11、vs サザンクロス(前)
ウンリュウカクに着く前に地方軍の妖精から急報が入った。ウンリュウカクに現れたビーストはサザンクロスという人型のビーストで、遠距離攻撃を得意とし、そのサザンクロス相手に地方軍は圧倒的に劣勢、ということだった。
「分かったわ、私達もすぐに行くわ。標的まですぐだから、あなたも急行するのではなく一緒に同行した方がいいわね。先に一人で帰ったら戦火に巻き込まれてしまうかもしれないから」
クローバーはそう言って、その地方軍の妖精から更に敵の細部を聞き出したあと最後方に下がらせ、次に竜胆とヒナギクの所まで来ると今まで聞いたことを説明した。
「相手はサザンクロスというビースト一人よ。ただ残念なことに負傷者が出ないというのは難しいわね。むしろ正攻法だったら犠牲者は多大ね」
「何でだ?」
竜胆が聞くと、ヒナギクがこう言った。
「広範囲で射程の長い攻撃を使うからでしょ」
少し驚いた顔をしたあとにクローバーはこう言った。
「ええ、その通り。しかも最速の魔法よ」
「光だね」
「ええ」
答えつつクローバーは意外に思った。まさかここまでヒナギクが勘の良い妖精だとは思わなかったからだ。そんなヒナギクを見つつ、
「私とポプラは被害を抑えるために援護に回るわ」
と言おうとした時だった。背中がゾクッとしたかと思うと、1軍の妖精が何人か悲鳴を上げながら地面に叩き落とされて行った。現状を把握する間もなく、3軍と5軍の妖精にも同じような犠牲者が出始めた。
「敵襲っ」
と誰かが声を上げそれに合わせて皆が軍嚢を地面に投げ捨てる頃には、もうそれが上から射し込む光の仕業だということには竜胆やヒナギクは気付いていた。落ちて行った犠牲者の救護に回ったクローバーやポプラとは対照的に、やっと点ほどになったかと思われるほど遠くの敵に急接近して行った。
このような場合、徹底的に敵に攻撃を叩き込むのが被害を減らし、味方を救う最善の方法になる。もし仮に敵が自らの防御に回れば、その分攻撃される味方が減るからだ。
後方で打撃音や悲鳴が起こり続けていることから考えて、早く攻撃しなければ、最悪全滅もありえた。初戦とは言え、いきなり最悪な敵に当たってしまった。
竜胆とヒナギクが敵に肉薄し、やっと敵の輪郭が見える段になると、敵も攻撃目標を変え、目前の竜胆とヒナギクを攻撃してくるようになった。だが攻撃はなかなか2人に当たらなかった。ヒナギクが辺り一面にスモッグを発生させ、竜胆と自分をその中に隠したからだった。
その次の瞬間、サザンクロスの体が爆音とともに横殴りされたように吹っ飛んで行った。竜胆が遠距離で起爆させた黒炎を脇腹に受けたからだった。それに連携するようにヒナギクがサザンクロスが飛んで行くであろう地点の上空に自身の体をワープさせた。
上空に躍り出たヒナギクの両手が色鮮やかに発光した。そして両手を合わせた次の瞬間、それが七色の砲撃となって横に飛んで行く途中であったサザンクロスに命中した。
ただ惜しむらくは当たった場所がサザンクロスの片足だということだった。色彩砲の衝撃で今度は地面に突き刺さるように落ちて行ったが、致命傷にはならず、死体を確認するために見ていた土煙の中から今度は怒り狂ったように筋のような光が放射された。
当たった竜胆とヒナギクが遥か中空に弾き飛ばされた。よほどの衝撃だったが、それで体が千切れなかったのは、攻撃を食らう直前にヒナギクがシールドを竜胆と自分に張ったからだった。
以後、一撃必殺の戦いが続いた。だが、それを見ている中央軍の兵士達は空中に飛び散ったまま未だに周囲に漂っている七色の光(色彩砲の残火)と、それと舞踏するように浮かび上がっている光の筋を見て、まるで何かの幻想を見せられているようだと思ってしまった。
その渦中にいる2人には気付かなかったが、近付くことさえ出来ずにいる中央軍の兵士達からすれば、やはりクローバーが推すだけあって2人の能力は突出していた。
以後も大技の撃ち合いが続いたが、猛将のヒナゲシでさえ、それを遠くで見ていることしか出来なかった。