閑話 冬雪と桜の大学散策
いまだ桜咲く春、冬雪は妹の桜を連れて大学に登校した。
「お姉ちゃん、私はどこの建物に行けばいいの?」
「そうね、あなたは情報学部なのだから、8号館になるわね」
冬雪が桜に案内をしているこの大学は2人が通う黎明学院大学だ。
「すごく広いね、このキャンパス。入学式の時はサークルの勧誘でギッシリ人が詰まっていたのに、それも落ち着くとこんなに広いんだね」
「そうね、学祭の時はもっと人が詰まっているわよ」
冬雪は学内の説明をしながら8号館に入っていく。
「ここが8号館ね。5号館、6号館、8号館の作りは共通で、1階のスクリーンにその日の講義情報が出ているわ」
「ハイテクなんだね!」
「それで、2階と3階が大きな講義に使える大講堂、4階に少し大きめの教室、5階に小さめの少人数用の教室があるわ。6階から8階は研究室が入っているわね」
冬雪は各階の説明をしながらエスカレーターで3階に上がっていく。ガラス張りの壁から差し込む温かい光が2人を包んでいる。
桜はキョロキョロと辺りを見ながら冬雪についていく。
「3階から5階までは各階が中央の7号館と5号館、6号館に繋がっていて、行き来もしやすいわ。特に5号館は教養科目が多いから、使うと便利よ」
5号館から8号館は一ヶ所にまとまっており、正三角形の頂点とその中心にそれぞれが建っている。ここが学生生活の拠点になる学生も少なくない。
「中央の7号館は学食や生協が入っているのだけれど、他号館を経由しないと入れないのが辛いわね」
「その分空いた下のスペースでイベントとかできるのがいいよね!サークルの勧誘とかもあそこが多かったよ」
「そうね、雨の日なんかは特に混み合うわ。それじゃあ学食に行きましょうか」
入学式は終わったが、まだ講義が始まっていないこともあり、学食は比較的空いている。
「いっぱいメニューがあるね。お姉ちゃんのおすすめは何?」
「そうね、カレーなんてどうかしら?」
「この黎明くんカレーのこと?」
黎明くんとは黎明学院大学のゆるキャラで、Rに両手をつけたようなデザインがされている。
その黎明くんカレーを頼んだ桜のもとにやってきたのはRというよりDの形に盛られた白米とその中心にあるカレー。手足の部分は付け合わせの食材が散りばめられており、栄養価にも配慮されている。
「み、見た目……」
「新入生の通過儀礼よ」
「いただきます……。あれ、普通に美味しいじゃん」
ふざけたような見た目と歴史ある研究されたカレーの味のギャップに桜はパクパクと食べ進めていく。
「ごちそうさまでした」
あっという間に食べ終わった桜は冬雪と一緒に帰路につく。桜の時期はもう終わりだが、桜は満開の期待を胸に抱いていた。




