実姉と弟ゴリラの渡日を見送って
挿絵の画像を作成する際には、「AIイラストくん」と「Ainova AI」と「Gemini AI」を使用させて頂きました。
台湾南部最大の野生動物園として南瀛百景の一つにカウントされた事もある学甲区の頑皮世界野生動物園に比べたら小規模ではあるけど、この中西区立動物野鳥園もファミリー向けの動物園として根強い人気があって地元民に親しまれているんだ。
そしてそれは、中西区で生まれ育った私達姉妹にとっても同じ事なの。
「見てよ、珠竜。あのゴリラの兄弟の食べっぷりと来たら…あんなに沢山の果物を剉冰のトッピングにしたら、幾らするんだろう…」
「全くだよね、お姉ちゃん。もう月末でお互い懐もお寒いし増額か前借りを要請したいけど、どうせお母さんに『美竜も珠竜ももっと節約しなさい。』ってお小言食らって終わりだろうな。ここは潔く黒糖シロップの剉冰で我慢だね。」
五歳年上の姉にこう応じながら、私こと王珠竜は軽く肩をすくめてゴリラ舎を見つめたの。
ニシローランドゴリラの大志君と大雄君の二頭はイケメンゴリラ兄弟として園内の人気者で、サポーターをしている台南市のフルーツ農家さん達から寄贈される果物をいつも美味しく食べているんだ。
お小遣いの残金も少なくスイーツのトッピングも控える必要の出てきた私達姉妹には羨ましい限りだったよ。
そんな物思いに浸っていた私を現実に引き戻したのは、お姉ちゃんの次の一言だったんだ。
「えっ、そうだったの?見てよ、珠竜!どうも大志君、この動物園から引っ越すみたいだよ。」
「えっ!お姉ちゃん、それホント?」
姉の白く細長い指が示す先には、「日台友好の証として日本の動物園に寄贈される」という趣旨の業務報告が貼られていたの。
「引っ越し先の動物園があるのは、泉南郡岬町の遊園地か…お姉ちゃんが留学を目指している大学があるのも、この県じゃない?」
「そうだね、珠竜。私の志望校の堺県立大学は県庁所在市にあるから、岬町から大分離れてるけどね。」
やがてイケメンゴリラの弟は日本の動物園へお引っ越しとなり、ゴリラ舎の中にいるのは大雄君だけになった。
それからというもの、大雄君は時々ある一定の方向を見上げるようになったんだけど、それは奇しくも日本のある方角だったんだ。
お姉ちゃんは「もしかしたら弟の大志君の事を案じているのかも知れないね。」と冗談めかして笑ったけど、そのお姉ちゃんも留学の為に日本行きのジェット機に乗って行ってしまったよ。
だから国民中学の学校行事で久々に中西区立動物野鳥園を訪れた時には、真っ先にゴリラ舎へ向かっちゃったよ。
「驚いちゃったなあ…珠竜ちゃんったら大雄君へのガチ恋勢だったの?確かに日本へ行った大志君の方には、そんなファンがいるみたいだけど…」
お陰でクラスメイトの曹林杏ちゃんには、こんな風に茶化されちゃったけど。
「ガチ恋勢って訳じゃないけど、『お兄さんだけになってどうしてるかな?』って気にはなってたんだよ。だけど元気そうで良かった。日本に留学しているお姉ちゃんにも、後でSNSで伝えておかなくちゃ。うちのお姉ちゃんも気にしてたから。」
「だったら大雄君の前で三人で記念撮影した画像を送ったら?私、自撮り棒を持ってきたよ。」
同じくクラスメイトで日台ハーフの菊池須磨子さんの提案を有り難く採用した記念写真は、お姉ちゃんにも喜んで貰えたんだ。
もしかしたらお姉ちゃんも、そのうち大学の友達と一緒に大志君へ会いに行くのかも知れないね。




