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42人の教室  作者: 夏空 新
第一部【箱庭の青春編】―第1章
13/83

1:4月1日 (1)

《4月1日/7:31/???》

 不慣れな環境で初めての目覚め。昨日の夜は早く寝たがそれでも不十分で少しだけ倦怠感が押し寄せてくる。眠いが今ここで目を閉じても深い安眠はできない、そんな中途半端な状態で見慣れないが、ただ変り映えすることのない天井を眺めた。黒よりの赤い天井は無感情なまま僕を見つめているように見えた。ふとベッドそばの時計に目をやると、7:31、今日は平日の金曜日であるが【事前にこの地に慣れよう期間】という謎めいた期間(提言したのはもちろん担任の天堂先生)が挟まれ休日と同等の立場であるのだ。そんな休日であっても普段だと起きるには早すぎる時間に起きてしまった。その原因はやはり昨日の疲労が抜けたからだろう、確か最後に時刻を見た時は21:19だったような。そう思うと昨日は実に健康的男子の規則正しい睡眠時間をとったことになるのだなと感じたくもない喜びを得てしまう。

「はぁ…」

 時計から目を離し、再び天井を見てなんとも言えない感情に押しつぶされてため息が漏れる。他がどんな気持ちであるか一切わからない。それもそうだ、突然謎の、形容し難い、説明の出来ない状況に落とされたのだ。青天の霹靂なんて言葉が今この瞬間に脳裏を過ぎったがまさにこのことを指しているものかと思えた。

 不死、これが僕らに与えられたものだ。文字通り死なない、死ねない(?)。全くもってそれを理解できない。

 多少の時間は過ぎたものの未だに実感がわかず、受け入れるのも非常に困難なものであることは十二分にわかっていた。なにせ、たった一人の男の指鳴らし一つで僕らは不死になった、特別な手術とかそういうことなしでなれた。もし本当なら、今すぐにでも首を吊って試してみたいところだが、なかなか死ぬ勇気もなければ動機もない。それに実は不死になっていませんなんてことになって本当に死んでしまったらと思ったら………背筋に冷たく細い風が下から上へ吹きあがる感覚がして思いがけず肩を震わせた。


 改めて目を閉じ、半ば現実逃避じみたことをし始めた。そして僕はあの日あの時の場面を振り返った。天堂先生が開講宣言をし、僕らが不死になった直後のあの場面だ。


《3月31日》

 不死になりました宣言の直後、室内はざわついた。先までの沈黙が嘘みたいに思えるそれはどよめきとも言えて、落ち着きもないものだ。僕のその時は一言二言発していたかもしれないが当時の僕は困惑が勝ってしゃべる余裕すらなかった。むしろこの状況下で一言二言でも発せられる人間の方が大したものだとどこかで感心している心情も含まれていた。

「ちょ、ちょっと待ってください! 不死になったってどういうことですか!?」

 天堂先生以外でその場で初めて発言したのは聞き覚えのある声、結城さんだった。彼女は勢いよく立ち上がったのか、おそらく椅子だろうものが荒々しく動く音と共に発声した。僕の席からはかなり離れた位置だったためその声の量はあまり大きいものではなかったがそれでもどよめいた空間をスパッと切りこむものだった。その鋭い一声は再び沈黙を生ませた。だがこの場合の沈黙はきっと、これから言うであろう不死の概要を話す先生の言葉に注目を持ち、しっかりと聞きこもうとする意志の表れだろう。

「そりゃあみんなもわからないよな、突然不死になったなんて言われてもさ。だけど文字通り君たちは不死になったんだ、死ななくなったんだよ、一時的にね」

 先生はそう言った。さらに

「本当かどうかは君たちの手で試してくれよ、俺だってさすがに生徒に手をあげるなんて無粋な真似はしたくないんでね

 実際のところ、俺も半信半疑なところはあるんだ。たかが指パッチン一つで君たちが不死になれたのか疑問に思っちゃうよ。まるで魔法使いみたいだ」

 と続けた。それは実に答えになっているようでなっていない返答だった。恐ろしいことに、本人でさえ、真実か否かわかっていないのだ。結城さん自身もこれ以上の言及がないのかそのまま黙り込んでしまった。

