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「来てくれたんですね、時雨君っ♪」

真っ暗闇に包まれた学校へ行くと、夜の闇にも負けない綺麗な黒髪の一夜先輩がいた。

オレの問いに対する憂姫の答えは、自分で行って確かめろ、だった。

「気が向いたからな。それで、てっきり千夜先輩がいると思っていたんだが……」

「千夜は、幽霊探しなんて馬鹿馬鹿しいことはやらないって、出てきてくれませんでした……」

確かに、あの人ならそう言いそうだ。オレは胸中で納得する。まあ、オレも馬鹿馬鹿しいとは思っているが。

「それじゃあ、行きましょうっ♪」

「行きましょうも何も、どうやって校舎内に侵入するんだ?」

オレたちは今、校舎の外にいる。校舎内は真っ暗で、人の姿はなさそうだ。となると、当然校舎は施錠されているため、中に入るのは困難と思えた。

「侵入とは人聞き悪いですね。私たちは生徒会としての仕事を全うするために学校へ赴いているだけです」

「だから、それを侵入って言うんだろ。で、どうやって中に入るんだ?」

「私が学校を出る際、一階の窓の鍵を一つだけ開けておきました。こっちです」

一夜先輩に案内され、鍵が開いているという窓のところへ行く。

彼女が窓をスライドすると、カラカラと音を立ててそれは開いた。

靴を脱ぎ、その窓から一夜先輩が校舎へと侵入する。

「それにしても、よくばれなかったな。誰かが気付いて、閉められてもおかしくないだろうに」

オレも靴を脱ぎ、そこから侵入しながら言う。

「学校の窓がいくつあると思ってるんですか。全部の鍵が閉まっているかの確認なんて、そんな面倒くさいこと誰もしません薬品のある理科室や、刃物のある家庭科室など危険なものがある教室は盗みにはいられると厄介なところは確認するでしょうが、流石に全てまでは行きとどかないのでしょう」

「言われて見ればそうかもな」

確かに窓の鍵一つ一つ確認していこうとすると、この高校の全教室数がだいたい三十以上、一教室に窓は四つほどで最低でも百二十以上の窓がある。さらに廊下の窓も合わせれば、二百くらいになるだろうか。

一夜先輩はポケットから懐中電灯を取り出し、明滅させてライトの点灯を確認する。

「では行きましょう。目指すは音楽室です」


* * *


「一夜先輩はこういうところ怖くないのか?」

「怖くないですよ。ですが、お化けが飛び出してきたら驚いて時雨君に抱きついてしまうかもしれません♪」

一夜先輩が唇に人差し指を当てて、悪戯っぽく微笑む。

「一夜先輩に抱きつかれたって、嬉しくなんかないんだからねっ!」

「男のツンデレは需要がないですよ。素直に喜んでください」

「別に供給するためにやってるわけじゃねえよ。それに、そこはツンデレで返せよな」

「べ、別に男のツンデレなんて需要なんかないんだからねっ!」

「引っかかったな、一夜先輩。それだと、需要があるけど素直になれずにツンツンとした態度を取ってしまうってことになるんだぜ」

「むーっ! く、悔しくなんかないんですからねっ!」

一夜先輩がいかにもツンデレのやりそうなポーズを取って言う。可愛い、という事は認めてやろう。

「つーか、この茶番は何なんだよ。早く音楽室行って、さっさと済ませちまおうぜ」

「時雨君がやりだしたんでしょう……。でも楽しいです、時雨君との夜の学校デート。普段はこうしてゆっくり茶番も出来ませんから」

「デートじゃねえよ、仕事だろ。早くおばけをとっちめて帰ろうぜ」

「居てくれれば、いいですけどね」

「そう言えば、この学校って七不思議ないのか」

「例えば、二重人格の生徒会長とかですか?」

「そうそう、自販機を片手で持ち上げる女子生徒とかな……って、そういうんじゃなくて開かずの間とか、エンドレス階段とか、そう言うのだよ」

「うーん、言われてみればないですね。これを機に作ってみるのは面白いかもしれませんが、それを暴きに生徒たちが夜の学校に侵入するのも良くないですからね」

言われてみれば、そうなると生徒会は大変そうだ。まあ、俺には関係のないことだが。

俺たちは四階へ続く階段に足をかける。音楽室は、すぐそこだ。

「――ひゃあっ!」

後ろを歩いていた一夜先輩が、急に悲鳴をあげる。

「どうした、一夜先輩っ!」

振り返ると、一夜先輩の顔が虫取り網に捕らえられていた。

「し、時雨君っ! いくら私でも、やって良いことと悪いことがありますよっ!」

一夜先輩がもがいている。当然やっているのは俺じゃない。

虫取り網の柄の部分をたどっていき、犯人の顔を暗闇の中に捉える。確か彼女は……。

「その声、一夜なのか……!」

一夜先輩の顔から虫取り網が外され、彼女はそちらへ持っていた懐中電灯を向ける。と、綺麗な白い髪がその光中に照らされた。

「さっちゃん!? どうしてここに?」

紗月先輩だった。

「一夜こそ、どうして……。いや、恐らく目的は一緒だろうな」

「つーことは、紗月先輩も幽霊探しか」

「ああ。今日一通りの仕事を済ませて風紀委員会の使用する教室に戻ってくると、私が使う席に紙が置いてあってな。幽霊などと言う風紀を乱す存在を放って置くわけにもいかないからな」

さすがは風紀委員長だ。

この人がいたなら、オレがいる意味がなかったな。この人、強そうだし。

けど、虫取り網で幽霊を捕まえようとしているあたり、紗月先輩もどこか抜けているところがあるのだろう。

「さて、パーティも三人になったし、さっさとクエスト終わらせて帰るぞ」

「ゲームのやりすぎです、時雨君……」

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