始まる夏の悲劇
何回、友達を失って来たのだろう。
最初の事件は去年の夏。
眩い日差しの中駅のホームで電車を待ってると放送が流れた。
「まもなく18番線路に電車が到着します。白い線を越えないでお待ちください。」
そのあとだった悲劇が起きたのは。
「暑いね。」
友達に声をかけた瞬間目を疑った。
『嫌っ!』
悲鳴が聞こえた。それは友達の声で。
振り向くと友達が線路に飛び出していた。
あと少しで線路に落ちる瞬間に手を握ったが間に合わなかった。
ホームについた電車に跳ね飛ばされた。
そして、その勢いで私も線路上に飛び出してしまった。
衝撃が強かったせいか電車に頭をぶつけて意識が薄れて行く中、不気味に笑う少年が居た。
血生臭い香りがする。
友達はバラバラになって生首は私の方を向いていた。
「嘘…。」
そのあとの事は記憶にない。
無機質な機械音が部屋に響いているだけ。
目を覚まして最初に飛び込んだのは担任の顔。
「……先生…?」
『良かった。3日も目を覚まさなかったんだぞ!いや…その前に医者を連れて来るな。』
席を立ち何処かへ向かう先生。
私って…なんで此処に居るの?
数分が経ち先生が戻って来た。
お医者さんを連れて。
私が体に付けている医療器具を看護師さんが全て取ってくれる。
『3日も意識不明でした。では、質問に答えてくださいね。』
「はい。」
『反応は今ので大丈夫と。頭痛、ふらつき、めまい、吐き気はありますか?」
「ありません。」
『自分の名前は?』
「海音桜花です。」
『思い出せない事は?』
「私…何故…此処に…。」
そう。それしか思い出せない。
なんでだろう。
『友達を庇おうとしてトラックに跳ね飛ばされて。脳震盪で救急搬送をされて来たんですよ。』
私が友達を…?
嫌だ。なんか怖い。何かが始まる…。
「嫌ぁあああああああああああああああああ!!!」
病室に響く悲鳴。
私が壊れて行く。
助けて…。
そしてまた、意識が消えた。
「っ……。」
病室を見渡す。
『桜花!何があったんだ?医者は軽症の意識喪失の疑いがあると言っていたが…。』
「私…去年の夏…友達を…。」
失っていた去年の夏の記憶。
私は去年も病院に居たんだ。
線路に落ちそうな友達を助けようとして、電車に友達が轢かれてその勢いで私も線路に落ちて脳震盪で病院に運ばれて来たんだ。
そして今年は友達を死なせたくなくて私が庇ったんだ…。
それに私の両親も私が中1の時に交通事故で亡くなって…夏に。生き残ったのはこの私だけ!
失ったはずの記憶が頭をよぎる。
『去年の夏の事は教頭から聞いている。大丈夫か?』
「大丈夫です。」
あの日から5日目私は退院できた。
お医者さんからは「体調が悪かったりしたらまた来なさい。2回目の脳震盪は危険ですからね。」と忠告を受けた。
駐車場には先生の車。
孤児院まで送ってくれるそうだ。
でも、明日には学校に行かないと。
なんだろう。不吉な予感がする。
なんだろう。此処は?私の心の空間だろうか?
教室に入った瞬間クラスの目で私は凍り付いた。
まるで、殺人犯を見るような目で。
『アンタ、人殺しでしょ?なんか言いなさいよ!先輩が不登校なのよ!』
友達には彼氏が居た、その先輩が不登校に。
『ねぇ、ニュースで見たけど自殺らしいよ。だってニュースで目撃者の証言に、一緒に手を繋いで電車に落ちたとか。他には助けようとして手を伸ばしたら電車の勢いで線路に落ちたとか。』
『愛梨!人殺しの味方すんの?』
すると学級委員の楓さんが口を挟んだ。
『桜花さんは人殺しじゃありませんよ。防犯カメラに証拠の映像がありましたし。』
楓さんの手にはタブレット。
『は?証拠は?』
『証拠はこのタブレットに入っています。』
動画が流れ始める。
するとすぐに悲鳴が聞こえた。
しかも防犯カメラは私が居た斜め上に設置されている。
『ここからはスローにするわ。グロイから苦手な人は目を閉じてね?』
私が手を掴んだ映像が流れる。そして、電車に跳ね飛ばされて私が線路に落ちて頭を打つ。
そこでも映像は続いている。血が電車に付いている。血の池が出来ている。そこで映像は終わった。
『これが証拠。お父さんの話だと混雑中のホームだから人がぶつかって転落もあるそうよ。』
楓さんのお父さんは警察官。
だから、事件には詳しいらしい。
『証言者の中に犯人が?』
『愛梨さん。それはありえないわ。普通事件の事を思い出すと怯えているもの。犯人が出た場合、犯人は震えて無い。平然としているの。』
『クソッ…桜花今回は良かったな!あの事件でお前も死ねば良かった!』
気づけば胸に刺さってるナイフ。
夢であって!