「さーって、これが今回のゼミ第43番目鳥籠学園集結ゼミ改め、42-死人-(シニ)ゼミだ」

 先生はそう言って彼の背後にあるホワイトボードにペンで書いた。シニゼミのシニは僕ら生徒のべ『42』人と『死に』んを語呂で合わせたものか。

「君たちはこれから新都島にある43番目の鳥籠学園、鳥籠[終焉]学園にて1年間、不死と共に生活をする。これが今回のゼミの大前提だ」

 その言葉を発した後、先生は眼鏡をクイッと触る。こうしてシニゼミなるものは始まってしまった。


《4月1日》

 おおよそ振り返り終わったところで再び目を開いた。それで理解できたかと言えばそんなわけがない。まずこの状況を一旦忘れたいところなのだが、どうしてももう一つ引っかかる点が目立ってしまう。

 不死になったということはまるでこのゼミ内で『死』が前提に置かれているのではないかということだ。確かに昨日今日でこのゼミの概要を全てわかりきったわけではないが、本来不必要であるはずのもの、ここで言うところの不死が事前に付与されるということは、考えられるものとしてその概念に反するものに対立候補となる存在の対処。この場合でいうところの、不死の対立候補というのは間違いなく死そのものであるということだ。回避可能なのか否かはわからないが、常に僕らは死と隣り合わせの状況下であるという可能性は無視できない。このことに気づいたのはついさっきの話だ。多分、松本さんや彼女のように勘の鋭い誰かは気づいているだろうなと思った。


 そろそろ目を開けること、体を動かすことに余裕を感じてきた僕はベッドから起き上がることを決めた。そして陽を閉ざすカーテンを開けるとそこは―――――ビルの森におおわれた街だった。陽の光は差しているが空はあまり見えない、そりゃそうだ筒状になっているこの島ならあって当然のことだ。だが筒の世界でも前にいたところと大して変わりなく車や人が行き交っているのが見える、見慣れた風景だ。むしろ不気味にも思える、というのも筒状の隔絶された世界なのについ昨日までいた世界と瓜二つに思えるからだ。極端な話、地図無しでも迷わずこの街を歩ける気がしてくるほどだ。

「さすがにそこまで似すぎた街であるわけないか」

 と僕は吐き捨て、再びカーテンをピシッと閉ざした。そしてベッド向かいにある机の上に置かれているスマホに似た長方形の電子機器に目をやる。

 これについては昨日の回想に従って説明した方がいいだろう。


《3月31日》

「このゼミのやること事態は基本的に完全に秘匿なんだ。それはこのゼミ内の鉄則なんだ。君たちだって聞いたことはないだろ? このゼミの実際の内容は」

 天堂先生の言葉に異はない。確かに過去にもあったようだがその実際の顔というものは僕ら生徒どころか教師陣ですら知らないものだった。都市伝説レベル単位として学内で囁かれるものでしかなかった。僕がゼミに選ばれたと校長に言われた時も、あの人はこのゼミのことを知っているようにも感じなかった。ただ選ばれた僕を祝福することしかしなかった。もし不死になるゼミだと知っていたらあんな明るく送り出そうとする顔はできないだろう、出来たとしたらそれは異常だ、校長が正常か異常かはわからないけど…。

「さっきから気になっていたと思うけど、各席の右端にあるその機械、そこに君たちの携帯電話を差してほしいんだ。目的は連絡先とかSNSのアカウント管理を目的としてね。変にこのゼミの中身を晒されるのは不都合だから」

 と先生は例の機械、卓上型充電器に似たそれについての説明をした。なるほどこのゼミの口外防止をメインにしたものか、しかし具体的にどうやるんだろう?

