…1 空白地帯
スピンオフでありながら、本編より早く出来てますので、本編との擦り合わせをしつつ、加筆修正して、ようやくお披露目です。
…ちなみに。
本作の構想はずいぶん前です。
途中、原発や汚染などの描写が入りますが、震災の影響を受けて作った話ではなく、子供の時から、原発に覚えてきた自身の違和感を反映して作った話です。
その部分については無修正ですので、かなり露骨な表現がされていると懸念します。
もし読んで気を悪くされた方がいましたら、大変申し訳なく思います。
illustrated by mariy
かーこめ かこめ
かごのなかのトリは
いついつでやる
……
どこからか聴こえてくる童唄。子供のはしゃぐ声。耳にまとわりつくように。
ここではいつものことだ。
音が生まれる。さざめき、拡散して消えてゆく。
生い茂る木々を風が掻き乱す。チリン、チリンと風鈴の音。軒先に回るかざぐるまの音。昔馴染みの風景。……あまりに見飽きた俺の故郷。
つまらねぇ。ハッキシ言って。
連綿と続く毎日。昨日も今日もそう変わらない。子供心にも憂さを感じてた。
平和は結構と、土地の奴らはのんびりその日暮らし。やんちゃだった俺には物足りない。……何もかも、退屈だった。
辺鄙な土地。草なんかぼーぼーでよ。壊れかけの家には蔦が張り放題だ。
段々になった田んぼ(棚田つってたかな)には、カカシがまぬけなつらで刺さってやがる。いらつくと、よく蹴飛ばしたりした。
ガランと開けた土地。でかい空。田を吹く風はやたらと強くて、時折トラクターさえなぎ倒す。
千久楽では、とにかく風は絶えない。だから空気もキレイだ。日が落ちれば辺りは真っ暗で、星がさんざめく。夏になれば蛍が舞うし、蝉がうるせーうるせー。きっと他所者が見たら溜息をつくんだろうな。この田園風景を見てさ。
そんな自然の恩恵もあり千久楽は特別保護区に指定されてる。……の割には、その在り処はほとんど知られていない。
千久楽の外に出て初めて知ったことだが、どんなに探しても千久楽という地名は地図に載っていない。千久楽と思しき位置には道も川も境界線もなく、ただ空白があるだけ。陸上の孤島みたく……ある意味いわく付きな土地だ。
元々隔たった場所にあるから、蔑まれた時代もあったって聞いた。「あの里のもんは鬼の祭をする」ってな。
けど……今じゃほとんど、この土地を知る者はいない。忘れ去られた場所だ。