Pre01:発端にあたる3/16(上)
僕の名前は佐藤 タケル。鳥籠[陸奥]学園の生徒だ。補足だが、[]内の言葉はその鳥籠学園の初代校長の名字から取られる。
現在、まもなく高校三年生になり、これから本格的な受験勉強に突入だという頃に差し迫ろうとしていた。進路先は秋ごろからおおよそ決定していた、がここでは語るまでもないことなので省略。
さてここまでの僕を軽くまとめた。本来ならこのまま普通に進級するという流れだった。だけど変わった。3月16日の朝からすべてが変わった。
ということでその日を語ろう。といってもダイナミックな展開とかは特にないので期待はしない方が無難だ。
《3月16日/7:13》
「タケル~、起きた~?」
聞きなじみの女声が耳に入った。僕はそれに答えるために目を覚ました。微かにボヤけた視界の先に少女の顔が映る、よく見る顔だ。
「おはよう、マリア……」
目を擦りながら僕は彼女の名を呼んだ。
僕がマリアと呼んだ少女について、自分の過去を重ねながら補足レベルで解説しておこう。
彼女の名前は御國名 マリア。現在、同居している同い年の幼馴染だ。知り合った切っ掛けは僕の父親と彼女の父親が大の親友で、しばし彼らのほかに当時仲の良かった人たちで集まっていたことだった。その集まりに僕らもおまけのように一緒に来ては遊んでいた。集まりにいた大人たちは僕らを見て若夫婦だなとよくからかった。でもどんなことを言われようと僕はマリアと過ごす日々は好きだった。
だけど僕らが中学生になった頃には大人たちの集まりもいつの間にかなくなった。別段彼らの間で関係が断たれる事件があったわけでもない。ただ単にみんながいろいろと忙しくなり、集まる機会が減り自然消滅した。僕はこの集まりがあって初めてマリアに会えたわけで、これの消滅は2人の間の橋を破壊させる結果となったのだ。
だけど再会できた。一時期はもう二度と会えないとまで思ったくらいだったが随分と早い再会だったと思った。再会のきっかけは同じ高校への入学だった。
そもそも僕の住んでいた家から鳥籠[陸奥]学園まではかなり離れていた。登校するのに乗り継ぎ数回で40分以上費やすほどだ。僕自身それは大したことのないものって思った、だが父は違った。あえて家元から離れさせるという考えに至った。あくまでも人生経験のためで、決して嫌悪とかそういう感情でそう思ったわけではないらしい。いろいろと話し合った末、僕は一人暮らしすることになった。
だけどここで大きな予定狂いが起きた。僕と同じ家元を離れ、鳥籠[陸奥]学園に通おうとした人物が現れた。そう、マリアだ。
今思えばフィクションみたいな話だ。昔から付き合いのある異性の幼馴染と偶然同じ状況下になり、一つ屋根の下で共に過ごすこの絵に描いたような展開をまさか僕が再現するとは思わなかった。
とまぁそんなこんなで僕ら2人は同居することになったのだ。
以上がここまでの彼女の紹介と僕との関係についてだ。
やはり思春期真っ只中の男女が暮らしているといきなり語られていても戸惑うだろう、それゆえの解説としていったが半ば脱線したようだ。
「今日はいつもに増して眠そうね、夜更かしでもしてたの?」
マリアは僕の顔を覗き込むように視線を合わせながら訊いた。
「あぁ……」
寝ぼけながらなかなか起動しない頭を無理やり回転させ記憶を辿った。だがすぐにピンと来た、時間から見れば今日にあたるが0:00からアニメを見ていた。別に隠そうとかそういうつもりではないが、僕はアニメが好きだ。本当に好きなものや気に入ったものはたとえ次の日が学校であろうとそのアニメを見るまでは寝ないで見るほどだ。
この日もまさにそのパターンだった。0:00からやっていたツミホロボシノセカイ、0:30からやっていたIKAZHOT、この2つを見るため夜遅くまで起きていた。ちゃんと寝たのも1:00を少し過ぎたころだ。
「今何時ぃ?」
寝ぼけながらも枕のそばにあるデジタル時計を見れば、時刻は7:13を示す。いつもは23:00頃に寝て6:30頃には起きる習慣を意識しているがやはりアニメを見るという事柄のせいで思うようにいかないものだ。
「あぁ……起こしてくれてありがとう……マリア……」
欠伸交じりに目を擦りながら僕は礼をした。過去にマリアからモーニングコール無しでかなりの大寝坊をして危うく学校に遅刻しそうになったという事件があり、それ以来マリアはいつもの時間より遅く起きないときは絶対起こしに行くよう心掛けている。
非常に申し訳ないと思っているが、少しぐらい甘えてもいいのかなとつい思ってしまう。
「どういたしまして。まったく、そんなになるなら最初から録画とかすればいいのに~」
マリアはため息交じりで呆れたように言った。これに対し僕は「わからない人だなぁ、いいかアニメとはな――――」と熱弁を振るいたいところだがあまりにも眠く、言葉を見つけるどころかそれを言うこと自体を思い出せなかった。
「まぁいいわ。着替えたらリビングに来て、朝食作ったからさ」
そう言ってマリアは部屋を後にした。まだ完全とは言い切れないが75%ほど目が覚めた。僕はベットから降り、部屋着から学生服着替えた。
一応、今住んでいる場所についても解説しておこう。僕とマリアが生活をしている拠点は、通っている学校から徒歩20分ほどで着く場所に位置する『マンション・リヨネイル』だ。大きなリビングと、2つの個室、そしてキッチンやトイレ、風呂があるまさに2人暮らし向けの部屋だ。少しばかり家賃は高めだがそこは問題ではない(お互いの父談)という。言わずもがな、2つの個室は僕らそれぞれの寝室兼自室にあたる。
着替えてから自室を出て、リビングへ。
テーブルの上にご飯、焼き鮭の切り身、味噌汁が並んでいた。室内はその並んだ食事の香ばしさ、テレビからはニュースの音が広まっていた。
「起きたね、それじゃあ私は先に学校に行くから」
マリアは言った。カバンを片手に準備万端のようだ。
「今日なんかあったっけ?」
「生徒会の集まりがあるの」
僕の質問に対しマリアはそう答えた。マリアは生徒会執行部の1人だ。普段は2人一緒に家を出て登校するが、こういう風にバラバラのタイミングで登校するということもある。これは決して珍しいことではない、がそれほど頻繁に起きるわけでもない。
「3月だってのにまだ仕事あるんだね…?」
「いろいろとあるのよ~」
そう言ってマリアは急いで家を出た。どうやら相当急いでいたようで、わざわざ僕を起こすために時間を費やさせたのは申し訳なかった。
「今日はマリアの好きなおかずを夕ご飯にするか…」
僕はマリアの好物ってなんだっただろうと思いながら、呟いた。
僕と彼女の間のルールの一つで朝食はマリアが、夕食は僕が作るというのがある。今僕の目の前にあるご飯や味噌汁はマリアが作ったものだ。
「とりあえず、早く食べて僕も学校へ行かないとね」
僕は朝食を食べ、身支度を整え、家を出た。
まだこの時、あんなことが起きるなんて予想もできなかった。
年の近い男女がひとつ屋根の下で暮らすだなんてアリなんでしょうかね?
最初はそんな疑念疑問も抱きながら書いた記憶があります。いや、未だに疑問だわ~。
これは小ネタですが、佐藤君の見たアニメのタイトルはかつて自分が書いていた小説のタイトルです。そのまんま採用しています。