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33話 不確かな位置


「一日中どうもありがとうございました」

葉月に倣い、弟3人がそろって頭を下げた。

「可愛いわ」

香織先輩が心を打たれている。

「煩くしちゃってごめんね。特に小島が煩かったでしょ」

「何だと?お前も外で大笑いしてただろ。聞こえてんだぞ」

深江さんと小島さんの掛け合いに、葉月が笑って首を振った。

「いいえ。皆さんがいてくださったから楽しかったです。私達だけじゃ、待つの辛かったし」

「そう、それなら良かった。藤堂、ミサちゃん達送ってあげるでしょ?」

「はい」

俺が頷くと、隆が駄々を捏ねた。

「えー俺おっちゃんの車が良い!藤堂さんの車はいつでも乗れるもん!」

「お前なあ、藤堂さんに失礼だろ」

聡があけすけな隆を叱っていたが、香織先輩に止められた。

「良いわよ。じゃあ、弟達はこっちの車のどれかに乗りなさい。ちょっと早いけど、夕ご飯食べさせて帰すから、ミサちゃんは先に戻って少し休みなさい。今から帰って、またご飯作ったりしてたら休めないでしょ?聡君がいれば蒼汰君も心配ないわよね?」

さすが香織先輩。早速気が利く。

「やったー!」

「こら隆」

「え?でも3人も」

聡に頭を掴まれた隆は大喜びだが、葉月が遠慮している。

「そうね、確かにミサちゃん、このまま帰したら絶対休みそうにないね。大人5人も居るんだから遠慮することないよ」

深江さんがそう言いながら子供達を川瀬さんの方に押しやり、さっさと車に連れて行けと顎で指令を出している。

「そうよ。飲み代に比べたら子供の食事代なんて屁みたいなもんよ。いつもより一時間早く解散したらお釣りが出るわよ」

葉月に遠慮させない香織先輩の援護が素晴らしいな。連日の様に飲んでばっかりの人間がそろってるから説得力がある。

「藤堂、ちゃんとミサちゃん休ませといてよ」

「はい。布団に突っ込んどきます」

念を押されそう答えた俺に、面倒臭い小島さんがにやりと笑い、深江さんと香織先輩に蹴られていた。

川瀬さんと竹原はその様子を笑っていたが、隆と蒼汰の相手をしている聡の耳には届いていなかったようで良かった。

葉月はというと、何を考えているのか分からない物凄く微妙な顔をしていた。



皆と別れ、助手席に乗り込んだ葉月は、はーっと長い溜息を吐いた。

「我慢してたか?」

エンジンをかけながら聞くと、ちらっとこっちを見た葉月がシートベルトを引きながら答えた。

「ちょっと。でも皆のおかげで考える暇もなくて良かった。楽しかったし。私、夜ご飯とか行ったことないから、お酒はなかったけど、雰囲気が分かった気がする」

「これからは行けるだろ?チビ達も大きくなってるし、時々なら聡が見てくれる」

「うん。遂に」

葉月は頭をシートにつけたまま、顔を両手で覆った。

「遂に解放されたな。良く頑張ったよな」

言い辛そうな言葉の続きを代わりに言ってやり、頭に手を置くと、すぐに唸り声を上げて泣き始めた。

車に乗った時点で気が抜けてしまっていたのだろう。

「弟らと別れて正解だったな。いつまで我慢するつもりだったんだよ」

泣いている葉月に構わず話しかけると、しゃくりあげながらも返事があった。

「分かんない。ていうか、藤堂さんのせいで、もう、既に、大泣きしちゃって、たし。なんか、いつ、泣けば良いのか、分かんな、かった」

泣きながら俺のせいだという憎たらしい口調が可愛かった。

「いつでも良いに決まってんだろ。大好きな婆ちゃんいなくなったんだぞ?お前が一日中泣いてたって誰も何も言わないし思わないよ。まあ、蒼汰は姉ちゃんがあんまり泣いてると心配するかもな。よく我慢したな」

葉月は結局、婆さんに最後の挨拶をする時も骨を拾う時も泣かなかった。

唯一自分の手で炎を入れる瞬間は、俺の方に情けない顔を向けた。

近くに行ってやると、俺の上着の裾を掴みながら反対の手でスイッチを入れた。

その時も顔は強張っていたが涙は流さなかった。

「頑張った」

繰り返して頭をかき回す様にすると、泣きながら手を振り払われた。

「昨日髪、洗わなかった、から、触らないで」

今言うことかと吹き出す。

「今更だろ。気にすんな」

もう一度頭に乗せた手は、払い落されることはなかった。


しばらく泣くかなと黙って運転していると、泣き声が止むと同時に手がぱたりと落ち、寝ていた。

口を半開きにした間抜けな顔に声を殺して笑いながら、なるべくゆっくりと最寄りのコンビニの駐車場に車を停めた。

自分のベルトを外し、左手で助手席のシートを押さえながら、葉月に覆いかぶさるようにしてレバーに右手を伸ばした。

シートを倒しきると、最後の振動で葉月が目を開けてしまった。

「寝ろ」

ぼんやりと俺を見上げる目は完全に寝ぼけている。

その間抜けな様なエロい様な微妙な顔に苦笑して、もう一度静かに声をかけた。

「寝ろ」

眠気に抵抗し、潰れそうになりながら中々閉じない葉月の目に吸い込まれるようだった。

軽く唇同士がふれて、ようやく自分が葉月に何をしたのか気付いた。

慌てて身体を引くと、唇がふれる前だったのか後だったのか、葉月は目を閉じて寝息を立てていた。


跳ねる心臓を逃しながら、ハンドルに腕をのせ顔を伏せる。

情けねえ。無意識にキスして狼狽えるとか。自信のなさの表れだな。

葉月が起きていたら、どんな反応をしただろうか。

もしかすると、嫌がらなかったかもしれない。

今日一日の態度からすると、嫌がられなかっただろうという気はするが、確信は持てない。

実際、自分に気があると感じていたのに兄貴呼ばわりされ、怒らせ、無視されていた。

嫌われてはいないと分かり安心はしたが、今日の親し気な距離は、喧嘩後の兄貴に甘えるような態度だとしてもおかしくはない。あの、静かに巻き付いて来た腕以外は。

あれはなんだったのだろう。あれで勘違いをすると、また兄貴の様にしか思えないと、くぎを刺されるのだろうか。

俺が出合い頭から、子供じみた愚かな態度を取り続けた罰なのだろうか。

失敗を繰り返し、葉月を何度も傷付ける俺に、勘違いさせて楽しむくらいの仕返しはしても良いと、そう思われている気がしないでもない。

気に食わない男を、すました顔でやり込めるくらいする女だろう。

例えば葉月が俺に抱き付いて来たあの時、俺が抱き返していたら。例えば口付けた際葉月が目を覚ましていたなら。行為を続け、深めていく可能性が低かったとは思えない。

しかしその先に、兄貴にしか思えないと、笑う葉月も想像できるのだ。

葉月から求められた抱擁に、俺がこうして頭を悩ませるほどの意味などないのかも知れない。

大体、こんな風に思い悩むなど柄ではない。

いつだって自分の好きなように振る舞ってきた。その結果、相手から自分がどう思われようと、どうでも良かったのだろう。

葉月が俺をどう位置付けているのか分からずこうして悩むのは、葉月との関係がなるようになれば良いと割り切れず、先を恐れるからだ。

俺の位置は。俺は今どこにいるんだ。

唇からもれる静かな吐息と無防備な寝顔に邪魔され、ただでさえ困難な思考の結論など、出ようはずがなかった。










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