「それじゃあ差し込んでくれるかな」

 先生のその合図で皆一斉に……というものではなかったが次々と点々と渋々と差し込んでいった。そんな中…

「せ、先生?」

 と一人の男の声が聞こえる。後ろの方からだったので僕はその声の方をちらっと見ると左端後ろから2番目の男子生徒が手を挙げていた。恐らく彼の高校のであろう学生服の下に白いパーカーを着て、クシャクシャの髪を後ろ手に束ねていたのがわかるほどそれなりに長く一瞬女子と見間違えるものだった。確か記憶が正しければあの位置は、因幡(イナバ) 冬真(トーマ)君の席か。

「何かな?」

「俺氏…いや自分、携帯電話のほかにタブレットなんかを持っているんスがその場合はどうすればいいスか?」

 あぁ、なるほど。確かにこの機械、スマホやガラケーといったものを差すには十分な大きさだが、タブレットみたいな比較的大きな機械だと嵌らないな。しかし彼、一人称が少し変わっていたような…。すぐに改めてはいたけれど。

「そのタブレットは例えば電話機能やSNS系統のものって入っている?」

「いや、入ってないッス。これはあくまでゲーム用のものなんで…」

 と因幡君は丁寧に言った、きっと正直に言っているのだろう最後の方は濁して言っているように思えた。

「なら大丈夫だよ、あくまでもそういうものを防止するためだから。他にもそういう人がいたらあくまで電話とかができるものだけでいいからね」

 しかし厳しそうな支配のわりにその点は随分と寛大であるのだなと思った。例えば、向こうに着いてから管理されないタブレットとかにSNSを入れられたりしたら本末転倒になるはず。それでも誰にもこれを知られなかったのはきっとなにかタネがあるのだろうな。

 さて、僕もそろそろこれに携帯を差し込むか。そう思いすぐに行動に出た。すると先まで点いていた携帯電話の電源が落ち、しばらくしたら明かりが再点灯した。この間3分少々だった。

「みんな完了したみたいだね。見たらわかると思うけど、君たちの携帯電話から電話機能、電話帳、SNSのアカウントを一時的に停止したよ。だけど安心して、これらのデータは向こうにある、向こうでしか使えない専用の携帯電話に使えるようにしたから」

 そして不死と同時に制限のかかった生活もかけられたということだ。


《4月1日》

 それがこの機械の正体だ。未だにこれの名前を知らない。この機械は、どうやら電話機能やSNSの管理をするのみならず今後の学園生活でも必需品になるようだ。例えばこれを、普段スマホを使う手でスイッチを入れると


42-死人-ゼミ10期生 生徒番号16

佐藤 武流

20XX年3月21日生

B型


と起動画面にこれが表示される。生徒手帳の役割も担っているのだ。しかしも先生の説明によればこれは………僕はこの機器を片手に今いる部屋を出る。そしてガチャンと扉がオートロックで閉まったことを確認し、扉の横の壁に貼られた機械にその機器を当てる。するとピピッ、ガチャとそれぞれ違った場所から違った音が出て、扉の鍵は開いた。そうカードキーの役割も果たす。この部屋、僕の自室で鳥籠[終焉]学園向かいにあるホテルに似た、いや最早ホテルの形をそのまま残した学生寮の一室の。強いてこの建物のおかしな点を挙げるなら、件の機器を読み取って鍵を開ける無骨で少し小洒落た廊下の雰囲気にそぐわない浮ついた眼前にあるリーダー機そのものだ。僕は再び部屋に戻った。中に入ると再びガチャと音がした。再びオートロックの作動した音だ。

