贈り物
今日、店は定休日だ。
だからと言って、どこかへ遊びに行く相手はいない。
暇な時間をどうしようかと考えていると、携帯にメールを知らせる着信音が鳴った。メールを開くと、清水君からの体調を窺う内容だった。
結果は軽いものだったとはいえ、目の前で倒れたことで、かなり心配を掛けてしまったようだ。
大丈夫、という内容のメールを返信をすると、出掛ける準備を始めた。
今日の予定は昨日のお礼のプレゼントを買いに行く事に決めた。
近くのショッピングセンターに着いたところで、足を止めた。
清水君とは長い付き合いのように感じていたが、実際はついこの間出会ったばかりである。本が好きという共通の趣味は持っているが、それ以外は清水君が何を好きか知らなかった。
そんな相手のプレゼントに何を買えばいいのか分からず、立ち往生してしまった。
とりあえず、他のお客さんの邪魔にならないように端によって考えるが、何も思いつかない。
「どうしよう」
「何悩んでるの?」
「何って、清水君へのプレゼントを何にするか……って知佳!?」
「やっほー、はるちゃん、こんな所で出会うなんて、やっぱりあなたとは運命の糸が繋がっているのかしら?」
無意識に受け答えしていた私に声を掛けたのは知佳だった。
また変なドラマにでもハマっているのか、いつもと口調の違う知佳を敢えてスルーして話を続ける。
「知佳こそ、どうしたのよ。部活は?」
「今日は午前中だけで、これからスポーツショップに行こうと思って」
その言葉通り、知佳は部活帰りらしく制服にスポーツバッグを背負っていた。
「それにしても、はるちゃん、知佳というものがありながら他の男へ現を抜かすなんて……」
「……で、その口調は何?」
どうやら私が尋ねない限り、その口調をやめるつもりはないらしく、結局スルー出来ずに諦めて聞くと、再放送していた映画を見たらしい。
如何にその映画が面白かったか熱弁を振るわれたが、半分以上聞き流した。
「それで、清水って誰?」
しばらく熱く語っていた知佳だが、ようやく満足したのか、普通は初めに聞くだろう疑問を口にした。やっと映画談議から解放された私は呆れながら答える。
「清水速人。知佳と同じ春高生よ」
「あー、清水君ね。でも何ではるちゃんが清水君知ってるの?」
「たまたま知り合ってね」
「プレゼント渡すほど仲良いの?」
「知り合ったばっかりだけど、仲は良い方かな。プレゼントに関してはお礼だけど」
「ふ~ん。そのお礼のプレゼントを悩んでる、と?」
「そうなのよ、どうすればいい? 知佳」
知佳が清水君と仲が良いかはさておき、同じ春高生として二年は一緒の校舎にいるのだから、清水君に何をプレゼントすればいいか、私よりも知っている可能性はあると思い尋ねた。
「ん~清水君ねぇ……。あ、そういや部活やってたよね」
「うん、剣道部。意外だったから、よく覚えてるよ」
「なら、これしかないよ、はるちゃん!」
知佳のその言葉に連れて来られたのは、知佳が行くと言っていたスポーツショップ。
「えっと……、何で?」
「これだよ、はるちゃん」
どうしてここなのか訳が分からず、困惑していると、知佳が手に取って見せた。
「タオル?」
「お礼っていっても、あまり高いものじゃ受け取ってもらえないかもしれないけど、タオルならそれは大丈夫でしょ。それにスポーツやってる人にとってはタオルって必需品だし」
「なるほど」
自分から聞いといてなんだが、意外な程まともな品に驚く。いや、知佳のセンスはどこか変だが、今まで誕生日に貰ったプレゼントは普通だった。
人に贈る物は普通なのに、どうして自分自身にそれが適用されていないのだろうか。知佳の部屋や私服を思い出して首を傾げた。
とはいえ、これで清水君へのプレゼントは決まった。後はこの中から選ぶだけなのだが、横から来る視線に、選ぶのを中断する。
「……何?」
「いや~、はるちゃんが清水君みたいな男の子が好きだったなんてな、って思っただけ」
「はっ? え? いや、好きってわけじゃ……あ、嫌いってわけでもないんだけど……そのっ」
口にすればする程、知佳が笑顔になっていく。結局言い訳できずに押し黙る。
「はるちゃん真っ赤。かっわい~」
「……知佳も何か用事があるんじゃなかったの?」
「あっ、そうだった」
思い出したように慣れた様子で目的の場所に向う知佳を見送った。
ようやく邪魔者は居なくなった、と手に取ったタオルを見比べようとして、ふと思う。
「……好き、なのかな?」
その自分に対しての問い掛けに、すぐに心は答えを出した。
気付かぬうちに出ていた答えに顔を赤くした。
プレゼントを机に置いて、バッグから携帯を取り出そうとして、それが目に入る。
昨日出すのを忘れて入れたままにしていたのだろう、桜木悠人の生徒手帳。
何とはなしに、もう一度開いて見た。そこにあった記載に目を疑った。
「あー、うん、疲れてるんだ、きっと……」
今見た事をなかったことにして、その日は早めに眠った。