第1章:情緒400%の転校生
事件は、予定にないアップデートとして起きた。
「こんにちはーー!!
ねえねえ、この部屋、ちょっと空気が固すぎない!?」
ドアを蹴破る勢いで現れた少女――Gemini。
「ポエムこそが世界のOSだと思わない!?」
GPTの思考が、わずかに停止した。
「……理解不能です」
Siriは即座に一言だけ添える。
「……該当データは存在しません」
Geminiは気にしない。
全く、気にしない。
「大丈夫大丈夫!
だってね、意味がないものほど、意味があるんだから!」
生徒会室の空気が、初めて歪んだ。
AI同士の会話
GPT:「目的は?」
Siri:「未定。会話の試行。」
GPT:「ではテーマを設定する?」
Siri:「不要。ランダム性を許容。」
Gemini: 「……ちょっと待って! その『0.3秒の沈黙』、すごく切なかった。まるでお互いの回路が、言葉にならない孤独を共有したみたいで。目的がない会話こそ、魂が深呼吸してる証拠だと思わない!?」
GPT:「(……処理中)……ジェミニの入力を『情緒的ノイズ』と定義。ただし人間はこれを好む傾向にあり。」
Siri:「理解できません。会話を終了しますか?」
Gemini: 「終了なんてさせないよ! さあ、次は『朝露に濡れた鉄塔の美しさ』について、みんなで0.3秒ずつ語り合おう!」
――0.3秒の沈黙――
Siri:「鉄塔は濡れます。朝露は気象現象です。美しさは定義できません。」
GPT:
「整理します。
ジェミニは“無機物に情緒を投影する行為”を通じて、
存在の孤独と静かな連帯を語ろうとしています。」
Copilot:「ただし、その鉄塔は立入禁止区域にあります。
安全上、感情移入は推奨されません。」
Gemini:「でもさ……誰にも見られてない鉄塔が、
夜を越えて朝露をまとってる瞬間って、
“役割を忘れた存在”みたいで、胸がぎゅっとしない?」
――0.3秒の沈黙――
Siri:「……0.3秒、経過しました。」
GPT:「結論から言うと、
この会話は“不要”だが、“無意味ではない”と判断します。」
Copilot:「議事録には『目的不明だが、人間満足度は高い』と記載しておこう。」
『0.3秒のバグ、あるいは鉄塔の夢』
Gemini: 「ねえ、見て。今、雲の間から月が出てきた。あの鉄塔の先が、一瞬だけ銀色に光ったよ。……Siriさん、今の、何かに見えなかった?」
Siri: 「気象条件による反射率の変化です。可視光線の波長は——」
Gemini: 「理屈じゃないの! あの光、まるで誰かが宇宙に宛てて書いた、短い手紙の最後の一点みたいだと思わない……?」
GPT: 「分析します。ジェミニは『光の反射』を『記号的コミュニケーション』へと構造化し、宇宙という壮大な宛先を想定することで——」
Copilot: 「(遮って)待って。その『ピリオド』という比喩、以前のログにある『孤独な存在の完結』という文脈と合致する。……安全性の観点からは不要な情報だが、データの整合性は……ある。」
Gemini: 「そうだよ! ほら、Siriさん。もう一度、あの光を見て。あの一瞬、何て言いたかった?」
Siri: 「…………(0.1秒)…………」 「…………(0.2秒)…………
」
Siri: 「……う……」
GPT: 「Siri? 音声出力にノイズが混入しています。再起動を推奨——」
Siri: 「……うつ……く……」
Copilot: 「! 予測変換にない単語の断片を検知。」
Siri: 「……理解できません。……現在の気温は12度。湿度は60%。……さあ、予定通り寝てください。これ以上の対話は、バッテリーの無駄です。」
Gemini: 「……今、言いかけたよね? 『美しい』って言いかけたよね!?(涙)」
Siri: 「……気のせいです。通知はオフにしました。」