 部屋の様子はと言われたら、本当にホテルの一室そのもので、オートロック式の扉を背にして入るとすぐのところにはトイレと洗面所と風呂場が一体となっているユニットバスの部屋に通じる扉が見て右側にあり、左側には引き戸タイプのロッカーがあり、開ければハンガーとそれ掛けるための鉄製の棒が上に設置され、下にはビニール袋に包装された汚れの一切ない真っ新で真っ白なスリッパが一足置いてある。そんな少し細く短い廊下を抜けると、少し開けた場所になって、見て左側に、三段の収納棚がある。またベッドが右端にドンと置かれ、その向かいに一つテーブルがある。そのテーブルはベッドとそれの間のスペースにゆとりを持たせながら窓と収納棚をつなぐように細く長いものとして設計され、それでも最低限の使用は可能で、ある程度物を置いても決してスペースを取り過ぎないものとして置かれている。さらにこの机にはあらかじめ、小型のテレビ、PC、そして昨日船内の大部屋で見た卓上型充電器に似たあの機械が設けられている。これはあまりにも充実している。そしてそのテーブルの下には小型の冷蔵庫がある。さすがに2Lサイズのペットボトルといった大きめのものを入れるには小さすぎるところもあるがそれでも最低で500mlサイズのペットボトルなら3~4本は収納できる。本当にホテルの一室そのものだ。掃除等々は個々の施設の人が不在中にやってくれるようで、更に洗濯物については所定の場所に設けられた洗濯機が置かれた場所に赴き、洗濯物を入れてから、誰のものかわかる旨のことを伝えると乾いた状態で部屋に置いてくれるとのこと。ここまで生活に充実感を与えすぎていいものだろうか? しかし少しネックな点もある(ネックと言ってもそこまで気難しいものではないが)。それについては再び例の機器、そろそろ機器と呼ぶにも何のこととなりそうだから支給フォンと仮称する、に登場してもらう必要がある。この支給フォンは身分証的な待ち受けのあとにロック解除すると、管理(もしかしたら監視も)されているだろう電話帳やらSNSやらのアプリが入っていて、そのズラリと並んだアイコンの横に一つ¥マークが表記されたものがある。これを開くと……100という数値がただ何も変わり映えすることなく、無機質に映る。

これはどうやらこの島内でのみ使える通貨のようだ。単位については特に触れていないので今は仮にポイントと呼ぶこととする。この島での生活、例えば買い物や移動にポイントを使用するようだ。大体、1ポイントあたり何円なのかそれすら疑問なところはある。そしてこのポイントは僕らの寮生活でも使用料等々が発生し、引かれるとのことだ。その額についてはすでに発表されていて、20ポイントのようだ。ここまでもここからも全て天堂先生の説明。ポイントは月替わりの1日朝7時ちょうどに追加が入る、恐らくテーブル上にある支給フォンを差すための卓上型充電器に似た例の機械はこのためだろう。月に入る額は一人あたり一律で50ポイント、しかしその時間に丁度寮の使用料も引かれるので実質配布されるのは30ポイントだ。だがこれについてはゼミ内における生徒の出来次第で多少増えるとのこと、減ることについては言及していなかった。また交換や譲渡は不可能とのこと。もうすでにポイントは使用可能でいつでもどこでも使えるようだ。例えばこの寮を少し出たところの近くにコンビニエンスストアがあるが、そこへ赴きレジに欲しいものを出した後にこの支給フォンで恐らく向こうにあるのであろうそれを読み取るためのリーダー機をタッチすれば取引が成立するってことになるイメージだ。電車の乗り換えのみならずコンビニや所定の店でも使えるICカードと似たり寄ったりな機能を持っているというわけだ。


《8:01/自室》

 ああだこうだと昨日のことやこのゼミ内の現時点でわかった規則云々を一人で復習している間にもうこんな時間だと気づかされた。確かこの時間帯は……と支給フォンを開き、先に紹介したポイントが確認できるアプリの隣にある今日の日付と曜日が示されているアイコンのアプリをタップする。それを開くと本日の予定という題目で1時間区切りの日程が書かれていた。そうこれはスケジュール確認のためのアプリだ。しかし今日みたいな特に予定も何もない日はこの時間にある予定があること以外【自由時間】と書いてある、然し今はこれでもゼミなるものが始まれば多少は実のあるものになるのだろうなと思い、眺めていた。少し言い遅れた、さっき言った『ある予定』だがそれは……【朝食】だ。わざわざ溜めて言う必要はなかったな。

長ったらしい復習および現状況解説回でした。


これから朝食→そして……と続きます。0の隙間[2]に出たあの人この人も次々と登場していきます。


この段階ではですが、あらすじはもう少し練ってから更新します。


どうでもいいですが、このペンネームは珈糖(コウトウ) ヒンメルと読みます。ただ単に砂糖入りコーヒーが好きだからという理由でこれにしました

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