表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

来来スイング

作者: ともピアノ
掲載日:2017/02/19

麻美は、地上70階建てのビルの屋上、塀の柵を乗り越えた端に立っている。両眼を静かに閉じて、両手を平行に伸ばし、微動だにしない。下方からは、人や車のを行き交う喧騒もせず、周りのビルや建物からも、人の気配が感じれない。ただ、月明かりが、地上を照らし、星の斑《まだ》らかな光が、見えている。


恐いけど、大丈夫。慣れて来た。すぐに、終わる。これで、いいんだ。麻美は、自分に、言い聞かせている。きっと、今度こそ、終わる。感覚と言うか、前にも同じ事した気がする。此処から伝わって来るんだから。胸に手を当てる意識の感覚を操作して、言い聞かせる。


行く時の時間が進み、辺りが蒼黒い空から、赤紫色に変わり出して来た。

そろそろ時間ね。微動だにしなかった麻美の体が動き始めた時、呼ぶ声がする。


「麻美、どうしても、行くのか、分かっているのか」

麻美には、何者かの声は聞こえていない。心を落ち着けるとか、安心すると言う事は、出来ない世界にいる。夢の世界にいる。夢の世界への入り口にいる。


夢の世界と言っても、ただ、体を頭を休める為に必要な眠りの中で、脳が、操作して起こりうる映像空間では無い。麻美が、望んで、進み出した為に造られている夢の世界である。


麻美は、変わらない、努力しても、結果が、見えない今の現状にうんざりしていた。なんで、やりたい仕事でも無いのに、やらなければならないのか。


数々の上司によるパワハラを受け、同期で、仲の良かった、可知子らの、嫌がらせや、派閥に加わらない為に、会社では、村八分の様な境遇に陥られてた。


麻美にも原因はある。学生の頃、可知子と一緒に見たオリンピック中継で、ソフトボールの日本代表が、金メダルを取った。感激して、涙が、止まらない麻美に可知子が、一緒に軟式野球部に入る事を進めた。武者震いする程興奮していた麻美は、二つ返事で、OKした。


今まで、運動する事は蚊帳の外の様に感じていた。応援する事で、一体感を得られていて、自分が、選手になるなんて考えた事も無かった。


負けん気と人値倍の努力で、半年で、1番サードの枠を可知子から、レギュラーの座を勝ち取った。幼少の頃に父とキャッチボールをして、軟式野球を始めた可知子としては、称賛するよりも、悔しさと恥ずかしさがあったに違い無い。

事態に、二人の仲は悪くなり、内気な性格の、麻美を、敵視して行った。有らぬ事の疑いを掛けるように仕向けたりして、クラスでも、孤立する麻美を嘲笑った。

麻美は、折角勝ち取ったレギュラーの座を去る様に、試合中に、左足に打球を受けて野球部を辞めて行った。



今日の私、昨日の、私、明日の…。

どれも、赤いワンピースに、赤い、パンプスの私が、社宅と会社を往復する毎日。帰りにコンビニで、お気に入りのカフェラテと、即製のおかずパックを購入する、いつもの私。そう、私はいる。

コンビニの店員が、男性か女性なのか、年齢は、容姿は、個性は、と気にする事はない。店内に何人の、年齢は、容姿は、個性の客が、どうして、此処《ここ》にいるかなんて、知る由《よし》もない。それぞれの、時間、理由、経過が、繋がり、現象を起こしていると言えるだろう。


例えば、今、コンビニに、寄っているとして、目の前の、中肉中背の、白い半袖の襟《えり》がいたんだシャツを着た、白髪交じりの、天パー掛かった肩に掛かる程の長さで、黒い額縁の眼鏡をした、男性が居る。5分程度、お握りと弁当のどちらを購入しようと試行錯誤しているが、此処までの、道程、これからの現象はと、想像して見るとする。


お昼を、学食の食堂で、昼のテレビの、気象情報で、真夏日、最高気温が、38°cと、知り、いつものカレー定食を、途中から、とろろ蕎麦《そば》大盛りに変えた為、夕食こそは、カレー弁当にしょうと決めた。一瞬、喉の渇きを、ジュワジュワとする、


爽快感を与えてくれる赤いラベルの炭酸飲料が、カレーに合うか、麦茶ならといいかな感じて先に飲み物コーナーに向かうかもしれない。その、途中で、横の通路から、4人グループの学生が、スマホを見ながら、出て来て、ぶつかってしまい、急な出来事に慌てた為、何を、しようと行動していたのか忘れてしまうかも知れない。


