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たびねずみ  作者: 橘颯
5/24

八十一歩目~百歩目

81.

わたしは、たびねずみ。

このむらでは、そのむかし、ほんを、やいて、もじを、すてたそうです。

ちいさな、むらなので、こうとうで、たりるのだと。

あるひの、こと。

むらは、さらちに、なりました。

むらびとには、りんごくの、ぐんたいの、たいひかんこくが、よめなかったのです。

ちう。


82.

わたしは、たびねずみ。

この、やまには、ひとくい、おおかみが、すんで、いる、という、はなし。

その、ほうが、つごうが、よいのさ。

つましい、こんれいの、せき。

おおかみの、かわを、かぶった、おとこ。

いけにえの、しょうぞくを、まとった、おとめを、うでに、だいて、いいました。


83.

わたしは、たび、ねずみ。

なぜ、そう、なのるのか。

それは、あとあし、にほんの、さきだけ、しろいが、ゆえ。

まるで、たびを、はいている、よう。

そう、いわれた、ので。

みみを、かたむけていた、かれ。

たしかに、みえますね、ちう、と、ためいきを、つくように、なきました。

ちゆう。


84.

砂漠に咲いたサンドローズ。

何方か薔薇を紹介して下さいと頼んでいます。

同じ薔薇と云う名前なのに、私は其の子を知らないの。

続く言葉を遮ったは旅鼠。

「あなたほど、すてきじゃありませんよ」伏し目がちの言葉に、サンドローズはぴったり口を閉ざし、それきり何も云いませんでした。


85.

燐寸匣の中には鼠が一匹。

雪柳の穂の様な、小さな小さな旅鼠。

何時でも何処でもポケットの中。

鼠を連れて、旅人は行く。

森の町、海の街、草原も砂漠も越えて何時までも。

其の昔、旅してたのは鼠の方。

そんな事も忘れてしまって旅人は歩む。

ちうと鳴いて逃げ出した鼠を見もしないまま。


86.

わたしは、たびねずみ。

ひゃく、と、いう、かずは、きくだけ、なら、たいそう、おおく、かんじられます。

でも、ひゃっぽ、は、いがいと、すくない、ものです。

ゆっくりでも、はやあしでも、ためしに、あるいて、みて、ごらんなさい。

きっと、もっと、あるきたく、なりますから。

ちう。


87.

わたしは、たびねずみ。

あけない、よるは、ないと、いうけど。

あけない、よるは、あるわ。

そのあいだ、みるゆめが、しあわせだと、よいけれど。

しろくろの、しゃしんを、だいて、ふじんは、めを、とじます。

よいゆめを。

わたしは、つめたい、はなさきに、キスを、おくりました。

ちう。


88.

わたしは、たびねずみ。

たびを、するなんて、いろいろな、ものが、みられて、すてきね、と、いわれます。

でも、なにも、かわりません。

どの、まちでも。

どの、むらでも。

しろいひとも。

くろいひとも。

おとなも。

こどもも。

かなしければ、なきますし、うれしければ、わらいます。

ちう。


89.

わたしは、たびねずみ。

ちいさな、もりの、なか。

おとめが、ひとり、すんで、いました。

おとめに、こいした、わかものが、うでを、ひいて、そとへ、つれだした、しゅんかん。

おとめも、もりも、きえて、しまったそうです。

まあるい、くぼちで、ろうやが、かたって、くれました。

ちう。


90.

わたしは、たびねずみ。

がんこな、かんおけ、しょくにんが、います。

すこしでも、ふたが、ゆがめば、きにくわない。

ちょうこくが、すこし、かけても、だめ。

どうせ、うめるのだから、かまわないのに。

しょくにんは、いいます。

さいごの、ベッドが、ふりょうひんで、よいのかね。

ちう。


91.

わたしは、たびねずみ。

ある、まちかどの、ちいさな、ざっかや。

ジョンの、みせ。

あるじも、そのちちも、ずっとまえも、みんなジョン。

いつみても、かわらない、おみせ。

なんとなく、あんしんだろ。

ちゃんと、いつでも、あるってのは。

ジョンは、かわらない、えがおで、いいます。

ちう。


92.

わたしは、たびねずみ。

ぶつぶつ、ひとりごと、ばかりの、おばあさん。

だれも、いない、へやの、なか。

きょうも、ぼそぼそ、ひとりごと。

へんな、ひとと、むらの、ひとは、いうけれど。

おばあさんは、ただ、みなが、わすれた、ふるい、ゆうじんたちと、はなしてる、だけなのに。

ちう。


93.

わたしは、たびねずみ。

きょうは、かぜの、つよい、ひ。

むかい、かぜが、わたしを、じめんから、はがそうと、します。

まあ、いいでしょう。

ちからを、ぬいて、からだを、かぜに、ゆだねました。

すすむ、ばかりが、たびでは、ありません。

ときには、もどることも、たいせつです。

ちう。


94.

わたしは、たびねずみ。

そのひとは、ものごころ、ついた、ときから、にっきを、かいていた、そうです。

まいにち、かかさず、たとえ、すうぎょう、だろうとも。

その、そうこ、ひとつぶんの、にっきは、そのひとの、しご、ともに、やかれて、なくなりました。

ゆいごん、どおりに。

ちう。


95.

わたしは、たびねずみ。

では、ありません。

わたしは、あるきねずみ。

とおくへ、あるいてゆくもの、です。

ええ、これは、ただの、ことばあそび。

そも、じぶんで、そう、よんだ、だけです。

けれど、じぶんで、はじめたことなら、いいとおさないと、のこらないのです、なにごとも。

ちう。


96.

わたしは、たびねずみ。

もりの、なか。

すてられた、ピアノが、ぽつり。

げんも、さびつき、もう、ひくことは、できません。

けれど。

がくふに、ない、きょくを、ピアノは、かなでて、いました。

げんの、あいだには、つとりの、すが、ひとつ。

にぎやかな、うたごえが、ひびきます。

ちう。


97.

わたしは、たびーねずみ。

まわりとは、しょうしょう、けいろが、ちがい、かたみの、せまい、おもいを、しておりました。

しかし、あるひの、こと。

たびの、ねずみが、わたしが、ひとりでは、ないと、おしえて、くれたのです。

かれも、ぶじ、おなかまに、あえると、よいのですが。

ちゅ。


98.

わたしは、たびねずみ。

うごかない、にんぎょうを、あいした、じょせい。

あわれんだ、まじょが、にんぎょうに、いのちを、あたえました。

しかし。

かのじょは、ひめいを、あげて、いずこかへ、はしりさり。

にんぎょうは、もえさかる、だんろへと、みをなげて、しまったそうです。

ちう。


99.

わたしは、たびねずみ。

いったり、きたり。

ゆりいすの、うえ。

ゆれる、ふたつの、かげ。

おおきな、かげが、ちいさな、かげに、はなしかけます。

やさしく、たのしそうに。

けれども、こえは、ひとりぶん、だけ。

でんわの、ベルも、とを、たたく、おとも、きこえない、みたいです。

ちう。


100.

わたしは、たびねずみ。

うみべの、ちいさな、いえ。

そこでは、よるじゅう、ろうそくを、たやさず、ともして、いました。

うみに、でた、あるじの、しるべの、ため。

ところが、ある、よる。

いえは、なみに、さらわれました。

ちょうど、ふねが、しずんだ、じこく、だったそうです。

ちう。

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