「ッ…はぁはぁ…。夢…。」
私の体どうにかしちゃったかなぁ。
ベッドから体を起こすと少年が立っていた。
「貴方…誰?」
『僕?僕はね陽炎って言うの。桜花と同じぐらいの年齢に見えるでしょ?』
「そうだけど…なんでこの部屋に?孤児院の子?」
『桜花は馬鹿だな。ハハハッ。俺の本当の姿はこれさ。君の友達を殺したのもこの俺さ!一つだけ言って置こう。僕と俺は同じ存在そして夏にしか現れない。8月の最終日が僕と俺の命の期限だ。』
それを言い残して揺れる影となって消えた。
少年と青年の二つの姿。
まるで二重人格みたい…。
今日で学校が最後。
入院した分の教科を受ける予定になっている。
だから行かないと。
カーテン越しに太陽に光が漏れる。
制服に着替えて孤児院を出る事にした。
学校について教室に入った瞬間息を飲んだ。
目線が私に集まる。
学級委員の楓さんが私の目の前に歩いて来る。
『桜花さん。無事で何よりですわ。知ら無いと思うのでいいますけど、あの子は転校されましたわ。』
「どうして…。」
『事故の後報道者があの子の事を殺人鬼呼ばわりして家を特定してしまったの。だから海外に移住したそうよ。』
「そうですか…。」
無気力に椅子に座る。
また、友達を失った。
授業を受けても頭が一杯。
私…過去の記憶を引きずってる…。
放課後になっても心が落ち着かない。
これから補習なのにな。
誰も居ない教室で先生が来るのを待つ。
『へぇ~。補充なんだ。事故って一週間も退院できなかったからでしょ?今日と明日そして明後日の3日間補習ってキツイね。話聞いてる?』
「なんで、陽炎が居るの。」
『僕と俺は居るようで居ない存在。だから、自由に行きき出来るんだよ。あ、先生の足音。』
揺れる影になり消えた。
なんだかんだで補習は楽だった。
3日なんてあっという間に終わった。
それからは部屋に籠っていたが、愛梨の電話でお出かけをする事に。
今日は7月20日とカレンダーを見つめる。
陽炎の命は2か月だけなんだ。
駅のホームで愛梨と集合した。
不吉な予感はするが電車に無事に乗る事が出来た。
隣町についた時、不安が心を遮る。
すると無意識に手を繋ぎ駅から逃げていた。
「愛梨ゴメン…。」
『平気だよ。』
歩道橋で手を離した瞬間悲劇は起こった。
歩道橋から足を滑らせて転落する。
「愛梨っ!」
歩道橋を駆け下りてるとすれ違った人がこう告げた。
『君は僕で君は俺。朝になれば分かる。』
振り向くと黒のパーカーでフードを被る男性の後ろ姿が。
目の前には血の池。
頭が割れているのだろうか。
「愛梨…なんで。」
人の叫び声が聞こえる中私は呆然と死体を眺めて居た。
「……。」
目を覚ますと見慣れた景色。
これは夢?
スマホの画面を見ると7月20日、午前3時を指している。
最近、人が死ぬ夢を沢山見るな。
LINEを開くと愛梨からのメッセ―ジ。
【明日の朝、遊ぼうよ。駅のホームにいるから】
今日だよね。別にいいや。
布団に入り目を閉じる。
目を覚ましたのは8時13分。
私服に着替えて孤児院を出た。
いちいち「出かけて来ます。」って言うのがめんどくさい。
駅のホームで待ってると愛梨が来た。
『約束の時間、書いてないけど良く分かったね。』
「なんとなくね。切符を買ったし待ってよ。」
10分後放送が流れて電車が来た。
電車に乗り隣町まで行く。
電車の中では喋らないでいた。
現地についてすぐ見知った男と出会った。
しかも、青年の姿で。
「早く行こう…。」
手を繋ぎ歩道橋を駆け上った。
『どうしたの?』
「ちょっと、知り合いが居てさ。」
笑ってごまかす。
『そう。』
愛梨が繋いでいた手を離した瞬間に愛梨が消えた。
階段に目をやった瞬間に男性の声が聞こえた。
『人が階段から落ちたぞ!』
の声で我に返ると階段の下には血の池。
愛梨のハイヒールが階段に残されていた。
足を滑らせて転落したんだ。
『悲しい顔をするなよ。美しい顔が台無しじゃないか。』
「また、陽炎がしたんでしょ…。」
『当たり前じゃん。俺は殺戮の兵器だ。』
揺れる影となり消えた。
今回の事件は転落死と処理されたのだった。
悲劇はまだ続く