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風紡ぎ唄  作者: 飛水一楽
3/16

…3 古語

〝風と共に生きる民〟なんて言ったら格好いいんだろうな。ドキュメンタリーのテロップみたいにさ。まぁそんなのは絵空事で。現実は〝取り残された民〟ってこと。ウサギとカメなら間違いなくカメの方だ。


(いにしえ)、まだ文字を持たなかったとされる時代、列島には言葉や習俗、風貌も異なる様々な民が暮らしていた。

その中の一つーー風を崇めていた俺らの祖先は、早い段階で森に隠れ、平地から姿を消した。そして後に始まる中央の支配や民族の同化から免れたという。

……おそらく、彼らの中には不思議な能力を持つ者がいて、西から流れてくる不穏の兆しを予見したのかもしれない、と俺なりに推察している。


やがて列島に成立した統一国家は異国から文字を取り入れ、記録を残し、正史として編纂し始めた。その一方で、祖先達は古来の口承文化を受け継いでいった。


口承は、神代(かみよ)の物語を唄と語りで伝える方法で、そこには古い言葉が息づいている。……それは古語と呼ばれ、現在もごく一部の者には受け継がれている。主に語り部、それと祭関係者だ。


古語は〝神と語らうための言葉〟でもあり、祭でもよく耳にする。その響きは神を——自然の様を模しているとされ、言葉の一語一語に意味があり、呪力が宿る。


ただ、言葉一つ語るにも、今の言葉にはない独特の発音や抑揚があって、古語を常用語としない現代人の俺らにはなかなかに難しい。


度重なる飢饉のせいで、継承者は時代を追うごとに減り、古語の多くは呪文のように残って、その意味は残念ながら失われてしまった。


まぁ、口承を止めて紙に記したところで汎用性は高くなったろうが、音は正確に伝えられなかっただろう。結局、どっちを取ってもどっこいどっこい、古語の響きがある程度残っただけでも良しとしなければ。

意味不明でも、唱えれば神は呼べるし、祭は成り立つものだ。というわけであまり気にすることじゃない。

 

余談だが、千久楽にも文字のようなものはあった。……今も祭の時に刺青として体に施される、あの流紋だ。絵文字といっても差し支えないだろう。今の俺らには解読できないが、古い土器や土偶の意匠にも何らかの意味が込められている、はずだ。


古いものは廃れていく。存在した痕跡さえ、いずれなくなってしまうだろう。……この里自体、例外じゃない。

 消えていく運命だ、何もかも。

 


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