もしかしたら、奥の事務室で売り上げの打ち込みをしている店長を入れたスタッフ3人の、シフトで、女性の学生スタッフが、レジで、二人の客を、対応中している。男性スタッフが、カートに、品出し用弁当を乗せて、お握りとカレー弁当を選択中の男性の側で、品出しをし出したら、カレー弁当の購入を止めて、幕内、又は、生姜弁当と変えるかも知れない。


幕内にするのは、煮物が、単に食べたいから、生姜弁当にするのは、値段が50円幕内より高いけど、肉が、カレーに入っている肉より、はるかに多く入って、満足感があるから。考え出したらきりが無い。現象はあるが、大切な事は、なんだろう。楽しい事は、普段通りの生活の中で気にしていないけど対面した周りに変化をしていた実感に、感心を向けていないわけでは無い。



私は、確かに、いる。繋がっていない、対面した世界空間の中では傍観者《ぼうかんしゃ》だとしても。主観も、客観も、気にしていない、現象の一部分の集大成、繋がっていない繋がりの中に。



麻美は、背中半分までの黒髪を、耳が見える様に数すカ所結ってピンで止めている。手と足の爪には、ピンクに濃い目の白い桜の花びらが、連れ立って散る様に塗られている。コンビニから出て家に向かう途中、僅かに陽の光が照らす夕陽に、指を軽く広げた手を当てて、手爪を見ながら歌い出す。


「来来来《らいらいらい》、今日も、明日も、明後日も、私はいる」


右側の車の行き交いが、まだらな四車線の道を、バスが通り過ぎ、麻美の手前10メートルのバス停留所に止まり、4人の学生グループが、互いにスマホを見ながら降りて、目の前のコンビニに入って行った。


コンビニから家までは、人が4人横に一列歩ける程の歩道を200メートル進んで、左に50メートル、坂を登った10分程度の距離である。後方から、電動自転車で、後ろに保育園帰りの娘を乗せた買い物帰りの主婦が、やって来て、右側を通り過ぎる。


二人の会話も、周りの喧騒《けんそう》に消されている。4階建マンションの社宅の入り口で暗証番号を打ち込んでエレベーターに乗り込む。


4階で、エレベーターを降り、中通路《なかつうろ》を左に進んで、1LDKの408号室の門部屋に着いた。即製のおかずパックを白い皿に移し、電子レンジで、3分程度温め、白ご飯、冷蔵庫から、豚肉と玉ねぎを薄くスライスして、人参を薄くすって、胡麻油で和えたサラダと、ワカメと油揚げの白味噌を食べた。


風呂に、軽くシャワーで浴びた後、安心感を感じさせる薄クリーム色のソファに、持たれながら、カフェラテをスマフォで、ゲームをしながら、楽しんだ。そのまま、襟のゆったりとした長袖のグレー色のTシャツと、グレーの短パンを着て、テレビのニュースを付けた状態で、とこに着いた。



その夜、夢を見た。いつもの仕事帰りのコンビニに、入って行く。入った、瞬間、何か違和感を感じた。後ろから、4人グループの学生グループが、スマフォを見ながら、入って来て、麻美に、軽くぶつかった後、会釈して先に進み、左に曲がり、スナック菓子のコーナーを抜け、カレー弁当を、カゴに入れて、飲料水コーナーに、向かっている、


50代後半の白髪交じりの、白い半袖のシャツを着た男性とぶつかった。「あれっ、」と首を傾げ左斜めに目線を向けて、何かを思い出そうとしてる。目の前を、数秒の間に、黒猫が、通り過ぎた。「えっ」と、レジを見ると、学生バイトの女性が、二人の客の対応をしている。



「来来来、来来来、どうする、来来来、来来来、ありがとうございます」

紙かビニールの袋に入れてある黒い燕尾《えんび》のマントを、出して着ようか、奮闘している上背が、2メートル強の何者かがいる。全身を体毛ではない、人工皮に、似た脂質に覆われている。


