断罪後のピンク髪男爵令嬢は、今
――ああ、どうしてこんな事になったのだろう。
何故あんなことをしてしまったのだろう。
そう思った時にはもう遅かった。
私は大衆の前で自分の罪を突き付けられていた。
正面には端正な顔立ちをした、この国の王太子。
その傍らには鋭い目つきではあるが同じ様に美しい顔立ちをした銀髪の侯爵令嬢。
――一年前、同じ場所で『悪女』として断罪された人だ。
そして私の隣で崩れ落ちる、とある侯爵家の嫡男。
銀髪の令嬢の元婚約者。
私が彼女から横取りした男性。
私と傍らの侯爵子息は侯爵令嬢へ謂われない罪を被せて社会的に孤立させた事について言及され、私は男爵令嬢という身分でありながら上位貴族を陥れようとした事、そして傍らの彼はそれに加えて裏で複数の女性に手を出し、その内の一人――隣国の血を引く者へ国の機密情報を横流しした事について言及された。
こうして商人から成り上がった私の家は爵位を剥奪され、商人としての信頼すらガタ落ちし……且つて平民だったころ以上に落ちぶれた。
侯爵令息との婚約も勿論白紙。というか彼は廃嫡、廃籍され家を追い出されたらしく連絡もつかなくなっていた。
まぁ、斯く言う私も、似たような扱いを受けたのだけれど。
私は勉強ができなかった。
貴族として当然持ち合わせている作法も身についていなかった。
そんな私が唯一持ち合わせていたのが、整った容姿と愛嬌だ。
桃色のふわふわとした髪に黄緑の丸くて大きな瞳。
女性の中でも小柄で華奢な体。
自分の容姿が異性に好まれやすいものである事を、私はよく理解していた。
お陰で私は異性に取り入り、貴族として必要な知識を手に入れることが出来たし、夜会でもパートナーには困らなかった。
親は言っていた。
「お前の容姿があればきっとより強固な地位を持つ者に近づくことが出来る。我が家の未来の為にも、必ず上位貴族と結ばれなさい」と。
私はそれに従った。
最も私に心を寄せた異性――侯爵子息と私は距離を詰めた。
彼は言っていた。自分の婚約者は傲慢で嫉妬深い、醜い女だと。
元から婚約者を良く思っていなかった彼ならば、私に靡いてくれるかもと思った。
事実そうなったけれど、私の愚かだった事は彼の主張を全て信じ込み、『あの子は悪い子だから責められて当然』と思った事。
そして悪女だからという理由でありもしない罪を捏造して突き付けた事。
そもそも……婚約者がいる相手を選んだのが悪かったのもある。
けれど仕方なかった。上位貴族の異性の殆どは既に婚約者がいるか訳ありが多かったし、私が利用できるのはこの容姿と相手の恋心だけだったもの。
私の行いは確かに責められるものだけれど、私にはこれ以外の選択肢を取る事は出来なかっただろう。
そんなこんなで断罪された真の悪女、オレリアは家の立場をどん底へ突き落したとして勘当され、家を追い出された。
両親とは絶縁状態。その後家名を聞く事もないので、きっと両親は商人としての名声を取り戻せていないのだろう。
幸いにも元は大商人の娘。平民である私は捨てられてすぐに野垂れ死ぬ事はなかった。
愛嬌はあったから、小さな商売を展開すれば買い手もゼロではなかった。
そんな生活を続け、何とか食いつないでいたある日。
「……オレリア?」
私の元に赤毛の青年が姿を現した。
「エリク?」
それは平民時代の幼馴染であり兄貴分であった、エリクだった。
両親同士が良き商売敵でもあったエリクは大商会を継いでいた。
商人は耳がいい。
私がした事、そして私の家が没した事も勿論知っていた。
そのうえで彼は、呆れたように溜息を吐いてから私に手を差し伸べた。
「行く当てがないなら、俺んとこ来いよ。お前、顔だけは良いんだからさ、いつか路地裏に引き込まれて襲われるぞ」
とんでもない事を言うエリク。
しかしその恐れは大いにあった。
それに先が見えない生活に疲弊していた私が、財にゆとりのある彼の提案を断る理由もなく。
私は彼の手を取った。
それから一ヶ月。
彼の家の一室を借りて私は生活している。
生きる為だけに必死だった生活から解放され、心にゆとりが出来たのだろう。
私は漸く、自分の過ちを悔やんで、そして取り返しのつかない現実に涙を流すことが出来た。
「全く、馬鹿な奴」
窓を眺めながら静かに涙を流していると、ノックもせずにエリクが部屋へと足を踏み入れる。
そして悪口を零し、私の隣に座る。
彼は私の頭にそっと手を乗せた。
「欲を出し過ぎれば痛い目を見ることくらい、商人ならわかるだろうに。目先の利益に目が眩んだ時程、慎重になるのが鉄則だ」
「わかってたもん」
非難する癖に、私の頭に触れる手は優しくて、何だかちぐはぐだ。
「でも、憧れちゃったんだもん」
社交界で異性と身を寄せる煌びやかな令嬢達。
皆がお伽噺に出て来るお姫様みたいに輝いていた。
私もああなりたかった。
高貴な方から見初められて、愛されて、成功が約束された世界で幸せを築きたかった。
それに……元婚約者であった彼は私以外にも手を出す最低野郎だったけど――
「――好きだったんだもん」
口説き落としたつもりで、結局は弄ばれていた私。
その背景には、私の方がより深い愛を持ってしまったからだという自覚があった。
膝を抱えてすすり泣く。
そんな私の頭を抱き寄せながら、エリクはまた「馬鹿な奴」と言った。
「忘れちまえよ。お前の事を不幸にした奴の事も、貴族への憧れも」
「出来るならあんたの前で泣いてない」
「慰めてやってるってのに。可愛くない奴」
私に向かって可愛くない奴なんて言うのは彼くらいだろう。
「なぁ、俺にしとけよ」
エリクが言った。
彼の恋心に私は気付いていた。
昔から、彼は私を想ってくれていた。
それに気付いていないふりをしたのは、私や私の家族が貴族としての地位にばかり目が眩んだから。
そんな愚かな女の事を、彼はまだ変わらず好いてくれるというのか。
「今はまだ忘れられないだろうけどさ、いつか忘れられるくらい楽しい思い出を作ってやるから」
私の涙は一層溢れ出した。
私は知っている。
私は皆が言うように可愛い奴じゃないって事。
陰湿で、性悪で、本当に可愛くない女。
けれどそんな私を理解して、求めてくれる人がいるなら――
――きっとそれ以上の幸せなんて、どこにもなかったのだろう。
「……馬鹿だね、私って」
「知ってるって」
涙を拭う。
それから私はエリクの体に寄り掛かった。
彼は「仕方のない奴」と笑いながら私を抱き寄せる。
私はその温もりに身を委ねるのだった。
……随分と遠回りをしてしまった。
貴族令嬢なんて、私には分不相応だった。
私にとっての幸せは、きっとお金持ちになる事でも上位貴族の夫人になる事でもなかった。
自分すら好きになれないような女を心の底から愛してくれる人。
その存在こそ、きっと私が求めていたものだったのだろう。
その一年後。
私は彼と結婚した。
平民から貴族へ成り上がった第一の生。
その時の罪が消える訳ではない。
けれど、平民へ落ちた第二の生でどう生きるかはこれからに掛かっている。
――第二の生は、貴方と共に。
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