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ゆめうつつ  作者: 月村ゆの
 
7/11

贈り物


 今日、店は定休日だ。

 だからと言って、どこかへ遊びに行く相手はいない。

 暇な時間をどうしようかと考えていると、携帯にメールを知らせる着信音が鳴った。メールを開くと、清水君からの体調を窺う内容だった。

 結果は軽いものだったとはいえ、目の前で倒れたことで、かなり心配を掛けてしまったようだ。

 大丈夫、という内容のメールを返信をすると、出掛ける準備を始めた。

 今日の予定は昨日のお礼のプレゼントを買いに行く事に決めた。




 近くのショッピングセンターに着いたところで、足を止めた。

 清水君とは長い付き合いのように感じていたが、実際はついこの間出会ったばかりである。本が好きという共通の趣味は持っているが、それ以外は清水君が何を好きか知らなかった。

 そんな相手のプレゼントに何を買えばいいのか分からず、立ち往生してしまった。

 とりあえず、他のお客さんの邪魔にならないように端によって考えるが、何も思いつかない。


「どうしよう」

「何悩んでるの?」

「何って、清水君へのプレゼントを何にするか……って知佳!?」

「やっほー、はるちゃん、こんな所で出会うなんて、やっぱりあなたとは運命の糸が繋がっているのかしら?」


 無意識に受け答えしていた私に声を掛けたのは知佳だった。

 また変なドラマにでもハマっているのか、いつもと口調の違う知佳を敢えてスルーして話を続ける。


「知佳こそ、どうしたのよ。部活は?」

「今日は午前中だけで、これからスポーツショップに行こうと思って」


 その言葉通り、知佳は部活帰りらしく制服にスポーツバッグを背負っていた。


「それにしても、はるちゃん、知佳というものがありながら他の男へ現を抜かすなんて……」

「……で、その口調は何?」


 どうやら私が尋ねない限り、その口調をやめるつもりはないらしく、結局スルー出来ずに諦めて聞くと、再放送していた映画を見たらしい。

 如何にその映画が面白かったか熱弁を振るわれたが、半分以上聞き流した。


「それで、清水って誰?」


 しばらく熱く語っていた知佳だが、ようやく満足したのか、普通は初めに聞くだろう疑問を口にした。やっと映画談議から解放された私は呆れながら答える。


「清水速人。知佳と同じ春高生よ」

「あー、清水君ね。でも何ではるちゃんが清水君知ってるの?」

「たまたま知り合ってね」

「プレゼント渡すほど仲良いの?」

「知り合ったばっかりだけど、仲は良い方かな。プレゼントに関してはお礼だけど」

「ふ~ん。そのお礼のプレゼントを悩んでる、と?」

「そうなのよ、どうすればいい? 知佳」


 知佳が清水君と仲が良いかはさておき、同じ春高生として二年は一緒の校舎にいるのだから、清水君に何をプレゼントすればいいか、私よりも知っている可能性はあると思い尋ねた。


「ん~清水君ねぇ……。あ、そういや部活やってたよね」

「うん、剣道部。意外だったから、よく覚えてるよ」

「なら、これしかないよ、はるちゃん!」


 知佳のその言葉に連れて来られたのは、知佳が行くと言っていたスポーツショップ。


「えっと……、何で?」

「これだよ、はるちゃん」


 どうしてここなのか訳が分からず、困惑していると、知佳が手に取って見せた。


「タオル?」

「お礼っていっても、あまり高いものじゃ受け取ってもらえないかもしれないけど、タオルならそれは大丈夫でしょ。それにスポーツやってる人にとってはタオルって必需品だし」

「なるほど」


 自分から聞いといてなんだが、意外な程まともな品に驚く。いや、知佳のセンスはどこか変だが、今まで誕生日に貰ったプレゼントは普通だった。

 人に贈る物は普通なのに、どうして自分自身にそれが適用されていないのだろうか。知佳の部屋や私服を思い出して首を傾げた。

 とはいえ、これで清水君へのプレゼントは決まった。後はこの中から選ぶだけなのだが、横から来る視線に、選ぶのを中断する。


「……何?」

「いや~、はるちゃんが清水君みたいな男の子が好きだったなんてな、って思っただけ」

「はっ? え? いや、好きってわけじゃ……あ、嫌いってわけでもないんだけど……そのっ」


 口にすればする程、知佳が笑顔になっていく。結局言い訳できずに押し黙る。


「はるちゃん真っ赤。かっわい~」

「……知佳も何か用事があるんじゃなかったの?」

「あっ、そうだった」


 思い出したように慣れた様子で目的の場所に向う知佳を見送った。

 ようやく邪魔者は居なくなった、と手に取ったタオルを見比べようとして、ふと思う。


「……好き、なのかな?」


 その自分に対しての問い掛けに、すぐに心は答えを出した。

 気付かぬうちに出ていた答えに顔を赤くした。




 プレゼントを机に置いて、バッグから携帯を取り出そうとして、それが目に入る。

 昨日出すのを忘れて入れたままにしていたのだろう、桜木悠人の生徒手帳。

 何とはなしに、もう一度開いて見た。そこにあった記載に目を疑った。


「あー、うん、疲れてるんだ、きっと……」


 今見た事をなかったことにして、その日は早めに眠った。




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