角や尻尾は、今の所は、見当たらない。手と足の爪は、美しく過ぎるくらい、手入れがされており、光彩で、周りの空間を、薄っすらと照らしていた。

「よくぞ、呼んで下さいまして、あー嬉しい、解放出来そう」


今までとは、明らかに違う。真っ暗な空間の中に誘い込まれた、麻美には、何者かの、容姿は、見れず、声だけが、何処からか、聞こえていた。

「さあ、始めよう、行きますよ、解放だ」

耳鳴りがして、何者かの声も、聞こえなくなり、身体のあらゆる箇所の感覚が、弱まり意識が、遠のいて行った。




カランとは聞こえ、トタンではなくはない、赤靴の嗚咽《おえつ》を打ち付ける。ゴツゴツと硬く至る所がへこんだ石段、足場を阻まれる環境の城壁の苔とツタが幾重にも伸び、たじろぐ肢体を赤々なラップの歪みの跳ね返す音が反響している。迷い込んだ女の理想を揺るがし、狂わして行く。


去る者はされ、得るものは望め、射し入る術は、ただ、信じる道を行くのみ。

「此処は、来たわ、何がどうなってるの」

「陽はまだ、感じるね、暑くなって来た」

「ちょっと、あの、すみません、ちょっと」


黒髪を、床に付けて、息を何度も吸いながら、両手を膝の半分下な赤い土煙を被ったスカートに乗せている。その麻美の進む先を人影が通った。首をゆっくりと上げ前髪を掻き分けて見上げるも、空は積み上げられた石段の岩壁に覆われて、位置が把握できない。


「何で、此処にいるの」

「誰か、教えて、どうすれば」

突如《とつじょ》、背後から頭に強く打撃を受けた様な錯覚と、眩暈《めまい》を感じ、意識が、朦朧《もうろう》として来る。



◯三日前の日


「ゴーゴーlet's go、今日も元気」

「ゴーゴーlet's go、明日は難儀」

「いくらでも、頭下げますよー、」

いつにもまして、張り上げ声高く、マイクの掴む力は今日最強の手汗を押し付けて歌う、女子会、三次会後のカラオケボックス。今回も、部屋に入るないなや、独特な感情に歌詞を混ぜて歌い歌う。


「何処に行けば来来」

「何処を探せば来来」

「来来来来来来来来スイング」

「また、その歌、いいよ麻美ノリノリ〜」


長いストレートの黒髪をクラーの風になびかせ、上下黒のワンピースのスカートを足を臍下まで上げて、右手を額の横でピースサインを麻美がステージで送っている。

端正な顔立ちで、眉は半分揃えて剃り上から黒く塗ってキリッというよりは、仕事様に合わしている。目の瞳は黒丸が強調された、笑うと見つめられていると人に勘違いされてしまう。今、口の端を左右に頬を軽くあげる程開いて、上下の歯をしっかり見せながらニターとドヤ顔をしている。


上下薄グレーのワンピースを着た、セミロングに横髪を軽くパーマがかった年は麻美と同い年の21歳の可知子が麻美に向かって、右手を頭の上で円を描く様に時計周りにグルングルンと回している。


テーブルでは、フライドポテトを3本口に食わえた、上下茶色のワンピースの百江と必死にリモコン液晶モニター画面で選曲登録をしている上下薄グリーンのワンピースの貴美がいる。二人は同い年のショート髪で七三分けのマイペースな落ち着き出した30歳。コンコンとドアを叩く音が鳴り、注文した特大サラミタコもやしピザが運ばれて来ると、4人はピザを囲む様に「お疲れ様ー」と勢い良く黒ビールのボトルグラスがマイクのエコー音の様に余韻を残しながらぶつかる。


「今日は30分が限界ですみません」

「そうね、同じ返答や質問をお客様にさせる会話はストレスを与えてしまうわね大原ちゃん」

貴美がビールを一口飲み大原麻美《おおはらまみ》に仕事のアドバイスをしている。麻美達の仕事は大手企業への仲介役の電話受け付け兼ヘルプセンター窓口係。


「麻美は親切過ぎるのよ、マニュアルは基本だな」

水原可知子《みずはらかちこ》は、口の中でもやしをザクザクと音を立てながら左手の平でトントンと麻美の背中を軽く叩く。

「そうだよ、マニュアルから始めよう」

サラミの絶妙な甘辛さに瞳を僅かに濡らしながら、百江がビールに少し酔った赤ら顔で、天井に向けて人差し指を指差す。


「サラミタコもやしピザ特大追加ー」

麻美が右手でマイクを握って、両手を力一杯振り上げて、声を張り上げた。

「ビールジョッキーで追加」

可知子も首と両肩を軽く揺らして麻美の背中にもたれ掛かった。




◯二日前の日


羽毛の羽の一房、一房は、地上何センチの高さからの風に飛び上がるんだろう。土煙におい被されても、ヒラヒラと空間を舞い、促がされているのか。数秒後の時風に、別の場所から羽が飛んで来たら、お互いは混じり合うのか。幾重にも繋がり、大空を自由に舞う事ができるのか。


