表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エクスファリア  作者: 忘草飛鳥
1/38

1、革命前夜

「合理」とは「理に適う」という意味です。

 竜胆りんどうという天才がいた。貴族しか入れない中央軍に庶民出身で入り、最終的には総指令官まで上り詰めたという英雄児だった。それだけでなく、貴族制や学歴制を排除したという革新性を持つ妖精だった。

 竜胆を構成するのは合理主義という剃刀かみそりのような思考だった。故に無駄というものを病的に嫌ったが、これは生まれ付き持ったもので後天性が欠けていたため、本人からすればこれを持たない者に驚愕と侮蔑の念を抱いた。

 この生まれ付きの思考体質と驚異的な魔力が妖精の庭国を劇的に変えていくことになるのだが、中央軍入隊前の本人はまさかそれをゆめにも思っていなかったのだった。

 中央軍入隊前、彼女は粉を引いてパンを作るという仕事をしていた。本当はそれ以前に地方軍にいた経歴を持つのだが、無能なくせに威張り散らす上官に嫌気がさして、それを半殺しにしたあとにすぐに除隊してしまった。

 この時代、庶民と貴族で明確な線引きが行われていた。それが顕著に表れるのが学校教育や仕事で、貴族は高い教育を受けて公務を司る仕事に就くことが出来るのに対し、庶民は文字の読み書きや四則演算といった基本的なことしか学校で学ぶことが出来ず、就ける職業も肉体労働や単純作業といったものに限られていた。

 だから自然と自営業が発展するようになった。庭国に個人商店が多いのはこのためで、竜胆の家も何代も前からパン屋を営み、それで生計を立てているという家庭だった。

 地方軍除隊後、竜胆も親の希望で自分が継ぐことになるパン屋で働いていた。だが、特別な才能のある者の常として、あらかじめある枠の中に押し込められるのを好まず、そのうち家業を無視してスラム街に住む友人のヒナギクと一緒にビーストと呼ばれる化け物狩りをするようになった。これが竜胆の一番の楽しみだった。

 ビーストというのは人間の世界から流れて来る悪意が具現化した化け物みたいなもので、中央軍の隊長クラスでもやっと倒せるというレベルの生き物のことだった。だから楽しみというのは不適当な表現だが、元々戦闘者としての資質を持って生まれ付いているためか、竜胆はこのビーストと闘っている時が一番生きていることを実感できた。

 対して竜胆の供をするヒナギクは、根が優しく不必要な争いを嫌うため、積極的にビースト狩りをするのは好きではないみたいだった。だからと言って、戦闘に対する才能がないというわけではなく、天才だけが持てる色彩魔法を使えるため、恐らく本気を出せば高火力の暗黒魔法を得意とする竜胆と互角の戦いが出来るはずだった。

 ちなみに、色彩魔法とは万能魔法のことだった。大概の魔法は攻撃や回復などに特化するのだが、色彩魔法の使い手は、攻撃・援助・回復の全てが出来るというだけでなく、魔力の最大量も多いため、一カ所に魔力を集中させてそれを集中的に放射する能力も持っていた。つまり波動砲のような大技を打つことが出来た。

 これを発動させると極端に魔力残量が減るが、使うことが出来れば文字通り一撃必殺になり状況を一撃で変える力を持つため、大技を出せるか出せないかは、極端な話魔法使いの資質を決定するものでもあった。

 それだけでなく、ヒナギクは魔法を使うのに魔法陣を必要としなかった。これは竜胆も同様だが、異端児の証だった。なぜなら魔法陣なしで魔法を使うというのは、複雑な方程式を途中計算なしで解くのと同じことだったからだった。

 中央軍のどんなに有能な魔法使いでも、魔法陣なしで魔法を出すことが出来るのは、現在1軍の総司令官を務める王女のクローバーだけだった。2番目に魔法が優秀だと言われているマリーでさえ「殺戮の天使」という異名を取るほどの攻撃魔法の使い手でありながら、魔法を出す時はどうしても魔法陣を必要とした。

 魔法の発生スピードと攻撃のステルス性に圧倒的な差が出るためこの差は大きかった。大きいどころか天才と凡人の境目がこの魔法陣の有無だった。故にこれが巨大なステータスになるのだが、竜胆には自分の持つ才能に対する自負がありこそすれ、ヒナギクにはそれが欠けているようだった。

 それがヒナギクの良い所でもあるし、弱点でもあった。少なくとも竜胆はそう思った。天才にも関わらず才能誇りをしない謙虚な性格というのは貴重で愛すべきものだが、それがあまりにも控え目すぎると、詰めの甘さに繋がるのではないかと思った。

 もし仮にヒナギクが司令官になったとするが、やはりビーストに対するとどめは最大火力を持つ自分が刺さなければならない。このような場合、当然苛烈かつ短急に敵を攻め潰さなければならないが、優しく情にほだされやすいヒナギクにそれが出来るのかと考えると、竜胆はどうしても首を傾げざるをえなかった。

 身分制が強烈に根を下ろしているため、そのようなこと起こりはしないと考えるが(とこの時の竜胆は思っていた)、ヒナギクは優秀な戦闘員にはなっても、優秀な指揮官にはなれないのではないかと思った。この予測は大きく外れるのだが、少なくともこの段階での竜胆は、ヒナギクの持つ優しさを弱さと錯覚するところがあった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