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42人の教室  作者: 夏空 新
第一部【箱庭の青春編】―第1章

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22/86

9:4月1日 (9)

《19:12/外》

 松本さん・秋月君との夕食を終えてから、僕は寮の外に出ていた。特に目的のない行き当たりばったりの散歩だ。夜は夜で妙な雰囲気を思える。この新都島は巨大なコンクリートの壁に囲まれた筒状の島なのに街灯の明るさが一般的なものより明るいのか普段の夜の街の明るさと大差を感じない。今日の昼に怪我した時寄ったドラッグストアはまだ営業中で明かりがついていたが、眩しさについては煩わしさを感じない。他の店についても同様だ。

「あぁ、そこの!」

 ぶらぶらと歩いていると後ろの方から声が聞こえる。僕はハッと振り返るとそこには一人の男性が立っていた。藍っぽいブレザーの下に派手なアロハシャツを着て、チェック柄で裾を捲ったズボンを履いている。髪も少し茶色がかった様子だった。少なくとも島民ではなさそう、年も近そうで同じゼミ生だと思い僕は彼の声に答える。

「いやいや、実はお前のこと探していたんだよね。あぁ、俺も君と同じゼミ生だからよ」

 高圧気味に話しかけ、僕に近づいてわかったが彼から微かにタバコの匂いがする。同じゼミ生ってことは同い年だよね…?

「松本からはこの辺にうろついてんじゃないかって言われてよ、ずっと探し回っていたんだ」

「えっと…僕に何か用でもあったかな?」

「おう、あるぜ。あぁ、誤解だけはしないようしておきたいが本当に話だけだから安心はしとけ」

「はぁ…」

「単刀直入に言う。お前は誰だ?」

「…………………佐藤 タケル」

「佐藤 タケル…………そうか」

 僕の名前を聞くなり神妙な顔をした。まるで僕の名前に何か思うところがあるような表情だ。

「そっか、佐藤。一年間よろしくな。俺の名前は天海(あまみ) コウスケだ。ちょっとばかりビビらせちまったかな、だとしたら悪かった」

「正直ちょっとびっくりした。僕より背も高いし、こう圧が凄いというかなんというか…」

「ハハハッ!そうだな、お前割とチビだもんな!」

 高笑いで天海君はそう言った。そこまで言われると少し傷つくなぁという言葉を抑えつつ「ハハ」と愛想笑いでごまかした。

「とりあえず天海君、一年間よろしくね」

「おう、急に呼んで悪かったな。そんじゃ」

 そう言って天海君は去った。向かう先としてはホテルの方だろうなと考えられる。

 しかし妙な人だな―――――

「えぇ本当に妙な人ね」

 僕が考え事をしていると後ろから松本さんの声が聞こえ、僕は「えぇ!?」と間抜けな声を出しパッと振り返った。

「やぁ佐藤君、数分ぶりといったところか」

「いや怖いよ………」

「む? 気づかなかったというわけかい?」

「全くもって」

 そう言って僕は行く当てはないが歩き始めた。松本さんもそれについて行った。

「まぁいいじゃないか。驚かせてしまったこととさっきの一幕を見守っていた件については詫びておこう」

「そこまで怒ってないから大丈夫だよ。それよりも松本さん」

「なんだ?」

「君も同じことを思っていたんだね、天海君のこと」

「えぇそうね。彼は私に君の居場所を聞いて会おうとしていたから気になったのよね」

「それは僕のことが心配だと思って? それとも天海君の動向が気になって?」

「後者かな……佐藤君は心配せずともどうにかしていたでしょ」

「それは買い被りすぎだよ…」

「なんてのは冗談で、万が一天海君が君に危害を加えるようだったら私がフォローを入れたとこよ」

「そうなんだね」

「話を戻すが、私は天海君の動向が気になって彼に尾行することにした訳だ。それで実際に君たちが話している様子を見ていた」

「一通りは聞いていたんだね」

「えぇそうね。しかし彼は一体何がしたかったのか理解できなかったわ」

「うん。僕の名前を聞くだけで満足している様子だった。僕なんか本当に殴られるかとビビっていたよ」

「一体彼は何がしたかったのかしらね」

「さぁね………それ込みで妙な人だなって思った」

「少なくとも頭に入れて損はないかもね」

「そうしよう」

 一通りに話題が落ち着くと松本さんは足を止めて声をかける。

「……ところで佐藤君」

「ん?」

「君は一体どこへ行こうというのだね?」

「別に行く当てはないけど…まぁ、散歩?」

「そう………じゃあ私はこれ以上ついて行く必要はなさそうね」

「まぁいつまでもこの辺をウロウロしていても気が遠くなるからそこのコンビニ寄って適当に買い物したら帰ろうとは思うよ」

「なら私もせっかくだしついて行こうかしら」

「松本さんも何か買うの?」

「あればね。とりあえずは初めて行くからラインナップを確認しておこうかなと」

「そっか」

 そうして僕らはすぐそばにあったコンビニに向かった。


《19:19/コンビニ『セロマ』》

 暗がりの街並みに煌びやかなライトが一つ、前に住んでいた場所でも何度と見たことか見慣れたコンビニが一軒あった。中に入ると聞き馴染みのある入店音が鳴り、高身長の男性がボソッと「いらっしゃいませ」という。

