四十一歩目~六十歩目
41.
わたしは、たびねずみ。
おとこのこが、めを、みひらいて、さがしているのは、よつばのクローバー。
あなたに、ひつようなのは、それじゃ、ないですよ。
そこの、きれいな、はなです。
それを、もって、おゆきなさい。
だいじょうぶ。
よつばを、たべた、わたしが、ついていますから。
ちう。
42.
わたしは、ねずみ。
ただの、ねずみ。
そらの、ひろさは、しらない。
くうきの、あじも、しらない。
なにより、きみと、いっしょには、いけない。
けれど、わたしは、ゆうじん。
きみの、たびの、ぶじを、いのる、たびねずみの、ゆうじん。
ここで、まって、いるよ。
いつまでも。
ちうちう。
43.
わたしは、たびねずみ。
しろい、ベッドの、なか。
おじいさんは、いつもの、ように、つぶやきます。
きょう、うまれた、すべての、いのちに、おめでとう。
これから、うまれる、いのちにも、しゅくふくを。
とおく、あかんぼうの、こえを、ききながら、ふかく、いきを、はきました。
ちう。
44.
わたしは、たびねずみ。
まちはずれの、でんわボックス。
まいにち、きまった、じかんに、くるひとが、いるそうです。
じゅわきを、とりあげ、ふたこと、みこと。
しあわせそうに。
ただ、それだけ。
でんわきょくの、ひとが、いいます。
きれている、じゅわきの、こーどを、みながら。
ちう。
45.
わたしは、たびねずみ。
きょうも、ろうふじんは、かいだんに、こしかけて、います。
その、まえを、ろうしんしが、よこぎるのも、いつもの、こと。
きょうかいの、かねが、なるまで、このままで、よいの。
ふたつ、なったら、こんどは、いっしょ。
それが、やくそく、だ、そうです。
ちう。
46.
わたしは、たびねずみ。
おひさまが、まっしろに、やける、きせつが、きました。
わたしは、おもいます。
いまはもう、とおい、はらっぱの、こと。
そこにうめた、ものの、こと。
あの、たねは、めぶいたで、しょうか。
いつか、いちめんの、ひまわりばたけに、なれば、いいのですが。
ちう。
47.
わたしは、たびねずみ。
むらの、はずれ。
やけこげた、こや。
あらゆる、ものが、すすけている、しつない。
ゆかに、ぽつりと、かおの、とけた、セルロイドの、にんぎょう。
かたうでだけ、ありません。
とけた、わけでは、なく、ぬけた、ように。
いっしょに、ゆけた、のでしょうか。
ちう。
48.
わたしは、たびねずみ。
かれは、なにひとつ、いいわけを、しませんでした。
だれでもない、じぶんが、えらんだのです。
そういって、しょうじょを、だいていた、のです。
かのじょは、ほほえみを、うかべ、まどろんで、いるかの、ようでした。
くびの、あざを、みさえ、しなければ。
ちう。
49.
わたしは、たびねずみ。
おとこのひとは、いいます。
わたしは、あのこの、ことが、いやだったからね。
うんと、ひどいことを、してやろうと、おもったのさ。
ひとり、らくに、なろうなんて、むしが、よすぎる。
まだ、ゆるしてやるきは、ないよ。
おくさんは、ただ、わらっています。
ちう。
50.
わたしは、たびねずみ。
あるひ、たびねずみの、むれを、みたという、かたと、であいました。
わたしは、かれらが、どちらに、むかったのか、おしえて、もらいました。
はしって、はしって。
ようやく、おいついたのです。
ふかい、たにの、した。
すでに、たびを、おえた、かれらに。
ちう。
51.
わたしは、たびねずみ。
たびは、いつだって、きまぐれ、です。
とりや、かぜ、あるいは、きしゃなどの、のりものに、のって、おもいがけない、ところに、ゆきつくことも、あります。
たとえば。
てぃる・な・のぐ、とか。
ざなどぅ、とか。
めったに、ゆけない、とち、だそうですね。
ちう。
52.
たびねずみ、からの、おねがいです。
わたしは、ねずみ、ですが、けっして、そそうは、いたしません。
ですから、さけばないで、ください。
きゃあ、と、さけばれると、わたしも、きゃあ、と、とびあがって、しまいます。
しんぞうが、ちいさいので、それは、いちだいじ、なのです。
ちう。
53.
わたしは、たびねずみ。
たびの、はじまりは、しょうじき、おぼえて、いません。
ちちの、かおも。
ははの、かおも。
きょうだいが、いたのかも。
かれらが、たびねずみ、だったのか、も。
おぼえている、さいしょの、ふうけいは、たかく、しかくい、そら。
ああ、あれは、もしかして。
ちう。
54.
ちいさな、みずたまりに、はねる、ぎんいろ。
ひあがった、かわで、とりのこされた、さかなが、いっぴき。
どろに、まみれて、すこしずつ、はねる、ちからも、なくして、いきます。
ねえ、きみ、いっしょに、いきましょう、か。
そうして、さかな、は、たびねずみ、に、なりました。
ちう。
55.
わたしは、たびねずみ。
かれは、だれからも、きらわれて、いました。
それでも、ひび、ざっそうを、ぬき。
ぴかぴかに、みがきあげ。
はなを、かざりつけ。
こころを、こめて、うたを、ささげ。
はかもりは、ただ、ねむりを、まもります。
いつか、じぶんが、ねむる、あなの、そばで。
ちう。
56.
わたしは、たびねずみ。
たのまれて、はなす、ながい、たびの、はなし。
はなし、おえたら、どうぞ、あなたの、はなしも、きかせては、いただけ、ませんか。
ほんの、よはくに、かきとめた、ていどで、かまいません、から。
ながければ、いいわけじゃ、ないんです、よ。
ほんとうは。
ちう。
57.
わたしは、たびねずみ。
ある、ひとに、すき、と、いわれ、ました。
すき、と、いうのは、むねのおく、きれいで、すてきな、もので、いっぱいの、ひきだしに、しまう、こと、なのよ、とも。
ええ、よく、わかります、とも。
わたしも、おなじように、あなたを、しまいました、から。
ちう。
58.
わたしは、たびねずみ。
いずみの、みずは、あまく。
さくもつは、よく、みのり。
ひとびとは、そぼくで、えがおを、たやさず。
きんべんに、よく、はたらく。
しあわせな、むらの、ふうけい。
それらは、みな、まじょが、まだ、くらい、もりで、いきを、していた、ころの、おはなし。
ちう。
59.
わたしは、たびねずみ。
ここは、すりーぷたうん、と、いう、みなとまち。
だれも、ねむっていない、けれど、ねむりに、ついた、まち。
つかされた、まち。
きみも、ながい、すると、ねむる、はめに。
はやく、もとの、せかいに、おかえり。
しるくはっとの、おとこが、わらいました。
ちう。
60.
わたしは、たびねずみ。
たびゆくものに、とって、うたは、とも、です。
たのしい、うた。
ゆかいな、うた。
やさしい、うた。
どこでも、うたは、ひびきます。
きょうも、にばしゃで、がっしょう。
わたしも、みなに、あわせて、うたいます。
ことばが、つうじなくても、うたは、うた。
ちう。