六十一歩目~八十歩目
61.
わたしは、たびねずみ。
こうじょうの、なか。
がらごろ、きかいの、うえを、ながれていく、しろい、ラベルの、かんづめ、たち。
はこづめ、されて、がいこくへ。
なかみは、なにか、だれも、しらないそう。
ここでは、ラベルを、はって、おくるだけ。
とくさんひん、だ、そう、です。
ちう。
62.
わたしは、たびねずみ。
とどまらず、まちから、まちへ。
とおり、すぎて、ゆくもの、です。
おぼえて、いて、いただければ、もちろん、うれしいの、ですが。
ひつよう、ないなら、わすれて、いただいても、けっこう、です。
わたしが、おぼえて、いれば、それで、いいの、ですから。
ちう。
63.
ここでは、だれでも、おうに、なれる。
こどくな、おうさまが、いいました。
くねんにいちど、さいごの、ひとりに、なるまで、たたかうのだ、そう。
ことしの、いくさに、さんか、するか。
そう、いわれました、が。
わたしは、たびねずみ、です。
つつしんで、じたい、いたしました。
ちう。
64.
わたしは、たびねずみ。
じょうきの、むこう。
たくましい、うでが、アイロンを、かけます。
すみずみまで、しんぴんの、ように、ぴんと。
しろく、あらわれた、シャツに、きざまれた、しわは、ひとたまりも、なく、きえ。
うつくしい、しわなのに、もったいない、と、なげくのです。
ちう。
65.
わたしは、たびねずみ。
ろうかには、しんくの、じゅうたん。
けあしの、ながい、じょうとうの、もの。
きっと、くつを、やわらかく、うけとめ、わずかな、あしあとすら、ころしたのでしょう。
けれども、いまは、わたしの、しとね。
わたしと、かぜだけが、おきゃくの、ホテルにて。
ちう。
66.
わたしは、たびねずみ。
ぴかぴか、みがかれた、くつの、ひとが、いかめしく、いいました。
たびを、きんし、します。
ねずみは、ふけつだから。
だ、そうです。
さからったなら、どうなるのですか。
こくがい、ついほう、だ。
なら、けっこう。
にどと、ここに、こない、だけですから。
ちう。
67.
わたしは、たびねずみ。
その、いずみは、たいそう、にぎわって、おりました。
みなそこには、ひとりの、しょうねん。
うすみずあを、の、がんしょく、ながら、ねむって、いるかのよう。
みくづに、ならぬ、したいは、うつくしく。
だれも、ひきあげずに、ただ、あがめているのです。
ちう。
68.
わたしは、たびねずみ。
ときどき、であいます。
おどろくほど、たくさん、にもつを、かかえた、ひと。
そのひとは、にもつが、みえないようで。
ふしぎそうに、でも、つらそうに、うつむいています。
だから、わたしは、こっそり、にもつに、あなを、あけます。
かるくなる、ように。
ちう。
69.
わたしは、たびねずみ。
ひさしぶり。
あなたは、おぼえていない、だろうけど。
とつぜんの、したしげな、こえに、はなしを、すること、しばし。
ほんとうは、あなたとは、きょうが、はじめてです。
はなしが、したくてね。
かれの、たちさった、あとには、あかい、しずくが、ぽつり。
ちう。
70.
わたしは、たびねずみ。
たびの、とちゅうで、あずかる、でんごん。
おおくは、とどいても、とどかなくても、よいもの、として、あずかります。
なにせ、わたしの、あゆみは、たいそう、おそいので。
てがみの、ほうが、はやいのです。
あいてが、いなくなる、まえに、とどきますよ。
ちう。
71.
しんせつな、かたが、いました。
たびには、ひつようだろうと、わたしに、おかねを、わたそうと、してくださったのです。
けれども、わたしは、ちいさな、たびねずみ。
つつしんで、じたいさせて、いただきました。
なんでも、かえると、しても、たびの、にもつには、おもすぎます。
ちう。
72.
わたしは、たびねずみ。
しんぷさまは、いいました。
かみさまは、いつだって、びょうどう、です。
ざんこくな、くらい、びょうどう、なのです。
だから、きせきなどは、なく、だれも、すくいは、しません。
なので、いきている、ひとが、いのって、ください、と。
おはかの、まえで。
ちう。
73.
わたしは、たびねずみ。
わかい、おおかみと、おいた、うさぎが、よりそって、いました。
ふたりは、ゆうじん、だそうです。
しかし、よくじつ、うさぎは、おおかみに、たべられて、いました。
まわりは、それみたことかと、わらいます。
ふたりが、かわした、やくそくも、しらずに。
ちう。
74.
わたしは、たびねずみ。
わたしは、とても、とても、ちいさいです。
なので、ひつぜんとして、せかいは、とても、とても、おおきいのです。
じぶんが、どこに、いるか、わからなくなる、くらいに。
けれど、だいじょうぶ。
せかいは、つながっていますから。
まよっても、へいきです。
ちう。
75.
わたしは、たびねずみ。
ことしも、むだな、たびだったね。
おわりを、つげる、かねに、いわれた、こと。
たしかに、とろうの、いちねん、だったかも、しれません。
しかし、ねずみに、しては、いろいろな、せかいを、しることの、できた、すばらしい、いちねんでも、ありましたよ。
ちう。
76.
わたしは、たびねずみ。
そのひ、むらは、そうぜんと、していました。
なんでも、ゆきおんなが、でたそうで。
ふぶきで、やまごやに、ひなんしていた、ふたりの、おとこ。
そのひとりを、こおる、といきで、ころしたのだ、と。
のこった、ひとりが、りゅうちょうに、かたっています。
ちう。
77.
わたしは、たびねずみ。
そのくには、ぐるりと、たかい、かべに、かこまれて、いました。
わるい、ひとたちが、はいって、こないように、だった、そうです。
いま、かべは、かつての、はんぶんより、ひくいくらい。
なんでも、せんたくものが、よく、かわかなかったから、ですって。
ちう。
78.
わたしは、たびねずみ。
きょうかいの、せいどう。
うつくしく、ひびく、さんびかの、がっしょう。
かみさまに、とどくかしら。
せいかたいの、しょうねんが、ささやきます。
かみに、とどかなくても、いいのでは、ないでしょうか。
いきている、ひとが、よろこんで、いるのですから。
ちう。
79.
わたしは、たびねずみ。
ほしふる、よの、こと。
わたしは、みずうみを、ながめて、いました。
さかなも、かぜも、ねむったようで、こめんは、さざなみ、ひとつ、なく。
けれども、ぎんの、ちいさな、ひかりが、しずかに、たわむれて、いました。
ほしたちが、それは、たのしそうに。
ちう。
80.
きょうの、わたしは、はいいろ、たびねずみ。
となりの、ひとも、はいいろ、すすまみれ。
けれど、えがおで、まちを、みおろし、えんとつそうじにんは、いいます。
おれが、くろければ、まちは、しろい。
そんな、ほこりたかい、てで、なでられるのは、こうえいに、きまっています。
ちう。