「おやおや~?」

 僕らがコンビニに入るなり、店員以外からの女声がこちらに飛んでくる。声の方を向くと、女性二名が立っていた。一人は僕より少し高いが低身長でポニーテールを揺らしている。もう一人はおしとやかそうな風貌でこちらを見ていた。

「あら、あなたたちは…?」

 おしとやかそうな少女は次いで言った。

「えーっと君たちも同じゼミ生だよね」

「うん!食事会場とかで見たような見なかったような……たぶん初めましてだよね?」

 小柄の少女がハキハキと回答し、その後に訊いてきた。

「僕は少なくとも初めましてだけど、松本さんは?」

 松本さんに確認をしたら「私も初めましてよ」と一言。

「じゃあこんなところでの自己紹介だけど僕は佐藤 タケル。こっちは松本 アスカさん」

「佐藤 タケルかぁ………そうねぇ、タケちゃんかタケルンか」

 いったい何の話をしているのかおおよそ掴めたが何も言わずそのままでいた。

「ねぇねぇタケちゃんかタケルンか、あ―待ってターちゃんもいいなぁ、なんて呼ばれると嬉しい?」

「いやぁ……君の好きなように呼べば」

 小柄の少女はノリが軽いようで、距離の詰め方も中々グイグイと来るようだ。勢いのあまり僕は彼女の名前を聞かずに「君」で通している。

「もう日笠さん、佐藤さんがあなたのテンポについていけていないわ」

 おしとやかな方が小柄の少女、つまりは日笠さんの止めに入った。

「おっとごめんごめん!私としたことがついうっかり、グイグイと行き過ぎちゃったかなぁ、もしそうだったらごめん! とりあえず呼び方は適当に決めておくね~。で、私は日笠(ひかさ) カナデ。神奈川にある鳥籠[荷稲(かいな)]学園から来たよ~。で、こっちがほそやんこと細谷(ほそや) ミオ!」

 日笠さんがハイテンポな調子で話すものでまったくこっちは追い付けない一方である。

「代わりに紹介してくれてありがとう、これ以上お店の中で話すのもアレだしお互い買い物を終えてから外で話しましょ」

 細谷さんが横からブレーキをかけてくれた。日笠さんも素直に「はーい」とだけ言ってお互い買い物に戻った。


《19:21/コンビニ『セロマ』前》

「お、タケルンとあーちゃんだ」

 僕らがコンビニを後にすると日笠さんから声がかかる。日笠さんの中で僕はタケルンで松本さんはあーちゃん呼びになったようだ。松本さんの方はどう呼ぶか確認していないように思えたが…。

「おまたせ」

「佐藤さんたちは何を買ったのですか?」

 細谷さんが僕らにそう尋ねてきた。

「僕はもう少し起きていようかなとコーヒーをね、松本さんは?」

「私はあくまで佐藤君についてきただけだから何も買ってないわ」

「えぇ~、タケルンもあーちゃんもそんなに買わないんだ。よくわからないけどここで使えるポイントが潤沢だから少しくらい贅沢してもいいじゃ~ん」

 そういう日笠さんの手には小さいビニール袋が丸くパンパンになるほどの形でところどころに角の凹凸が見える。あぁこれはおそらく、箱型のお菓子でも買っているのだなぁと考えた。

「あとで痛い目見そうだから最初は控えめに動いているだけだよ」

 これについては事実、しかし電車利用やさっきの買い物での消費をそれぞれ合算しても0.3ほどで全然減っていない。リアルマネーに換算したら相当な金額を持たされているようにも感じる。

「タケルンは堅実だね~。でも確かに気持ちはわからないわけじゃないよ。私もこんだけ買ったのにポイントが1しか減っていないんだからさ」

 と日笠さんはちょっと動かしただけでガサガサとなる袋を持って言った。

「さてと、4人揃ったところだけどどうする? ここでお話でもする? それともホテルに戻りながら話でもする?」

 横から細谷さんから提案したが満場一致で戻りながら話すが選ばれた。


 そこからはというと僕らはなんて事のない当たり障りのない会話をしていた。例えば前の学校でのこと、例えば部活のこと、バイトはやっていたのかとか恋愛事情などなど。日笠さんは特に僕のエピソードに食いついてきた。変わりものの部活に入っているわ幼馴染兼彼女と同棲しているわとなれば、彼女にとって面白味のある話なのだなと思った。

 日笠さん自身は美術部に励みながらバイトをしていた。確かに人当たりの良さはそこから出ているのかなとは察しがついた。一方で、細谷さんは合唱部に所属していてそれ以外でわかったことはない。ただ確かにおしとやかさに加え、彼女の声はとてもきれいだなとは会話をしている中で気づいた。僕が彼女らと話してわかったことは以上だった。


 ホテルに戻ってからはというとマリアと軽く通話し、その後更にゼミについての調査を実施した。ゼミのことをいくら調べても存在について語るのみでその内容は不明のままだった。そうして僕が寝たのは0時半を過ぎたころだった。

天海君は初期段階だと『時間や細かいことにうるさい男子』を考えていましたが、なんだか薄いなぁと思ったので不良少年にして少し意味深な感じに修正しました。彼はどうなるんだろうね…?


日笠さん・細谷さんはむしろ初期通りの設定を大事にしています。強いて言うなら、日笠さんが美術部にいるという設定はこの場でできたものです。意図についてはあるのかないのかご想像にお任せします。

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