上を見る時は上を向き、下を見る時は下を向き、右は右、左は左、斜めは、見える映像の全体を見るレンズ。その眼が、見ている。獲物を威嚇《いかく》、怯《おび》えているのか、時間が、止まった、瞬間瞬間を捕らえる事に集中している。


全身の節々、殻から、血肉を動かして、爆音似た啜り音が木霊《こだま》する。陽よけの為とは言えない、ただ、被れるから、寒さを凌げるから、色褪せて形が崩れても感じずに頭に帽子を被っている。


顔には、垢や異臭を放つ滲み込んだ染みがある。その者が、何日も飢えに耐え続けて、必死の形相《ぎょうそう》で震える、ゆらゆらの手を出して掴み取ったのである。絵筆で色を時間を掛けて何度も何度も塗り重ねて行く味のある色とは違う。


生命の化けの皮の反り上がり、ぎっしりと詰まる肉質を外の世界へ出す事を誘える力を封じ込めた、油油で包み込みあげられた、その物に。


レンズは、己れの有り様を、感じているのか。空間が、重なって、揺らめいて、身に当たる目の前を溶かす程の輝きと熱帯感。僅かに感じれるのは、身を支える物が、今の状態では存在せず、己れの身体のみで、空間に居続ける事ができる事。


右側から急に予期せぬ風を受けて、上の方へ、投げ出される。瞬きする間も無く上の方からも、下方からも、風の壁が押し寄せて来て、重心を失われた。重なり合って調整する視神系のレンズは調整を狂わせ、見えている視界を、右往左往に連鎖させる。


己れを信じ、ひたすら、悪戦苦闘を繰り返す。風を操れる。重なる視界をコントロールできる。距離は測れないが、下の方に、食する匂いを、瞬間に味わえる事を感じれる。

狙いは定まった。その身の食する匂いへの放物線の軌跡は、美しく己れには醜くもある奇跡の連続を感じていたであろう。




◯一日前の日


音が聞こえる。小刻みな、床を叩く、響きが心地いい。離れた距離からでは無く、場所は、かなり近くから音が伝わってくる。音をする方に向うとしたが、体が、動かない。


何故なのと、感じながら、体に覆いかさばる重力的な、全身への硬直質感の耐性は物理的な状態である存在を知らせている。息苦しいとまでは、思えないが、周りを取り巻く空間に、光が届いていないのか、色を感じれない。伝わってくる音は、物に当たる質、高さ、速さ、時間によって、違って聞こえた。


起こり得る事態から、逃げ出そうと試行錯誤する事も無く、思考を繰り返す力が生まれて来ない。

時間が経つほどに熱をじりじりと強く感じる。音が液体と混ざり合うなだらかな響きに変わって行き、熱を帯びた状態の環境が作られて行った。


魅力的な肉質と草本性の味覚に、心惑わされて行き、戒めに耐え難くなり、己れの身を投じて懺悔の如く、本意に身が溶け出している。


呻き声は、発せず、生きとし生けるものとしての運命を、生命の輪廻転生への慈愛と共に存在意識が周りを包む。有る世界を神の雷が容赦無く砕くかのような衝撃音で、右往左往に揺さぶられる。味わった事のない、光熱線を浴びながら、有る世界に亀裂が出来上がり、新たな空間からの攻撃を受けた。



◯当日までに残り5分000…4分59秒000


4分47秒0.008...

麻美は、気づいているのだろうか。刻々と進む時間の結果を。判断につぐ判断に迷いはなかったであろう。後ろを振り向く事も無く、前に進んでいた。


碧い光を幾重にも放つ星々、暗黒を取り巻くガスの渦状の集合体、空の全球の中心部に讃美の龍決戦上が繰り広げる事を信じさせる億単位の星屑の鼓動達の成形図。遥か空の下方に麻美はいた。


麻美を数十倍した厚さの多角形の透明な氷の塊の床に両手両足を伸ばした体勢で点対称的に、うつ伏せな姿勢を続けて、数センチ離れて宙に浮いている。床には垂れ下がる黒髪のみ触れている。天空では、時の間に金色に輝く光の帯を成す流星群が現れていた。麻美の周りに、落ちては、消え、水蒸気となる、


その雫《しずく》の粒の結晶が、何億年間の礎《いしずえ》の起こりによって、数百個の、多角形の、透明な氷となり、空中に漂っている。












評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