26話 胸の内
更新あいてしまってすみません。
「どうしてわざわざテレビ消してるんですか」
戻って来た葉月が腰に手を当て溜息を吐きながら言った。
「俺アニメ見ないし」
適当に答えると俺を軽く睨みながら椅子に腰を下ろした。
「藤堂さんが聞いてても嫌な気分になるだけじゃない。私も耳栓して聞いてないって言うのに」
葉月が膨れるのを見て笑うと、一層膨れた。
「お前、なんか違う名前で呼ばれてなかった?」
葉月がふくれっ面を止めて疲れた顔をする。
「私の母親と勘違いしてるんです。ここに住んでる頃自分の孫と息子を捨てて男とどっか行っちゃった女が、他の男との子供達連れてきて自分の家を乗っ取ってるって言うのが、お婆ちゃんの基本理念です。日によって滅茶苦茶ですけど。私が私だって分かってる時も罵られるのは一緒なんですけどね」
苦笑いしながらそう言う葉月は辛そうだったし、特にそれを隠そうともしていない様だった。
「基本理念ってなんだよ。言葉おかしいだろ。ずっとここに婆さんと住んでたわけじゃないんだな、お前」
「うん。母親っていっても殆ど覚えてないけど、小さい頃その人が出てって、その後父の仕事の関係で2人で引っ越したの。父達が居なくなっちゃった時このうち空いてて助かったんです。私じゃ到底払えない家賃のマンションに住んでたから」
「成る程な。で、お前らがここに住み始めて、婆さんも戻って来た訳だ」
「そうですね」
葉月がテーブルに置いた自分の手を見つめて溜息を吐いた。
「きついか」
俺を見上げて情けなく微笑む。
「きついですね。極貧はまあ公的な補助もあるしなんとかなるんで良いんだけど、とにかくお婆ちゃんが。安易に引き取っちゃったあの時の自分を後悔してきついです。でも前よりまし。愚痴が言える様になったし、聡がかわりに滅茶苦茶腹立ててくれるから、それをなだめながら自分も落ち着くと言うか。あと、耳栓あるし」
最後に俺に目を合せながら顔を傾け、にこっと冗談めかしたのが胸を打った。
「聡もムカつくのを腹の中に溜めて、一層イライラしてたんだろうな」
「そうですね。私がわざとお婆ちゃんの話題避けてたし」
「もう避けるのは止めたんだな?」
葉月がもう一度俺を見て笑った。
「うん」
頭を撫で回したくてしょうがなかったが、警戒されずに家に上げて貰っている関係を壊したくないので耐えた。
「それで?お前の頭は前の男がやってんだって?」
わざとらしく話題を替えると物凄く嫌な顔をした。
「余計なことばっかり言うんだから」
姉がこの場に居ない聡に悪態を吐いた。
「聡も心配してるんだよ。最低な奴なんだろ?」
嫌そうな顔のまま俺に視線を向ける。
「最低だけど、只だし」
「いくら金掛からないからって最低男に触らせなくてもいいだろ。そんな男に会うぐらいなら隆と蒼汰と遊んでやれば」
敢えて俺の言葉として伝えると、葉月が溜息を吐いた。
「だって、私も最低だもん」
「なんで?」
自嘲する葉月に問うと苦く笑った。
「あの子達といると、遊んでても息抜きにならないの。疲れちゃって。大して構ってもあげられてないのに、一緒にいればいる程イライラするし、些細なことで怒鳴られてあの子達も可愛そうだし。自己嫌悪も酷いし」
予想外だった。
「意外だな。可愛くてしょうがないって顔してるのに」
葉月が笑う。
「可愛いよ。特に蒼汰はミルク飲んでる時から育ててるから、もう自分の子供みたい。あの子、私の事母親だと思ってたの」
「え?」
「保育園の先生が気付いて教えてくれたんだけど、若い母親のことはお姉ちゃんって呼ぶんだと思ってたんだって。私のことお姉ちゃんって呼びながら母親だと思ってたの」
葉月は俯いてしまい、今にも泣きそうだ。
「本当にこんな可愛い子相手にイライラしてって反省するんだけど、蒼汰の世話でずっと睡眠不足だし、聡も隆も暴れん坊でちっとも言うこと聞かないし、やっぱり怒鳴っちゃって」
慰めたいが、珍しく自分から話しているので黙って聞くことにした。
「でも子供たちだけだったら凄く楽になってたの。聡が急に大人になっちゃって、隆と蒼汰まとめて面倒見てくれるようになったから。夜も寝られるようになってたし。下二人も成長して段々手がかからなくなってたんだけど」
そこで婆さん登場だな。
葉月がふるえる息を吐いた。
「お婆ちゃんに色々言われた後、言うこと聞いてくれないあの子達見ると、腹立たしくて堪らない時があって。酷いこと思っちゃうの。こればっかりは聡にも愚痴れないし」
テーブルをぼんやりと見つめながらそう言った葉月は、婆さんのことと変わらないぐらい辛そうだった。
喋り終わったと見計らって声をかけた。
「婆さんの他にもまだあったんだな。辛いなら言えって言っただろ?あ?言ったのか、今」
葉月が薄く微笑みながら俺を見た。
「言ったよ。ちゃんと藤堂さんの言うこと聞いてて偉いでしょ?」
可愛い。可愛いがそんなことを考えてる場合ではない様だ。
「偉いな。けどもう一息だな。酷いことってなんだよ。聡に言えないなら俺に言わなきゃ言うところないだろ、お前。ついでに今言え」
そう言うと、俺に視線を合せていた葉月がふにゃりと顔を緩めた。笑っているけど泣きそうな、そんな表情だ。
「藤堂さん」
「何」
「何でもない。呼んだだけ」
「は?」
葉月がまた笑った。
「私最低なの」
「何が」
「何で私がこの子達の世話をしなくちゃいけないのよって思っちゃうの。三人のうち二人は血も繋がってない、もう一人だって私の産んだ子じゃないって。可愛くて大好きで、あの子達がいなかったら、お父さん達が死んじゃった後頑張れなかったって分かってるのに。あの子達のおかげで辛くても笑ってられるのに、酷いこと思っちゃう。最低なんだよ」
葉月は今にも泣き出しそうな笑顔のまま両手で顔を覆ってしまった。




