二十一歩目~四十歩目
21.
わたしは、たびねずみ。
とても、ちいさな、むらに、つきました。
ここでは、あらゆる、ぶんしょの、だいひつを、おこなう、しょくにんたちが、すんでいる、そうです。
けれども、ゆうびんやは、そとに、でてゆく、ばかり。
じぶんたちの、きもちは、こえで、つたえたい、そうです。
ちう。
22.
わたしは、たび、ねずみ。
たびをする、ねずみ。
なので、たび、ねずみ。
とどのつまり、じしょう、です。
なのるのは、じゆう、です。
だれに、みとめられ、なくても。
だからこそ、たいへん、なのです。
じぶんじしんを、なくして、しまったなら、それきり、おしまい、なのですから。
ちう。
23.
わたしは、たびねずみ。
こうえんの、ベンチに、おちる、ためいき。
ノートを、てに、しあんがお。
まだむ、おはなしを、そだてるのは、たいへん、ですね。
すると、かのじょは、かおを、あげ。
でも、よろこびも、おおきいの。
そう、かたわらの、あかんぼうに、ほほえみかけました。
ちう。
24.
わたしは、たびねずみ。
きょうも、あめ、です。
きのうも、おとといも、あめ、でした。
やねを、かりている、おたくでは、きょうも、おんなのこが、うたっています。
ひとつの、フレーズ、だけを、くりかえし。
ほかは、わすれて、しまって、もう、おしえても、もらえない、のだと。
ちう。
25.
あるひ、もりの、なか。
このはを、しとねに、ねむっている、ひとに、あいました。
がらすの、こびんを、たいせつそうに、かかえ、たいそう、ふかい、ねむりに、ついて、いました。
わたしは、ちいさな、たびねずみ。
なので。
はなを、いちりん、つんで、さきへと、すすみました。
ちう。
26.
わたしは、たびねずみ。
もんの、まえには、ふたりの、おとこ。
むこうと、こちらの、あいだに、つくえが、ひとつ。
くろと、しろの、へいしが、せっせんちゅう。
そっと、もんを、とおりぬけ、ふりかえると、くにざかいの、へいしたちは、ちいさな、せんそうを、さいかいしました。
ちう。
27.
わたしは、たびねずみ。
ねずみ、なので、もじは、よめません。
けれど。
ひの、ささない、みなそこの、ような、としょかんの、おくで、ほんだなに、のぼるのは、すき、です。
ほんの、うえで、みみを、すませば、きこえる、かすかな、おと。
ささやき。
どうぞ、どうぞ、おしずかに。
ちう。
28.
わたしは、たびねずみ。
さみしいひとは、いましたか。
ついては、きえる、がいとうの、したで、そのひとは、いいました。
さみしいひとは、どこにでも、いましたよ。
わたしは、こたえました。
いつでも、どこでも、いましたよ。
それは、さみしいねと、そのひとは、つぶやきました。
ちう。
29.
わたしは、たびねずみ。
きょうの、こもりうたは、ミシンのおと。
ゆらゆら、ゆりかごみたいな、ペダルのうえに、おじゃま。
かのじょは、こいびとの、ために、シャツを、ぬっている、そう。
かえって、きたら、きせて、あげるのよ。
そう、シャツだらけの、へやで、ほほえむのです。
ちう。
30.
わたしは、たびねずみ。
ゆうの、つじみちに、たたずむひとが、いました。
ゆきすぎる、ひとに、はなしかけては、うかぬかお。
わたしは、そのひとと、すこし、せけんばなしを、しました。
あすは、ねがいが、かないそうです、とか。
いえ、ほんとうは、たのまれた、のですけど、ね。
ちう。
31.
わたしは、たびねずみ。
さいしょに、かのじょと、であったのは、ごばんめの、まち。
それからも、たびたび、かおを、あわせるように、なりました。
こんかいは、これで、くどめ。
どんな、たびを、したものか。
はしの、こげた、かのじょは、うれいがおを、まどから、のぞかせます。
ちう。
32.
わたしは、たびねずみ。
あらしの、よるの、こと、です。
はしの、うえに、ふたつの、かげ。
よくあさ、おちた、はしを、まえに、みなが、はなして、いました。
はしをつくった、ろうじんが、いないと。
さがさないで、おあげなさい。
ふたりは、やっと、いっしょに、なれたのだから。
ちう。
33.
わたしは、たびねずみ。
ぽかんと、ひらいた、あなの、なか。
すらりと、のびた、いちりんの、はな。
みどりの、くきには、うまれた、ばかりの、ちょうが、いっぴき。
やがて、あおい、はねを、おおきく、ひろげ、とんで、ゆくのを、はなを、ゆらす、ほねの、めが、みおくり、ます。
ちう。
34.
わたしは、たびねずみ。
おおぜいの、ひとの、なか。
ふみつぶされそうな、ちいさな、こえ。
それでも、あのひとは、やさしかったの。
ころり、おちた、しずく、ひとつ。
ほんとうに、やさしかったの。
かれの、ひとみの、さきで、おちた、くび、ひとつ。
あれは、ひとごろし、でした。
ちう。
35.
わたしは、たびねずみ。
くろい、ひとが、いいました。
べつの、せかいに、ゆきたいと、おもいません、か。
おのぞみなら、つれていって、あげましょう。
わたしは、くびを、ふります。
まだ、この、せかいも、すべて、さがして、いません、のに。
かれは、かまを、てに、さりました。
ちう。
36.
わたしは、たびねずみ。
ドミノたおし、をしている、ごしゅじんが、いました。
へやから、へやへ、くろい、はいを、ならべて、いきます。
たおれて、しまったら、やめるの、だそうです、が。
たおれないの、です、とわらう、しつじさんの、てと、はいとに、かおる、のりの、におい。
ちう。
37.
わたしは、たびねずみ。
ちう、と、なきます。
べつに、ちう、いがいの、なきかたが、できない、わけじゃ、ありません。
にゃあ、でも、わん、でもいいです。
けれども、ちいさく、ちう、と、なくのが、ねずみ、という、やつです。
ようは、けいしきび、というもの、なのでしょう。
ちう。
38.
わたしは、たびねずみ。
みわたす、かぎり、まっしろな、すなはま。
ひょうはく、された、すな、が、どこまでも、どこまでも。
あしあとも、すぐに、かぜに、ならされ、きえて、しまいます。
さて、わたしは、いま、どこに、いるでしょう。
わたしは、います、か。
たしかに、ここに。
ちう。
39.
わたしは、たびねずみ。
どうしても、ひきとめたかった。
そのひとは、いいました。
へやじゅう、ちらばる、はぐるま、ばね、すうじ。
こわして、しまえば、とまると、おもった、のに。
はりを、おりながら、なきわらい。
それは、じかんでは、ありませんよ、とは、いえませんでした。
ちう。
40.
わたしは、たびねずみ。
それは、くろい、はこ、でした。
ゆらすと、なかで、なにかが、うごく、おと。
へや、いっぱい、ころがって、います。
ひとつ、ふたつ。
よるじゅう、かぞえて、にひゃくと、ろく。
なかみは、きかないまま、しゃしんの、むすめさんに、わかれを、つげました。
ちう。