが一気に出たので1人1人話しておきましょう。

基本的に序章の隙間[2]に準えたものになっています。


来栖、この人は兎にも角にも可愛いです。背の高さは佐藤君より低いです。誤差レベルですが。


狗神さん、彼女は名前の名前はかの学者の一部から取っています。シャイであることと数学好きの設定は初期からありました。ですが長身であるところは今回書いて付け足しました。可愛いもの好きのため、標的となる来栖とのかかわりも増えることを見据え、身長差を作ったら面白いんじゃないかと上位存在的な目になってしまいこんなことになってしまいました。まぁ私はこれで良かったと思っています。


不二さん、まだその片鱗を見せていませんが腐女子です。そのうち、どこかで、わかるかなと思います。


比々乃君、ちなみに彼の苗字を打ち込むときは「ひ・おなじ・の」とやって左の通りになっています。本当は日々野という名前にする予定だったのですが日笠さんの日、宮野くんの野が被っているから今の字にしました。読みはあれど架空だと思います、この表記は。ですが架空でも彼の名前はスペシャリティーさは欲しかったのでこの名前にしました。

ちなみにリンゴ好きの設定は、彼の初期構想を練っていた時、大好物だったリンゴがそばにあったのでこうなりました。季節が違っていたらミカンが好物になっていたかもしれません。

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